メイドたちの秘密1
エイリについての疑問が解消されたことで、メイドたちの緊張は解けており、これで解散するものだと思っていた。
しかしマコトの話は、これで終わりではなかった。
「・・・さて、これでエイリのことについては、皆も納得してくれたな。
では次に、もう1つの話もしてしまおう。
エイリ、頼む。」
「かしこまりました、マコト様。」
マコトにそう言われてエイリは席から立ち上がると、そのまま部屋の唯一の出入り口である扉から出て行ってしまった。
突然のことにメイドたちは唖然としてしまったが、エイリが部屋から出て行ったときの扉が閉まる音で我に返ってきた。
そして再びメイドたちを代表して、トウカがマコトへと説明を求めてきた。
「・・・はっ!マコト様、次の話というのはいったい何なんだ?
エイリが部屋を出て行ったことと何か関係があるのか?」
「それについては、すぐにエイリが戻ってくるから、少し待ってくれ。
そうすれば全てがわかる。」
「わっ、わかった。」
マコトに待てと言われたので、トウカとメイドたちはすぐに知りたいと思う欲求を抑え込んで、おとなしく待つことを受け入れた。
そうして待つこと5分、メイドたちはエイリが戻ってくるのを今か今かと待ち焦がれていた。
そこへノックする音が聞こえ、扉の外からエイリが入室許可を求めてきた。
「お連れしました、マコト様。
入ってもよろしいでしょうか?」
このエイリから発せられた予想外の言葉を聞き、メイドたちへ一気に緊張が走った。
それも当然だろう。
エイリが部屋を出ていったのは、誰かを連れてくるためだったとは、メイドたちの誰もが全く予想していなかったのだから。
そんな緊迫した雰囲気の中、マコトはいつも通りの気さくな態度で、エイリへと返事を返した。
「ああ、入ってくれ。」
「失礼します。」
そう言ってすぐに外から扉が開けられ、まずはエイリの姿が見えた。
エイリはそのまま部屋の中には入らず、入り口を塞がないように身体の位置をずらした。
するとそこへ、1人の気品あふれる美女が姿を現した。
歳の頃は25歳前後、腰くらいまである長い金髪を僅かに揺らし、穏やかな微笑みを浮かべながら、ゆっくりとした歩みで部屋の中に入ってきた。
その姿を見てメイドの皆は、驚きのあまり一瞬声を失った。
しかしすぐにそれが誰なのかを理解し、メイドたちは一斉に椅子から立ち上がって、その女性の名前を口にした。
「レティシア様!(×8)」
メイドたちのあまりの迫力に女性は驚いた表情を見せたものの、すぐに元の穏やかな微笑みに戻って口を開いた。
「・・・皆さん、お久しぶりですね。
とはいっても、私の感覚では数ヶ月ぶりといったところです。
しかしこうして皆さんの元気な姿を見ることができ、とても安心しました。」
レティシアと呼ばれた女性の声を聞いて、メイドたちは本人で間違いないことを確信したようだ。
すぐに席から離れてレティシアの前へ移動すると、膝をついて臣下の礼をとった。
そして代表してトウカが開口一番で口にしたのは、謝罪の言葉であった。
「私たちの力が及ばなかったばかりに、御身を御護りすることができず、申し訳ございませんでした!
如何様な罰も覚悟の上です!
しかし全ては統括メイド長であった私の責任でございます!
何卒、他の者たちへは寛大な御心で、慈悲深い措置をお願いいたします!」
今にも地面につきそうなほど深く頭を下げながら懇願するトウカの姿に、他のメイドたちはすぐに異論を唱えようとした。
「トウカさんっ!(×7)」
だがそれはすぐに、トウカによって遮られてしまった。
「お前たちは黙っていろ!
レティシア様、どのような罰でも、私1人で全てお受けいたします!
ですから、何卒、何卒、他の者たちのことは・・・」
必死に懇願するトウカの姿に、メイドたちはそれ以上何も言えなくなってしまった。
そのためレティシアの判決を、黙って待つことしかできなかった。
だがレティシアは穏やかな微笑みのままトウカの前に立つと、その場で屈み、右肩を左手で優しく触れながら言葉をかけた。
「顔を上げてください、トウカさん。
あれは皆さんの所為ではありません。
むしろ謝罪するのは私たちの方です。
皆さんを巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。」
そう言ってレティシアは、メイドたちに向けて頭を深く下げて謝罪した。
その姿にトウカはすぐに顔を上げると、レティシアの行為を慌てて止めた。
「おっ、お止めください、レティシア様!
どうかお顔をお上げください!
あのときのことは、留守を任されていながら、何もすることができなかった私の失態です!
私は、私たちは、メイドとしてお仕えする主やレティシア様のために、何もすることができなかったのです!
叱責されることはあっても、謝罪されるようなことは何もありません!」
あくまで自分の責任だと言い張るトウカだったが、レティシアも一歩も引かなかった。
「いいえ、そうはいきません。
皆さんはメイドであって、私たちの護衛ではありませんでした。
むしろ私たちの方が、雇用主として皆さんを守らなければいけない立場だったのです。
そもそもあの場所の守りは、護衛騎士たちが担っていたではありませんか。」
レティシアに正論を言われたことで言葉に詰まったトウカだったが、咄嗟に思いついた反論を口にした。
「そっ、それは・・・ですが私たちには戦う力がありました。
それもあの御方の教えを受けてです。
あの御方もいざというときのために、私たちがレティシア様を御護りできるようにとお考えだったはずです・・・」
このあまりにも説得力の無いトウカの言葉を、レティシアは毅然とした態度でハッキリと否定した。
「その考えが間違っているのです。
あの人が皆さんに戦う力を与えたのは、あくまで自分の身を守れるようにするためです。
私のことまで含まれていません。」
「でっ、ですが!」
「異論は認めません。
それに当時の私は、トウカさんに護ってもらわなければいけないほど弱かったですか?」
「たっ、確かに当時の私たちは、レティシア様の足元にも及びませんでしたが・・・」
「ならば、仮に皆さんが私を護りに来たとしても、結局結果は変わらなかったということです。
それに当時はああすればよかったとか、こうすればよかったなどと、今更後悔しても何も変わりません。
お互いにこうして拾った命です、これからの未来を考えましょう。」
自分たちのことを気遣っているレティシアの言葉に、トウカはこれ以上反論することなく、素直に感謝の言葉を口にした。
「レティシア様・・・ありがとうございます。」
ようやくトウカが折れてくれたが、レティシアは最後に駄目押しで念を押してきた。
「・・・はいっ、これでお互いに過去のことに対しての謝罪はお終いです。
いいですね、トウカさん?それに皆さんも?」
「・・・わかりました。(×8)」
全員が渋々ではあるが納得してくれたので、ようやくレティシアも緊張を解いて、穏やかな笑顔に戻った。
「よかった・・・これで私の肩の荷も軽くなりました。
そういえば話が変わるのですが、イレーヌさんの娘さんが無事に生まれて、一緒に行動しているそうですね?」
話が一段落してすぐに、レティシアが突然全く違う話へと変えてきた。
トウカはレティシアが気を使ってくれたのだと察して、特に疑問に思うことなく、自然な流れで答えた。
「はい、ミレーヌのことですね。
今はメイド見習いとして、そちらにおられるマコト様に、私たちと共にお仕えしています。」
「どんな娘ですか?」
「イレーヌによく似て、強く優しい娘です。
私たちを助けようと、長年1人で頑張ってくれていました。
メイドとしても優秀で、このまま成長していけば、私たちを超える日もそう遠くはないでしょう。
ただ、イレーヌは未練を残したまま逝き、そしてその所為でミレーヌにも、これまで辛い思いをさせてしまいました。」
「そうですか・・・とてもいい娘なのですね、ミレーヌさんは。
私も今から逢うのが楽しみです。
・・・となりますと、やはりイレーヌさんは関係なかった・・・いえ、むしろ利用されたのかもしれませんね。」
この突然の意味深なレティシアの言葉に、話を聞いていたメイドたちへ動揺が走ったのだった。




