商国からの通知1
帝国を後にしたマコトたちがゲートから出た先は、皇国にある銀行総統用の執務室だった。
部屋について早々、クロエがマコトにある確認をしてきた。
「マコトはん、あんな感じで良かったんやろか?」
「ああ、大丈夫だ。」
「ならよかった。
しかしまさかエナンも、うちの方がだいぶ先にエナンのことをマコトはんに探してもろうてた、とは思わんかったやろ。
あれは完全に、自分がうちのことを探すんをマコトはんに頼んだ、と思うとるやろな。」
「別にどっちが先でもいいと思うぞ。」
「それは駄目や!
うちの方が先やと知ったら、絶対エナンにいじられる!」
「そんなことは無いと思うがな。
素直に、親友が心配だったから、でいいじゃないか。」
「そんなん言えるわけないやろ!」
「じゃぁこれも言わない方がいいのか?
例えば、クロエが商国のお家騒動が起こってると知って、いろいろと皇妃様に掛け合ってたこと、とか。」
これは予想外だったのか、クロエは慌ててマコトを口止めしてきた。
「なっ!?マコトはん、それエナンには絶対言うたらあかんで!
もしエナンの耳に入ったら・・・ううう、ニヤついてるエナンの顔しか思い浮かばんわ・・・で絶対一生言われ続けるんや。
ええなマコトはん!絶対やで!」
クロエが本気で嫌がっていたので、これについてはマコトも口外しないことを約束した。
「わかった、わかった。
何も言わないから安心してくれ。」
まだマコトに疑いの目を向けているクロエだったが、とりあえず話題を変えて平静を装った。
「・・・ほんまに頼んますよ。
しかしさすがのエナンも、皇国の国外に関する情報源がマコトはんであることまでは気づかんかったようやね。
まぁ今はエナンの状況が状況やし、それに商王になったらなったで、そんなこと考える余裕はないやろな。
だからマコトはんの正体がバレることはないはずや。」
しかしこの話がクロエ自身の首を締めることになる。
「ああ、それは大丈夫だろう。
たださっきみたいに、クロエが口を滑らせそうにならなければな。」
さっき思わずマコトの皇国での地位を口にしそうになり、すんでのところで止められた話を蒸し返されてしまったのだ。
これには何も言えず、クロエは素直に謝るしかなかった。
「うっ・・・あれはすんませんでした。」
「俺個人としては別に、あの場で俺が皇国の調整者であることがバレても問題無い。
だがそれで都合が悪くなるのは皇国の方だ。
だからこそ俺が調整者であることは皇国の上層部以外には秘匿されている。
もしバレて、そこから公になるようなことがあれば、皇妃様が黙ってないぞ。」
「反省してます。
さすがにうちも皇妃様を敵には回したくないんで。」
反省しているクロエにマコトもこれ以上は言うつもりが無いようで、自ら話を終わらせようとしてきた。
「わかっているならいい。
他には何かあるか?
無ければ俺はそろそろ戻るが。」
するとクロエがあることを思い出して、マコトを引き止めた。
「ちょっと待ってもらってもええですか。
マコトはん宛てに伝言を2つ預かってますんで。」
「わかった。
それで、誰からの伝言だ?」
「まず1つ目の伝言は、長官はんからです。
例の貴族の件ですけど、今のところ目立った動きは無いそうや。
一応最小限の監視はまだ残してるそうやけど、いつでもマコトはんに引き継げる状態らしいで。
だからマコトはんが引き継げるようになったら教えてほしい、って言うてました。」
「そうか・・・では今回の商国の件が片付いた後、7日後からは俺の方で監視を引き継ぐと伝えておいてくれ。
それまでは最小限の監視を維持してほしいともな。」
「わかりました。
それと例の貴族の屋敷に出入りしてる宰相と大元帥ですが、何やら裏でよからぬことを考えとるで。
皇国の貴族の中でも特に頭の固い連中を勧誘して、大量に同志を集めとるようや。
どうも自分たちに都合がいい派閥を作ろうとしとるらしいで。」
クロエの話に出てきた、頭の固い連中、これにマコトは心当たりがあるようだ。
「頭の固い連中、ということは、もしかして例の純血至上主義たちのことか?」
「正解や。
神人は純血であるべき、とか大層なこと言うて、混血の神人を劣等種として排除しようとしとる、あの純血至上主義や。
血筋こそ絶対とか言うて、たいした実力も無いくせに権力を振りかざしてプライドだけはいっちょ前に高い、非常に厄介で迷惑な連中や。
そんなんしたら皇国が国として成り立たんことになることもわからんなんて、ほんまただのアホな連中や。」
ボロクソに純血至上主義をけなすクロエに、マコトも同意していた。
「同感だ。
ハッキリ言ってあいつ等は皇国の膿だ。
早く排除したいところだが、今はまだそのときじゃない。」
「せやな。
もう少し根回しと人材確保を進めなあかん。
一応純血至上主義の連中の多くは、皇国ではそれなりに高い地位におるからな。
ほんま面倒な連中や。」
クロエはまだまだ言い足りないようだったが、これ以上愚痴を言い続けていては、いつまで経ってもお互い話が止まらなくなると思ったのか、マコトは話を先に進めた。
「それで、このことは皇妃様にも伝わっているのか?」
「もちろんや。
皇妃様としては、確実に叩き潰しても構わん条件が揃うまでは、まだ様子見するらしいで。
そこをマコトはんに見極めてほしいとも言うてたわ。」
「それは構わないが、宰相と大元帥の後釜はどうなってるんだ?
そっちは皇妃様が主導で探していると聞いる。
あの2人は正直使えないが、首を切ると周りの連中がうるさいからな。
一番重要なのは人格だが、ある程度は周囲が納得できるだけの人物じゃないと後が大変だぞ。」
「問題あらへん。
そこは既に決まっとるんで、一応後でマコトはんにも確認してほしいと、皇妃様から言われとります。」
「それは構わないが、クロエはその後釜に逢ったことがあるのか?」
「何回か逢って、話もしとるよ。
うちの印象としては、次代に相応しい考えの持ち主たちやと思うで。」
「クリスも逢ったことがあるのか?」
「もちろんだよ。
僕もクロエと同じ意見だ。」
「2人がそう言うなら問題なさそうだが、一応その人物たちの素性がわかる資料をもらえるか?
それを元に俺の方でも独自に身辺調査はしておこう。」
「頼みます。
とりあえずこれがその資料なんで、渡しておきます。」
「用意がいいな。
後で確認させてもらおう。」
「お願いします。
長官はん関係は以上や。」
「もう1つの伝言は?」
「こっちは所長はんからや。
以前マコトはんから提供された、機械、科学、魔導、この3つを融合した新たな技術について聞きたいことがあるらしいで。
近い内にまとまった時間を作ってほしいそうや。
ちなみに日時はマコトはんに合わせるって言うてたで。」
「わかった。
そっちは俺から直接所長に連絡を取って調整する。」
「頼みます。」
「他には何も無いか?」
「うちからは以上や。」
「では何も無ければ俺はそろそろ・・・」
話が終わったと思い、マコトがゲートを開こうとすると、それをクリスが止めた。
「少し待ってもらってもいいか、マコト。」
「何だ?」
「実は僕もマコト宛ての伝言を1つ預かっていてね。
それだけ伝えさせてほしいんだ。」
「誰からだ?」
「皇妃様からだよ。」
「内容は?」
「例の件は予定通りでお願いします、だそうだよ。
皇妃様はこれだけで伝わると言ってたけど、意味はわかるかい、マコト?」
マコトは考えることなく、皇妃からの伝言の意味を理解したようだ。
「ああ、大丈夫だ。
了解しました、とだけ皇妃様に伝えてくれ。」
「任せてくれ。」
マコトとクリスの話が終わったのを見計らって、クロエが興味深そうに話へと入ってきた。
「マコトはん、皇妃様が言うとる例の件てなんやの?」
「聞きたいか?」
そう言ったマコトの雰囲気に嫌な予感がしたらしく、おとなしくクロエは引き下がった。
「・・・やっぱやめとくわ。
それを聞いたら面倒ごとに巻き込まれそうやし、何より皇妃様とマコトはんを敵に回しそうや。」
「別にそんな大層な話ではないんだが、まぁ今の段階では公にすることはできないからな。
賢明な判断だ、とだけ言っておこう。
さてクリス、他には何も無いか?」
「僕からは以上だよ。」
「では俺は帰るぞ。
まぁ近い内にまた逢うことになると思うがな。」
「そのときを楽しみにしてます。」
「僕もだ。」
今度こそマコトはゲートを開いて、帝国へと戻って行ったのだった。
帝国へと戻ったマコトは、カーラとエナンを拾って、まずは陰の一族の拠点へと戻った。
2人をその場に残して、訓練場へと向かった。
訓練場ではちょうど模擬戦が終わったところらしく、シルフィナ以外の全員が倒されていた。
当然シルフィナはいつもの如く無傷であった。
とりあえずマコトは、最初にイーリスとミレーヌを回復した。
そして残りの皆は、ミレーヌの能力で増幅されたイーリスの広範囲神法によって回復した。
回復したリュジュがシルフィナへ再戦を申し込んでいたが、今回は訓練の終了時間になってしまったため、明日の朝へと持ち越しとなった。
その後はいつも通りで、皆で温泉に入って汗を流してから夕食を食べ、何人かがマコトと共に寝室へと向かったのだった。
日が変わり、いつも通りの朝の訓練が行われ、温泉で汗を流し、朝食を食べ、皆は昼食までの自由時間を過ごしていた。
しかしここでいつもと違う日常が訪れた。
まだお昼には少し早い時間、陰の一族の拠点にある会議室へ、各国の代表者たちが大勢集まっていた。
集まってきたのは次の人物たちだ。
王国の女王、リスティ。
連合の代表、ネーナ。
連合の代表補佐、ミーナ。
連合のダークエルフ族族長、アリア。
帝国の元魔王、ホーネット。
武国の龍王、シーリン。
連邦の獣王、レミル。
術国の女王、エターナ。
剣国の王妃、ラスティ。
槍国の王妃、レスティ。
弓国の王妃、ミスティ。
拳国の王妃、ヘスティ。
鼓翼国の翼王、フェザリース。
以上の13名が、殺気を纏いながら一堂に会していた。
そこへ殺気などものともしないマコトが、同じく平然としているシルフィナを伴って会議室へと入ってきた。
「ずいぶんと物騒だな。
頼むから子供たちの前では普通にしてくれよ。
今の皆を見たらしばらくは近づいただけで泣き出しそうだからな。」
そのマコトの言葉で、少しだけ皆の殺気が和らいだ。
それを確認してから、マコトが話を続ける。
「それで、何をそんなに殺気立ってるんだ?」
マコトがそう言うと、ミーナ、アリア以外の全員が、1枚の紙をテーブルの上に叩きつけながら目の前に置いた。
マコトはその中で一番近くにいたリスティの紙に書かれている内容へと目を通した。
まず最初に目に入ったのは、一番大きな文字で書かれている表題だ。
『マーチャント商業組合国に属する商会と各国との契約見直しに関する会談の開催通知』
今まで商国が、自国に属する商会と各国との契約に関して口を出してくることはなかった。
それを今後は出してくると宣言している表題を見ただけで、とても面倒くさいことになりそうなことがわかる。
ただ通知についてはマコトの予想通りであったため、そのまま先の内容へと視線を進めた。
次に書かれていたのは、開催場所と日時の指定だ。
『場所・・・マーチャント商業組合国の王城
日時・・・2日後の10時』
これもマコトの予想通りで、指定日は選挙の前日である。
ただ1つ疑問がある。
何故日時が日付ではないのかというところだ。
おそらくは各国同時に同じ日に届けることができると考えているのだろうと、マコトは判断した。
その考え通り、今こうして各国から集まってきているのだから、間違ってはいないのだろう。
ここまでは特別問題にする部分はない。
しかしここから先が普通ではなかった。
通常であれば表題に関する簡単な内容や目的などが書かれているはずなのだが、それらが一切無いのだ。
次から書かれていたのは、参加の条件についてだけであり、しかも1つ2つではない。
その条件が次の内容だ。
『会談への参加条件について
①1国で参加、入国できるのは、代表者1名を含む合計3名までとする。
②代表者には、自国で最高の決定権を持つか、または同等の権限を持ち、会談の場で国家間の契約を即決できる権限を持つ者が必ず就くこととする。
③会談の参加者たちは、武器と判断される物の持ち込みを一切禁止する。
④会談へ参加できるのは女性のみとし、男性は参加者とは認めないものとする。
⑤会談へ参加できる年齢の範囲は、16歳から25歳までとする。
以上の参加条件を1つでも満たさない場合は、その国の会談への参加は認められず、今後の商国に属する商会との取引は全て打ち切るものとする。
これは会談へ参加されない場合も同様である。
また会談へ男性や26歳以上の女性が参加するために商国へ入国しようとした場合、それがどのような立場の者であろうと、身の安全は保障しないものとする。
そしてそのような者たちを参加させた国に対して、商国はあらゆる手段を用いて報復措置をとる。
ただし例外として26歳以上の女性も奴隷としてであれば商国に献上することで入国を許可する。
この場合の奴隷の所有権は永久に商王が受け継いでいくものとし、その奴隷の直系の子孫も全て、永久に同様の身分となる。』
そして最後に、死亡したはずの現商王とバカ王子、更にはエナンの署名が書かれていた。
しかもここにいる全ての国で、署名が全て本物であると判断されたようだ。
つまりこの書類は、商国からの正式なものであるというわけだ。
もし署名がバカ王子だけであれば内容が内容だけに、バカ王子があからさまに何かよからぬことを考えていると誰もが思うだろう。
だが既に亡くなっているとはいえ、現商王と次期商王候補2人の署名が一緒に書かれている。
確実にエナンは関わっていないのだが、署名自体は本物と判断されたため、偽物だとわかっていても無視はできない。
これによって商国の現状を知らなければ各国は危機感を感じ、無理にでも参加条件を満たして会談へと参加するだろう。
しかしこの場にいる全員が、既に商国の現状を知っているため、対策を講じて参加するつもりだったのだろう。
だが予想外の条件に自分たちの予定が狂い、更に条件の一部に、全員が共通して憤慨するものがあったため、冷静さを失っているようだ。
それについてはマコトも、すぐにどの条件が原因なのか気づいた。
「・・・なるほどな。
一応考えられる奴が付いているようだが、バカ王子の欲望だけは押さえられなかったらしい。
で、皆が怒っているのは、この⑤の条件とそれに関連する内容のことか?」
このマコトの言葉に、リスティがテーブルを叩いて怒りをあらわにしていた。
「そうです!
これは私たちに対する侮辱であり、宣戦布告です!」
続いてネーナが発言した。
「①から③までは、かなり厳重な安全対策ではありますが、理解できないわけではありません。」
一部理解を示したものの、これにはアリアが反論する。
「ただ訪問する側の安全対策が全く考えられていないのは問題です。」
するとエターナが珍しく、静かな怒りを纏った冷ややかな声で発言した。
「ですがその程度のことは私たちにとって些細なことです。
問題は④、そして一番の大問題は⑤です。」
それに同調して、ミーナが両手でテーブルを叩いた。
「そうだよ!
何これ④の、女性しか参加できない、って!
あきらかに女性の方が扱いやすいとか、何もできないだろうって見下してるでしょ!」
ここでラスティが落ち着いた口調で、各国の現状を口にした。
「しかし南部の国は、そのほとんどが国代表を女性が務めていることも事実です。」
これにはレスティも同意する。
「確かに、それは私も否定しませんわ。」
「100歩、いえ1000歩譲って、仮に④に関してはその様な思惑は無いと思いましょう・・・あくまで仮ですが。」
ミスティも同意する意思を示したものの、表情は不本意だと言っていた。
そしてヘスティが、怒りに震えながら発言した。
「ですが⑤だけは・・・どう考えても私たちに喧嘩を売っているとしか思えませんわ!」
シーリンは皆の言いたいことを代弁するかのように、強い口調で詳細の説明をはじめた。
「参加できる年齢の範囲が16歳から25歳まで、ということは、現在の国の代表たちは、そのほとんどが参加条件を満たせないということです!
しかも、例外として26歳以上の女性も奴隷としてであれば商国に献上することで入国を許可する、ですって!
更には、この場合の奴隷の所有権は永久に商王が受け継いでいくものとし、その奴隷の直系の子孫も全て、永久に同様の身分となる、ですよ!
どれだけ私たちやその子供たちをも馬鹿にしているのですか!
これは私たちに対する侮辱であり、私たちはこのような横暴を絶対に許すわけにはいきません!」
そこへホーネットが、過激な発言をした。
「だったらアタシたちの答えは決まってるよ。
・・・戦争だ・・・バカ王子の首を取って、誰に喧嘩を売ったのか身をもって思い知らせてやるよ!
そうだろ、皆!」
そんなホーネットに、レミルとフェザリースが真っ先に賛同した。
「おうっ!その通りだぜ!」
「俺も協力するぜ!」
更に他の皆も次々と賛同し、今にも商国へ攻め込みそうな勢いだ。
このままでは収拾がつかないと判断したマコトは、自分の斜め後ろに立つ人物へ視線で指示した。
その人物、シルフィナは、すぐにマコトの意図を察して、テーブルに座る全員にだけ向けて、一瞬だけ威圧した。
それだけで、まるで凍りついたかのようにマコトとシルフィナ以外の全員が一瞬で硬直したため、その場が一気に静かになったのだった。




