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メソポタミアの蛇ノ目  作者: 前河涼介
第2章 踊り――あるいは居場所について
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狭霧のメール 2009年9月8日


 

 

狭霧のメール 2009年9月8日


 昨日ロンドンで古い飛行機が飛びましたよ。知ってた?

 それを見るために行ったのではないけど、ケイシィ・オコンネルと別の用事で市内にいたのです。

 一瞬空が暗んで、喧噪に蓋をするような爆音。

 みんな額に手を翳して見上げていた。その影は、きっと補色の錯視のせいだろうけど、ちょっと赤く見えたの。空が青かったのね。

 それからケイシィが気付いて、「ああ、これはバトル・オブ・ブリテンの式典だ」と。

「ドイツの爆撃部隊が大挙してロンドンにやって来た日でね、郊外や港はそれまでも散々やられていて、軍隊が一番頑張った日でもないけど、少なくとも市民が一番よく耐えた日だってことなんじゃないかな」

 夕方のニュースでもセント・ポールの前でやった行進の様子を映していた。

「スピットファイア」の周りにたくさん人が集まって、お祭りね。

 今年69周年の1940年9月7日はイギリスの都市爆撃が始まった日ですって。

 

 今朝ヒース・ミュアソロウに話すと――戦争のことは大抵彼に訊くのだけど――私が見たのは「ランカスター」で、43年以降のドイツ爆撃の立役者であれ、バトル・オブ・ブリテンには縁のない飛行機だってことです。

 ともあれ私は何より当時の飛行機が飛べるまま維持されているということが本当に感動しました。

 日本ではそういうのないのかな? 少なくともニュースでは見なかったから。

 雑文ですがお知らせまで。



 このメールを読んだあと、僕は帰りの電車で僕が難しい飛行機の話をした時に狭霧が言った「聞いているよ」という言葉を思い出した。それから絹江さんの「聞くという行為は奥が深い」という話も思い出した。

 どうやら狭霧は僕のために人に話を聞いたりして、それをメールにしてくれたようだった。狭霧自身はそんなに飛行機に興味があるわけではない。ただサン=テグジュペリを愛読しているだけ。僕が喜びそうな話だったからだ。

 そしてそのメールはひとつの前兆、つまり僕の世界が針路を変えていく起点になるものだったのかもしれない。全体としては悪い方向性ではない。本筋からずれていくというより、むしろずれていたものが本筋に戻っていく、そういう動きの始まりだったのだと思う。。


 ここからしばらく飛行機――というよりも、正確を期すのであれば、その形代のようなものたち――にまつわる話を続けることになる。

飛行機、ショアー、蛇といったとりとめのないモチーフがここからイギリスの狭霧を介して緩く接続されていくことになる。

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