もう1人の招待者
すると女性は返事をして、一度軽く頭を下げてから中へ入ってきた。
「はい、叔母様。
失礼します。」
女性が顔を上げた瞬間、その場にいた初対面の者たちは、全員目を奪われてしまった。
容姿やスタイルもかなりいいのだが、何と言っても1番の注目はその所作と雰囲気である。
女性の動き1つ1つがとても洗練されており、穏やかさと艶やかさを併せ持った雰囲気が相まって、一気に見る者の注目を集めたのだ。
その場にいたほぼ全員が、女性の一挙手一投足に見惚れてしまったほどだ。
そんな中、ニナが嬉しそうにしながら、女性の名前を呼んで駆け寄っていった。
「カーラ姉ちゃん!」
カーラと呼ばれた女性は微笑みを浮かべながら、謝罪と祝辞、そして感謝の言葉を口にした。
「遅れてしまってごめんなさいね。
まずは誕生日おめでとう、ニナ。
それと叔父様と叔母様の養女になってくれてありがとう。
改めてよろしくね。」
「うんっ!」
満面の笑みでカーラの言葉に頷いたニナの姿から、皆の目には、まるで2人が本当の姉妹のように見えた。
それだけとても仲が良いというのが、誰の目にもあきらかだ。
しかしはしゃいでいるニナを、おばちゃんがやんわりと注意した。
「ほらほら、カーラちゃんが来てくれて嬉しいのはわかるけど、その前にやることがあるでしょ、ニナちゃん。
まずは皆に紹介してあげないと。」
おばちゃんに言われて、ニナは慌ててその女性、カーラを紹介した。
「あっ、そうだね、お義母さん。
皆、紹介するね、この人はカーラ姉ちゃん。
お義母さんのお姉さんの娘で、私にとっては本当の姉ちゃんみたいな人なんだよ。
今日は皆にも紹介したくて、無理言って来てもらったの。
カーラ姉ちゃん、ここにいるのは皆、私の大事な友達なんだよ。」
ニナに紹介されたカーラは、まず最初に、ティリア、シェイラ、ノワール、シーノたち4人に向かって頭を下げた。
「そうなのね。
初めまして、カーラと申します。
皆様、ニナと仲良くしてくださってありがとうございます。
どうぞ今後ともニナのことをよろしくお願いいたします。」
そのあまりにも美しい所作に4人は一瞬見惚れてしまったが、カーラが頭を上げて微笑むと、我に返ってすぐに自己紹介を行った。
「・・・はっ!?ティリアです、よろしくお願いします。」
「シェイラです、よろしくお願いします。」
「ノワールですわ、よろしくお願いしますわ。」
「シーノと申します、よろしくお願いいたします。」
4人の自己紹介が終わると、カーラは次にマコトとシルフィナの方を見た。
すると何故かマコトとシルフィナがカーラの前に進み出て、頭を下げながら挨拶をしたのだが、その内容はそこにいる誰もが予想しなかったものであった。
「お久しぶりです、家元。(×2)」
「久しいですね、マコト、シルフィナ。
息災でしたか?」
「はい、俺もシルフィナも、変わりありません。」
「それは何よりです。」
「家元はお変わりありませんか?」
「ええ、私も変わりありません。」
どうやら3人は既に既知の間柄のようだ。
だが珍しいことに、マコトやシルフィナの態度は、少し畏まっているように見える。
皆が3人の関係を不思議に思っていると、その疑問を解消しようとする人物が話に割って入って来た。
「おや?マコトちゃんもシルフィナちゃんも、カーラちゃんとは顔見知りだったんだね。
3人はいつどこで知り合ったんだい?」
皆が知りたかったことを自然に質問してきたおばちゃんに対して、マコトはカーラへ確認するように答えた。
「確か最初は8年前でしたね。」
「ええ、先代の母に連れられて、私がはじめてマコトの故郷を訪れた際に知り合ったのが最初です。」
そして今度はシルフィナが、カーラへ確認するように答えた。
「そして最後にお逢いしたのは2年前です。」
「先代が亡くなって、正式に継いだ際のご挨拶をしに訪れたときですから、それくらいですね。
そうですか・・・もうそんなに経っていたのですね。
私もあれから忙しい日々が続いていましたから、すっかり足が遠のいてしまいました。
月日が流れるのは早いものです。」
「全くです。」
3人は懐かしむように、当時を思い出しているようだ。
そこへティリアが、3人の関係について聞いてきた。
「あのぉ・・・先程からマコト様もシルフィナさんも、カーラさんのことを、家元、と呼んでいますが、どういったご関係なのですか?」
するとカーラが申し訳なさそうに謝罪してから、自分のことについて説明をはじめた。
「私としたことが失念しておりました、申し訳ありません。
私が何をしているか、まだ皆様にご説明しておりませんでしたね。
聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、私は『淑女の嗜み』という会員制のサロンを経営しております。」
このカーラの説明を聞いて、珍しくシェイラが驚いていた。
「えっ!あの『淑女の嗜み』ですか!
例えどのような身分であっても、それが王侯貴族であろうとも、入会するためには厳しい条件をクリアしないといけないと言われている、女性による女性のための最高級サロンですよね!」
「おそらくその『淑女の嗜み』で間違っていないと思います。
確かに入会できるのは認められた女性だけですが、もう1つの『乙女の慎み』では、広く門戸を開放していますよ。」
続くカーラの説明に、今度はノワールが驚いていた。
「『乙女の慎み』も知っていますわ!
というより、私も一時期通っていましたから。
こちらは女性を磨くために様々な習い事を教えていて、会費さえ払えばどのような身分であろうと通うことができ、各国に広く展開していますわ!
それに会費も安く、一般の方でも気軽に通うことができる、とても伝統がある超有名な教育機関ですわ!
しかもそこで認められれば、無条件で『淑女の嗜み』に入会できると、噂で聞いたことがありますわ!
残念ながら私は、認められるほど優秀ではありませんでしたが・・・」
このノワールの言葉を聞いて、カーラはある推測を立てた。
「そうでしたか・・・ということは、失礼ですが、もしやノワールさんは前魔王様でいらっしゃいますか?」
ノワールは隠すことなく認めた。
「そうですわ。
ですがお気遣いは無用です。
今ここにいる私は、ニナさんの友人である、ただのノワールですから。」
そこからカーラは、更に推測した。
「わかりました。
しかしそうなりますと、そちらのティリアさんは王国の第3王女様、シェイラさんは元連合代表でダークエルフ族現族長であるアリア様のご令嬢、ということでしょうか?」
素性を正確に見抜いたカーラに2人は内心驚いたものの、それを表に出さずにノワールと同様の対応を求めた。
「はい、そうです。
そのことはカーラさん以外のこの場にいる全員が知っています。」
「ですが、今私たちはニナの友人としてこの場にいます。
どうかカーラさんも、その様に接してください。」
2人にそう言われ、カーラは素直に受け入れた。
「いろいろと事情がおありのようですね。
わかりました、皆様に対してはニナのご友人として、私はニナの姉として接しさせていただきます。
それでよろしいでしょうか?」
「はい!(×3)」
「そうなりますと後は・・・」
そう言ってカーラが残るシーノを見たが、先にシーノの方から自分の立場を明確にした。
「私はマコト様のメイドであり、ニナさんの友人です。
その様にご理解ください。」
「わかりました。」
カーラがシーノの言葉をあっさりと受け入れ、それぞれの立場を理解したところで、シーノが話の続きを促してきた。
「それでカーラさん、『淑女の嗜み』と『乙女の慎み』、この2つを経営されていることはわかりました。
しかし、それだけ、ではないのですよね?」
シーノが意味深な雰囲気でそう言うと、カーラが少し驚いた表情で逆に質問してきた。
「そこまでご存知とは・・・ですがいったいどこで?」
その僅かな言葉と言葉の間に、一瞬カーラの視線が動いていたのだが、そこにいたマコトは軽く首を横に振っていた。
つまりマコトから聞いたのではなく、シーノが独自に調べて知っていたということに驚いたのだ。
そんなカーラに、シーノは曖昧な答えを返した。
「過去に少し調べたことがありまして、そのときに・・・まぁそこはご想像にお任せします。」
暗に情報源は秘密だと言っているのだが、カーラは特に気にした様子もなく、それ以上は追及せずに話を続けた。
「そうでしたか。
普段は表立って言ってはいないのですが、シーノさんの仰る通り、私は経営のトップであると同時に、全ての習い事を統括する、家元、という立場でもあります。」
このカーラの言葉を、ティリアは次のように解釈した。
「それってつまり、『淑女の嗜み』と『乙女の慎み』で行われている習い事は、全てカーラさんが考えている、ということですか?」
「細かい部分を全て、というわけではありませんが、カリキュラムとして取り入れるかどうかの最終的な判断は私が決めております。
そしてマコトとシルフィナが私を家元と呼ぶのは、2人が直接私の教えを受けたからです。
ただ私が教えたのは、あくまで基礎中の基礎だけです。
ですから2人は、正式に私の門下や弟子というわけではありませんし、それは2人にも断られましたから。
しかし2人は私に敬意を表して、今もそう呼んでくれているのです。」
するとこの説明に疑問を感じたシェイラが、カーラに質問してきた。
「そうだったのですか・・・しかしそれは少しおかしい話ではありませんか?
女性であるシルフィナさんはともかく、男性のマコト様は、いったいカーラさんに何を習われたのでしょうか?」
「確かに、普通は男性に私が教えることはありません。
しかしそれは習おうと考える男性がほとんどいないだけです。
私が持つ知識や技術は、男性が習ったとしても、自分の糧になるものは数多くあります。」
「なるほど・・・確かに一理あります。
ちなみにマコト様はカーラさんに何を習われたのでしょうか?」
マコトのこととあって、興味本位で聞いたシェイラだったが、何故かカーラは言葉を濁した。
「それは・・・いろいろ、です。」
「いろいろ、ですか?」
「そうです、いろいろ、です。
詳しくは、後程マコトに直接聞いてみてください。」
最終的にカーラがマコトへ丸投げしたので、とりあえずシェイラは、その場はおとなしく引き下がった。
「・・・わかりました、そうさせていただきます。」
少し微妙な空気になってしまったが、話が区切れたのを見計らって、マコトが話を変えてきた。
ただその表情は、とても真剣なものである。
「ところで家元、話は変わりますが、この場で互いに再会したのは偶然でしょうか?それとも必然でしょうか?」
このマコトの質問に対して、カーラは佇まいを正してから真剣な表情で答えた。
「・・・偶然であり、必然でもあります。
本当はまだ少し早いと思ったのですが、そうも言っていられない予感がしましたので、予定を前倒ししました。」
「つまり、俺たちとのつながりは偶然ではあるけど、ここへ来たのは家元の意思である、ということですね。
そしてそれほどの事態が起こる前兆がある、ということでしょうか?」
答えに対してマコトが解釈した内容に、カーラは満足そうにしている。
「話が早くて助かります。
しかしその話は後です。
今日はおめでたい日なのですから、まずはニナのお祝いをしましょう。」
カーラの言葉で、マコトは表情を緩めると、すぐにニナに謝罪した。
「そうですね。
というわけで、今日の主役を放っておいてすまなかったな、ニナ。」
「いえ、カーラ姉ちゃんとの久しぶりの再会だったんですから仕方ないです。
ですが、ここからはちゃんと私のことも構ってくださいね。」
「もちろんだ。
おっちゃん、おばちゃん、早速ニナの誕生日と2人の娘になったお祝いをはじめよう。」
「おうよ!
準備はバッチリできてるぜ!
後は運んでくるだけだ。
嬢ちゃんたち、手伝ってもらってもいいか?」
「わかりました。(×5)」
シルフィナ、ティリア、シェイラ、ノワール、シーノの5人は、おっちゃんを手伝って、用意された料理や飲み物を運びはじめた。
「それじゃぁ、ニナちゃんはこの席ね。
それと、マコトちゃんとカーラちゃんは、それぞれニナちゃんの隣ね。
他の皆は・・・」
その間おばちゃんは皆が座る席を次々と指定しながら、テーブルの上に皿やコップを並べていたのだった。




