ルフェの秘密14
そしてルフェはすぐに、事の真偽をベルへ確かめた。
「えっ・・・べっ、ベル姉、今、何て、言ったの?
アイって・・・まさか・・・アイ姉の、こと!」
しかしベルはすぐに答えず、まずはマコトへと確認をした。
「マコトよ、別に話しても構わないのだろう?
先程の話にアイのことも含まれていたのだからな。」
「ああ、構わない。
元々そのつもりで全員に話したんだからな。」
そこへ我慢できずにルフェがベルを急かしてきた。
「ベル姉!」
そんなあきらかに動揺が隠せないルフェだったが、ベルは冷静に答えた。
「・・・そうだ、そのアイのことだ。」
「今アイ姉は何処にいるの!」
「そう慌てるな、ルフェよ。
アイにはすぐ逢える。
だがその前に、ここには状況がわかっておらぬ者たちがほとんどなのだ。
まずはアイと私たちの関係について、ここにおる全員に説明する必要がある。
アイと逢うのはそれからだ、いいなルフェ?」
食い下がろうとしたルフェだったが、ベルがあまりにも真剣な表情だったので、その場はおとなしく引き下がった。
「それは・・・うん、わかったよ、ベル姉。」
そんなルフェの姿を確認してから、ベルは説明をはじめた。
「では・・・皆にはまだ話していなかったが、私とルフェは、アイとは初対面ではないのだ。
実は私たちは昔からアイのことをよく知っておる。
この話を聞いて、既に何人かは気づいておるようだが、私の口からきちんと説明しよう。
先程のマコトの話に出てきた、支配国が創った最初の神、抹消された第二世代の神こそ、無限書庫、アイのことなのだ。」
ベルによって明かされた事実を聞いて、皆は様々な反応を示していた。
そんな皆に、ベルは更なる事実を伝えた。
「だが1つ問題があるのだ。
アイは私たちのことを知っているのだが、覚えてはおらぬのだ。
おそらくは神として生まれ変わったことによる弊害だと思われる。
これはマコトも同じ意見だ。」
おとなしく話を聞いていたルフェだったが、ベルが意味のわからないことを言い出したので、話しに割り込んできた。
「ちょっとベル姉、何わけわかんないこと言ってるの。
知ってるけど覚えていないって、矛盾しているよ!
いったいどういうことなの?」
「言葉の通りだが。」
「いやいや、私だけじゃなくって、他の皆もよくわかってないよ!
もっとわかりやすく説明してよ!」
「ふむ・・・マコトの言葉を借りるなら、記録としては知っているが、記憶としては覚えていない、ということらしい。」
「それって記憶喪失ってこと?
あれっ?でも私たちこのことを知ってるって・・・」
「それはアイが無限書庫だからだ。
記録から私たちとの関係を知ってはいるが、記憶が無いため当時の感情までは覚えていないのだ。」
「そっ、そんなぁ・・・」
事実を知って落ち込むルフェだったが、続けられたベルの話を聞いて一変する。
「だが希望はある。
マコトの見解では、アイの記憶は失われたわけではなく、思い出せないだけらしい。
そして私と再会したときに、アイは何かを思い出しかけていた。
ルフェを含めた残る7人と再会することで、もしかしたら記憶を思い出すかもしれんのだ。」
それを聞いてルフェは、すぐに猛烈な勢いで再びアイの居場所を問い詰めてきた。
「それは本当なの、ベル姉!
だったら今すぐアイ姉に逢わせて!
私と逢えば、きっとアイ姉の記憶も戻るはずだよ!」
だがベルは、そんな勢いのルフェに対して、あくまでも冷静な対応を崩さなかった。
「そう熱くなるな、ルフェよ。
そんな調子では、アイも戸惑ってしまうぞ。
とにかく、まずは落ちつけ。
でなければ、ルフェをアイに逢わせることはできぬ。」
思わず反論しかけたルフェだったが、すぐに冷静さを取り戻した。
「何で・・・御免、ベル姉。
アイ姉のことを聞いて、確かに熱くなりすぎてたみたいだね。
もう大丈夫だよ。」
ベルが見たところ、表面上何とかといったところではあったが、先程までとは違い、自分自身を制御できていると判断したようだ。
それでもベルは、最終判断をマコトへ委ねた。
「ふむ、どうやら普段のルフェに戻ったようだな。
マコト、私はルフェとアイを逢わせても問題無いと思うが、どうだ?」
問われたマコトは、少し考えたものの、すぐに許可を出した。
「・・・いいだろう。」
「本当、マコト!」
「ああ。」
「やったーっ!」
喜ぶルフェであったが、マコトは一言注意を付け加えた。
「だがルフェ、気をしっかり持てよ。」
「んっ?どういうこと?」
「すぐにわかる。
とにかく気を抜くなよ。」
マコトがあまりにも真剣な表情で念を押してくるので、ルフェも気を引き締めながら返事を返した。
「うっ、うん・・・わかったよ。」
ルフェの雰囲気が変わったのを確認してから、マコトは少し離れた場所でフィマを抱っこしているアイを呼んだ。
「よし・・・アイ、ちょっとこっちに来てくれ。」
すぐにアイが気づいて、エイリにフィマのことを預けると、少し速足でマコトの許へとやってきた。
「マコト様、どうかされましたか?」
これに対してマコトは、ルフェへと視線を向けながら答えた。
「アイ、誰だかわかるな?」
「はい、もちろんわかります。
ですがマコト様、ここには他の皆さんもいますが、よろしいのですか?」
「ああ、既に事情は説明済みだ。」
この答えで、アイは自分のことについて、皆がマコトから既に聞いていることを理解した。
「でしたら問題ありませんね。」
アイは笑顔でルフェの顔を見た。
待ち望んだアイとの再会に、ルフェは抱きつきたくなる気持ちを抑えながらも、名前を呼ばずにはいられなかった。
「あっ、アイ姉・・・」
しかしこの時点でルフェは、ベルが何を危惧していたのかと、先程のマコトの言葉の意味を理解していなかった。
そしてとうとうアイが、ルフェに向けて口を開いた。
「お久しぶりですね、ベルフェゴールさん。
とは言っても、今の私としては初めましてなのですがね。」
このアイの言葉で、2人がどうして慎重になっていたのかを、ルフェはようやく理解した。
確かに今ルフェの目の前にいるのは、遥か昔に消息を絶ってしまった、大好きな姉で間違いない。
ただそれは外見だけの話だ。
アイはルフェのことを知っている、それは間違いないだろう。
だがその目は、大好きな姉が妹である自分に向けていたものとは全く違う。
ルフェにはアイが自分に対して、初対面の相手にどう接すればいいのか戸惑っているように見えたのだ。
そのためルフェは、目の前にいるのが自分の知る大好きな姉ではないという現実を突きつけられたように感じてしまった。
「あっ、アイ姉・・・じゃない・・・誰・・・なの・・・」
そんなルフェの反応を見たアイは、少し困ったような顔をしながら、どうしたものかと悩んだ。
するとふと何かを思い出したのか、ルフェの傍に歩み寄り、そして優しく抱きしめた。
あまりにも自然な動作に、ルフェは戸惑いながらも、懐かしい姉の温もりに包まれたため、おとなしく受け入れていた。
そんなルフェに、アイは右手で背中を、ポンッポンッ、と軽く叩いた。
「御免なさい、今の私にされても嬉しくはないかもしれないけど・・・」
それは遥か昔にアイが、よくルフェに対して行っていた行為だ。
アイにこうしてもうらうと、ルフェはとても心地いい気持ちになれた。
そして今も昔と変わらぬ心地よさを感じている。
アイの動作が、あまりにも昔のままだったからだ。
そのため落ち着きを取り戻したルフェは、冷静に今のアイの状況と向かい合うことができた。
確かに記録を知っているアイなら、昔こうしてくれたことを知っているのだろう。
だが記録だけでは、ここまで自然な動作で行うことは不可能だ。
つまりアイの中には、昔の記憶や思い出が眠っていると、ルフェはこのアイの行為で理解したのだ。
その結論に至った瞬間、ルフェはそれまでため込んでいた感情が、一気にあふれ出した。
「・・・アイ姉だ・・・私のことを覚えていなくても、間違いなくアイ姉だよぉ・・・
やっと逢えたよぉ・・・無事でよかったよぉ・・・うわーん・・・」
ルフェはアイに抱きつきながら、これまで我慢していた想いを吐き出すかのように、子供のように泣きじゃくった。
そんなルフェを、アイはただ黙って優しく抱きしめていたのだった。




