もう1つの記念日
しかし2人の話に割り込むようなことはせず、まずは女性陣だけの話し合いがはじまった。
「ねぇ、今日ってニナの誕生日以外に何かあるの?」
そう言ってティリアが、隣にいるシェイラとノワールに聞いてみた。
「私は聞いていませんね。」
「私も聞いていませんわ。
シーノさんは何か聞いていますか?」
2人も知らないようで、今度はノワールが隣にいるシーノへと聞いてみた。
「私も聞いていません。
シルフィナさんはご存知でしたか?」
自分も何も聞いていなかったため、シーノはおそらく知っているであろうシルフィナへと聞いてみたのだが、めずらしく当てが外れてしまった。
「いいえ、今回は私もニナさんの誕生日だということしか聞いていませんよ。
そもそも今日のことはマコト様から聞きましたので、おそらく意図的に情報を隠されたのでしょう。」
頼みの綱であったシルフィナも聞いていないとわかり、余計に今日はニナの誕生日以外に何があるのか気になってしまった。
そこでシーノは、まずはその理由を自分なりに考えてみた。
「何故マコト様はそのようなことをされたのでしょうか?
何か深いお考えが・・・」
しかしこのシーノの考えは、シルフィナにバッサリと否定された。
「それは無いと思いますよ。
たぶん、私たちを驚かせたかった、とかではないでしょうか。」
「なるほど・・・ところでニナさん、今日は他に何があるのでしょうか?」
すぐにシルフィナの言葉に納得したシーノは考えるのを止め、早々にそれを知っているであろうニナへと答えを求めた。
「ええっとぉ、実はですねぇ・・・」
だが何故かニナが恥ずかしそうにしながら、どう答えたものかと迷っている。
そんなニナの態度を不思議に思っていると、そこへおっちゃんが話に入ってきた。
「何恥ずかしがってんだニナ。
さっさと言っちまえばいいじゃねーか。」
そう言いながらおっちゃんが、ニナの頭を少し乱暴にワシワシと撫でた。
「ちょっ、何するんですか師匠!」
するとこう言ってすぐにニナが文句を口にする、これは普段からよく見る光景なのだが、今日は少し様子が違った。
このニナの反応に、急におっちゃんが不機嫌になったのだ。
「・・・おい、ニナ。」
突然おっちゃんの口調が変わったので、ニナは少し緊張しながら返事を返した。
「なっ、何ですか?」
「今は店の就業時間中じゃねーよな?」
「お店が休みなんですから、当然じゃないですか。」
「じゃぁさっきのは違うんじゃねーのか?」
「さっきの?・・・あっ!」
おっちゃんに指摘され、ニナは何かに気づいたようだ。
おっちゃんもニナの態度から察して、すぐにやり直しを要求してきた。
「ってわけで、もう一度だ。
今度は間違えるなよ。」
「みっ、皆の前でですか?」
「そうだ。」
「今すぐにですか?」
「そうだ。」
「それはちょっと・・・何と言いますか・・・まだ慣れてなくて・・・」
何故か恥ずかしがって躊躇しているニナだったが、その煮え切らない姿におっちゃんが我慢できなくなったらしく、更に不機嫌さを増しながら急かしてきた。
「どっちにしろこの後すぐに発表するんだから、今更恥ずかしがってんじゃねーよ。
それにお前から皆に伝えるって言いだしたんじゃねーか。
ほれっ、うだうだ言ってねーでさっさとやれ。」
「でっ、でもぉ・・・」
中々踏ん切りがつかないニナに、とうとうおっちゃんは堪忍袋の緒が切れた。
「でももへったくれもねぇ!
お前が言わねーんじゃ俺から言っちまうぞ!
どうすんだニナ!」
これ以上は自分の決意が無駄になってしまう、そう考えたニナは覚悟を決めた。
「・・・わっ、わかりましたよ。
もう、本当に強引なんだから・・・お義父さんは・・・」
ニナにお義父さんと呼ばれ、一転しておっちゃんの機嫌が良くなった。
「やればできるじゃねーか。
それでいーんだよ。
お前はもう俺とかーちゃんの娘なんだからな。」
そしてこのニナとおっちゃんのやり取りを見て、何も聞いていなかった皆も、ようやく事情を理解した。
「お義父さん、って、もしかして養女になったの、ニナ?」
ティリアの問いに、ニナは恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに答えた。
「・・・うん、実はそうなの。
今日から私は正式に師しょ・・・じゃなくて、お義父さんの娘になったんだ。
マコトさんには今日の招待をしたときに伝えておいたんだけど、皆には私から直接伝えたかったから、黙っていてもらったの。」
しかしそんなニナの答えに、シェイラは僅かな疑問が浮かんだようだ。
「そうだったのですね。
ではちょうど今日、養子縁組の手続きが受理された、ということですか。
ずいぶんとタイミングがよかったのですね?」
「そこはまぁ、ちょっとある人にお願いしてそうしてもらったのよ。」
それを聞いてノワールは、自分の知る人物が関わっていることに気づいた。
「ああ、そういうことですか。
おそらくお母様に頼んだのですね?」
「うん、ホーネット様に相談したら、いろいろと融通してくれたんだ。
ちょっとズルしちゃったから、申し訳ないんだけどね。」
コネを使ったことをニナは少し気にしているようだが、すぐにシーノがフォローした。
「おめでたいことが重なるのはいいことです。
それくらいのことで誰も文句は言いませんよ。
むしろ祝福してくれます。
ですからニナさんが気にすることはありません。」
「ありがとうございます、シーノさん。
そう言ってもらえると、気が楽になります。」
「それにしても、ホーネットさんにしてはめずらしく、とてもいい仕事をしてくれましたね。
ニナさんの誕生日である今日は、養女となるのに最良の日でもありますから。」
このシルフィナのこの言葉で、ティリアは先程のマコトとおっちゃんの話を思い出した。
「あっ、それさっきマコト様も言ってましたよね。
どういうことなんですか?」
だがこのティリアの質問に、シルフィナは答えなかった。
「私が答えてもいいのですが・・・やはりここはニナさん本人から聞くのがいいと思いますよ。」
そう言いながらシルフィナが、ニナの方を見て少し楽しそうにしている。
何故シルフィナがそんなことを言ったのかわからなかったティリアだが、とりあえずその言葉通りニナに答えを求めた。
「どういう意味なの、ニナ?」
ニナは相変わらず恥ずかしそうにしたままだが、それでも少し間を置いてから説明してくれた。
「えっ、ええっとぉ・・・お義母さん、がね、今日は本当の両親が私を生んでくれた大切な日だから、自分たちの娘になる日も同じ日が良いって言ってくれたの。
そうすれば毎年、私が生まれた日とお義父さんとお義母さんの娘になった日を、一緒に祝えるからって。
これならどっちの両親のことも大切にできるし、私がこの2組の両親たちに愛されているってことを毎年実感できるからって。
ああもう、これ自分で説明するの、すっごく恥ずかしいよぅ・・・」
答え終えると、真っ赤になった顔を手で隠しながらも、ニナは嬉しそうに口元を緩めている。
そんなニナの姿を、皆も温かい目で見ていた。
「いいお義父さんとお義母さんだね。」
「・・・うん、私にはもったいないくらい。」
「そんなことはありませんよ。
ニナだからこそ、お2人もそう考えてくださったのだと思います。」
「そう、かな・・・そうだといいな。」
まだ少し不安がありそうだったが、そんなニナにノワールが自分の考えを強い想いと共に伝えた。
「きっとそうですわ!
そうでなければ、お2人がお母様に協力を頼まれることなんてありませんわ!
だってお2人とも、人のつながりを利用して権力を利用することを、とても嫌っていましたもの!
ですが今回それを曲げてまでお母様を頼ったということは、それだけお2人がニナさんのことを大切に想っているからですわ!
ですからニナさんは、お2人の娘であることに胸を張るべきですわ!」
「うん・・・そうだね。
ありがとう、ちびっ子。」
ノワールの言葉に勇気づけられたニナは、目尻に薄っすらと涙を浮かべながらも、笑顔で感謝の言葉を口にしたのだった。




