武人族についての考査1
そんな4人とは対照的に、マコトは冷静なまま答えた。
「先に言っておくが、確実な情報ではないぞ。
だが事情を知っている可能性は高いと、俺は考えている。」
しかしイクスとノーラは我慢できなかったようで、更にマコトへ詰め寄ってきた。
「わかりましたから、早く教えてください!」
「いったいそれは誰なんだ!」
そんな2人をマコトはなだめた。
「今教えるから、2人とも少し落ちつけ。」
2人はようやく自分たちが焦っていたことを自覚し、すぐに落ち着きを取り戻して謝罪してきた。
「あっ・・・すみません。」
「・・・すまない。」
「別に気にしなくていい。
話を戻すが、実はそいつらは人ではないんだ。」
「人ではない、というのはどういうことなのでしょうか?」
「まず俺がこの可能性に至ったのには、ノンとステラ、この2人の存在が切っ掛けだ。」
そう言ってマコトは、少し離れた場所でフブキやユイリィたちと楽しそうに話している2人へ一瞬だけ視線を向け、すぐに元に戻した。
「マコトの言う通り、儂ら武人族とあの2人はとても近しい存在じゃと思うぞ。
だがあの2人を創ったのは、マコトなのじゃぞ。
そうなると儂ら武人族も、誰かに創られた存在、ということになってしまうのう。」
「確かに武器としての原型に成長する仕組みや意思を持たせたのは俺だ。
だがそれらは切っ掛けに過ぎない。
実際に成長して自我を持たせたのは、パートナーであるティリアやサラだ。
そしてそれらに大きく関わってくるのが、精霊の欠片だ。」
「精霊の欠片?
それはいったい何なのですか?」
「精霊の欠片とは、精霊などが自我を持つ前の状態、つまり卵のようなものだ。
4人は精霊について何か知っているか?」
「確か物語などによく出てくる、実体を持たない存在だったな。
だがあれは創作であって、実在するという話は聞いたことがない。」
「いや、精霊は実在する。
ただ普通はこの世界に存在できない。
精霊がこの世界に、厳密には精神体が物質世界に顕現するには、いくつか条件があるんだ。」
「条件というのは何なのですか?」
「精霊という呼称は大きなくくりなんだが、細かくいくつかに分類される。
まずは火や水などといった元素を司るのが精霊。
次に花や草木などの意思を持たない存在を司るのが妖精。
他にも存在するが、この2つが全体を大きく占めている。
そして共通するのが、通常は実体を持たない意思を持った精神体であり力そのものである、ということだ。
その様な存在が、今俺たちがいる物質世界に顕現するには、実体化する必要がある。
それには特殊な力の補助が必要なんだ。」
この話を聞いて、ホムラ、イクス、ノーラは、ある考えに思い至った。
「・・・なるほどのう、そういうことじゃったか。
確かミザリィは霊力、ナタリィは妖力の継承者じゃったのう。」
「そういえば、以前マコトが言っていましたね。
霊神は精霊と、妖神は妖精と契約ができる、と。」
「つまり契約してそれらの力を受ければ、精霊や妖精はこの世界で実体化できる、ということか。」
「そうだ。
だがこの方法では、精霊などと関係がある継承者以外は、精霊たちの力を借りることはできない。
そこで俺は、だったら最初から精霊を実体化した状態でこの世界に定着させればいいんじゃないか、と考えたんだ。」
マコトが3人の考えを肯定したので、アーシアもそこまでは納得したのだが、1つ疑問があるようだ。
「それが、武器に精霊の欠片を使うこと、だったのですね。
しかしどこでそのようなものを手に入れたのですか?」
これに対してマコトは隠すことなく、あっさりその出所を明かした。
「創った本人からもらったんだ。」
「それはいったい誰なんじゃ?」
「精界を統治している内の1人、精霊神からだ。」
「精界?」
「精霊神?」
「なんかいろいろと話しのスケールが大きくなってきましたね。」
「マコトよ、儂らの知らぬ言葉が出てきて頭が整理しきれぬ。
まずはそれらについて詳しく説明してもらってもいいかのう?」
「それもそうだな。
まず精界というのは、精霊や妖精たちなどが住む世界で、この世界、物質世界とは別の次元に存在している、精神世界のことだ。
そこには実体を持った存在は入れない。
その世界を管理し、維持している1人が、精霊神だ。」
「精霊神の主な役割は、新たな精霊を生みだすことだ。
しかし精霊などの実体を持たない存在というのは気まぐれでな。
中々自我が宿ることは無いため、個体数はあまり増えることが無い。
そこで精霊神が、俺に相談してきたというわけだ。」
このマコトの説明に対して、イクスとノーラが端折られた部分の説明を求めてきた。
「マコト、いきなり話が飛んでいて、それではよくわかりません。
そもそもどうしてマコトはその精霊神と知り合いになったのですか?」
「それに精神世界の住人である精霊神に、物質世界の住人であるマコトがどうやって逢うことができたんだ?」
「そういえばそこが抜けていたな。
俺やシルフィナは継承者ではないが、霊神力や妖神力などを使うことができる。
するとあるとき、道が開かれたんだ。」
「そこは夢幻の森と言って、唯一精神世界の住人と物質世界の住人が出逢える場所なんだ。
そして俺とシルフィナは、その場所で試練を乗り越えて精霊神たちと契約した、というわけだ。
そのときついでに相談されたのが、精霊などとしての自我が芽生えない状態のまま眠っている、精霊の欠片だったんだ。」
「さっきも言ったが、精霊の欠片というのは、精霊などが自我を持つ前の卵のような状態で、これは見た目が魔石の様な球形の形をしている。
ただし実体があるわけではなく、普通は物理的に持つこともできないし、そのままでは物質世界で存在することはできない。
そこでさっきも話した、武器という実体に精霊の欠片を融合し、パートナーと心を通わせることで自我の形成を促すことにしたんだ。
そうして生まれたのが、ノンやステラたちだ。」
「つまり彼女たちは、精霊から変異した存在、ということですね?」
「そういうことだ。
そしてそれは、別の可能性があることにもつながる。」
「ようやく本題ということじゃな。
それで、その別の可能性と言うのは、いったい何なんじゃ?」
4人は一斉にマコトへと注目し、次の言葉を待っていたのだった。