ルフェの秘密4
このまま5人が戻ってくるのを待って、話の続きが行われると誰もが思ったのだが、そうはならなかった。
「シルフィナ、少し付き合ってくれ。」
「かしこまりました、マコト様。」
何故かマコトがシルフィナを伴って、ゲートへと入って行ってしまったのだ。
そしてちょうどゲートに入ろうとしていたルフェと鉢合わせた。
「あれっ?どうしたの、マコト、シルフィナ?」
「さすがにあのままでは可哀想だからな。
少し訂正させてもらおうと思ってな。」
「なになに、自分の弟子がああも簡単にやられちゃったから、2人が敵を取ろおってこと?
でもそれって逆効果じゃない。
あの4人が余計に惨めな思いをするだけだと思うよ。」
しかしこのルフェの予想は違ったようで、すぐにマコトが説明した。
「そうじゃない。
確かに今4人が発揮できる力は、ルフェとの模擬戦で見せた実力が限界だろう。
だがそれは正しい力の使い方を、まだ身につけていないからだ。」
「つまり契約者としてマコトが4人に力を貸して、真の力を発揮させてあげるってこと?
でもそれだとあの娘たちの実力じゃなくて、マコトの実力になっちゃうでしょ。」
「ルフェの言う通りだ。
だから俺の力を貸すんじゃない。
俺は正しい力の使い方へ、導いてやるだけだ。」
「どいうこと?」
「それは聞くより実際に見て体験する方が早いだろう。」
「何をするつもり?」
「まぁ見ていろ。」
その頃、4人はその場で僅かな間立ち尽くしていたが、突然マコトとシルフィナが現れたことで、すぐにゲートへと向かって速足で歩きだしていた。
そしてマコトとルフェの話が一区切りついたところへ、ちょうど4人がやってきた。
4人が先程の模擬戦について、落ち込んだ表情で何かを言おうとしたところへ、先にマコトが左手を伸ばしながら口を開いた。
「ホムラ、来い。」
それだけでホムラはマコトが何を望んでいるのか理解したが、不甲斐ない姿を見せてしまったことに躊躇してしまった。
「わっ、儂は・・・」
そんなホムラにお構いなく、マコトは再度呼び続けた。
「いいから来い、俺を信じろ。」
「・・・わかったのじゃ。」
ホムラは観念してマコトへと近づいた。
そしてマコトの正面に立つと、伸ばされていた左手に自分の右手を重ね、目を閉じて集中した。
するとホムラの身体が、光りを放ちながら変化をはじめた。
すぐに光は消え、マコトの左手にはホムラが変化した姿が装着されていた。
だが先程とは色と形状が違い、赤い長方形の大盾ではなく、左腕を肘の手前まで覆う黒い籠手の形となっていた。
それを見て、ルフェは拍子抜けしていた。
「ちょっとちょっと、さっきと比べてずいぶん小ぢんまりとしちゃったじゃないのよ。
それに盾じゃないし。」
「元々ホムラは盾だけじゃなく、防具形態なら何にでも変化できるからな。
そしてこの色と形状は、今のホムラが一番力を発揮できる形状だ。」
「その籠手が?」
「そうだ。」
「見た目はさっきよりも、ずいぶんと脆そうに見えるけど。」
「なら試してみるか?」
「さすがにそれはまずいんじゃない。
さっきの力を具現化した武器じゃなくて、今は本人が変化してるのよ。
同じ結果になったら、ホムラ自身にダメージが返ってくるのよ。
最悪命を落とすことになってしまうかもしれないわ。」
ルフェとしては、先程手合わせしたときの感覚から、自分とホムラの力の差を客観的に述べたつもりだった。
だがマコトの考えは違うようだ。
「何も問題無い。
今のホムラに、ルフェでは傷一つつけることはできないからな。」
このマコトの言葉に、ルフェから表情が消えた。
「・・・へぇ・・・たいした自信ね。
いいわ、試してあげる。
それも今度はさっきまでとは違って、一切手加減なしでやってあげるわ。
どうなっても知らないわよ?」
「何度も言うが、何も問題無い。」
「あっそ・・・じゃぁ、さっさとはじめましょ。」
ルフェの確認に対して、マコトは自分たち以外の全員から少し距離を取るため、離れた場所へ移動した。
そして左腕の籠手を自分のお腹の辺りに構えて了承した。
「・・・いつでもいいぞ。」
ルフェは白衣のポケットに突っこんだままだった両手を出し、その日初めて構えをとった。
そして気合とともに右手へ力を集中し、マコトに向けて全力で殴りかかった。
「・・・はぁぁぁぁぁ・・・はぁーっ!」
だがルフェの狙いは、マコトのお腹辺りに構えられた左腕の籠手ではなかった。
ルフェが狙ったのは、マコトの顔面だ。
どうやら馬鹿正直に籠手を狙うつもりは、最初からなかったようだ。
そんなマコトの裏をかいた攻撃を、ルフェは容赦なく顔面に叩きこんだ、はずだったが、そうはならなかった。
マコトは最初から読んでいたのか、顔面に向かってきた右拳を、左腕の籠手で受け止めたのだ。
両者は激しくぶつかり合い、その衝撃と音の余波が周囲へも影響を及ぼした。
その余波を受けて、シルフィナは平然と、その場に立ったまま微動だにしなかった。
しかし武人族の3人はそうはいかなかった。
離れた場所にいたにもかかわらず、立っていた場所から数メートルほど後ろに後ずさってしまった。
そしてルフェの右拳とマコトの左腕の籠手が激突した結果は、全くの互角で双方無傷であった。
この結果に、ルフェは目を丸くして信じられないといった表情を浮かべている。
「・・・ねっ、ねぇ、マコト・・・これってどういうことなのかしら?
今私はこの辺一帯が跡形もなく消し飛ぶくらいの力で殴ったつもりなんだけど?
もしかして久しぶりの実体だから、私って相当鈍ってる?」
どうやらルフェは、この結果が自分の力が衰えたことが原因ではないかと考えたようだ。
しかしそれはマコトに否定された。
「いや、おそらく全盛期と比べても遜色ないぞ。
むしろ威力だけなら上がっているくらいだな。
長年精神体での研鑽を続けていただけはある。」
だがルフェはマコトの答えを聞いて更に混乱し、違うとわかっていても聞かずにはいられなかった。
「じゃぁどうして・・・まさか、マコトが契約者としてホムラに力を貸したから、とか?」
当然これに対してマコトは、すぐに否定して自分が何をやったのか説明した。
「いいや、今回俺は武器化時の変化イメージを手助けしただけだ。
総合的には、さっきホムラが具現化した大盾とこの籠手に、ほとんど差は無い。」
「いやいやいや、さっきは簡単に破壊できたのに、今回は無傷だったんだよ!
さすがにほとんど差が無いってことは無いでしょ!」
「言っただろ、総合的には、と。」
「どういうこと?」
「通常の武器や防具というのは、その形状や使う者の技量に大きく左右される。
だが武人族が具現化したり自身を変化させる武器や防具は、根本的に違う。
まずはその大きさだ。
体積や面積が大きくなればなるほど、その密度が低くなり、強度が落ちていく。」
「それって逆に小さければ、それだけ密度が高くなって強度も上がるってこと?」
「そうだ。」
「でもそれにしたって、さっきの大盾とその籠手じゃ、大きさは精々数十倍くらいの違いしかないわよ。
それくらいの差なら、全力の私の攻撃で簡単に砕けると思うんだけど?」
「そこが通常の武器や防具と、武人族の違いだ。
通常は単純に考えれば、同じ質量の物の大きさが半分になることで密度が倍になり、それに合わせて強度も倍になる。
つまり質量が密度と強度の2つと反比例の関係にあるということだ。
だが武人族が具現化したり自身を変化させる武器や防具は、強度の上昇率が全く違う。」
「どれくらい違うの?」
「例えば100の大きさの武器の密度が1だったとし、このときの強度を1とする。
その大きさが半分の50になると、武器の密度は倍の2になり、通常は強度も同じく2になる。」
「まぁ単純に考えればそうよね。」
「しかし武人族の場合は、強度が密度の2乗になり、この場合は2の2乗となって、4になるんだ。
これが更に大きさが50分の1の2になると、密度は50、だが強度は2乗して2500になる。
ただ実際には単純な計算で出せるものではないんだが、目安としてはわかってもらえるだろう。」
この説明を聞いて、ルフェは驚きを隠せなかった。
「・・・なっ、何よそれ・・・昔私が調べたときには、そんな情報無かったわよ!」
「それはそうだろう。
長年研鑚してきた積み重ねで、4人だって成長しているんだ。
昔と今ではその能力が成長していてもおかしくは無い。」
完全には納得できていないようだが、ルフェは他にも疑問に思っていることをマコトに質問した。
「そうかもしれないけど・・・まぁいいわ。
最初の大盾よりも、その籠手の方が強度が遥かに高いことは理解したわ。
それでも私の全力で傷一つつかないのは、納得いかないわよ。
まだ何か秘密があるんじゃないの?」
「どうしてそう思うんだ?」
「だってあれだけの力がぶつかったのに、周囲への余波があの程度なわけないもの。
さっきマコトが私の攻撃を受けたとき、マコト自身は何の力も使った形跡はなかったし、肉体的な力もほとんど入れてないように見えたわ。
だったらあれだけの威力を、いったいどこに消し去ったって言うのよ。」
これに対してマコトは、素直に感心しながら説明を続けた。
「さすがだな。
だが正確には消し去ったわけじゃない。
一時的に溜め込んだだけだ。
全てではないがな。」
「溜め込んだ?どこに?」
「当然この籠手にだ。
その証拠に・・・ああ、ルフェ、それに皆も、今すぐ耳を塞いでおいた方がいいぞ。」
そうその場にいる全員に向けて警告してから、マコトは誰もいない方へ向けて軽く左腕を振ったのだった。




