商姫との会談2
そんなエナンの願いを知らない内に潰したマコトは、要望通り話を続けた。
「それでだ、この事業をどこが運営していくかだが、新たにどの国にも属さない商会を立ち上げて、カーラに代表を務めてもらう。
またこの事業で得た利益は、必要経費を除いて、全て事業に協力、賛同する国へと分配する。」
「それはずいぶん太っ腹な話やな。
でもどう分配するつもりなんや?」
「最初は全ての国に同額の基本金額を分配する。
更にそこへ、各国の事業への貢献度によって金額を上乗せする。
これは年に1回見直しをかけるつもりだ。」
マコトの話を聞いて少し考えたエナンは、気になったことを質問してきた。
「うーん・・・事業自体や分配金については問題無いやろ。
けど最初の資金や資材なんかはどこから調達してくるつもりや?
大口の資金提供をする国が、事業に口出ししてきいへんか?
そうなったら各国間に軋轢が生まれるで。」
そんな心配をするエナンだったが、マコトは違う方法を考えているようだ。
「それは大丈夫だ。
資金や資材については、どこからも調達するつもりは無い。
全て俺個人から出す。」
これにはエナンも、あきらかに突っ込みそうになっていた。
「はぁ?・・・突っ込んだら負け、突っ込んだら負け・・・へっ、へぇー、マコトはんって金持ちなんやね。」
しかしなんとか自分を言い聞かせ、普通の流れで話を続けることに成功したようだ。
そんなエナンに何も言わず、マコトも普通に答える。
「まぁいろいろとやってるからな。」
「ちなみにどんなことをやってるんや?」
「いろいろだ。」
これまでの会話で、初めてマコトが曖昧な答えを口にしたので、興味を引かれたエナンが追求してきた。
「ちょっとくらい教えてくれてもええやん。
それで、具体的には何をやってるんや?」
「だから、いろいろだ。」
頑なに答えようとしないマコトから聞き出すのは無理だと思ったのか、エナンは標的をカーラに変えた。
「ちぇっ、ケチやな。
なぁなぁ、カーラなら知ってるんやろ?」
しかしカーラからも期待した答えは返ってこなかった。
「私の口からは何も言えません。
ですがそうですね・・・どうしても知りたければ、1つだけ方法がありますよ。」
だが最後にエナンの興味を引く話が出てきたので、当然エナンはその方法とやらに飛びついてきた。
「それってなんやの?
ケチケチせんと教えてーな。」
軽い気持ちで聞こうとしたエナンだったが、カーラの答えを聞いて表情が変わった。
「簡単ですよ。
エナン様もマコトのハーレムに入ればいいのです。」
「へっ?・・・それってつまり、ウチがマコトはんと男女の関係に、ってことか?」
「ええ、そうです。」
予想外のことだったからか、これにはさすがのエナンも顔を真っ赤にしながら慌てていた。
「いやいやいや、さすがのウチでも、自分を商品として差し出すつもりは無いわ!」
「別にそこまでしろとは言っていません。
まずはお互いのことを知り、そこからお付き合いすればいいではありませんか。
それにマコトはエナン様を口説く気満々ですよ。
そうですよね、マコト?」
「そうなんかマコトはん!」
エナンに詰め寄られ、マコトはカーラに非難の目を向けながら答えた。
「・・・否定はしないが、そういうことは自分の口から伝えたかったんだがな。」
「ふふふっ、それは御免なさいね。
ですが遅かれ早かれ、マコトがエナン様を口説くことに変わりはないのでしょう?
でしたら早い内に知っておいてもらった方が手間が省けるではありませんか。」
「まぁそれはそうかもしれないが・・・しかしな・・・」
マコトが少し困った顔をしていると、そこへエナンが割って入ってきた。
「ちょー待ちーや!
そもそもカーラはそれでええんか!
いくらマコトはんが自分のハーレムを持っているとはいえ、更に増えることに抵抗は無いんか?」
これに対してカーラは、別の意味で少し困った表情をしながら答えた。
「私はマコトのハーレムに入った時点で、既にそこは受け入れています。
それに今更数人程度増えたところで、大きな違いはありませんから。
ただ本音を言いますと、これからもどんどん増えてもらわないと、私自身が困ってしまいます。」
「ん?それはどういうことや?」
「男性とお付き合いしたことが無いエナン様には、たぶん受け入れがたく、ご理解いただくことも難しいかと。」
カーラがもったいぶって答えをはぐらかすと、それを勝ち誇っていると思ったのか、エナンがムッとしながら話すように要求してきた。
「そんなん聞いてみないとわからんやないか!」
「そうですか?
では・・・」
そう言ってカーラは自分の口元を手で隠しながらエナンの耳元に近づけると、周囲に聞こえないほどの小さな声で理由を説明した。
「実は昨晩のことなのですが・・・」
「へっ?」
「最初は・・・」
「ふぇ!?」
「次第に・・・」
「んなぁ!?」
「更には・・・」
「そっそっそっそんなことまで!」
「最後は・・・」
「・・・もっ、もう無理や・・・ふしゅー・・・」
エナンは意外と純情だったようで、カーラの話を聞いていくと徐々に顔が赤くなり、最後まで聞いたところで許容量を超えたらしい。
まるで顔から湯気が出ているかのようにのぼせてしまい、ぐったりと脱力してしまった。
しかしカーラは、そんなエナンの都合は一切お構いなしのようだ。
「・・・とまぁ、今ご説明したのはほんの一部ですが、簡単にまとめますと、私の身が持たないということです。
ご理解いただけましたか?
よろしければまだまだ続きがございますが・・・」
更に耳元で続きを話そうとしたカーラだったが、慌てたエナンが復活して、何故か謝ってきた。
「・・・っ!?ウチが悪かったです、ゴメンナサイ!」
「そうですか・・・それは残念です。」
本気で残念そうにしているカーラの姿に、エナンは話を戻されるのを恐れ、慌てて話題を変えた。
「しっ、しかし昨日の今日でそないなことになっとるやなんて、カーラを狙ってた男共は相当悔しがるやろな。
知ってるんやで、カーラに求婚してきた男が相当な人数いたってな。」
その思惑は上手くいったのだが、この話題を振られたカーラの表情が、途端に不機嫌に変わった。
「あれは私を1人の女として見たうえで言い寄ってきたわけではありません。
商国の組合長の地位や、私が代表を務める『淑女の嗜み』をご利用いただいている各国の重鎮の方たちとのつながりが目当てなだけです。
そのような部分に群がってくる有象無象など、私は一切興味がありません。
私が興味を持って、全てを捧げてもいいと思った男性は、後にも先にもマコトだけです。」
しかし最後に幸せそうな笑顔を浮かべたカーラの姿に、エナンは内心で親友を祝福しながらも、ある疑問が思い浮かんだ。
「なんやカーラ、マコトはんにベタ惚れやないか。
そんなんやったら、さっさとくっつけば良かったやないの。
ずいぶん待たせたみたいやけど、何か理由があったんか?」
すると普段の感情を読ませない表情に戻ったカーラが、曖昧な答えを口にした。
「いろいろあったのですよ、私にも。」
エナンもカーラの気持ちを汲んだのか、その曖昧な部分には触れずに話を続けた。
「つまり、そのいろいろとやらが無くなったから、今回マコトはんのハーレムに入ったちゅーわけやな?」
「そうです。」
ここまで聞いて、ようやく話が元に戻った。
「でもそうなるとウチは難しいな。
養女とはいえ、これでも1国の姫やし。
それにウチの旦那になる男には、厳しい基準をクリアしてもらわなあかんからな。」
「確か以前エナン様が仰られてましたよね。
自分が結婚相手に求めるのは、ある程度上の地位を持っていて、自分以上の商才と義父である商王様のような男性、だと。」
「そうや。」
カーラは以前エナンから聞いていた条件がまだ有効なことを確認すると、少し表情を緩めた。
「でしたらその点は何も問題無いかと。
マコトでしたら条件と一致するどころか大きく超えますから。
後はエナン様がマコトのハーレムを受け入れられるか、それだけです。」
だがここでエナンは疑問を感じたらしい。
「マコトはんのこと、えらい押してくるなカーラは。
もしかして何か他に理由があるんやないか?」
そう言って探るような視線を向けてくるエナンだったが、カーラは隠す気がないらしく、あっさり理由を答えた。
「そうですね・・・やはり1番は、エナン様が私と同じくマコトのハーレムに入れば、今後もつながりを保てるというところですね。
私としましても、幼馴染の親友とは長いお付き合いができればと思っておりますので。」
「そりゃぁウチかてカーラとは長い付き合いを望んどるよ。
しかし、それが1番、ってことは、他にも理由があるんやな?」
エナンが言葉の裏を正しく理解していたので、カーラは要望通り続きを話した。
「大した話ではありませんが、商国の王族もマコトとのつながりを持っておいた方が今後のためになるかと思いまして。
一応商国は私の生まれ故郷でもありますので、他国と差が付いたままというのは心苦しいため進言したまでです。
まぁ最終的にはお互いの気持ちの問題ではあるのですが。」
しかしこのカーラの話の意味が、エナンにはわからなかったらしい。
「ん?どういうことや?
何で既に商国が他国と差がついとるんや?」
「やはりお気づきになられていませんでしたか。」
「何がや?」
「先ほどホーネットさんが仰られていた言葉の真の意味についてですよ。」
カーラに言われてエナンはホーネットが口にした言葉を思い返してみたものの、それがどれなのかわからないようだ。
「ホーネットはんがさっき言ってた言葉の意味?
・・・それってどれのことや?」
「それは、『ここにいるのは、全員アタシの家族だから問題無い』と仰られていたことです。
あの全員というのは、今のこの場でエナン様を除いた全員という意味になります。
ここまでお伝えすればおわかりになりますよね?」
このカーラの言葉通り、エナンにも意味がわかったようだ。
「それってつまり、カーラだけでなく、そこにおるホーネットはん、セレスはん、ルナーはん、この3人もマコトはんのハーレムに入ってる・・・ってことか!」
更にカーラは追加情報を公開した。
「そうです。
他にも私が知る限り、王国、連合、武国、連邦、翼国、機械国、魔導国、科学国の方たちもハーレムに入っています。」
「帝国だけでなくそんなにか!
南部の半分以上の国やないか!」
そこへホーネットが楽しそうにしながら補足した。
「付け加えるなら、術国、剣国、槍国、弓国、拳国もだね。」
実際には皇国も含まれるのだが、そこはマコトの判断に委ねるため、あえて含めなかったようだ。
当然エナンも残る国のことはわかっており、マコトを追求してきた。
「それって南部のほとんどの国ってことやないか!
残るは皇国と軍国やけど・・・まさかその2国も合わせて南部全部がとか言うんやないやろな!
どうなんや、マコトはん!」
マコトは少し悩んだものの、この場では隠す必要が無いと判断したのか、正直に答えた。
「皇国は・・・まぁいるな。」
「軍国は!」
間髪入れず残る1国について聞かれると、今度は悩むことなく即答した。
「現在口説いてる最中だ。」
「それはほんまか?」
「ああ。」
「・・・つまり、軍国も時間の問題、っちゅうわけやな。
となると商国は・・・王族の女となると、やっぱウチしかおらんやないか!
これってウチには選択肢が無いってことやないか!」
逃げ道を塞がれたエナンだったが、そこにマコトが助け舟を出した。
「先に行っておくが、別に自分の女じゃないからって、今更助けないなんてことは無いからな。」
だがエナンが心配してるのは、そこではないようだ。
「それは心配してへんし、そういうことやない。
マコトはんとの直接のつながりが無い事が問題なんや。」
「だが直接ではないが、カーラとは間接的につながっているだろ?」
「その間接っちゅーんが問題なんや。
商売の世界では、少しの遅れが致命的な大損につながることがある。
情報伝達の速さがどれだけ重要かくらい、マコトはんだったらわかるやろ?」
「エナンの言うことはわかる。
だが俺は、打算で女と付き合うつもりは無いぞ。」
「わかっとる。
ウチかてお互い好き合って付き合うのが一番やからな。
でもそういう自由や我儘がほとんど許されないんが王族っちゅーもんや。
それはマコトはんかてわかっとるやろ?」
「確かに、それは否定しない。
だが必ずしもそれに従わなければいけないというわけでもない。」
「ウチもそれはわかっとる。
そこでお願いなんやけど、しばらくマコトはんと一緒に行動してもええか?
マコトはんもさっき言うてたけど、まずはお互いのことを知ろうやないか。
その間にウチは、マコトはんがどんな男か見極めさせてもらいますわ。
もちろんマコトはんはウチのことを好きに口説いてくれてかまへんよ。
それでもしお互いがお互いを好きになったら付き合おうやないか。
どうや、マコトはんにとっても悪い話やないやろ?」
当然マコトの答えは決まっていた。
「別に構わないぞ。
そういうことなら俺にとっても願ったり叶ったりだしな。
ただ俺もやることが多いから、常に傍にいることはできないぞ。
安全確保のため護衛は付けるが、それでもいいか?」
「さすがに四六時中一緒におったら、他のハーレムの娘たちに悪いやん。
だからそれでかまへんよ。」
「エナンがそれでいいなら。」
「決まりやな。
そういうわけで改めて、これからよろしくお願いします。」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。」
「よろしくついでに、マコトはんの人脈の広さを使って1つお願いしてもええか?」
「俺にできることならいいぞ。」
「ありがとさん。
実はウチにはカーラと出逢う以前に、もう1人幼馴染の親友がおったんや。
出来ればそいつを探してほしいんや。」
「別に構わないが、まずは相手を特定するために、できるだけ情報がほしい。」
「もちろんええで。
最後に逢ったんは、ウチが7歳のときや。
性別は女、歳はウチと同じで、ウチのオカンから一緒に商売の教育を受けてたんやけど、これまでウチが出逢った中で一番の商才を持ってたんや。
でもそいつは家の都合で、自分の国に帰ってもうたんや。
その国っちゅーんが皇国で、そいつの種族が神人なんや。」
相手の素性を少し知り、マコトはこれまでエナンが見つけられなかった理由を理解した。
「なるほどな。
あの国は国民の情報管理がしっかり行われているから、国外に出ない国民の情報は、国外からはまず調べられない。」
「そうなんや。
おかげで調べても全く情報が出てこないんで、探すに探せないっちゅーわけや。
でもさっきマコトはんは皇国ともつながりがあるって言ってたから、その伝手で何とか探せないやろか、って思うてな。」
「さすがにそれだけの情報では難しいな。
他にはないのか?
せめて名前くらいはわからないとな。」
「おっと、ウチとしたことが、肝心な情報が抜けてたな。
たぶんそれなりに有名な商人になっとると思うんやけど、どこかで名前くらい聞いたこと無いやろか?
そいつの名前は、クロエ、っちゅーんや。」
このエナンの話を聞いて、マコトではなく別の場所から声が上がった。
「えっ?(×3)」
それは、ホーネット、セレス、ルナーの3人だった。
すぐにエナンは、反応を返した3人に食いついた。
「もしかしてそちらの3人さんは、クロエのことを知ってるんか!」
すると代表してホーネットが答えた。
「本人かはわからないけど、アタシたちはそのクロエって娘に、ついこの間逢ったばかりなんだよ。」
「どこで逢ったんや!」
「あれは王国だったね。」
「王国、っちゅーことは、皇国産の商品でも売りに来てたんか!
それとも王国産の商品を仕入れに来てたんか!」
「いいや、あのときはどちらも違うよ。
そもそもアタシたちが知ってるクロエは、商人じゃないからね。」
予想外のホーネットの言葉にエナンは一瞬固まったものの、すぐに詳しい話を聞いてきた。
「えっ?・・・ちなみに3人さんが知っているクロエは、何をやってるんや?」
「えーっとぉ・・・」
ホーネットが何だったかと考えていると、代わりにセレスが答えた。
「お母様、私たちがお逢いしたクロエさんの皇国での肩書は、銀行総裁、です。」
「そうそう、その銀行総裁だよ!
あのときは王国で行われていた和平条約の調印式と、その後の交易交渉に来てたんだった。」
それを聞いてエナンは、自分が知るクロエではないと否定した。
「あのクロエが・・・商人ではなく、皇国の銀行総裁?
ウチが聞いた皇国の銀行総裁の噂では、えげつないくらい相手から絞り取る金の亡者だって聞いとる!
商人は何よりもつながりを大事にするもんや!
そんなんウチの知ってるクロエなわけない!
全くの別人や!」
「確かに噂ではそうだけど、実際に逢った感じだと、全然そうは見えなかったけどねぇ。
それに確かあの噂って・・・」
最後ホーネットが何かを言いかけたが、エナンは聞く耳を持たず、別人だと主張し続けた。
「でも火の無い所に煙は立たぬって言います。
だから同じクロエでも、同名の人違いや!絶対にそうや!」
するとそれまで黙っていたマコトが、急に話に割り込んできた。
「だったら直接逢ってみるか?」
「えっ?」
思いもよらない急展開に、エナンは頭がついてこなかった。
そんなエナンに構わず、マコトは話を続ける。
「運良く本人と連絡が取れてな。
あっちは今なら少し時間があるから逢ってもいいと言ってるぞ。」
「ほっ、ほんまか?
嘘やないやろな?」
まだ信じられないエナンだったが、マコトの答えは変わらない。
「嘘を言ってもしょうがないだろう。
それでどうする?直接逢ってみるか?」
エナンは覚悟を決めると、銀行総裁のクロエと直接逢うことにした。
「・・・ええで、ウチが直接確かめたる!
そして別人だと証明したる!」
「わかった。」
マコトはすぐにその場でゲートを開くと、そこから2人の人物が姿を現したのだった。




