メイドたちの秘密3
しかしそんなレティシアを気遣ってか、マコトが遮って割って入ってきた。
「それは俺が答えよう。
いいな、レティシア?」
レティシアは辛そうな表情を浮かべながらも、絞り出すように声を発し、マコトの助けにすがりついた。
「・・・はい・・・お願いします、マコトさん・・・」
「まずそれを答える前に、俺がレティシアをどこで助けたのか、それを先に教えておこう。
レティシアがいたのは、キラとキリの身体が捕えられていた転生システムがあった場所、軍国内だ。
そこでレティシアも2人と同様に、長い間転生装置の中に捕らえられていたんだ。」
「まさか軍国にいたとはな。
しかし何のためにレティシア様が転生装置に入っていたんだ?」
「死亡してしまったお腹の子供の状態を保つためだ。
そしてその細胞を利用して、長い年月をかけてある実験が行われていた。」
このマコトの話を聞いて、トウカはある考えに思い至った。
「実験?・・・まさか・・・」
「そうだ。
死亡してしまったレティシアのお腹の子供、その細胞から生み出されたのが、軍王だったんだ。」
この事実を聞き、トウカは最初信じられなかった。
そのためレティシアの前で、思わず本音を口にしてしまった。
「あの軍王が・・・あのような存在が・・・全神様とレティシア様のお子様だと・・・
はっ!もっ、申し訳ございません、レティシア様のお気持ちも考えずに、私は何ということを・・・」
すぐにトウカは自分が口にした非礼を、レティシアに謝罪した。
しかしレティシアは、トウカの言葉に対して責めるようなことはせず、むしろ同意していた。
「いいえ、私もトウカさんの言う通りだと思います。
確かにあれは私のお腹の子供が元となって創られた存在なのかもしれません。
しかし魂は消えかかる直前の残滓を複写し、身体も細胞を無理矢理増殖させて創った紛い物だったそうです。
あそこまで人から外れてしまった存在となってしまっては、もはや別人です。
ですが私のお腹の子供が元となっているのであれば、野放しにはできません。
私に代わり、それを止めてくださったマコトさんには、感謝の言葉しかありません。
これでもうあの子は、死後も利用されることなく、安らかに眠ることができたのですから・・・」
レティシアはそう言ったものの、その表情は悲しみに染まっていた。
「レティシア様・・・」
そんなレティシアに、トウカは何て声をかけていいのかわからず、それ以上は何も言えなくなってしまった。
しかしすぐにレティシアは、周りに気を使わせてしまっていることに気づき、無理やり笑顔を浮かべていた。
「・・・すみません、乗り越えたつもりでしたが、こうして口にしてしまうと、思い出して気持ちが沈んでしまいます。
こんなことではいけないとわかっているのですが・・・駄目ですね。
私ももっと強くならなければいけませんね。」
弱音を吐くレティシアだったが、すぐにトウカが否定した。
「その様なことはございません!
レティシア様は過去の悲しみを乗り越え、前を向いて今を生きることを選ばれたではありませんか!
その途中で立ち止まり、過去を振り返ることは、決して弱さではありません!
すぐに前を向いて進むことができる、それこそがレティシア様の強さだと私は思います。」
トウカの気遣いにレティシアは感謝しつつ、表情を引き締めてから、マコトへと続きを促した。
「トウカさん・・・ありがとうございます。
・・・マコトさん、話が逸れてすみませんでした。
続きをお願いします。」
「ああ、わかった。
これまでの話からもわかると思うが、連中にとって全神の血を受け継いだ子供は、貴重で重要な存在だった。
だからこそ死亡した後も複製体を創って、更にその子孫を生ませようとしたんだ。
だが長い年月をかけても、結局その目論見は上手くいかず、俺たちの介入で実験と研究は途中で頓挫したというわけだ。」
この話を聞いて、トウカはある疑問が浮かび、話を遮ってマコトに質問してきた。
「・・・マコト様、話の途中ですまないが、1つ聞いてもいいか?」
「何だ?」
「組織が全神様の血統にこだわるのはわかる。
マコト様ほどではないが、全神様も万能な力の持ち主だったからな。
その子供は強力な力の持ち主になる可能性があるだろうから、実験の成功に向けて組織が躍起になるのもわかる。
そしてそれは、何故組織が継承者を集めていたのか、その疑問の答えにもつながる。
多くの継承者の力は、より強い力を完成させるために必要だろうからな。
それに継承者との間に子供が生まれれば、更に強力な力を持つ可能性が高い。」
「そうだな。」
「だがわからないのは、組織がどうして軍王を完成させることにこだわったのか、ということだ。
そんな回りくどいことをせずに、全神様を捕らえて別の子供を生ませようと、組織は考えなかったのか?
全神様の血を受け継いだ子供が多ければ多いほど、様々な実験を行うことができ、完成までの期間が大幅に短縮できるはずだ。
何故組織はそうしなかったんだ?」
「それがもう1つの誤算だ。
トウカたちやレティシアが襲われたのは、全神が留守のときだ。
それは覚えているな?」
「当然だ。
さっきも言ったが、私たちは全神様の留守を預かっていたのだからな。」
「ではその後、全神がどうなったのかは知っているか?」
「そういえば私たちが捕まった後、全神様がどうなったのかについては、これまで何も聞いたことが無いな。
マコト様は知っているのか?」
「ああ、途中まではな。」
「途中までとはどういうことだ?
マコト様なら記録を視て全てを知っているのではないのか?」
「理由はいくつかある。
全神に関する記録の調査がまだ途中なのと、記録が途切れ途切れのため、調査に時間がかかっているからだ。」
「調査が途中なのはわかるが、記録が途切れるなどということはありえるのか?」
「当然ありえる。
いくつか方法はあるが、例えば意図的に記録を改善した場合と全くの別人になってしまった場合は、完全にではないが記録の隠蔽が可能だ。
ただし前者は、不自然な改ざんの痕跡が残る可能性が高い。
そして後者は、その過程が記録に残る。
ただし死亡後は記録が残らない。
これら全てを組み合わせて記録を改ざんして隠蔽されると、記録を特定するのが難しくなってしまい、簡単には見つけることができなくなる可能性はある。
ちなみに死亡というのは、魂が死を迎え、身体が消滅した場合を指す。」
「・・・つまりマコト様は、全神様が記録を操作して、今も尚生きていると考えているのか?」
「いや、それはない。
今話したのはあくまでも一例だ。
何故ならトウカたちが知る全神の死亡記録は、既に見つけているからだ。
そこに記録を改ざんした痕跡はなかった。」
「そうか、全神様は既に・・・だが死亡記録があるのだったら、それ以降の記録が無いことは、別におかしい話ではないはずだ。
どうしてマコト様は、記録が途切れたなどと言ったんだ?」
「さっき俺は、死亡とは魂が死を迎え、身体が消滅した場合を指す、と説明したな。
では魂が死んで身体が消滅した後も、身体が動いていた場合はどうなると思う?」
「それは疑似人格などの別の魂が、全神様の死後も身体を利用しているということか?
しかしそれなら身体が消滅したのだから、全神様の死後に疑似人格が身体を乗っ取ることはできないはずだ。」
「いや、そうじゃない。
もしそうなっていたら、所有者以外の魂が身体を使用していることになるから、全神の身体としての記録は残る。
だが全神の場合はかなり特殊で、魂の死後、身体が一度分解されて消滅し、しばらく期間が空いてから別人の身体として再構成される。
そしてその身体を、別の全神の魂が動かす。
そのため記録上は、魂も身体も全神とは別人となってしまっているんだ。
しかも魂が死んでから、身体が新たに再構成されて次の魂が定着するまで、それなりの期間が空いてしまうため、記録にも空きが出てしまう。
更に厄介なことに、身体が新たに再構成されるのは、分解、消滅した場所とは違う場所だ。
その所為で断続的な記録になってしまい、痕跡を追跡するのが困難になっているんだ。」
あきらかに辻褄が合わないマコトの説明を聞いて、とうとうトウカは頭を抱えて混乱してしまった。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ、マコト様。
全神様の魂が死んでいるのに、何故別の全神様の魂とやらが出てくるんだ?
それに魂の死後、身体が分解されて消滅し、期間が空いて再構成される?
全く訳がわからないぞ!」
そんなトウカに対して、マコトはもう少し掘り下げて説明した。
「まぁ知らないのも当然だな。
これは本人も知らなかったことだが、全神は多重人格者で、個々に別の魂を持っていたんだ。
ただし人格が変わるのは、表に出ている人格の魂が死んだ後だ。
そのため魂が死ぬと、残りの人格の内のどれかが表に出てきて、新たな身体で全くの別人になるというわけだ。
そして質が悪いことに、それぞれの人格間で記憶は引き継がれないが、知識と能力は引き継がれ、毎回表に出てきた人格特有の能力が追加されていく。
つまり魂が死ぬ度に、能力が増えていくという、なんとも面倒な存在だ。」
このマコトの説明を聞いて、トウカは全神がどのような存在なのかをある程度理解し、同時に常識外れな能力に畏怖を抱いた。
そして無意識に本音が口から出てしまった。
「全神様が多重人格者?しかも死亡する度に人格が切り替わり、新たな能力が追加されて、身体が別人になる?
そんな存在は・・・本当に人・・・なのか?」
そんなトウカの疑問は、次のマコトの説明で解消されることとなる。
「普通に考えれば、全神は人としての範疇を大きく超えている、だろうな。
だがそれも当然だ。
全神の誕生には、古代文明の技術力が使われているんだからな。」
ここまで話しを聞いたトウカは、ある可能性へと思い至ったのだった。




