ニナとの約束
そこからしばらくの間、カーラとニナの話は尽きなかった。
「それにしてもカーラ姉ちゃん、なんか普段と性格変わってない?」
「そんなことないわよ。
どちらかといえば、今の方が素なのよ。
普段はいろいろな所の代表という立場だから、毅然とした態度でいないと軽く見られて舐められるのよ。」
「それにしたって、マコトさんに対する態度が変わり過ぎだと思うけど?」
「しょうがなかったのよ。
一応マコトは私の教えを受けていたから、提示した条件を満たすまでは上下関係を維持することになっていたの。
だけど私は他人行儀で嫌だって言ったのよ。
でもマコトが頑なに譲ってくれなくて・・・」
「そうだったんだ。
マコトさんって意外と頭が固い所もあるんだね。
でもそんな普段とは違うマコトさんも、魅力的で素敵。」
「わかる、わかるわ、ニナ!
普段の凛々しいマコトもいいけど、たまに気を抜いて自然な姿を見せてくれるときなんかは、すごくドキッとさせられるもの。
それに最初に逢ったときは、それはもう可愛くて可愛くて、今とは真逆なところなんかが特に・・・」
カーラが昔を思い出して恍惚とした表情を浮かべているのを見て、ニナは少しむくれながら文句を口にしていた。
「えっ!何それ、カーラ姉ちゃんだけずるい!」
「ふふふふっ、これはマコトと知り合ったのが早い私の特権よ。」
余裕の表情で自分の優位をアピールするカーラの姿に、ニナは悔しそうに唸った。
「ぐぬぬぬ・・・あっ!
ふっふっふっ、カーラ姉ちゃん、そんなこと言ってていいのかな?」
だが何かを思い出したニナが、突然勝ち誇った表情を浮かべたのだ。
一変したニナの姿にカーラは疑問を感じたものの、余裕の表情は崩さずに理由を尋ねてきた。
「あら、急にどうしたの、ニナ。」
「こっちには既にハーレムにいる友だちがたくさんいるんだよ!
だからカーラ姉ちゃんよりも私の方が一歩も二歩も先に進んでいるんだからね!」
自信満々にそう言い放ったニナだったが、それでもカーラは余裕の表情を崩さなかった。
「私はそちらのつながりはまだほとんどないから、確かにニナの言う通りね。
でもマコトと出逢ったのは私の方が早いのよ。
そこはどう足掻いても覆らないわ。」
誰にもどうすることができない自分の優位を前面に押し出してくるカーラだったが、ニナは自分の優位を確信していた。
「それはどうかな。
確かにカーラ姉ちゃんが私よりも先にマコトさんと出逢ったことは、誰にも変えることができない事実だよ。
でも私の方が先に、カーラ姉ちゃんが絶対に羨ましがることをできるんだからね!」
「それは、ニナの方が私よりも先にマコトに可愛がってもらえる、ということかしら?
そのことについては、ニナの方が先にマコトのハーレムに入ったのだから、当然の権利だと私も納得しているわ。」
「それもあるけど、それだけじゃないよ。
私には以前から皆と約束していたことがあるんだからね。」
「約束?」
「ティリア、シェイラ、例の約束覚えているよね!」
突然ニナが、それまで静観していた2人に話を振ってきた。
2人はニナが言っている意味を正しく理解して答えた。
「うん、もちろん覚えているよ。」
「例のアレ、ですよね。
いつでも大丈夫なように、常に準備してありますよ。」
「ありがとう、ティリア、シェイラ。
さぁこれで私の優位は盤石になったよ、カーラ姉ちゃん。」
「余程自信があるようね、ニナ。
それで、自信の源になっている約束というのは、いったい何なのかしら?」
「ふっふっふっ、聞いて驚きなさい、カーラ姉ちゃん!
なんと、マコトさんが生まれたときから撮り溜められた、数々の映像用魔石が存在するのよ!」
「なっ、なっ、なっ、なんですって!」
この日初めて大きな声で驚きをあらわにしたカーラだったが、ニナの話は終わりではなかった。
「しかも私がハーレムに入ったときには、それら全ての映像用魔石を鑑賞することができる集まりに参加できるように、事前に約束していたのよ!」
「なっ、何て羨ましい!」
「なんならカーラ姉ちゃんも参加できるように、皆にお願いしてあげよっか?」
「そっ、それは本当ですか!
ぜひお願いします!」
「どうしよっかなぁ。」
完全に立場が逆転してしまった2人だったが、そこへそれ以上は見かねたおばちゃんが間に入って制止した。
「はーいっ、2人とも張り合うのはそこまで。
せっかくのめでたい日だってのに、そんな些細なことで争うなんて、もったいないことしちゃだめだよ。
それに、マコトちゃんが間に挟まれて困ってるじゃないか。」
おばちゃんに指摘され、ニナとカーラは自分たちがいかに熱くなりすぎて暴走していたのか気づいた。
そして一気に冷静さを取り戻すと、自分たちが晒してしまった醜態を思い出し、途端に恥ずかしくなってしまった。
「あっ・・・ごっ、御免なさい、マコトさん・・・」
「わっ、私としたことが・・・申し訳ありません、マコト。
ああ、穴があったら入りたい・・・」
落ち込む2人にマコトが声をかけようとしたのだが、それよりも先におばちゃんが口を開いた。
「ほらほら、2人とも落ち込まない。
マコトちゃんは心が広いから、そんなことくらいで怒ったりしないって。
そうだろ、マコトちゃん?」
「ああ、おばちゃんの言う通りだ。
俺としては、今回2人の新たな一面を知れてよかったと思っている。
だから気にする必要は無い。」
「よっ、よかったぁ・・・」
「マコトの口からそう聞いて安心しました。」
「ただできれば同じことを何度も繰り返さないように気を付けてくれると助かる。
後々俺よりも皆の方が苦労することになるだろうからな。」
「わかりました!」
「私も承知しました。
しかしマコト、私たちの方が後々苦労するというのは、いったいどういう意味なのですか?」
「まぁその内わかる・・・自分自身の身をもってな。」
「はい?
マコトさん、最後に何て言いましたか?」
最後にマコトが発した言葉は小さい声だったため、ニナには聞こえなかったようだ。
だがカーラには聞こえていたようで、その意味を聞いてきた。
「マコト、それはどういう・・・」
しかしマコトが答えるよりも先に、おばちゃんが強制的に話を打ち切らせた。
「はいはい、話はそこまでだよ。
これじゃぁいつまで経っても先に進まないよ。
だから続きは移動してからにしておくれ。
というわけで、マコトちゃん、案内をお願いね。」
有無を言わさないおばちゃんの言葉にマコトも納得すると、すぐにその意見を採用した。
「おばちゃんの言う通りだな。
とりあえず、まずは移動してしまおう。
シルフィナ、頼む。」
マコトは両腕が塞がっている所為か、自分では何も行わず、シルフィナに指示を出した。
「かしこまりました、マコト様。」
シルフィナはすぐに返事を返すと、その場で大きめのゲートを開いた。
「じゃぁ皆行くぞ。」
ゲートが開いたのを確認して、マコトは両腕にしがみついているニナとカーラを連れて中へと入って行った。
その後に、ティリア、シェイラ、ノワールが入り、続いて不思議そうにしながらも、おっちゃんとおばちゃんが何の迷いもなく入った。
そして最後にシルフィナとシーノが入るとゲートが消え、お店には誰もいなくなったのだった。
ゲートを出た先、そこはマコトたちが普段生活している陰の一族の拠点だった。
そこへたまたま近くにいたアイとフィマ、そしてエイリとエマが、マコトの姿を見つけて近づいてきた。
「おとうしゃん、おかえりなさい!(×2)」
「おかえりなさいませ、マコト様。(×2)」
「ああ、ただいま。」
挨拶が済むと、すぐにフィマとエマがマコトの両腕に抱きついている2人に興味を示してきた。
だがその前に、以前同じことがあった際にどうしたのかを思い出し、それを実行した。
「フィマです!1歳です!」
「エマでしゅっ!0しゃいでしゅっ!
もうすぐフィマとおんなじ1しゃいでしゅっ!」
元気いっぱいに可愛い自己紹介をしてきたフィマとエマに、ニナとカーラも自己紹介を行った。
「初めまして、私はニナだよ。
よろしくね、フィマちゃん、エマちゃん。」
「初めまして、私はカーラです。
よろしくお願いしますね、フィマちゃん、エマちゃん。」
「うんっ!(×2)」
「えーっとぉ・・・になちゃん!」
「うん、そうだよ。」
「うーんとぉ・・・かーらちゃん!」
「はい、そうです。」
「やったーっ!(×2)」
「それにしても、2人ともちゃんと挨拶できて偉いね。」
「ええ、とても上手でしたよ。」
「えへへへへぇ。(×2)」
褒められて嬉しそうにしていたフィマとエマだったが、マコトたちの後ろにも初めて見る人物がいることに気づいた。
「ねーねー、おとうしゃんのうしろにいるのはだあれ?」
「だあれ?」
するとマコトが紹介するよりも先に、おばちゃんが前に進み出てきて、自分でフィマとエマに挨拶をした。
「こんにちは、フィマちゃん、エマちゃん。」
すぐに2人も元気よく挨拶を返してきた。
「こんにちはっ!(×2)」
「あははははっ、2人とも元気だね。
あたしはニナちゃんのお母さんだよ。
あたしのことはそうだねぇ・・・おばちゃん、って呼んでくれるかい?」
「おばちゃん?(×2)」
初めての呼び方にフィマとエマが不思議そうな顔をしていると、おばちゃんが決定的な一言を口にした。
「フィマちゃんとエマちゃんのお父さんも、あたしのことをそう呼んでるからね。」
これがフィマとエマの興味を惹いたようだ。
「おとうしゃんといっしょ?」
「いっしょ?」
「そうだよ。
フィマちゃんもエマちゃんも、お父さんと一緒の方がよくないかい?」
「いっしょがいい!(×2)」
「じゃぁ、おばちゃん!」
「おばちゃん!」
「うんうん、元気があっていいねぇ。
よろしく頼むよ、フィマちゃん、エマちゃん。」
「うんっ!(×2)」
「それとこっちはあたしの旦那で、ニナちゃんのお父さんだよ。
おっちゃん、って呼んでやっておくれ。」
「おっちゃん!(×2)」
今度はすぐに受け入れた2人の元気いっぱいな姿に、ほっこりした気持ちになりながら、おっちゃんは返事を返した。
「おうっ、よろしくな、嬢ちゃんたち。」
「うんっ!(×2)」
2人の笑顔から、どうやらおばちゃんとおっちゃんは、すぐにフィマとエマに気に入られたようだ。
こうして一通り挨拶が終わったところで、マコトが今後の予定について説明を行った。
「さて早速だが、これからおっちゃんとおばちゃんには少し話がある。
ちょっと場所を移して話したいんだが、構わないか?」
「あたしととーちゃんにだけかい?」
「ああ、そうだ。
そんなに時間は取らせない。」
「あたしは別に構わないよ。」
「俺もいいぜ。」
「じゃぁ2人はこっちに来てくれ。
一緒にシルフィナとエイリも同席してくれ。」
「かしこまりました、マコト様。(×2)」
「それじゃぁアイ、エマのことよろしく頼むわね。」
「任せてください。
さぁエマちゃん、こっちで一緒に遊びましょう。」
そう言ってアイは右手でフィマを抱っこしたままエイリに近づき、空いている左手でエマを抱っこしようとした。
だがここでエマが予想外の反応を返した。
「やっ!」
しかしエマはアイを拒絶してそっぽを向いてしまった。
「えっ・・・エマちゃん!?
どっ、どうしたの!」
いつもと違う反応にアイが戸惑っていると、エマがそっぽを向いた方にいた人物に向かって手を伸ばした。
「エマ、になちゃんにだっこしてもらうっ!」
「えっ、私!?」
突然エマから指名されてニナが驚いていると、それにフィマが対抗してきた。
「あーっ、エマずるいっ!
だったらフィマは、かーらちゃんにだっこしてもらうっ!」
「わっ、私ですか!?」
思いもよらなかったフィマの指名に、カーラは激しく動揺しているようだ。
だが一番ダメージを受けているのはアイだ。
エマに続いてフィマにまで振られてしまい、アイは今にも泣きそうな顔をしながら落ち込んでいる。
「そっ、そんなぁ・・・」
そんなアイに構わず、エイリはエマの要望通り、ニナに任せることにした。
「ではニナさん、エマのことお願いしてもよろしいでしょうか?」
「あっ、あの、私でいいんですか?」
「はい。
何よりエマ自身が望んでいますから。」
「になちゃん、だめぇ?」
エマに可愛くお願いされてしまい、止めを刺されてしまったニナからは、断るという選択肢は消えていた。
「じゃっ、じゃぁ・・・エマちゃん、おいで。」
「うんっ!」
ニナが手を伸ばすと、エマは嬉しそうにエイリの腕から移ってきた。
「うわぁ・・・小っちゃい・・・それにぷにぷにだぁ・・・」
初めての抱き心地にニナが感動してると、羨ましそうにしているフィマがアイとカーラを急かしてきた。
「フィマもっ!
アイちゃん、かーらちゃん、はやくぅ!」
フィマの要望に、アイは仕方なく従った。
「ううう・・・カーラさん、おねがいします・・・」
「あっ、はい。
では、フィマちゃん、こちらへ。」
「うんっ!」
伸ばされたカーラの手に、フィマが嬉しそうにアイの腕から移った。
「こっ、これは・・・かっ、可愛い・・・」
こちらも初めての体験らしく、カーラは僅かに表情を緩めていた。
「それではニナさん、エマのことをお願いします。」
「はっ、はい、何とか頑張ります。」
「エマ、いい子にしているのですよ?」
「うんっ!
いってらっしゃい、おかあしゃん!」
「はい、行ってきます。」
「家元、フィマのことお願いします。」
「わかりました、任せてください。」
「フィマ、皆さんに迷惑をかけないで、言うことを聞くのですよ?
その範囲であれば好きに遊んでらっしゃい。」
「うんっ、フィマみんなのいうこときいて、いっぱいあそぶっ!」
いってらっしゃい、おかあしゃん!」
「ええ、行ってきます。
お待たせしました、マコト様。」
「それでは参りましょう。」
「ああ。」
フィマとエマを預け終え、マコトたちは別の場所へと行ってしまった。
5人を見送った後、早速フィマがおねだりしてきた。
「ねぇねぇ、かーらちゃん、あっちいこう!」
そう言ってフィマが行きたい方向へ手を伸ばしていたので、カーラは少し戸惑いながらも、その指示に従うことにした。
「えっ、ええ、あっち、ですか?」
「うんっ!」
するとこれにエマも乗ってきた。
「あーっ、エマもいくーぅ!」
「じゃぁエマもいっしょにいこう!」
「やったーっ、フィマといっしょーっ!」
「うんっ、エマといっしょーっ!」
「になちゃんもいこう!」
「じゃぁ皆で一緒にいこっか?」
「うんっ、みんないっしょーっ!」
皆はフィマが指示した方向へと一緒に歩き出したのだが、1人だけショックで呆然と立ちすくむ者がいた。
すぐにその人物にフィマとエマが気づいて声をかけた。
「アイちゃん、どうしたの?」
「・・・」
フィマの声にアイが反応しないので、今度はエマが声をかけた。
「アイちゃん、もしかしておなかいたいの?」
「そうなの、アイちゃん!」
2人があまりにも心配そうにしているので、さすがにこのまま何も答えないのはまずいと思ったらしく、何とかアイは声を絞り出した。
「・・・いえ・・・そういうわけでは・・・」
「じゃぁ、どうしたの?」
仕方なくアイは、理由を説明した。
「・・・さっきフィマちゃんとエマちゃんが、カーラさんとニナさんと一緒に遊びたいと言っていたので、私はいない方がいいのかな、と思って・・・」
するとこれにフィマとエマが猛反発した。
「えーっ、フィマ、アイちゃんもいっしょがいい!」
「エマも、アイちゃんいないとやだーっ!」
「えっ・・・いいんですか?」
「うんっ!(×2)」
「いっしょにあそぼ、アイちゃん!」
「あそぼ!」
「だめぇ?(×2)」
可愛くおねだりしてくる2人に対して、アイには断るという選択肢が存在しなかった。
「だっ、駄目じゃありません!
私も一緒に遊びます!」
「やったーっ!(×2)」
「じゃぁ、アイちゃんもいっしょーっ!」
「いっしょーっ!」
「はやくいこーっ、アイちゃん!」
「いこーっ!」
「はいっ!」
ようやく立ち直ったアイは、フィマとエマに急かされ、嬉しそうに皆の後を追ったのだった。




