商姫との会談1
時間は少し戻り、場所は帝国の王城へ移る。
寄り道を終えたマコトとカーラは、城門を通らずに、直接執務室につなげたゲートから出てきた。
そこではセレスとルナーがちょうど仕事を終えたところだったようで、すぐにマコトたちに気づいて出迎えてくれた。
「マコト様、カーラさん、お待ちしていました。」
「ようこそですぅ。」
「仕事中なのにすまないな。
今回は非公式な上に周囲に知られるわけにはいかなかったから、直接ここに来てしまった。」
「いえ、大丈夫です。
それにちょうど仕事も一段落突いたところです。」
「私もですぅ。」
「そうか。
それじゃぁ早速で悪いが、会談の場へ案内を頼めるか?」
「はい、お任せください。」
「お2人ともぉ、こちらへどうぞぉ。」
こうしてセレスとルナーに案内されてマコトとカーラが向かったのは、王族専用の部屋だった。
セレスがその部屋の扉をノックして、中に向かって声をかけた。
「お母様、マコト様とカーラさんがお見えです。」
すると部屋の中から返事が返ってきた。
「おっ、来たね。
皆入ってきな。」
ルナーが扉を開けると、そこには既に先客がいた。
1人はよく知る顔、元魔王のホーネットだ。
部屋に備え付けられているテーブルの前に座っている。
もう1人は初めて見る顔で、テーブルを挟んでホーネットの対面に座っている。
そんなことを考えていると、ホーネットが座る席を指定してきた。
「マコトはこっち、カーラはそっちに座んな。
セレスとルナーはこっちだよ。」
4人は何も言わずに、その指示に従って席に座った。
そして全員が座ったのを確認してから、まずはホーネットが口を開いた。
「さて、役者が全員揃ったところで、まずは食事にしようか。
話はその後ゆっくりしようじゃないか。」
ホーネットが食事の準備をしようとして席を立とうとしたのだが、それを正面に座っていた女性が制止した。
「お待ちください、ホーネット様。
その前にせめて自己紹介くらいはさせてはいただけませんか?」
女性の指摘で、ホーネットは途中で立つのを止め、再び椅子に座った。
「おっと、アタシとしたことが、すっかり忘れてたよ。
その前に、アンタはその余所行きの態度を止めな。
アタシは堅っ苦しいのは嫌いだよ。
それにここにいるのは、全員アタシの家族だから問題無いよ。」
ホーネットに注意され、女性の口調がガラッと変わった。
「そういうことでしたら・・・ほなこっからは普段通りで話をさせてもらいます。
ウチは商国の王女、エナン、って言います。
以後よろしゅう頼みます。」
エナンと名乗った女性は、まだ少し余所行きが抜けきっていない言葉遣いだが、ホーネットの言葉でだいぶ素を出してきた。
対してマコトは、初対面の相手ということもあって、王族に対する言葉遣いで自己紹介を行った。
「初めまして、私はマコトと申します。
エナン様、以後お見知りおきを。」
するとエナンは少し怒ったような表情で、マコトを注意してきた。
「いやいや、それはちゃいますやろ、にーさん。
ここはお互い腹を割っていきましょうや。」
これに対して、マコトも普段の言葉遣いに戻した。
「わかりました・・・俺はマコトだ。
よろしく頼む。」
するとエナンは笑顔で満足そうに頷いていた。
「うんうん、それでええで。
じゃぁホーネットはん、まずは食事にしましょう。
ウチはもうお腹ペコペコです。」
「そうだね。」
こうしてまずは穏やかな雰囲気のまま昼食会が開かれた。
そして何事もなく食事が終わり、そのままお茶を飲みながら、雑談の時間へと移った。
「いやーマコトはん、いい食べっぷりやったな。
惚れ惚れするわ。」
「そうか?
美味い飯だったんだから、食が進むのは当然だ。」
「あははははっ、ウチはあれだけ食べる男を見るのは初めてやったわ。
こりゃ作った方も嬉しいやろな。」
エナンはこの場にいない城の料理人に向けて言ったつもりなのだが、思わぬところから返事が返ってきた。
「はい、とても嬉しいですし、とても幸せです。」
すぐにエナンは答えた相手、セレスへと突っ込んだ。
「ってーっ、これセレスはんが作ったんかい!」
「食事会を行うことは事前に知っていましたので、朝早起きして作り、時空魔法で収納しておきました。
そのため出来立てをお出しできたのです。」
マコトたちの間では、最早当たり前となっている時空魔法だが、これにエナンが食いついてきた。
「へぇー、状態を保持できるなんて、魔法ってのはすごいんやね。
そんなことができるんなら、輸送時間が問題になってる足がはやい商品なんかも、南北で輸出入ができるようになるはずや。
なぁなぁ、その時空魔法って、ウチでも覚えられるん?」
まずはエナンが自分で試し、そこから拡大していこうという考えなのだろうが、それは当てが外れた。
「それは難しでしょう。
魔法自体が大変な訓練を必要としますし、時空魔法に至っては個人の資質が無ければ習得できません。」
セレスの話を聞いて、エナンは意外にもおとなしく引き下がった。
「そっかー、そいつは残念や。
いい商売になりそうだと思ったんやけど、今回は諦めるしかないみたいやね。」
落ち込むエナンだったが、完全に諦める気はない、といった表情をしている。
そこへマコトが話題を変えて、本来予定されていた会談をはじめることを提案した。
「・・・そろそろ本題に入っても構わないか?」
エナンは嫌な顔をせず、マコトの提案を受け入れた。
「おっと、商売が絡んでくるとそっちに意識が集中してしまうのはウチの悪い癖や。
悪かったね、マコトはん。」
「いや、大丈夫だ。」
「で、マコトはんが、ウチをあのバカ義弟から助けてくれる、ということで間違いないんですか?」
この、バカ義弟、というのは、商国の王子のことだろう。
マコトはあえて何も言わず、エナンの問いに答えた。
「まぁそういうことになるな。」
「具体的にはどないするんです?」
「その前に、希望を聞きたいんだが、エナンはどうなることが望みなんだ?」
「そうやなぁ・・・ウチは別に商王になりたいわけやないんよ。
オトンの意思を継いで、今のまま商国を発展させたいだけや。
それさえやってくれるのなら、誰が商王になっても構いまへん。
でもあのバカ義弟だけは商王にしちゃダメなんや。
バカ義弟は商国を根底から変えようとしてる。
それも周辺国家を従えて、自分が頂点に立って支配するつもりや。
そんなの代々の商王やオトンの意思に反するわ。」
「なるほど。
エナンは商王のことを尊敬してるんだな。」
「当然や。
ウチはオトンのような商人になりたくて今まで頑張ってきたんやからな。
それにオトンは、養女のウチのことを本当の娘のように育ててくれたんよ。
だからウチも、血のつながりは無くても、本当のオトンだと思ってるんや。」
「そうか。
だが実際に次期商王は、エナンかバカ王子、この2択しかないだろうな。」
今度はマコトが商国の王子を、バカ王子、と言うと、エナンは少し楽しそうな顔になり、そのまま話を続けた。
「そうなんよ。
だから困ったことに、ウチが商王になるしか道は無いんや。」
「そうだろうな。
ではエナンを商王にする方向で話を進めよう。」
「それで頼むわ。」
まずは大きな道筋が決まり、続いてマコトは、現状の情報共有を行った。
「わかった。
それじゃぁ次に現在の状況を確認しておこう。
現状何もしないで投票を迎えると、バカ王子が商王になってしまうのは理解しているか?」
「カーラから聞いたわ。
まさかあのバカ義弟が、裏でコソコソと根回しや裏工作をやってるとは思わんかったよ。
ウチに気づかせずにそんなことができるなんて、かなり優秀な参謀がついたんやろね。
たぶんやけど、バカ義弟の実家が手配したんやないかな?」
「まぁそんなところだ。
そこでだ、こちらで勝手にエナンの後ろ盾になることを南部各国に打診して、既に了承をもらってきた。」
さすがにこのマコトの話は信じられなかったようで、エナンは少し考えてから聞き返そうとした。
「・・・はい?今なんて言った・・・」
しかしそれを無視して、マコトはどんどん話を先に進めた。
「それとこれから北部の方にもエナンの後ろ盾になってもらえるように交渉するつもりだが、まぁ問題無いだろう。」
そんなマコトに頭にきたのか、エナンが強い口調で話を止めた。
「マコトはん、ちょー待ちーや!」
「何だ?」
「今いる帝国はともかく、他の国からはいつそんな確約を得たんや!
カーラがマコトはんのとこに行ったんは、昨日だったはずや!
こない短時間に、そないなこと絶対無理や!」
通常は誰もがエナンと同じことを考えるだろう。
だがこの場においてはエナンの方が少数派で、他の皆はマコトの言葉を全く疑っていない。
とりあえずマコトは、事実だけを簡単に説明した。
「そう言われても、既にいくつかの国からは昨日の内にもらっていたからな。
残りの国は、さっきここに来る前にもらってきた。
だから南部については全ての国が了承してくれている。」
当然エナンが、これだけで簡単に納得できるわけがない。
「はぁ?・・・いやいや、そもそもそんな簡単にもらえるもんやないやろ!」
するとこのエナンの疑問を、マコトの代わりにカーラが肯定した。
「いえ、エナン様、マコトの言っていることは全て本当です。
ここへ来る前に、私もマコトと共に何ヵ国か回って、各国の王に署名をしていただきましたので。
こちらがその書類です。」
そう言ってカーラが差し出した書類には、各国の代表たちによる署名が入っていた。
自分の側近でもあるカーラの言葉と、署名済みの書類という証拠を前にして、さすがのエナンもマコトの言葉を信じはじめていた。
「まさか・・・ほんまに?」
「ええ、本当です。
マコトの人脈は、各国の中枢やトップとかなり親密な関係です。
しかしそれ以上に、迅速な行動が可能なことこそ、マコトの真の強みなのです。
マコトにとっては各国への移動も交渉も、たいした手間ではないのですよ。」
「・・・もしかしてウチは、とんでもない男を味方に付けたんか?」
「そうご理解ください。
ですからエナン様、くれぐれもマコトのことを敵に回すようなことはなさらないようにお願いします。
下手をすれば商国が滅びますよ。」
「確かに、他の国とそれだけ親密なら、1国を包囲殲滅するくらいわけないことやな。」
どうやらエナンは、マコトが敵になるとつながりのある国とも敵対すると考えたようだ。
しかしこの考えは、すぐにカーラが訂正した。
「いえ、エナン様、それは違います。」
「どういうことや?」
「マコトなら他国の協力を得ずとも、個人で商国と渡り合うことが可能だということです。
それは、戦力、財力、技術力、影響力など、あらゆる面で商国はマコト個人に太刀打ちできないとお考え下さい。」
「いくらなんでもそないなこと・・・」
個人が国に勝ると言われ、さすがにカーラの言葉を受け入れることはできなかった。
そこでカーラは、別の者の意見もエナンの耳に入れることにした。
「今のエナン様の反応が、ほとんどの方がする普通の反応でしょう。
ですが私の言葉は事実です。
そうですよね、セレスさん?」
カーラに話を振られたセレスは、まるで事前に示し合わせていたかのように、自然な流れで答えた。
「はい。
もし帝国が私の意に反してマコト様と敵対した場合は、私個人は迷わず帝国と敵対する道を選びます。
それが帝国民にとっても最善の選択になりますから。」
続けてカーラは、ホーネットとルナーにも話を振った。
「ホーネットさんはいかがですか?」
「アタシもマコトについて行くよ。」
「ルナーさんは?」
「お2人と同じですぅ。」
そしてカーラは最後に、嘘偽りのない自分の本音をエナンに伝えた。
「ああ、それと事前にお伝えしておきますが、もしマコトと商国、どちらに付くかと問われれば、私も迷い無くマコトを選びます。
エナン様、それを踏まえた上で、今後の選択を慎重に行ってください。」
これによってカーラは、自分はマコトの味方で、場合によっては商国と敵対する、と明言したのだ。
さすがにこのカーラの発現を聞いて、エナンの表情が険しくなった。
そして重苦しい雰囲気の中、名前を呼んだ。
「・・・カーラ・・・」
カーラはその雰囲気に臆することなく、エナンを真っすぐ見据えながら平然と答えた。
「何でしょうか?」
僅かな静寂の後、エナンがカーラに問いかけた。
「・・・それは商国の組合長としての立場からの言葉か?
それともウチの幼馴染で親友としての立場からの言葉か?」
「あえて言うのでしたら、1人の女としての立場からの言葉です。
ただ、どのの立場であっても答えは変わりません。」
「冗談、やないんやな?」
「申し訳ありませんが、私は本気です。
私は既にマコトのハーレムに入っております。
ですから今後はマコトを最優先に考えさせていただきます。」
「つまり、惚れた男のために、全てを捨てる覚悟があるっちゅうことやな?
それが幼馴染で親友のウチであっても。」
「そう解釈していただいて構いません。」
互いに真剣な表情で見つめ合っていた2人だったが、先にエナンの方が折れた。
「そうか・・・はぁ、これは絶対にウチが商王になるしかないな。
もしバカ義弟が商王になったら、商国は他国から孤立して、滅びの道を歩んでまうわ。」
「ご安心ください。
もしそうなった場合は、商国の膿を排除すればいいだけですから。
そもそもマコトが付いた時点で、エナン様の勝利は確実です。」
簡単にそう口にしたカーラの表情は、マコトを疑うことなく、確信に満ちあふれていた。
そんなカーラを見て、エナンは一瞬だけ背筋に寒気が走ったが、それを表に出さず、軽い口調で紛らわせた。
「まぁ期待させてもらうわ。」
「はい、ご期待ください。」
ここでようやくカーラが、いつもの凛とした雰囲気に戻った。
その変化に上手く割り込み、マコトが話を元の流れに戻そうとした。
「そろそろ話の続きに戻っても構わないか?」
これには渡りに船と、エナンも乗ってきた。
「ええよ。
確かマコトはんが、ウチの後ろ盾に南部各国がなるっちゅう了承を得た、ってとこまでやったな?」
「ああ。
だがこれは当然、各国にも得がある話だからだ。
個人的な感情だけでは、国は維持できないし、上層部は納得しないからな。」
「そうやな。
今回ウチが商王になれれば、後ろ盾になってくれた各国には、相応のお礼を覚悟せなあかんやろな。
でもできるのは、せいぜい南北間の輸出入時にかかってる関税を軽減するくらいや。
それでウチの後ろ盾になってくれる各国は納得するんやろか?」
既にエナンの頭の中では、自分が商王になった後の勘定をはじめているようだ。
しかしこのエナンの考えは、すぐにマコトによって否定された。
「いや、商国は現状維持で、何もする必要は無い。
一方的に商国が損をすると、今後国として立ち行かなくなるからな。
だから各国へは別の報酬を用意する。」
「別の報酬?
マコトはん、いったい何をするつもりや?」
エナンが恐る恐る訪ねると、マコトから予想外の答えが返ってきた。
「未開発の西の山脈と東の渓谷、そこへ南北間を行き来可能にする手段を作る。
これは各国の共同事業とし、当然商国にも協力してもらう。」
すぐにはマコトが何を言っているか理解できなかったエナンだが、内容を理解すると慌てて止めてきた。
「はぁ?・・・いやいやいや、それは絶対無理や!
過去にあそこへ踏み込んで生きて帰ってきた者がおらへんことくらい、マコトはんだって知ってるやろ!
悪いことは言わんから、止めておき!」
しかし更にマコトは、エナンの予想を超える答えを返した。
「それなら問題無い。
午前中にその原因を全て排除してきたからな。」
するとエナンは驚いた表情をしたものの、あまりに突拍子もない話に、逆に頭は冷静さを取り戻していた。
「へっ?・・・原因を排除した、やて?
つまりマコトはんは、何が原因やったか知ってるってことか?」
「ああ。
あそこは長い間、龍と竜がそれぞれ縄張りにしてたんだ。
だから一歩でも縄張りに踏み込んだ者たちは、排除されてたんだ。」
「じゃっ、じゃぁマコトはんが、その龍と竜を返り討ちにして退治したってことなんか?」
「やったのは俺じゃなくて俺の弟子たちだがな。
とりあえず西の山脈と東の渓谷の開発を邪魔していた障害は取り除かれたってことだ。」
「ほんまに?・・・嘘やったら承知せえへんで。」
「この場で嘘を言ってどうする。
非公式とはいえ、今ここで行われているのは、帝国と商国による正規の会談なんだからな。
この席で虚偽を口にして後で判明すれば、俺自身の信用問題に関わってくる。
そんな場で嘘を言うと思うか?」
「・・・まぁそれもそうやね。
というより、深く考えたら話が進まんし、負けな気がしてきたわ。
もうマコトはんの話はそういう非常識なもんやと割り切って、その辺りの理解が追い付かんことは全部聞き流すことにするわ。
で、マコトはん、いったいどうやって南北間を行き来できるようにするんや?」
完全に開き直ったエナンは、マコトに話の続きを促した。
マコトとしては一部不本意な部分もあるのだが、相手がせっかくおとなしく話を聞くと言っているので、その部分は聞かなかったことにして話を続けた。
「今回用意する手段は3つだ。
まず1つ目は、歩行や馬車などで通行可能な道を整備すること。
次に2つ目は、飛行船を使用した空を移動する方法を整備すること。
最後の3つ目は、鉄道を使用した陸を移動する方法を整備すること。
これは幅広い人たちに利用してもらうために、移動にかかる手間や、重量、速度に応じて、料金に反映するためだ。
そうすることで南北間の交流を増やし、互いに更なる発展を促すことができるはずだ。」
ここまで聞いて、エナンは初めて聞く言葉の意味について質問してきた。
「1つ目と2つ目はわかるんやけど、3つ目の鉄道って初耳やね。
いったいどういうものなん?」
「鉄道とは、レールと呼ばれる専用の鉄の道を作り、その上を高速で走る、巨大な鉄の箱のようなものだ。
これによって大容量を高速に運搬することが可能になる。
ただ地上を走るため飛行船よりは速度的に落ちるが、安全面や運用費用を比べれば、こちらの方が発展しやすいだろう。」
「なるほどな・・・つまりマコトはんは、ゆくゆくはその鉄道で各国間の移動手段の整備も見据えてるってことやな。
そのためにまずは南北間の開通で宣伝も兼ねたいってとこや、違うか?」
エナンは得意げな顔でその後のことを予想してみせた。
そしてそれは合っていたようだ。
「正解だ。」
自分の予想があっていたことを喜ぶエナンは、更に問題点も挙げてきた。
「よっしゃーっ!
ただ問題がいくつかあるで。
まず選挙までの短い日数で、その移動手段をある程度形にせなあかんということや。
それとその事業を、どこが運営していくかってことも重要やな。
他にも細かいことはあるけど、大きくはこの2つやね。
これらについてマコトはんはどう考えとるんや?」
マコトは考えることなく、すぐに答えた。
「最初の問題についてだが、期間の方は大丈夫だ。
既に工事は進んでいて、明日には完了する予定だ。
その前に北部の国へ開通の了承を得ないとだけどな。」
これにはエナンも、少し前に自分で言った言葉を覆して、思わず突っ込んでしまった。
「はぁ?・・・いやいやいや、ウチも話だけやから細かいことはわからんけど、飛行船はともかく、道の整備も鉄道の開通も、少なくとも数年単位の事業のはずや!
しかも開発するのは、これまで未開の地やった西の山脈と東の渓谷やで!
それをたった数日で工事が終わるって、絶対に無理や!」
「ではこれを見てくれ。」
そう言ってマコトは、皆が見える位置に2つの映像を映し出した。
まず右の映像には、巨大な機械が山脈に穴を開けて掘り進みながら道を作ったり、同時に何やら鉄の棒のようなものを設置している光景が映っていた。
そして左の映像には、こちらも巨大な機械が渓谷を進みながら橋を作り、同時に同じ鉄の棒のようなものを設置している光景が映っている。
しかもその作業速度は馬が走るよりも速く、見ている間にも巨大な機械はあっという間に数百mは進んでいた。
「マコトはん、あのいくつか並行に2本ずつ設置している鉄の棒が、さっき言ってたレールってやつなんか?」
「そうだ。
あの上を鉄道が走るんだ。」
「それにしても、ものすごい速さで出来るもんやな。
確かにあれなら明日に完成するっちゅうんも納得や。
なぁ、もしかしてあの道を作ってる機械って、機械国から借りてきたんか?それとも魔導国からなんか?」
さすがにこれは自分の予想が当たっただろうと密かに思っていたエナンだったが、マコトの答えは更に上を行っていた。
「いや、俺の弟子が作った。
まぁ技術は一部、部品に使用している資材なんかは全部俺が用意したがな。」
ここまで驚きの連続だったエナンであったが、あまりにも続きすぎて、逆に冷静になったようだ。
「・・・なんやもうマコトはんの話を聞いて驚くのも疲れたわ。
こっからはそういうもんだと思うことにするわ。」
そんなエナンに対して、マコトは何も触れずに話を続けた。
「では次の問題についてだが・・・」
しかしそれはエナンの期待していた反応ではなかったようで、間髪入れずに再び突っ込んできた。
「ってーっ、何も無いんかい!」
「何か言ってほしいのか?」
だがマコトに冷静に返され、自分1人で空回りしていることが急に恥ずかしくなり、エナンの熱も今度こそ冷めたようだ。
「・・・もうええわ。
マコトはん、とっとと話を進めてや。」
「そうさせてもらう。」
結局マコトはここでも反応しなかったため、エナンの逆に突っ込んでほしいという密かな願いは、とうとう叶わなかったのだった。




