カーラの相談2
それから少しして、マコトが考えをまとめ終えたのを見計らって、カーラが声をかけてきた。
「マコト、何かいい考えがあるのですか?」
「ちょっと試してみたいことがあってな。
上手くいけば、いろいろな問題が一気に解決できるはずだ。
カーラ、投票日はいつだ?」
「5日後ですが、何か関係しているのですか?」
「まぁちょっと準備に時間がかかるんでな。
カーラ、俺に3日だけ時間をくれないか?」
「それは構いませんが、いったい何をするつもりですか?」
「それは後のお楽しみだ。
それに俺がやろうとしていることが上手くいかなかったとしても、バカ王子が商王になることはない。」
「どういうことです?」
「俺の予想では、バカ王子は自分の欲望を優先して、自ら墓穴を掘るはずだからだ。」
「それは王子が自滅する、ということですか?」
「そうだ。」
カーラは少し考えると、詳細を確認しない状態でマコトの提案を了承し、代わりに頼み事をしてきた。
「・・・わかりました。
方法については、全てマコトに任せます。
ただ1つだけお願いがあります。」
「何だ?」
「投票日までどこかで王女様を保護してほしいのです。
こちらが王子派の意図に気づいていることを悟られない限り、直接王女様へ手を出してくることはないと思いますが、いつ標的が私から王女様に移るかわかりません。」
「それは構わないが、ここへは部外者を連れてくることはできないぞ。」
「構いません。
ですができるだけ安全性が高い場所で保護してほしいのです。
今隠れていただいている場所も見つかりづらいのですが、確実とは言えません。
それに万が一王女の素性が知られてしまうと、選挙に影響が出てしまう可能性もあります。」
するとこれにホーネットが名乗りを上げた。
「そういうことならアタシに任せておきな。
その王女は帝国で保護してやろうじゃないか。」
「よろしいのですか、ホーネットさん?」
「それくらい構わないよ。
それに帝国にはアタシやセレスもいるし、マコトのところから何人か交代で警護を出してもらえば、まず手出しできる奴はいないだろうからね。
マコトもそれなら問題無いだろ?」
「ああ。」
「決まりだね。」
「ありがとうございます、ホーネットさん、マコトも。
どうか王女様のこと、よろしくお願いします。」
「気にしなくていいよ。
そのバカ王子が商王になっちまうと、帝国としても面倒なことになっちまいそうだからね。
で、王女は今どこにいるんだい?
迎えに行くなら早い方がいいだろうからね。」
「実は王女様は今、帝国の首都の、ある場所に隠れていただいています。」
ホーネットは王女が隠れている場所が帝国の首都だと聞き、真っ先にある場所を思い浮かべた。
「帝国の首都って・・・まさか、あそこにいるのかい!」
「ホーネットさんの考えている場所で間違いないと思います。」
「なるほどねぇ・・・確かにあそこに王女がいるなんて、普通は誰も思わないだろうねぇ。
それにしても、アンタも思い切ったことをしたもんだねぇ。」
「緊急事態でしたので仕方ありません。
それに王女様も納得しております。」
「まぁ店に出るわけじゃないだろうし、隠れるだけだったらある意味最適な場所かもしれないねぇ。」
「その通りです。」
ホーネットとカーラの話は、その場にいるほとんどの皆が何を言っているのかわからなかった。
そのため一緒に話を聞いている各国の代表格たちからは、説明を求める視線を集めていた。
ようやくその視線に気づいた2人は、詳しい説明をはじめた。
「・・・おっと、アタシとしたことが、情報共有の場には合ってなかったねぇ。
カーラ、そろそろアンタの裏の顔について説明してやんな。」
「そうですね。
皆さん既にご存知かとは思いますが、私は『淑女の嗜み』や『乙女の慎み』を経営しております。
しかしこれは表の商売であり、裏では別の商売を行っております。
それが『淫靡な夢境』という名の、男性専用の娼館です。」
それを聞いて、その場にいた者たちの反応は、真っ二つに分かれた。
「まさかあの『淫靡な夢境』の謎と言われていた経営者がカーラさんだったとは・・・」
「各国の主要都市に、少なくとも必ず1軒はある、とても有名な娼館ですね。」
「ええ、男性に最高の快楽と夢を一時だけ与えると評判です。」
「連邦でも独り身のヤロー共が、ずいぶんと世話になってるみたいだぜ。」
「サービス内容や値段設定も様々で、できる限り客の要望に幅広く応じることでも知られています。
それに店のルール設定もしっかりしており、娼館でありながら数少ない優良店としても広く認知されていますね。」
それぞれ、リスティ、ネーナ、シーリン、レミル、エターナが、『淫靡な夢境』について自分たちが知ることを口にしていた。
一方対照的なのが、フローラとフェザリースだ。
「他国にはそのような施設が存在するのですね。
公国は娯楽に乏しいので、娼館という言葉自体初めて聞きました。」
「翼国にもそんな施設はないぜ。
そもそも男専用じゃぁ、男がほとんどいない翼国には必要ないしな。
何をするのかは知らねーけど。」
どうやらフローラとフェザリースは、娼館が何をする場所なのか知らないようだ。
そんな2人にホーネットとリスティが、娼館が何をするところなのかを、耳元で簡単に説明した。
「娼館ていうのはねぇ・・・」
「女性が男性に・・・」
娼館について赤裸々に語るホーネットの説明に、フローラは恥ずかしそうにしながらも、興味津々に聞き入っていた。
「そっ、それはすごいですねぇ・・・他にはどんなことを・・・そっ、そんなことまで・・・」
一方リスティの説明もホーネットに負けず劣らずの過激な内容だったのだが、フェザリースはあまり興味が無さそうだった。
「ふーん・・・」
だがそれも仕方のない話だ。
これまでフェザリースたち翼人族は、翼人族の伴侶となった男に対して、娼婦と同じようなことを行ってきた。
当然自分から望んだことではなく、氏族の子孫繁栄のためにやらざるをえなかったため、あまり思い出したくない過去であった。
だから他国では娼館でそのようなことを仕事として成り立っており、しかもそれが見ず知らずの男に対して行われていることを知り、内心いい気分ではなかった。
そんなフェザリースの心の内を見透かしたかのように、リスティが説明とは関係ない話をした。
「話は変わるけど・・・という噂があるのよ。
他にも・・・」
すると急にフェザリースが興味を示し、食い入るようにリスティの話に聞き入った。
「へぇー・・・そいつはまた・・・いいじゃないか・・・」
その後、一通り話が終わったのを見計らって、カーラは話をつづけようとした。
「では皆さんにも私の裏の顔をご理解いただけたと思いますので、そろそろ話の続きを・・・」
しかしそれをリスティが遮った。
「その前に、1つ疑問があります。」
「何でしょうか、リスティさん?」
「何故ホーネットだけが、カーラさんの裏の顔を知っていたのでしょうか?」
「それは・・・」
カーラがどう答えたものかと悩んでいると、ホーネットが自分で説明した。
「そいつはアタシから話すよ。
昔ちょっとやさぐれてた時に、カーラの母親に拾われて1年ほど世話になったんだよ。
そして自分の目的のために、娼館で働いてたんだ。
カーラとはその時からの付き合いなんだよ。」
「例の情報収集のために、と言っていたことね?」
「そうだよ。」
「あの時は母と共にお力になれず、申し訳ありませんでした。」
「何言ってんだい。
アンタの母親には感謝しかないよ。
こんなアタシに居場所を提供してくれて、その要望にできる限り応えてくれたんだからね。」
「しかしそれが娼館で娼婦をすることでは・・・」
「あの時は娼婦をするのが、裏の情報を得られる可能性が一番高かったんだ。
それにアタシが自分で選んだ道だ。
だからアンタたち親子が気にすることなんて何一つないんだよ。」
「・・・はい・・・」
ホーネットが気にしていないと言ったものの、カーラとしては今も申し訳ない気持ちでいっぱいのようだ。
そんなカーラに、ホーネットはその後の進展について簡単に説明した。
「それとアンタにはまだ話してなかったけど、そっちの問題も少し前に解決したよ。」
「本当ですか!」
「ああ、アタシもマコトに協力してもらってね。
今は詳しい話は省くけど、そのおかげでアタシたちはやっと本当の家族になれたのさ。」
「そうでしたか・・・おめでとうございます、ホーネットさん。」
「ありがとさん。
それにアンタには、アタシが店に出ている間、セレスとノワールが世話になったからね。
さすがに小さかった2人はアンタのこと覚えてないだろうけど。
2人ともマコトのハーレムの一員だから、後で逢ってやっておくれ。」
「はい。
といいますか、既にノワールさんとはニナの誕生日会でお逢いしました。
あの時生まれた赤ちゃんが無事に成長して、とても嬉しく思います。
ただ発育が遅れているのが少し気になるところですが・・・」
この思わず発したカーラの言葉が、予想外の方向へと話を転換した。
「まぁそれはちょっと原因があってね。
ノワールは淫力っていう特殊な力を持ってるんだ。
その所為で普段は身体が幼いままなのさ。
でも今では淫力をコントロールして、成長した姿にもなれるんだよ。
ニナには見せるって言ってたけど、どうやらカーラはまだ見てないみたいだね。」
ホーネットがノワールの身体の秘密について説明すると、突然カーラの様子が変わった。
「えっ!?・・・ホーネットさん、今何と仰いましたか!」
「んっ?ノワールの成長した姿のことかい?」
「そのもう少し前です!」
「少し前って・・・もしかして特殊な力のことかい?」
「それです!」
「ノワールが持っているのは、淫力、だけど、それがどうかしたのかい?」
「やはり私の聞き間違いではなかったようですね。
まさか淫力の継承者がノワールさんだったとは・・・これで後は夢力の継承者さえ見つかれば・・・」
ノワールの力を知り、カーラは無意識に探しているもう一つの力を口にした。
すると今度は逆にホーネットが、その力の名前に反応した。
「夢力?どこかで聞いたことがあるような・・・」
この答えに、カーラはホーネットへと一気に詰め寄り、乱暴に両肩を掴んで激しく前後に揺さぶってきた。
「本当ですか、ホーネットさん!
どこで聞いたのですか!
今すぐ思い出してください!」
カーラが我を忘れている姿に驚きながらも、すぐにホーネットは落ちつかせようとした。
「ちょっ、ちょっと落ちつきな、カーラ!
いったいどうしたんだい!」
「はっ!?もっ、申し訳ありません・・・」
ホーネットの言葉で我に返ったカーラは、少し恥ずかしそうにしながら冷静さを取り戻した。
「別に構わないんだけど、アンタがそんなに取り乱すなんて珍しいねぇ。
教えるのは構わないんだけど、その前に、淫力と夢力の継承者を探して、アンタはいったい何をするつもりだい?」
ノワールのことはともかく、もう1人のことについては、カーラの目的を聞いてから話すかどうか決めようとホーネットは考えたようだ。
それはカーラにも伝わったようで、ゆっくりと事情を説明しはじめた。
「実は・・・私の家系の悲願なのです。」
「悲願?」
「私の家系は代々表と裏の顔を持っております。
表の家業は素顔をさらし、ここにいる皆様の何人かとは、既にご挨拶させていただいておりました。
それによって一定以上の資金力と地位を維持してきました。
しかし裏の家業は、余程のことがない限りは素性を隠します。
これは家系と継承を途絶えさせないようにするためです。
その理由が、淫力と夢力の真の継承者に伝えることがあるからです。」
「いったい何を伝えるんだい?」
「それは・・・性なる魅技、です。」
「聖なる御業?
なんか胡散臭いほど奇麗で仰々しい、大層な呼び方だねぇ・・・」
「どこがですか?」
「だって聖なる御業って言うくらいだ、神様が使うようなすごい力ってことだろ?」
噛み合っていなかった2人だが、ホーネットの説明を聞いて、カーラはその理由に納得した。
「・・・ああ、そういうことですか。
どうやらホーネットさんが思い描いたものとは字が違いますね。
私が言っているのは、性愛的に男性を魅了し夢中にさせる技術、のことです。
これを私たちの家系では、性なる魅技、と呼んでいるのです。」
「聞くまでもないだろうけど、それって、エッチな意味で、ってことかい?」
「そうです。
一応秘匿されてきたことですので、隠語としてそう呼んでいます。
もし言葉として口にしてしまっても、今のホーネットさんのように相手は勘違いしてくださいますから。」
「まぁそんな言葉は無いからねぇ。
普通はアタシが思い浮かんだ方を他の連中も思い浮かべるだろうね。」
「そのおかげで私の代まで誰にも気づかれずに途絶えさせることなく、無事に継承することができました。
それでホーネットさん、夢力の継承者のこと、何か思い出していただけましたか?」
カーラの話を聞いて、ホーネットは誰のことか教えてもいいと思ったのだが、実はうろ覚えだったため、情報元となった人物の名前を口にした。
「うーん・・・確かマコトから聞いたような気が・・・」
「マコト、ホーネットさんの仰っていることは本当ですか?」
すぐにカーラが真剣な表情で聞いてきたので、マコトも答えようとしたのだが、そこへ割って入ってくる人物が現れた。
「それについてはぁ、私も気になるわぁ。」
当然ほぼ全員が一斉に声の方を向き、厳しい視線を送りながら警戒した。
それは漆黒の長髪を後ろでゆったりと束ねている美女で、髪とお揃いの漆黒の瞳が相まって、妖艶でありながら気品のある雰囲気を纏っていた。
その女性は、それまで誰も座っていなかったはずの席に突然現れたのだ。
女性の存在について知らなかった者たちにとっては、当然の反応だろう。
しかし女性は全く意に介さず、余裕の表情を崩すことはなかった。
「あらぁ、そこまで熱烈に見つめられたらぁ、とても照れてしまうわぁ。
それと皆ぁ、そんなに怖い顔しないでほしいわぁ。」
この答えで、ほぼ全員が更に警戒を高める中、ホーネットが女性に声をかけて正体を探ろうとした。
「・・・アンタ、何者だい?
それに、いつどうやってそこに座ったんだい?」
これに対して女性は、あっさりと答えてくれた。
「うふふっ、警戒しなくてもいいわぁ。
私は貴女たちの味方よぅ。
それとぉ、私は最初からここに座っていたわぁ。
そもそも後から入ってきたのは貴女たちの方なのよぅ。」
女性の話を聞いて、ホーネットはすぐにマコトへと確認した。
「・・・マコト、どういうことだい?」
するとマコトは、少し呆れた表情で答えた。
「やれやれ、黙って聞くだけだからと言うからこっそり同席を許したんだが、こうなるなら最初から紹介しておくべきだったな。
皆安心してくれ、そいつの言う通り味方だ。」
続いてアイも同じく呆れた表情でため息をつくと、まずは皆に謝罪し、女性に自己紹介するように促した。
「はぁ、貴女という娘は・・・皆さん、私の妹が申し訳ありません。
ほらっ、まずは皆さんに自己紹介しなさい。
話はそれからですよ。」
女性は素直にアイの言うことを聞くと、すぐに自己紹介をはじめた。
「わかったわぁ、アイ姉様ぁ。
初めましてぇ、私はアスモデウス、アスモ、って呼んでほしいわぁ。
私はアイ姉様やベル姉様の妹よぅ。
そこまで言えばぁ、私が何者なのかわかるわよねぇ。」
最後は言葉を濁したものの、すぐにホーネットたちはアスモと名乗った女性の素性を理解した。
「つまりアンタは、アイ、ベル、ルフェと同じ、古代文明の神様、ってわけだね?」
「そういうことよぉ。
これからよろしくお願いするわぁ。」
ここでようやくホーネットを含むほぼ全員が警戒を解いた。
「どうやらアンタも、ベルやルフェと同等の力を持っているみたいだね。
だけどできれば今後は、こういった悪戯は止めてもらえると助かるよ。
あまり心臓に良くないからね。」
「うふふっ、気を付けるわぁ。」
「頼むよ。」
ホーネットとの話を終えると、何故かアスモはカーラに向かって挨拶をした。
「そ、れ、で、カーラ、さっきぶりねぇ。」
これに対してカーラはというと、最初はジッとアスモを観察していたものの、すぐに表情を緩めて答えた。
「・・・その口調、その声、どうやら本当にアスモのようですね。
それが貴女の本来の身体、というわけですか。」
「そおよぉ、マコトが見つけてくれていたのよぉ。
久しぶりに元の身体に戻ったけどぉ、やっぱりこの身体が一番馴染むわぁ。」
「それは喜ばしいことです。
これで代々続いた家系の悲願が1つ叶ったわけですね。」
「長い間世話になったわねぇ。」
「いえ、互いに持ちつ持たれつの関係だったのですから、気にしないでください。」
「うふふっ、あ、り、が、と、う。
改めてぇ、これからもよろしく頼むわぁ。」
「ええ、こちらこそ。」
互いに笑顔で握手する2人の姿は、古くからの親友のように見えた。
そんな2人が気になって、ホーネットがその関係について聞いてきた。
「アンタたち、もしかして知り合いなのかい?」
「そおよぉ。」
「彼女は、アスモは、その魂を私の家系が代々受け継いで宿してきました。
こうして直接逢うのは初めてですが、アスモのことは昔から知っています。」
「それってつまり、セイが代々ベルの魂を受け継いで宿していたのと同じってことかい?」
「正解よぉ。
カーラはこれまでの宿主の中でもぉ、私との相性がすっごく良かったからぁ、生まれてすぐ意思の疎通ができたのぉ。
普通は死の直前かぁ、一生できない場合が多いのにねぇ。
だから付き合いはぁ、一番長いわぁ。
それに意外と気が合ったのよねぇ。」
「確かにそうでしたね。
私たちの性格は全く逆ですが、不思議と馬が合いましたから。」
「なるほどねぇ。」
カーラとアスモの関係を聞き、ホーネットは2人の自然な姿に、深く納得したのだった。




