お節介
しかし話に集中していたサラと他の皆が気づかないうちに、いつの間にかホムラがマコトにまたがって、可愛がられていた。
それに気づいたサラが、慌ててホムラを注意した。
「ちょっ、ホムラさん、何順番すっ飛ばしてるんですか!
ホムラさんの順番はまだじゃないですか!」
するとホムラは名残惜しそうにマコトから離れて事情を説明した。
「・・・いやなに、お主たちが話に集中してしまって、マコトが手持ち無沙汰だったのでのう。
代わりに儂がマコトの相手をしておったのじゃが、何か問題があったかのう?」
確かにサラの指摘通り、ホムラの順番はまだまだ先だ。
だがその手前で順番待ちしていた者たちは、全員サラとの話しに集中していたため、マコトがほったらかしになっていた。
そのためホムラがマコトの相手をしていた、というのがホムラの言い分だ。
これは完全にサラたちの落ち度であり、ホムラはハーレムメンバーとして当然のことをしていたのである。
正論で返されたサラは、何も反論できなかった。
「うぐっ・・・いえ、問題ありません。」
「そうじゃろう、そうじゃろう。
まぁじゃが、お主たちに黙っていた点については、儂にも落ち度がある。
ここはお互い遺恨を残さず、水に流すということでどうじゃろうかのう?」
「はい、それで問題ありません。」
「うむうむ、さすがはレイアの子孫じゃ。
道理を通せば素直に自分の非を認める、中々できることではないぞ。」
「いえ、すぐに感情的になってしまっている時点で駄目です。
私などレイアお祖母様と比べれば、まだまだ未熟です。
もっと冷静に状況判断ができるようにならなければいけません。」
「そう謙遜するでない。
確かにマコトが絡むと感情的になってしまうこともあるじゃろう。
じゃがその若さで、そこまで広い視野を持って自分だけでなく周りの分析まで冷静にできる者など、中々いないと思うがのう。
サラは今の状態でも、指揮官としてこの世界ではトップクラスじゃと儂は思うぞ。」
「そうでしょうか?」
「まぁときには己の未熟を理解することも必要なことじゃ。
じゃがそれだけでは駄目じゃぞ。
己に何ができて何ができず、何が得意で何が不得手か、それをしっかり把握することが大切じゃ。
そしてそれは自分以外の者たちに対してもじゃ。
ただお主は、自分ができないことと不得手なことを、マイナスに捉えすぎておるふしがある。
それが悪いとは言わんが、過度なマイナス思考は、己の限界を狭める原因にもつながる。
その逆もまた然りじゃ。」
「なるほど・・・勉強になります!」
「うむうむ、サラは幼い頃のレイアに似て、素直で本当に可愛いのう。
お主は儂にとっても孫のようじゃから尚更じゃ。」
「ホムラさんはレイアお祖母様の小さい頃を知っているのですか?」
「当然じゃ。
儂はレイアが生まれた現場に立ち会っておったからのう。
レイアとはそのときからの付き合いじゃ。
もちろんおしめを替えたこともあるぞ。」
「そうだったのですね。」
「その儂から見て、今のサラは若い頃のレイアにそっくりじゃ。
それは髪の色だけでなく、顔立ちもじゃな。」
「そんなに似ていたのですか?」
「うむ、まさに瓜二つじゃったぞ。」
「なんか嬉しいです。
私は産みの母を知りません。
ですからそっくりだって言われて、レイアお祖母様との血のつながりがますます実感できます。」
「ふむ、そういえばサラはネーナに拾われたのだったのう。」
「はい、ですが私はもう生みの母に逢いたいとは思っていませんし、既に生きているとも思っていません。
それに私にとっての母様は、ネーナ母様だけですから。」
「じゃがもしかしたらまだ生きておって、お主を探しておるかもしれぬぞ?」
「おそらくそれはないでしょう。
私はネーナ母様が母様であることを知る前に、代表補佐の地位を利用して、連合に住む全てのドワーフ族を調べました。
私はこの髪の色を両親から受け継いだものだと考え、同じ髪の色をしたドワーフ族がいるか、過去にまで遡って調べたのです。
その結果、そのようなドワーフ族は1人も存在しませんでした。」
「他の国にいる可能性もあるのではないかのう?」
「それについてもできる限り調べましたが、噂すら引っかかりませんでした。」
そこまでサラの話を聞いたホムラは、少し考えてから疑問を口にした。
「ふむ・・・それはおかしな話じゃのう。
確かに星力を使えた星神や娘のレイアは、サラと同じオレンジ色の髪をしておる。
それだけの特徴を持った者が存在しておれば、少なくとも噂くらいは聞くものじゃ。
それに儂が知る限り、レイアの娘にオレンジ色の髪をした者は1人もおらぬ。」
「以前レイアお祖母様にお聞きしたところ、末娘様がオレンジ色の髪をしていたと仰っていましたから、私はその子孫なのだと思います。
末娘様ということでしたので、ホムラさんが封印された後に生まれたのではないでしょうか?
ただその末娘様の子供に、この髪の色がそのまま受け継がれたかまではわかりません。
おそらくは隔世遺伝なのではないかと、私は考えます。」
このサラの話に、ホムラはある程度納得しているようなのだが、何故か完全には納得できなかったようだ。
「ふむ、なるほどのう・・・じゃが何か引っかかっておる様な気が・・・っ!?」
・・・・・
※描写を変更
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ホムラが考えを巡らせているところへ、マコトが急に身体を触ってきた。
突然のことに、ホムラは考えに集中できず、マコトに抗議した。
「こっ、こらっ・・・いっ、いきなりっ・・・なっ、何をするのじゃっ・・・マコト・・・」
何とか堪えているホムラに、マコトが口を開いた。
「余計な詮索はそれくらいにしておけ、ホムラ。
サラが困っているだろ。」
「じゃっ、じゃがのう・・・」
「もしサラが本気で生みの親について知りたいというのであれば、俺が調べる。
だがそれはサラ本人が望んだ場合だけだ、それでいいだろ?」
「・・・うむ、そういうことであれば、儂はおとなしく引き下がろうぞ。
サラ、余計なお節介を焼いてしまってすまなかったのう。」
「いいえ、ホムラさんは私のことを想って言ってくださったことですから、もう気にしていません。」
「そう言ってもらえると助かるぞ。
代わりと言ってはなんじゃが、後でレイアの幼い頃の話でもしてやろうかのう。」
「本当ですか!」
「うむ、本人も憶えていない幼い頃じゃから、貴重じゃぞ。」
「はいっ、楽しみにしています。」
「うむうむ、サラは本当にいい娘じゃ。
娘や孫ができると、こんな気持ちになるのかのう。」
そんなことを言いながら、ホムラは温かい目をサラに向けていたのだった。