夢幻の森の試練15
それからしばらくの間、9人は互いの親睦と理解を深めるために、いろいろな話をした。
そして1時間ほどが経った頃、少しずつ湖が光りを放ちはじめた。
すぐに光は、その場にいる9人の許へと集まってきたのだ。
「・・・時は満ちました。
これより契約を行います。
さあミザリィ、私に名前を。」
「・・・うん、決めた!
エリアル、はどうかな?」
「エリアル・・・喜んで受け取らせていただきます。」
「ナタリィ、私に名前を頂戴。」
「うん・・・ドリス・・・どう?」
「ドリス・・・いいね、気に入ったよ!」
「シェイラ、私に名を。」
「はい・・・ディアザ、ではいかがでしょうか?」
「ディアザ・・・うむ、いい名である。」
提示された名前を受け入れると、3人は精命の木へと向かい、声高らかに宣言した。
「我、新たな精霊神の名はエリアル!
ここにいるミザリィとの間に、契約と縁を望む!」
「我、新たな妖精神の名はドリス!
ここにいるナタリィとの間に、契約と縁を望む!」
「我、新たな幻精神の名はディアザ!
ここにいるシェイラとの間に、契約と縁を望む!」
するとその声に応えるかのように、精命の木がまばゆい光を放ち、9人の許へと吸い込まれていった。
全ての光が吸い込まれると、そこでエリアルが口を開いた。
「・・・これにて契約は完了となります。
ミザリィ、これからよろしくお願いしますね。」
「うんっ、よろしくね、エリアル。」
「これからよろしくね、ナタリィ。」
「うん、よろしく、ドリス。」
「よろしく頼むのである、シェイラ。」
「はい、よろしくお願いします、ディアザ。」
そこへ今度は、ミザリィ、ナタリィ、シェイラの腕輪が光り、その姿が変化した。
「私たちのことも忘れないで。」
「ブーブー、そうだよ!」
「先程精命の木からの光が、私たちにも流れ込んできました。
おそらく契約に組み込まれたかと思いますが、いかがですか?」
リスット、リーフェ、ファムに指摘され、すぐにエリアル、ドリス、ディアザは、自分たちと結ばれた契約を確かめた。
「そっ、そうでしたね・・・確かに、契約者の存在を2人分感じます。」
「・・・私も!」
「・・・私も同じである。」
だがそこでエリアルが、ある違和感に気づく。
「しかしこれは・・・」
「どうしたの、エリアル?」
「何と言いますか・・・とても奇妙な契約になっています。」
「どういうことなの?」
「本来私たちとの契約は、私たち精界の住人の力を契約者に貸し与えるという、一方通行なのです。
もちろん相応の対価が必要なので厳密には少し違うのですが、できることは、契約者が精界の住人の力を行使することができるようになる、これだけのはずです。」
「じゃぁ今回の契約だと、他にもできることがあるの?」
「はい。
といっても試してみないと正確なところはわかりませんが、おそらく逆もできるのではないかと思います。」
「逆?
それって私の力を、エリアルも使うことができるってこと?」
「そうです。
つまりは、力が互いに双方向へ行き来できるようになっている、ということだと思います。」
「へぇー、何か最初に思っていた契約内容とずいぶん違うんだね。
私の霊力を媒介にして、エリアルの力を使えるようにするための契約だと思ってたよ。」
「本来はその認識で間違っていません。
私の力をミザリィが使うためには、その身に宿す霊力を対価にする必要があります。
そのための契約なのですから。
ですが今回の契約は、それだけではないようです。」
「まだ何かあるの?」
「これも試してみないことにはわかりませんが、互いにリスットとも力のやり取りができるのだと思います。」
「そうなの?
でもどうして・・・もしかして、リスットたちを契約に組み込んだから?」
「おそらくそうではないかと。
私とミザリィだけではなく、そこにリスットも加わった、3者間の相互契約に変化したことによるものだと思われます。
場合によっては、1人が2人の力を同時に行使することも、2人が1人の力を同時に行使することも可能ではないでしょうか。」
「なんかとんでもなくすごい契約内容になってる気がするけど、やっぱりそれもリスットの影響なのかな?」
「まず間違いないでしょう。
本来の契約は、精神世界の種族と物質世界の種族の間に交わされます。
しかしそこに精神世界と物質世界、その両方の性質を持った武精族が加わったことで、契約自体が高位の次元に変化・・・いえ、進化したのではないでしょうか。」
「ふーん・・・それで、実際のことろはどうなの、リスット?」
「たぶんその認識で間違っていない、と思う。
・・・私もよくはわからないけど。」
「そうなんだ・・・まぁ何にせよ、これだけはハッキリしているよ。
リスットはすごいっ、てね。」
「うん、それは正しい。」
「そんな簡単に・・・いえ、深く考えるだけ時間の無駄ですね。
とりあえず今はそれで納得しておきましょう。」
「それがいいよ。」
「うん。」
ミザリィ、リスット、エリアルが納得したのを見て、ドリスとディアザも自身の契約を確認してみた。
「なんかとんでもない契約になっちゃったね。
私の方も、ナタリィとリーフェの2人と契約できちゃってるみたいだし。
内容もエリアルたちと、ほとんど同じみたいだね。」
「私の方も同様である。
しかし私たち自身、とても心躍る契約になっているのも事実である。
まぁ若干の不安が残る気もするのであるがな。」
理解の範疇を超えている所為か、2人は完全には納得できていないようである。
そんな2人に契約者たちから、納得するための根拠が挙げられた。
「問題無い。
契約が上手くいったことが何よりの証拠。」
「私もそう思います。
もし私たちに不利益な契約であれば、そもそもマコト様が黙っていませんから。」
「そーそー、何にも問題無いよ!
やっぱりナタリィはわかってるよね。
さっすが私のパートナーだよ。」
「シェイラもさすがです。
マコト父様のことをよくわかっています。」
「まぁナタリィがそう言うなら・・・」
「シェイラが言うのであれば・・・」
半ば無理矢理ではあるが、2人は契約者たちの言葉を信じて、自分たちを納得させた。
そして契約が上手くいったことに気分を良くしたのか、ミザリィがある提案をしてきた。
「じゃぁじゃぁ、早速契約の成果を試してみようよ!」
これにナタリィとシェイラも乗ってきた。
「うん、私も試したい。」
「そうですね。
事前にどのようなことができるようになったのか、知っておく必要がありますからね。」
完全にやる気になっている3人だったが、そこへエリアル、ドリス、ディアザが、ある指摘をした。
「それは別に構いませんが・・・ところでいいのですか?」
「何が?」
「もしかして忘れちゃったの?」
「・・・何を?」
「ずいぶん急いでいたのだと思ったが、もういいのであるか?」
「急いでいた・・・」
「・・・あーっ!(×3)」
契約するためにのんびりとした気分に浸っていたため、3人は自分たちの母親が今まさに出産中であることを完全に忘れていたようだ。
「まずい!まずいよ!」
「すっかり忘れてた。」
「契約の成果を検証するのは後です!
今は急いで戻りましょう!」
「そっ、そうだよね!
でもここからどうやって戻るの!
エリアルたちは知ってる!」
「すみません、私たちでは貴女たちを物質世界へ送ることはできません。」
「ならどうすればいい?」
「それができるのは案内人だけだけだよ。」
「案内人、ということはマコト様にお願いするしかないということですね。」
「うむ、しかし今は・・・」
その場にいる全員が、元精霊神たちを助けるために忙しなくしているマコトの方へと、一斉に顔を向けた。
しかしマコトは既に状況を把握していたようで、そこにはゲートが開いていていた。
そこへマコトが、顔を向けずに声だけ発した。
「俺の方はもう少しかかるから、すまないが先に戻っていてくれ。
今ならギリギリ間に合うはずだ。」
「はいっ!(×3)」
3人はすぐにマコトの意図を察し、自分の契約者と簡単な別れの挨拶を交わした。
「じゃぁエリアル、またね!」
「ええ、いつでも呼んでください。
ミザリィと大切な人たちに、精霊の祝福があらんことを。」
「ドリス、また後で。」
「うん、待ってるよ!
ナタリィと大切な人たちに、妖精の祝福があらんことを。」
「少しの間、お別れです、ディアザ。」
「うむ、だがすぐに再会できるのである。
シェイラと大切な人たちに、幻精の祝福があらんことを。」
別れ際に、エリアル、ドリス、ディアザが、自分の契約者に向かって両手を広げると、その頭上から淡い光が僅かに降り注いだ。
3人は突然のことに少し驚きながらも、視線で感謝を伝えてから、急いでゲートの中へと飛び込んで行ったのだった。




