お節介返し
するとサラが何かを思いついたらしく、ホムラへと質問してきた。
「そういえば、ホムラさんたち武人族の皆さんの場合は、受精から出産までの期間って、どれくらいなんですか?」
その質問に対して、ホムラは少し困った顔で答えた。
「ふむ・・・それなんじゃが、正直なところわからんのじゃ。」
「どういうことですか?」
「実は儂ら武人族は、全員孤児なんじゃ。」
「えっ?・・・そうだったんですか!」
「うむ、儂ら5人は、赤子の頃にある女性の家の前に捨てられておったそうじゃ。
じゃから母親の顔は知らぬのじゃ。」
「でもそれはおかしくないですか?
皆さんは武人族としての力や、契約についても知っていたではありませんか。
それは本能で理解できる範疇を超えています。
そうなると、誰かから教えてもらったはずですよね?」
「お主の言う通りじゃ。
じゃがそれについては、ちゃんとした理由があるぞ。
荷物の中には、武人族に関する資料も一緒にあったのじゃ。
そこには儂らが武人族と呼ばれる種族で、武器化できるようになることも、その真の力を使うには契約者が必要なことも書いておった。
もちろん契約に関する詳細ものう。」
「そんなものが・・・でもそれは怪しくないですか?」
「当然儂らを育ててくれた女性も、最初は信じられなかったようじゃ。
じゃがそこに書かれておった内容が、次々と現実に起ったため、信じるしかなかったということじゃった。」
「ちなみにどんなことが起こったのですか?」
「儂も聞いた話じゃが、例えばイクスは不機嫌な状態が続くと、自分の周囲を斬り刻んだそうじゃ。
ただ赤子の力じゃったから、せいぜい軽く叩いた程度の威力だったらしいがのう。
じゃが成長するにつれその威力がどんどん上がっていくことも書かれておったから、すぐに資料にあった対策が取られたそうじゃ。
おかげで死者や重傷者は出んかったということじゃ。
儂や他の者たちも似たり寄ったりじゃな。」
「それはまた何と言いますか・・・」
サラは、小さい頃から危険な存在だったんだなぁ、という考えを飲み込んで、話の続きに耳を傾けた。
「まぁいろいろなこともあったが、儂らは15歳までその女性に育てられ、その後旅に出たのじゃ。
その旅の目的は、まずは自分たちの親を探すこと。
次に自分たちの力で何ができるのかを探すこと、この2つじゃ。」
「その道中で儂らは善神たちに出会い、目的の1つを見つけた、というわけじゃな。
そこでイクスが善神と、ノーラが星神と、アーシアが覇神と、儂が獣神と、残る1人が・・・おっと、これはまだ言ってはいけないのじゃったな。
とにかく儂らは善神の陣営に加わり、それぞれ契約をした、ということじゃ。」
「ではもう1つの目的の、ご両親については見つけられたのですか?」
「いいや、結局親に関する情報は見つからなかったのう。
今となっては手掛かりすら残っておらんじゃろう。
そもそも武人族に関することすら、何も情報が無かったのじゃからな。」
「でしたら、マコト様に調べていただけば、手掛かりくらいは見つかるのではありませんか?」
「それはそうなんじゃが・・・今更という気もしておってのう。
たまたま親に関する情報が入ってくるならともかく、わざわざ調べるというのもどうなんじゃろうと思っているのが正直なところなんじゃ。
まぁマコトが既に知っておると言うのであれば、聞いてみたいとは思うがのう。」
「マコト様、ホムラさんはこう仰っていますが、実際のところはどうなのですか?」
「武人族の親についてか・・・」
マコトが少し考えだしたので、ホムラはそれは知らないことだと判断したようだ。
「サラよ、数万年以上も前のことじゃ、さすがにマコトでも知らぬと思うぞ。
調べれば何かわかるかもしれぬが、マコトの手を煩わせてまで、儂らも知りたいとは思わぬ。」
「ですがホムラさんは、私のように知りたくないとは思っていないのですよね?
でしたら知ることができる可能性があるのなら、知るべきだと私は思います。」
一歩も引く気が無いサラの姿に、ホムラは思わず一言口にしていた。
「・・・お主、結構なお節介焼きじゃのう。」
「その言葉、ホムラさんにそっくりお返しします。」
「否定はせぬが、自分で自覚しているのと、他の者に言われるのとでは、やはり違うのう。」
「それについては同感です。」
2人がそんなことを言っていると、ようやくマコトが答えを口にした。
「・・・俺もハッキリとしたことはわからない。」
「ほれ、マコトもこう言って・・・」
「だが事情を知ってそうな奴だったら、何人か心当たりがあるぞ。」
「・・・なんじゃと!
どういうことじゃ、マコト!」
「その前に、ホムラたちを育ててくれた女性については覚えているか?」
「当然じゃ。
儂らにとっては母同然じゃからのう。」
「名前は憶えているか?」
「儂を馬鹿にしておるのか、それくらい・・・どっ、どいうことじゃ、顔はハッキリと思い出せるというのに、何故名前だけが思い出せんのじゃ・・・」
「そうだろうな。」
「こうなったら、イクス、ノーラ、アーシア、お主らもこっちへ来て話に加わるのじゃ!」
ホムラに呼ばれて、離れた場所でのんびり寛いでいた3人が、何事かとやってきた。
「どうしたのです、ホムラ?」
「ホムラがそんなに慌ててるのは珍しいな。」
「何か問題でもありましたか、ホムラ?」
「問題も問題、大問題じゃ!
お主ら、儂らを育ててくれた女性の名前を憶えておるか?」
「当然です、名前は・・・何でしたっけ?」
「何だイクス、長い間海底神殿で戦いに明け暮れていて、とうとうボケがはじまったのか?」
「そうではありません。
顔はハッキリと覚えています。
ですが名前だけがどうしても・・・」
「だったら私が思い出させてやろう。
彼女の名前は・・・」
そう言ったものの、いつまで経ってもノーラは名前を口にしなかった。
不思議に思ったアーシアが、心配になって声をかけてきた。
「・・・どうしましたか、ノーラ?
具合でも悪いのですか?」
「・・・そうではない・・・わからないんだ・・・私も顔は思い出せるのに、彼女の名前だけが・・・」
「そんなことが・・・確かに私も名前だけが思い出せんません。
もしかしてホムラもなのですか?」
「そうじゃ。
マコト、儂ら4人の記憶と記録を視たお主なら、何か知っておるのではないのか?」
「ああ、知っている。
4人とも記憶にあるその名前だけに、認識阻害がかかっているからな。
それを解除しない限り、思い出すことはできないだろう。」
「記憶に認識阻害、じゃと?
いったい誰が・・・などと言うまでもないのう。」
「そうだ、その女性本人がやったことだ。
そもそも4人が旅に出るきっかけは何だったか覚えているか?」
「それは私たちを育ててくれた女性が、姿を消したからです。」
「そしてこう書置きが残されていた。
『旅をして為すべきことを探しなさい』とな。」
「ですから私たちはその書置きに従って、為すべきことを探す旅に出て、ついでに両親と育ててくださった女性を探すことにしたのです。
その結果、前者は善神たちに協力することとなり、後者はいまだに手掛かりすら見つかっていません。
しかしどうして今この様な話をしているのですか?」
「実はマコトが、儂ら武人族についての事情を知っておる者に、心当たりがあると言っておるのじゃ。」
「えっ?・・・えーーーーーっ!(×3)」
「それは本当ですか、マコト!」
「誰なんだ、その心当たりがあると言うのは!」
「マコトさん、もったいぶらずに教えてください!」
「マコトよ、そろそろ教えてはくれぬか?」
武人族の4人は、普段は滅多に見せない必死な顔で、マコトへと詰め寄ってきたのだった。