提供と協力
そんな4人から少し離れたところで、マコトは先程のニナとのやり取りについて、おっちゃんと話していた。
「さすがだな、おっちゃん。」
「よせよ、にーちゃん。
俺はただ親として、自分の考えを娘に伝えただけだ。
こんなのはどこの家でもやってることだよ。」
「おっちゃんの言う通りだが、その当たり前が中々できないんだよ。」
「余所様のことは知らねーが、そんなもんかねぇ?」
「そんなもんなんだよ。
だからこれからもおっちゃんは、変わらずにそのままでいてくれ。
そうすればニナは、これからの新たな人生を、おっちゃんやおばちゃんと共に、幸せに歩んでいけるはずだ。
それは俺が保証する。」
「にーちゃんが保証してくれるんなら安心だぜ。
だがニナが幸せになるには、まだ足りねーものがあるけどな。」
何故かおっちゃんは、わざとらしい口調でそんなことを言ったのだが、マコトはそれに気づかないまま聞き返した。
「足りないもの?」
このマコトの疑問に、おっちゃんは曖昧な答えを返した。
「まぁそいつはニナの気持ち次第ってやつだ。
だから俺やかーちゃんは、余計なおせっかいをしねーで、見守ってやるって決めたんだ。」
おっちゃんが今度は真剣な表情でそう口にしたので、マコトはそれ以上追及しなかった。
「よくわからないが、おっちゃんやおばちゃんがそう決めたんなら、それが最善なんだろうな。」
このマコトの返しに、おっちゃんは機嫌を良くしたようで満足げだ。
「そういうこった。
まぁにーちゃんなら、そう言ってくれると思ったぜ。
さすがは、にーちゃんだ。」
その状態でマコトはこの話を終え、話題を別の人物へと変えた。
「ところで話は変わるが、さっきからおばちゃんの姿が見えないが、ここにはいないのか?」
マコトに指摘され、おっちゃんは伝えるのを忘れていたことを思い出した。
「おっと、俺としたことが言うのを忘れてたぜ。
かーちゃんは、ちょっと出てるんだ。
そろそろ戻ってくると思うんだけどな。」
「何かあったのか?」
今日という大事な日に出掛けるほどの重要な用事なのかと考えたマコトだったが、それは違っていたようだ。
「そんなんじゃねーよ。
実はな、今日はもう1人来るんだよ。
かーちゃんはそいつを迎えに行ってるんだ。」
「俺たち以外にも誰か来るのか?」
「おうよ。
実はかーちゃんのねーちゃんの娘なんだ。」
「おばちゃんに姉妹がいるのか?」
「正確には、いた、だな。
俺にとっては義理の姉だが、3年くらい前に病気で亡くなっちまったんだ。
だからかーちゃんにとっては、唯一の血縁者なんだ。」
それを聞いて、マコトは以前聞いた話を思い出した。
「そうだったのか。
確かおっちゃんも・・・」
「ああ、俺もこの店を親から継いですぐに、2人とも逝っちまったからな。
それに元々兄弟姉妹も親戚もいねーから、そいつは俺にとっても昔から娘みてーなもんなんだよ。
ニナとも仲が良くてな、ときどき泊まりに来ては2人で話し込んでて、本当の姉妹みたいなんだぜ。
できることならそいつも家で引き取りたかったんだけど、ちょっと特殊な家庭の事情ってやつで、そうもいかなかったんだ。」
おっちゃんは少し寂しそうな表情になっていたが、マコトが気になったのは別の部分だった。
「特殊な家庭の事情、というのはなんなんだ?」
しかしおっちゃんは表情をいつもの笑顔に戻したものの、その理由についてはすぐに教えてくれなかった。
「まぁそいつが来ればわかると思うぜ。
その道じゃぁ結構な有名人だから、にーちゃんなら知ってんじゃねーかな。
だからかーちゃんが戻るまでの、お楽しみってやつだ。」
おっちゃんがそう言うので、マコトも今はそれ以上聞かなかった。
「そういうことなら、おばちゃんが戻ってくるのを楽しみに待つとするか。」
「おう、そうしてくれ。」
そんなことを話していると、マコトが近づいてくる人物の気配に気づいた。
「んっ?そんなことを言っている間に、どうやらおばちゃんが帰ってきたみたいだぞ。」
マコトがそう言ったとほぼ同時に店の扉が開くと、1人の女性が元気よく入ってきた。
「あんた、今帰ったよ、って、もう皆来てたんだね。
遅れちゃって悪かったね、待たせちゃったかい?」
その女性、おっちゃんの奥さんであるおばちゃんは、たまたま目が合ったマコトへと謝罪の言葉を口にした。
「俺たちもちょっと前にきたところだから、ほとんど待ってないよ、おばちゃん。
それに皆はニナと話し込んでるし、俺もおっちゃんから珍しくいい話が聞けたからな。
全然待った気がしないから、気にしないでくれ。」
この話を聞いて、おばちゃんはマコトの隣にいるおっちゃんを驚いた顔で見ていた。
「家の旦那がいい話をしたって、それは本当かい、マコトちゃん?
だとしたら、ずいぶんと珍しいこともあるもんだよ。」
「ああ、本当だ。
だがとてもためになったよ。
さすがはおばちゃんが選んだ旦那だな。」
「あはははは、あたしはこれでも男を見る目はある方だからね。
でも家の旦那は普段は照れちまって、滅多にそんなこと言わないんだけど、どうやら今日は相当浮かれて口が緩んでるみたいだね。
だけどそうなると・・・明日の天気は大荒れ決定だね。」
最後に冗談を交えながら、口ではこんなことを言っているおばちゃんだが、おっちゃんのことを褒められてとても嬉しそうだ。
しかしこのおばちゃんの冗談を、マコトが冗談で終わらせなかった。
「よくわかったな、おばちゃん。
暖かい今日とは打って変わって、明日は朝から気温が急激に下がった後、夕方から吹雪いて大雪になるんだ。」
「あはははは、本当かい、マコトちゃん?」
「まぁ信じるか信じないかは、おばちゃんの判断に任せるよ。
ちなみにここからは俺の独り言なんだが、明日はきっと温かい料理が好まれるはずだから、それらのメニューを多く用意しておくといいと思うぞ。
ただし明後日以降は一変して相当暑くなるから、その辺を考えて出すメニューと仕入れや仕込みを調整しておいた方がいいだろうな。
特に冷たい飲み物が多く出るはずだ。」
このマコトの話を聞いて、最初は笑っていたおばちゃんだったが、急に真剣な表情になっておっちゃんと話しはじめた。
「あはははは・・・あんた、明日以降に使う食材の仕入れ状況はどうなってんだい?」
これに対しておっちゃんは、余裕の表情で答えた。
「安心しなかーちゃん。
二週間以上はどんなメニューでも対応できるだけの食材を仕入れてあるぜ。
もちろん今日にーちゃんたちに出す料理の分を除いてだ。」
おっちゃんの答えを聞いて、おばちゃんは再び笑顔になった。
「さすが、とーちゃん。」
「まぁこれもにーちゃんが貸してくれてる、食材保管用の魔導具のおかげだけどな。
あれの食材保存能力は本当にすげーよ。
どんな食材を何日入れてても、入れたときと全く変わんねーんだからな。
おかげで食材の在庫や廃棄を気にする必要が全く無くなったから、仕入れる量を細かく考える手間が省けて助かるぜ。」
「まったくだよ。」
実はマコトはおっちゃんの店に、いくつか商品化する予定の魔導具を置かせてもらっている。
当然事前に様々なテストが行われており、商品として出しても問題無い状態ではあるのだが、実際に使用してもらい使い勝手を試してもらっているのだ。
その中の1つに、業務用の巨大な食材保管庫がある。
以前から食材などを、冷蔵、冷凍保存するための魔導具は存在していた。
ただし食材などを冷やして、冷蔵、冷凍保存するだけなので、長期保存することはできず、物によってはせいぜい数日しか保存できなかった。
また使用する動力の変換効率が悪かったため、出力も弱く大きさも精々1m四方だった。
だが今回マコトが貸している魔導具は違う。
そもそもこれまでの魔導具とは根本的な構造が違っており、保管庫内部がいくつかの異空間に分かれていいる。
つまり時空間魔法と同じ原理で、保管庫内の物の時間を固定することができるようにもなっているのだ。
そのため常に入れたときと同じ状態が保たれており、いつまでも保管することが可能になったというわけだ。
他にも従来通りの冷蔵、冷凍保存することもでき、更には解凍機能まで付いている優れ物だ。
この保管庫のすごいところはそれだけではない。
魔導具に使用されている核や動力はこれまでと変わらないものの、その運用効率が大幅に改善されてるのだ。
そのため従来の魔導具よりも高出力で、大きさも最大10m四方まで巨大化させることができるようになった。
これには、マーガレット、レジーナ、ルシル、この3人の功績が大きい。
3人は互いの得意分野を生かして、これまでの魔導具とは全く違う、革新的な運用効率の仕組みを作り上げたのだ。
更にそこへマコトが作った、魔導具に魔法の効果を埋め込む技術が組み込まれている。
それによって通常は魔術の効果しか持てなかった魔導具に、魔法の効果を持たせることができるようになったのだ。
おかげで威力は格段に上がっているものの、逆に作成コストは下がっており、まさに革新的な発明と言える。
今はアーネスとおっちゃんの店にそれらの魔導具を置かせてもらい、現場からの要望を吸い上げて、最後の細かい調整を進めているところだ。
これで一定期間テストを行って、細かい調節をしながら運用に問題が無いと判断できれば、各国へ売り込んでいく予定だ。
「おっちゃん、何か使い勝手が悪いとか、問題点や改善点などの要望なんかはあるか?」
「いいや、今のところは何もねーよ。
だけどよ、にーちゃん、本当に使用料とか払わなくてもいいのか?
普通あれだけの魔導具だと、相当高いはずだぜ。
そいつをタダで貸してくれるのは、こっちとしちゃぁありがたいけど、なんか申し訳なくてよ。」
「前にも言ったが、ここで使ってもらうことに意味があるんだ。
俺にとっては、現場で実際に使ったもらうことによって、様々な生の意見が聞ける。
それによって改善点を見つけることができるから、お互いに損はないってことだ。
今までに出してもらった意見だけでも、かなり参考になったからな。
むしろ俺の方からお礼を出したいくらいだ。」
「そういうことならこれからも遠慮なく使わせてもらうぜ。
また何か気づいたら要望としてまとめとくよ。」
「ああ、頼むよ、おっちゃん。
ところでおばちゃん、誰か迎えに行ってたんじゃないのか?」
おっちゃんとの話が一段落突いたところで、マコトはいまだに入り口の扉を開けてその前に立ったままのおばちゃんに話を振った。
「おっと、あたしとしたことが、すっかり忘れてたよ。
ほらっ、あんたもそんなとこに突っ立ってないで、入った入った。」
そう言っておばちゃんは、1人の女性を扉の前に立たせたのだった。




