カーラの相談1
そんな3人が離れて行ってすぐ、入れ替わりで別の3人の男女が近づいて声をかけてきた。
マコトとシルフィナ、それにフィーアだ。
「待たせたな。
ところで集まって何をしていたんだ?」
「カーラのマコトへの用事が、アタシたちにも関係してるって言うんでね。
一緒に話を聞くことになったんだよ。」
ホーネットのことは信じていたが、マコトは直接カーラにも確認を行った。
「いいのか、カーラ?」
「はい、その方が手間が省けますので。」
「カーラがいいのなら、俺が断ることじゃない。
とりあえず場所を移そう。
エイリ、フィーア、こっちのことは任せたぞ。
それとアイにも、遅れていいからこっちの話に加わるように伝えてくれ。」
「はい、かしこまりました、マコト様。(×2)」
2人はすぐに離れて行き、マコトは皆を連れて近くの建物へと入って行った。
そこには大きめの丸いテーブルが1つと、人数よりも多い椅子が置かれていた。
マコトがその内の1つの椅子に座ると、皆も適当な椅子へと座った。
全員が座ったのを確認して、マコトはカーラへと話を振った。
「さて、ここにいる全員がカーラのことは既に知っているだろうから、詳しい紹介は省かせてもらう。
早速話を聞こうと思うが、カーラは俺に何をさせるつもりなんだ?」
「別にマコトへ強制するつもりはありません。
ただ、これはマコトにとっても無視できない話のはずです。
まずは私の話を聞いてください。
その後でどうするかは、マコトの判断に任せます。」
「わかった。」
「その前に、マコトは商国がどのよう国なのか、どこまで知っていますか?」
「俺たちが住む大陸、それを南北に分断する西の山脈と東の渓谷、この2つに挟まれる形で存在し、南北を唯一行き来することができるルートを持つ国。
それが、マーチャント商業組合国、通称商国と呼ばれている国だ。
その地理的優位を利用して、商国は昔から貿易の中心地として栄えている。
北方と南方、この両方の商品や技術などが集まるため、商国に店を構えることができれば、各地へ商売を拡げることが容易になると言われている。
だがこれらの発展を促し、今も尚成長を続けることができているのは、代々の商王の懐の深さによるところが大きい。
商国の領土は全て商王の所有する土地なのだが、歴代の商王たちはこの土地を身分や出自に関係なく、どんな者にも格安で貸し出している。
そのため様々な国の商人たちが集まりやすくなっており、商国は大陸一経済が発展している国として、その地位を確固たるものとしている。
しかしそんな経済状況とは逆に、商王たちの生活は他国の王族たちに比べれば質素であり、少し裕福な一般庶民とそう変わらない。
何故なら土地の賃貸収入の大半を、国内の整備に費やしているからだ。
これは商国が国を立ち上げた当初から掲げる目標の、国民全員の生活水準を標準以上にして世界一豊かな国にする、によるところが大きい。
まぁ国として知っているのはこんなところだな。」
「そこまで知っているのでしたら、私から説明することはありません。
次に、商国の組織がどうなっているのか、これはどこまで知っていますか?」
「確か商王を頂点としているものの、国の運営方針などは国民の代表者である7人の組合長たちが提案し、商王を含めた組合長たちによる投票で採決をとって決めていたはずだ。
その中で商王が3つ、組合長たちがそれぞれ1つずつ持つ投票権を持っていて、多数決によって決定される。
ちなみに同数の場合は、商王が投票した数が多い方を優先的に採用する決まりだ。
また組合長は商国を本拠地とする商店が毎年1回、1年間の総売上、純利益などから順位付けされ、その上位7商店の代表が務める。」
「その通りです。
では商王がどのよう決まるか、これは知っていますか?」
「基本的には国の運営方針を決めるときと同じだ。
5年に1度選挙を行い、現職の商王と組合長たちによる投票で採決を取って決めている。
まぁほとんどが現職の商王に投票されるため、一度商王となったら生きている限り継続して就任し続けることになる。
しかし投票した相手が商王にならなかった場合、その組合長は他の組合長たちから商国の輪を乱す反乱分子として警戒される。
するといつの間にか売り上げが落ちていき、組合長が入れ替わってしまうという、何とも不思議なことが起こるわけだ。」
マコトが少し皮肉っぽく言うと、カーラが真剣な表情で商国の仕組みを肯定しながら支持する考えを示した。
「それは商国が商国としてあり続けるために必要なことだと、私はそう考えます。」
これに対してマコトは、言葉を付け足してきた。
「すまない、言い方が悪かったな。
俺は別に商国を運営していくための今の仕組みを否定しているわけではない。
実際に商国は大陸に存在する全ての国にとって、無くてはならない存在だからな。
だが同時に、危うい仕組みでもあると考えている。
特に今はな。」
カーラはマコトの最後の言葉に、あきらかに反応しながら、その理由を尋ねてきた。
「・・・何か問題があると?」
「ああ。
まず商王の後継者問題だ。
確か今の商王には子供がおらず、遠縁を2人養子にして、それぞれを後継者としていたはずだ。
1人は普段無害そうな無能を演じている息子だ。
こいつは裏で虎視眈々と商王の座を狙っている。
もう1人は天賦の才に恵まれた100年に1人の逸材と言われている娘だ。
もし娘の方が商王となれば、歴代商王の中で、最も名を遺す名君となるだろう。
しかし残念なことに、今は自分の手がける商売にしか興味が無く、商王には全く興味が無い。
このままではいずれ息子の方が商王になってしまい、商国は最悪な状況となるはずだ。
そしてそれは大陸全ての国に、悲惨な結果をもたらすことになるだろう。
ちなみに王女もバカ王子も、どちらも組合長のだったはずだ。」
「さすがですね。
そこまで状況を理解しているのでしたら話が早いです。
ここからが本題なのですが・・・実は2日前に、商王様が崩御されました。
元々商王様は病を患っており、1年ほど前から意識はあるものの、寝たきりの生活となってしまいました。
しかし一向に回復には向かわず、1週間ほど前から意識がなくなり、そのまま眠るように静かに息を引き取られました。」
このカーラの言葉から、マコトはある可能性へと行きついた。
「・・・殺されたか・・・」
「確証はありませんが、おそらく。」
否定しなかったカーラへ、マコトはその理由を尋ねてみた。
「どうしてカーラはそう思った?」
「後になってわかったことなのですが、商王様が亡くなられた日に、長年主治医を務めた薬師が姿を消しました。
現在行方不明です。」
「なるほど、その薬師が薬と称して少量の毒を与え続けて、じわじわと弱らせた、ということか。」
「私もそう考えています。
ですが証拠がありません。
おそらくその薬師も証拠隠滅のために、既に消されてしまっているでしょう。」
「だろうな。
商王の遺体は今どこにある?」
「王宮の地下に安置されています。
次の商王様が決まった後に、崩御と即位を同時に発表する予定です。
遺体はその後で埋葬するそうです。」
「遺体の保管と警備は、誰が行ってるんだ?」
「王子と共に組合長の1人が。」
「となると既に遺体は処分されて代わりを用意されているか、殺された証拠を消されているいる可能性が高いか・・・しかし何故バカ王子なんだ?
本来は全ての組合長たちが合同で行うはずだ。
互いを監視する意味も含めてな。
組合長の1人とはいえ、よく商王候補のバカ王子が遺体保管の警備を担当することを、他の組合長たちが許したな。」
「王子とその組合長が、商王様の最後に立ち会ったからです。
そのまま王子が強引に話を進め、今は王子の手の者が遺体の警護を行っています。
そこに別の組合長の1人が監視という名目で加わることで、強引に他の組合長の介入を防いだのです。
おかげで様子が全くわかりません。」
「証拠を隠滅するための計画的な犯行だな。
たぶんずいぶん前から準備してたんだろう。
狙いはバカ王子を商王にすること、といったところか・・・」
このマコトの言い回しが気になったようで、カーラが聞き返してきた。
「王子が商王になるため、ではないのですか?」
「違う。
当然バカ王子自身が商王になりたいという欲望は持っている。
だがそれを上手く利用して、特をする連中がいるはずだ。
そもそもバカ王子は、自分では無能な振りをしているつもりなんだろうが、本当にただの無能だからな。
裏で今回のシナリオを書いた奴が他にいるはずだ。
でなければカーラが介入できない事態にはならないはずだ。」
「なるほど、マコトの言う通りかもしれません。
となりますと、確実に私1人の手には余る事案ですね。」
「ああ、カーラ1人では厳しいだろう。
それにおそらくカーラにとっては、相性が最悪の相手だ。
相手は商人としてではなく、暴力で今回の商王の座を奪取しようとしているみたいだからな。」
「その通りです。
だからこそ私は身を隠しながらマコトの許へ助けを求めに来たのですから。
それでここからが頼みたいことなのですが、マコトには王女様を次の商王にするために協力してほしいのです。」
「それは別に構わないが、当の本人は商王になりたくないんじゃなかったか?」
「それは問題ありません。
ここへ来る前に誠心誠意説得し、王女様には商王になっていただくことを納得していただきました。
今では商国を商売の場として考えるのが一番の楽しみのようです。」
そう言いながら一瞬不敵な笑みを浮かべたカーラだったが、マコトはそのことには何も触れずに話を進めた。
「それなら別に構わないが・・・ちなみに本人は今どこにいるんだ?」
「王女様には万が一の事態を考えて、今は身を隠していただいています。
数日でしたら問題無いはずです。」
マコトはその場所に心当たりがあるのか、今は何も聞かずに話を進めることを優先した。
「そうか・・・それで、現在の予想ではどっちが優勢なんだ?」
「亡くなられた商王様の投票権3つを除いてですと、王女派に集まっている投票権が2、王子派に集まっている投票権が3、状況を見定めている最中の投票権が2です。」
「残りの投票権がどちらに付くかで、王子派が勝つ可能性もあるということだな。」
「いえ、既に勝負は決まっています。」
自信満々にそう言い切ったカーラの態度が気になり、マコトはその理由を尋ねた。
「どういうことだ?」
するとカーラは、懐から厳重に封印された封筒を取り出して、皆に見えるようにテーブルの上へ置いた。
「これは商王様が意識を失う直前に預かりました遺言書です。
この中には商王様が保有している投票権の投票先が書かれています。
これは正式な書類で、有効な投票権です。
そして商王様は私にだけ誰に投票するのか、遺言書の内容について事前に教えてくださいました。」
このカーラの口調から、マコトは中身を予想した。
「投票先が全て王女だと?」
「そうです。
そのため王女様ではなく、私が狙われることになりました。
何度か軽い襲撃を受けましたが、そろそろ相手も本腰を入れてくるでしょう。」
「つまりバカ王子たちは、その遺言書を奪うか破棄することで選挙に勝てるからカーラを狙ってきた、というわけか。
今のままでは互いの投票権は5対5だから、商王の投票権が多い王女が勝ってしまうからな。」
「そういうことです。
おそらくどっち付かずの2つの投票権を引き込む算段がついているのでしょう。
そこでマコトには、開票まで私を護ってもらいたいのと、投票日に投票所まで送り届けてほしいのです。
それで全てが丸く収まります。」
「なるほどな・・・」
カーラの話を一通り聞いて、マコトは少し考えはじめた。
しかしそのマコトの様子に疑問を感じたようで、ホーネットが話に割り込んできた。
「なんだいマコト、カーラはアンタの女になったんだろ?
だったら護ってやるのに、何を迷う必要があるんだい。
それにさっきの話だと、カーラがマコトと合流した時点で、選挙の勝ちは決まったも同然じゃないか。」
「・・・もちろんカーラのことは護るし、今この場にいる時点で、それは全く問題じゃない。
投票日までここにいれば、誰にも手出しすることはできないからな。
だが問題は別にある。
このままでは、選挙はバカ王子の勝ちだぞ。」
このマコトの言葉に、ホーネットとカーラが驚きの声をあげた。
「はぁ?」
「えっ?・・・それは何故ですか、マコト?」
「その遺言書、カーラの言う通り、確かに投票先が書かれている。」
「もしかして、中に書かれている内容がわかるのですか!」
「ああ。
そしてカーラが商王から聞いた通り、投票先は王女になっている。」
マコトの言葉にホーネットもカーラも、更に疑問が深まってしまった。
「だったら何も問題無いんじゃないかい?」
「私もそう思います。」
「だが同時にバカ王子も投票先に含まれている。」
しかし続いてマコトが発したこの言葉をきいて、2人は詰め寄りそうな勢いで驚きの声をあげた。
「なんだって!」
「どういうことですか!」
「その遺言書には、王女に2票、バカ王子に1票と書かれている。
既に勝ちが決まっていると思って安心したカーラが、残りの2票の取り込みを積極的に行わないことを見越しての配分だろう。
3票全てをバカ王子にするとあからさますぎるから、裏で暗躍していないことをアピールする意図もあるんだろうな。
そうなると現時点では王女に4票、バカ王子に4票となる。
つまりどっちつかずの残り2票が全てバカ王子に入って、僅差で次の商王はバカ王子に決まるって筋書きだろう。
カーラは自分の1票と王女の1票、そこに商王の3票が加われば負けることはないと考えたんだろうが、相手の方が上手だったようだな。」
詳しい説明を聞き、カーラは絶望して現実を受け入れられずにいた。
「そっ、そんな・・・ですが何故商王様は私に嘘を・・・」
「たぶんだが、商王本人は嘘を言ったつもりは無いと思うぞ。
自分では王女に3票と書いたつもりなんだろう。」
「王子派の暗躍があった、ということですか?」
「十中八九そうだと思う。」
「しかしいったいどうやって・・・」
カーラが考え込もうとしたところへ、ちょうど部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
ノックした相手に対して、マコトは入室を許可した。
「入ってくれ。」
「失礼します。
マコト様がお呼びと聞いて来たのですが・・・」
入ってきたのはアイだった。
すぐにマコトはアイに指示を出した。
「呼び出してすまないな。
来て早々で悪いが、まずはこいつがどのように書かれたか、過去の記録を視てくれ。」
そう言ってマコトは、カーラの前に置かれた封筒を指差した。
「かしこまりました。」
アイは封筒へ視線を向けると、その記録を確認した。
時間にして3秒ほどで、アイは封筒の記録を全て読み取り、マコトへと確認をしてきた。
「・・・終わりました。
それでマコト様、何が知りたのでしょうか?」
「その封筒の中身が書かれたのはいつだ?」
「10日前になります。
封印も書き終えた直後に行われており、現在に至るまで開封されていません。
当然中身のすり替えや書き換えなどは一切行われていません。」
「書いたのは誰だ?」
「現在の商王です。
ただし2日前に既に亡くなっています。」
「では封筒の中身が書かれたとき、その場に商王以外に誰か他にいたか?」
それまで即答していたアイだったが、少し外れた内容だったからか、1秒ほど考え込んでから答えた。
「少々お待ちください・・・書かれたときは、その場に商王しかいませんでした。」
「そうか・・・」
マコトは自分の予想が外れたと思い、次に確認する内容を考えようとした。
しかしアイがその前にマコトの考えを先読みし、別の視点から既に確認していた記録を報告した。
「ですがその少し前まで、定期的に商王の部屋を訪れている者がいます。
どうやら商王は、その者に幻覚を見せられながら魅了もされていたようです。
違和感が無いように、1年ほど前から少しずつ行われた形跡がありました。」
第三者の介入があったことが判明し、マコトはその人物についてアイに確認した。
「そいつは何者だ?」
この質問も予想済みだったらしく、アイはマコトを待たせることなく答えた。
「数年前からバカ王子の傍にいる1人で、外見は獣人の女性のようです。
その女性の力で商王に幻覚を見せながら魅了し、封筒の中身を都合のいい内容で書かせたのでしょう。
素性については、時間をいただければ更に詳細を調べることが可能ですが、どうしますか?」
しかし詳しい正体についてはまだ調べていなかったらしく、アイはマコトに追加調査の許可を求めてきた。
だがマコトは、それ以上調査することを止めさせた。
どうやらマコトは、その人物の正体に心当たりがあるようだ。
「いや、その必要は無い。
今の話で相手が何者かわかった。
どうやらバカ王子の裏には、例の組織が付いているようだ。」
「例の組織といいますと、光と闇の聖母神の、ですか?」
「そうだ。
おそらく他にも何人かが、バカ王子の傍にいるはずだ。
過去の傾向からいって・・・たぶん他に後2人が一緒にいるはずだ。
カーラ、バカ王子の傍にいる者たちのことは知っているか?」
「1度だけ遠くから見たことがあります。
マコトの言う通り王子の傍に3人います。
3人ともただ者ではない雰囲気を感じました。
聞いた話では、2人は護衛で、1人はメイドだそうです。
獣人の女性というのは、おそらく護衛の1人です。」
カーラの確認が取れると、マコトは考え込みながら、これからどうするかを整理するように独り言を口にしていた。
「やはりそうか・・・となると、ここはあの3人をぶつけるか。
他に事前準備であの2人を動かす必要があるが、今のままでは厳しいな。
となれば予定を前倒しして、先にあの問題を片付ければ・・・半分賭けだが、やってみる価値はあるな。」
マコトが考えている間、その場にいる全員は、邪魔をしないよう静かにその様子を見ていたのだった。




