幼馴染で親友との再会
まさか今すぐ現れるとは思っていなかったらしく、エナンは唖然としていた。
現れたのは、1人は腰に帯剣している背の高い男装の女性で、もう1人は少し背の低い女性だ。
まずは背の低い女性が、陽気な声で挨拶してきた。
「どうもーっ、皆さんお久しぶりです。」
するとエナンは背の低い方の女性を見て、すぐに感情のまま掴みかかろうとした。
「・・・この・・・っ!?」
しかしその前に背の高い男装の女性が立ち塞がった。
「申し訳ないが、それ以上は遠慮してもらえないだろうか?」
だがエナンも引かない。
「そこを退いてもらえんか?
ウチが用があるんは、アンタやなくてそっちの奴なんや。」
「申し訳ないが、それはできない。
一応私は彼女の護衛なのでね。」
エナンは近づくのを諦め、怒りのこもった声で相手の名前を呼んだ。
「くっ!・・・クロエっ!」
一方名前を呼ばれた背の低い女性、クロエは、変わらず陽気なまま返事を返した。
「あっ、久しぶり、エナン。
元気にしてた?」
そんなクロエの態度が気に入らなかったらしく、エナンの声には更なる怒りが込められていた。
「元気にしてた、じゃない!
密かに別人であることを願っとったけど、まさかほんまにあんたやったとはな・・・何やっとんのや、クロエ!」
突然のエナンの叱責だったが、当然クロエは身に覚えがなかったため、それが叱責だとは気づかなかったようだ。
そのため返ってきたのはエナンが求めていた答えではなく、的外れなものだった。
「何って、たぶん聞いとると思うけど、今うちは皇国の銀行総裁をやっとるんや。
どうや、すごいやろ?」
自慢げに話すクロエの姿に、エナンはあきらかに苛ついていた。
そのため話す口調も荒々しくなり、声も大きくなった。
「肩書なんてどうでもええんや!
ウチが言っとるんは、何でオカンの教えを守らんと金儲けだけに走ったか、ってことや!
さっさと説明せんかい!」
クロエは、ここでようやくエナンが自分に対して怒っていることに気づいたが、一切身に覚えがなく、普通に聞き返してきた。
「ん?どういうことや?」
しかしこのクロエの態度は、ますますエナンの怒りを煽ることになる。
「とぼけんな!
皇国の銀行総裁は、えげつないくらい相手から絞り取る金の亡者だって、周辺各国じゃ有名な周知の事実やないか!
まさか当の本人が知らんとは言わせんぞ!」
怒りの正体がわかり、クロエは説明するために、まずはエナンを落ちつかせようとした。
「ちょっ、エナン、少し落ちつき・・・」
だがこれは逆効果となり、エナンはクロエに思いの丈をぶちまけてきた。
「これが落ちついていられるわけあるかーっ!
情けないでクロエ!
オカンがいつも口を酸っぱくして言ってたやろが!
商人は周りとのつながりこそが1番で金儲けは2番目や、ってな!
それをあんたときたら金儲けを1番2番にしよって!
やっと再会できたってーのに・・・ウチはオカンの墓前に何て報告すればいいんや・・・」
ようやくエナンの口撃が一息つくと、今度は逆にクロエの口撃がはじまった。
「この・・・人の話を聞かんかーいっ!」
それまでとは一変したクロエの怒号に、エナンは目を見開いて驚いていた。
「くっ、クロエ!?」
更にクロエが畳み掛けてくる。
「さっきから聞いてれば、人のことさんざん好き勝手言いたい放題で・・・思い込んだら勝手に暴走するのがエナンの悪い癖やぞ!
そもそもその噂が古いんじゃーっ!」
このクロエの指摘で、エナンも冷静に考えはじめた。
「・・・へっ?
どういうことや?」
ようやくエナンが聞く耳を持ったので、クロエも言葉に棘は残るものの、声のトーンを落として説明した。
「ようやく落ちつきおったな。
よーく考えてみい。
エナンが言っとる、皇国の銀行総裁はえげつない金の亡者、ってのは、いったいいつからあった噂なのかをな。
3年前か?5年前か?それとも10年前か?
だったらそれは、うちのことやなく、前任者の話や。」
「・・・前任者?」
「あのな、うちが皇国の銀行総裁になったんは、1年くらい前の話なんやで。
そんなうちが噂通りのことをやれるわけないやろ、違うか?」
「じゃっ、じゃぁ、あの噂はクロエとは・・・」
「一切関係あらへん。」
「ほんまか?」
「ほんまや。
そもそもうちが皇国の銀行総裁になったんは、前任者がうちの逆鱗に触れたからや。」
「何があったんや?」
「皇国の銀行総裁になる前、うちは皇国内でそこそこの商店を営んでたんや。
でもあのクズ前任者の奴が、急速に成長していくうちの店を乗っ取ろうと、姑息な手段でちょっかいかけてきたんや。
このままだとうちの商店や従業員だけでなく、協力関係にある他の商店にも迷惑がかかってしまう。
だから逆にうちが方々に手を回して、馬鹿なクズ前任者の奴を皇国の銀行総裁の地位から引きずり下ろしたんや。
そしたらそれが皇妃様の目に留まって、うちを皇国の銀行総裁に推薦してくれて、今に至るっちゅーわけや。
これが事の顛末や、どや納得したか?」
クロエの話にエナンは嘘を一切感じなかったため、全て本当であると信じると、途端に自分の不甲斐なさを反省しはじめた。
「そっ、そうやったんか・・・よっ、よかったぁ。
・・・それなのにウチときたらクロエのことを真っ先に疑って・・・幼馴染の親友が聞いてあきれるわ。」
そんな自分を責めるエナンをクロエは責めることなく、この話をここで終わりにし、改めて再会をやり直すことを提案してきた。
「わかってくれたんなら、もうええて。
だから今は久しぶりの再会を喜ぼうやないか。」
エナンは少し迷ったものの、すぐにクロエの言葉に甘えることにした。
「・・・そうやな。
じゃぁ改めて、久しぶりやな、クロエ。
全然変わってへんで、嬉しいわ。」
「うちも、逢えて嬉しいで。
それにエナンが全然変わってへんで安心したわ。
でも今後は、思い込んで勝手に暴走するんだけは勘弁してほしいけどな。」
「だから悪かったって言っとるやろ。
もう堪忍してーな。」
「あはははっ、悪い悪い。
しっかしあのエナンが商国のお姫様になるとは思わんかったわ。
いったい何がどうなったら、そんなことになるんや?
それにさっきオカンの墓前って言ってたんはもしかして・・・」
「実はクロエと別れてから少しして、オカンが病気で亡くなったんや。」
「そうやったんか・・・惜しい人を亡くしたわ。」
「そうやな。
そんで天涯孤独になったウチは、まだ小さかったこともあって孤児院に入ることになったんやけど、そこを遠い血縁のオトンが引き取ってくれたんや。
そのオトンが、たまたま商王だった、ってわけや。」
「そんなことがあったんやな。
だけどこうして再び逢えたんも、何かの縁や。
今後は皇国と商国で、いい付き合いをしていこうやないか。」
クロエが右手を指しだして握手を求めると、エナンは少し困った表情でその手を見つめていた。
「・・・ウチもそうしたいんは山々なんやけど、今のウチの立場で約束するんは難しいわ。」
「商国で何かあったんか?」
「実は・・・」
エナンは現商王が既に亡くなっていて、次の商王を決める選挙があること。
そして自分が次期商王の1人であり、今のままでは選挙に負けてしまい、商王になれないこと。
そこでマコトに協力を頼んだことなどを、簡単にまとめて説明した。
「・・・というわけや。」
一方、最初はエナンの話を真剣な表情で聞いていたクロエだったが、最後にマコトが協力する話を聞いて、気が抜けた表情になった。
「なるほどなぁ・・・でも、とりあえず現状は何も問題は無いみたいやね。」
「そんなわけあるか!
クロエ、あんた何を聞いてたんや!
ここからどうやって商王になるか、ウチが真剣に悩んでるっていうのに・・・」
「いやいや、マコトはんが協力してくれるんやから、商王はエナンに決まりやろ。
もう決定してるんやから、うちが何を心配する必要があるって言うんや。」
「いやいや、いくらマコトはんが各国にコネを持ってるって言うても、それだけじゃ簡単にいかんやろ。
既に対抗候補のバカ義弟は、ウチの知らんとこで、自分が勝つための根回しを終えてるんやで。
ウチにはここからどうやったら勝てるのか、全くわからんわ。」
「いやいや、マコトはんがすごいんは各国とのコネだけやないで。
何と言っても、ありとあらゆる分野に幅広く深く精通しとることや。
だからマコトはんがその気になれば、いろんな分野で商国と互角以上に渡り合えるのは間違いないで。
なんてったってマコトはんは・・・」
クロエが余計なことを口にしようとした瞬間、マコトが割って入って止めた。
「そこまでだ、クロエ。
昔馴染みと久しぶりの再会だからって、口が軽くなりすぎだ。
それ以上は自分の首を絞めることになるぞ。」
マコトに注意され、クロエは両手で自分の口を塞いだ。
「おっと、危ない危ない。
うちとしたことが、やらかすことやったわ。
マコトはん、止めてくれてありがとな。」
「いや、気にするな。」
マコトとクロエが仲良さそうにしている姿を見て、エナンはある考えに思い至った。
「・・・クロエ、マコトはんのこと、よー知っとるんやね。
もしかして、クロエもマコトはんのハーレムに入っとるんか?」
これにはクロエも目を丸くして驚いていた。
「ハーレム?マコトはんの?うちが?
あはははははっ、ちゃうちゃう、うちとマコトはんの関係は、まだそこまで行ってないで。
マコトはんのハーレムに入っとるんは、こっちや。」
そう言ってクロエが視線を向けた先にいたのは、護衛としてついてきた男装の女性だった。
しかしその表情は少し険しく、すぐにクロエを注意してきた。
「・・・クロエ、そういうことは、まず本人の確認を取ってから言ってもらいたいんだがね。」
注意されたクロエは、再び両手で自分の口を塞いだ。
「おっと、うちとしたことが、口が滑ってもうた。
でも別に隠すことやないんやろ、クリスはん?」
護衛としてついてきた男装の女性、クリスは、クロエの言葉に呆れながらも、そこまで怒ってはいないようだ。
「はぁ・・・まぁ僕はこの場では隠す気も隠す必要も無いと思うけどね。
ただ、さっきから黙ってるけど、マコトはそれでいいのかい?」
「ああ、今はここだけの話、ということにすれば問題無い。」
「だそうだよ。
よかったね、クロエ。」
「それを聞いて安心したわ。
今度からは気をつけなきゃあかんな。」
「頼むよ、本当に。」
「任せとき。」
クロエとのやり取りを終えると、クリスは改めてエナンに自己紹介を行った。
「さて、申し遅れたが、改めて自己紹介させてもらおう。
僕は皇国の勇者の位を与えられている、クリスという者だ。
先程も言ったけど、今回はクロエの護衛として同行させてもらっているよ。
以後お見知りおきを。」
エナンも先程のことを謝罪しながらてから、自己紹介を行った。
「さっきはすんませんでした。
ウチは商国の王女、エナンと言います。
こちらこそよろしくお願いします。
しっかしクロエもえらい出世したもんやな。
皇国の銀行総統ってだけやなく、皇国の最大戦力の一角に護衛してもらえるんやから。」
「まぁ今回は皇妃様の指示やから、クリスはんが一緒なんやけどな。
普段はそう気軽に護衛なんかしてもらえへんよ。
それにマコトはんがおるのに、護衛なんか必要ないやろ。」
「じゃぁ何でクリスはんは護衛として一緒に来とるんや?」
「たぶん事前の打ち合わせを兼ねて、ってとこやろな。」
「事前の打ち合わせ?」
「そうや。
一応皇国でも商国がキナ臭い動きをしてるんは気づいとるからな。
もちろんそれはエナンのことやなくて、もう1人の方の話やで。」
「あのバカ義弟、皇国に知られとるやなんて、どんだけ危ない橋を渡っとるんや。
それで、皇国は商国をどうするつもりや?」
「じゃあここからは、商国の王女であり次期商王様へ、皇妃様の代理として密命を受けた皇国の銀行総裁として話をさせてもらいます。」
クロエが真面目な顔で話をはじめたので、エナンも姿勢を正すと、商国の王女として公式の場で話を聞く姿勢になった。
「・・・わかりました。」
「それと最初に宣言させてもらいますが、これからする話は全て公式として扱われます。
そこで、マコトはん、セレスはん、クリスはんには、これからはじまる会談の立会人をお願いします。
御三方、よろしいですか?」
「ああ。」
「わかりました。」
「心得た。」
「ありがとうございます。
では、今よりこの場にて、皇国と商国による正式な会談をはじめさせてもらいます。」
「はい、お願いします。
それで銀行総裁殿、今回商国に対する皇国の対応はどのようなものになるのでしょうか?」
「では皇妃様からのお話を伝えさせてもらいます。
これは既に皇帝陛下の承認もいただいており、皇国の総意でもあります。
・・・皇国は、そちらにおられるマコト殿の考えに賛同し、全てをお任せすることにします。
そして皇国は、王女エナン様が次の商王になられることを強く望みます。
そのための如何なる援助も協力も、皇国は惜しみません・・・ってことや。」
最後にクロエがそれまでの緊張を解いていつもの気軽な雰囲気に戻ると、楽しそうな表情でウィンクして見せた。
この予想を大きく超えるクロエの話と態度に、エナンは公式の場であることも忘れて、思わず素に戻ってしまった。
「・・・へっ?
ちょっ、ちょー待ちぃ!
つまり皇国は、協力は惜しまないけど、全てマコトはんに委ねる、っちゅーことか!」
クロエはエナンの態度の変化には何も突っ込まず、自分も合わせていつもの素で対応した。
「まぁぶっちゃければ、そういうことやな。」
「ほんまに皇国は、それでええんか!
国同士の約束事に関する対応の一切合切を一個人に委ねるやなんて、普通はありえない話やで!」
「ええんかも何も、皇妃様がそう言ってるんやから、皇国の方は何も問題無いで。
それにさっきも言うたけど、これは皇帝陛下からも承認を得とるんや。
クリスはんからも言ってやってーな。
うちが言ってることは、全部正しいって。」
話を振られたクリスは、すぐにクロエの言葉を肯定した。
「クロエの言っていることは全て本当ですよ、エナン殿。
僕もクロエと一緒に皇妃様のお話を聞いていましたからね。」
「なあ、嘘やないやろ。」
自慢げに勝ち誇っているクロエだったが、エナンはまだ全てを受け入れられたわけではなかった。
だがこれだけ自分にとって害が無く利しかない協力要請に対して、エナンには首を横に振るという選択肢は無かった。
「・・・クロエが言うたんやからな、これは商国と皇国の正式な会談やて。
もう、間違いでした、なんて、撤回はできんで。」
「そんなこと言わんから、安心しいや。
それでどうする?」
「まだや。
まだ重要なことを聞いてへん。」
「なんや?」
「今回の協力の見返りに、皇国は商国へ何を要求するつもりや?
それを聞かんことには、協力を受けることはできんからな。」
「そういえばまだ言うてへんかったな。
皇国が求めるんは、今と変わらぬ商国の在り方や。
ただ今後皇国が何かしらで困って助けを求めたときに、商国が無理をせずにできる範囲で1度だけ助けてほしい、それだけを約束してほしいんや。
皇国からの要求は以上や、どうや?」
クロエが提示した条件を聞き、その欲の少なさにエナンは拍子抜けしていた。
「・・・そんなことでええんか?」
「まぁこれが皇国やからな。
エナンも知っとるやろ、世界の平定、それが皇国の国是や。
今の商国は、皇国にとってまさにその状態や。
それを崩されることを、皇国は望んどらん。
だけどもしエナンの義弟が商王になった場合、世界は確実に混乱する。
そうなると元に戻すんは大変なことやから、未然に防ぐ方が相当楽になる。」
「確かにな。」
「幸いマコトはんもエナンの方に付いとるからな。
まぁ皇国としては、マコトはんを敵に回したく無い、ちゅーんが本音でもあるんやけどな。
で、商国は皇国の協力を受けるんか、受けんのか?」
これに対してエナンは少し考えたものの、答えは決まっていた。
「・・・ええやろ。
ウチが商王になったら、最低でもオトンと変わらぬ状態を維持したる。
当然ウチとしては、オトンが治めてたときよりも、もっと商国を良くしたるつもりやけどな。
それと皇国が困ったときは、できる範囲で助けたる。
というわけで、商国の王女として、先程の話、正式に皇国へ協力をお願いします。」
「任せとき。
皇国の皇妃様の代理として銀行総統であるクロエが、商国からの協力要請を正式に受けます。
・・・てことで、正式に皇国と商国の王女との間に協力関係が結ばれたちゅーことになったわけや。
とりあえず正式な書類での契約は後にするとして、今後もいい関係を頼みます。」
クロエが右手を指し出してくると、エナンは迷わず自分の右手を差し出して、互いにがっちりと握手を交わした。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「じゃぁこれで会談は終わりってことで。
いやー、無事に話がまとまって安心したわ。
これでうちも皇妃様に顔向けできる。」
「それはこっちのセリフや。
皇国の協力を得られたおかげで、大義名分はウチの方にあるしな。」
「まぁ皇国の性質は広く知れ渡っとるはずやから、これで少なくとも商国民はエナンに賛同するはずや。
後は相手が馬鹿なことを考えんことやけど・・・」
「たぶんそうはいかんやろな。
確実に何かやらかすやろ、あのバカ義弟は。
下手すると全ての国を敵に回すことになるやろな。」
「それはマコトはんの方で、事前に何とかしてくれるやろ。
そうやろ、マコトはん?」
突然話を振られたものの、マコトは事前にわかってたかのように、すぐに返事した。
「ああ。
ただそのために、皇国にも協力してもらうぞ。」
「任せとき。」
「当然他の協力関係にある国にも協力してもらう。」
今度は特に返事を求めたものではなかったが、待ってましたとばかりに、セレスが嬉しそうに張り切った声で返事した。
「はい、お任せください、マコト様!」
「ああ、頼む。」
そんなセレスには突っ込まず、クロエは話を先に進めた。
「で、マコトはん、うちらはこれからどうすればいいんや?
それとエナンの義弟は、いったい何をするつもりなんや?」
「とりあえず今は何もしなくていい。
俺の予想では明日辺り、各国宛てに商国のバカ王子から馬鹿な通達が来るはずだ。
話はそれからだ。」
「馬鹿な通達?なんやそれ?」
「まぁそれはその通達を見ればわかる。
たぶん俺の予想通りの内容だと思うが、確実に合ってるとは言えないからな。
だから内容が判明してからどうするか連絡する。」
「マコトはんがそう言うなら、うちはそれに従います。」
「頼む。
そういうことだから、帝国も勝手には動かないでくれ。」
「はい、マコト様。」
セレスが代表して返事を返したが、更にマコトはもう1人だけ個別に注意を促した。
「ホーネットも、余計なことはするなよ。」
1人だけ直接注意され、ホーネットが不機嫌そうに文句を口にした。
「・・・何でアタシだけ、そんなこと言われなきゃいけないんだい。」
「何となくだ。
強いて言うなら、ここにいる中でホーネットが一番やらかしそうだからだな。」
さすがにこの扱いにはホーネットも怒っていた。
「そんな曖昧な理由で疑われたら、たまったもんじゃないよ!」
「だが、そっちの2人は、そうは思ってないみたいだぞ。」
ホーネットはマコトが視線を向けている先に自分の視線も向けると、そこではセレスとルナーが同意して力強く頷いていた。
「ちょっとアンタたち、アタシに喧嘩売ってんのかい!」
「そのようなつもりはありません。
ですが、お母様ならありえない話ではないと納得しただけです。」
「ですねぇ。」
そんな2人の言葉を聞いて最初は頭にきたものの、次第にホーネットの中で悪戯心が湧いてきた。
「アンタたち・・・でもそこまで言われちまうと、逆にその期待に応えたくなっちまうねぇ。」
2人の反応を逆手にとって、ホーネットが意地の悪い笑みを浮かべていると、そこへマコトが釘を刺してきた。
「そんなことを言うと、これからしばらくホーネットには監視を付けることになるぞ。
今ならシルフィナが四六時中監視することになるだろうな。」
シルフィナの名前が出てきたので、さすがのホーネットも一気に顔色が悪くなった。
「えっ?・・・ちょっ、そんなの絶対御免だよ!」
「だったらおとなしくしていてくれ、いいな?」
「わっ、わかったよ。」
渋々ではあったが、とりあえずおとなしく引き下がったホーネットの姿を見ながら、エナンがクロエにある探りを入れてきた。
「それにしてもクロエ、ずいぶんとマコトはんの言うことを素直に聞くんやね。
何か理由があるんか?」
「まぁマコトはんは皇国にとって、最重要人物と言ってもいいくらいの人やからね。
それにマコトはんの言うことは、皇国にとってプラスになることはあっても、マイナスになることは無いんや。
だから素直に聞いておくのが吉なんよ。」
「ふーん・・・しかし皇国がそこまで信用し、重宝しとるとるなんてな。
なぁマコトはん、あんたいったい何者なんや?」
そう言って興味深そうに見つめてくるエナンに、マコトはいつも通りのブレない答えを口にした。
「何者かと言われてもな・・・俺は俺、ただのマコトだ、としか言えないんだがな。」
「いやいや、そんなんで納得できるわけないやろ!
マコトはん、いったい何を隠しとるんや!」
「そう言われてもな・・・」
するとそこへ、クロエが楽しそうにしながらマコトに助け舟を出した。
「あははははっ、エナン、それについてはマコトはんに何を言っても答えは一緒やで。
基本的にマコトはんは自己評価が低くて慎重やから、それ以外の説明は期待できんよ。
今回はおとなしく引いとき。」
しかしそんなことでおとなしく引い下がるエナンではなく、しつこく食い下がってきた。
「いーや、そんなことない!
絶対に何か隠しとるはずや!
どうやマコトはん、図星やろ!」
「確かに、エナンに隠していることはいろいろとある。
だがそれらは俺が何者かという答えとは直接関係無いぞ。」
「それは絶対嘘や!」
「いったい何を根拠にそんなことを言うんだ?」
「そんなん、女の勘や!
ウチの勘がさっきからそう言っとるんや!
ほれっマコトはん、さっさと吐いて楽になってしまわんかい!」
「そう言われても、こればっかりは今のエナンには教えられないことばかりだからな。
だから今回は諦めてくれ。」
「なんでや!
なんでウチには教えられないんや!
だったらどうすればウチにも、そのマコトはんが隠してることを教えてくれるんや!」
エナンがあまりにもしつこいため、マコトは最終手段を使うことにした。
「まぁそれはあれだ、エナンが俺の女にならないことには教えられないってやつだ。」
「なっ!?・・・結局はそこに戻るんかい!」
「というわけで、今回は諦めてくれ。」
「ぐぬぬぬ・・・はぁ、わかりました、今回はウチの方が引きます。
でも、もしウチがマコトはんの女になったら、そのときは根掘り葉掘り教えてもらうで、ええな!」
「まぁ教えられる範囲でな。」
「そんなん言えるんは今のうちやで!
覚悟しとき、マコトはん。
ウチがマコトはんの秘密を全部暴いたるからな!」
新たな目標を得て、やる気になっているエナンの姿に、クロエが楽しそうにしながら話に割って入ってきた。
「おー、やる気やな、エナン。
これは近い将来、跡継ぎの誕生もあるかもしれんな。」
突然話が変わり、エナンは訳がわからなかった。
「へっ?跡継ぎやて?
何でそんな話になるんや?」
「だってそうやろ。
マコトはんの女になるってことは、子作りは避けては通れん道やで。
違うか?」
クロエに指摘され、エナンはさっきカーラに聞いた話を思い出してしまった。
「子作りってことは、ウチとマコトはんが、あんな事やこんな事を・・・ふしゅー・・・」
そして先程と同じく許容量を超えたエナンは、顔を真っ赤にしながら、ぐったりと脱力してしまった。
そんなエナンを、クロエは楽しそうに見ながら、別れの挨拶を切り出した。
「こんなんやと、まだまだ先は長そうやな。
さてと、とりあえずの用事は終わったようやし、うちたちはそろそろお暇させてもらいます。
てわけやから、エナン、そろそろ戻ってきてや。」
すると少し耐性が付いたのか、エナンはすぐに現実へと戻ってきた。
「・・・はっ!?ウチは何を・・・」
再び同じことにならないように、クロエはエナンの思考を自分に向けさせた。
「それはええから、エナン、うちはもう帰るで。」
それを聞いて、エナンが寂しそうな顔をした。
「そうか・・・クロエも忙しい立場やから、しょうがないな。
今回久しぶりに逢えて嬉しかったわ。」
「うちもや。」
「なぁクロエ・・・」
「なんや、エナン?」
「・・・また、逢えるか?」
「そうやなぁ・・・お互い立場が立場やし、それに忙しい身や。
逢おうと言って、気軽に逢えるもんやないやろな。」
「そうや、な・・・」
エナンが諦めようとしたそのとき、クロエの言葉で流れが変わった。
「だけどうちらは、マコトはんというつながりができたからな。
お互いに予定を合わせて逢うことはできるはずや。
マコトはんを通せば、予定の確認や移動の手間が省けるからな。
だから約束や、近い内に時間を作って、今度は時間を気にせずゆっくり話をしようやないか。
それでどうや、エナン?」
「望むところや!
まだまだ話したいことは山ほどあるんやからな!
覚悟しときや、クロエ!」
「エナンこそ、覚悟しいや。
うちの方が話すことは多いんやからな!
じゃぁ後でマコトはんに、うちの予定伝えとくから、最低でも1日は空けとくんやぞ!」
「わかっとるわ!」
「じゃぁうちは行くわ。」
「クロエ、約束忘れるんやないで!」
「エナンこそ忘れんやないで!
では皆さんも、またお逢いしましょ。
マコトはん、お願いします。」
「わかった。
それじゃぁ俺はクロエとクリスを送ってくる。
カーラはエナンと一緒に、ここで待っててくれ。
後で迎えに来るから。」
「はい、わかりました。」
カーラの返事を聞いてからマコトはゲートを開くと、クロエとクリスと共に中に入って行ってしまった。
それを見送るエナンの表情は、とても晴れ晴れとしたものであったのだった。




