夢幻の森の試練4
そんな一進一退の攻防が半日ほど繰り広げられることになるのだが、これにより状況が少しずつ変わってきていた。
途中までは全くの互角だったのだが、今では僅かに精霊神たちの方が押しはじめているのだ。
まだ決定的な差ではないので、一気に決着がつくというわけではないのだが、徐々にその差が開きはじめている。
そのためミザリィとナタリィの表情は、相当焦っているのが誰の目にもあきらかだ。
一方シェイラも表情には出していないが、内心では2人と同様に相当焦っていた。
原因はわかっている。
しかしそれは体力的な問題ではない。
全員がまだまだ全力で戦うことに、何の問題もない状態だ。
では何が問題なのかというと、双方の心の差であった。
その理由が、ミザリィ、ナタリィ、シェイラにとって、今回の試練は時間制限がある、ということだ。
それは母親たちの出産に立ち会いたい、という思いからきている。
現状ではまだ時間的に猶予はあるが、これまでの戦いで試練をクリアする条件を満たせるイメージが全く見えてこない。
そうなると当然焦りが生まれ、動きに迷いが生じてしまい、精彩さを欠いてしまう。
一方精霊神たちは何の制限もないため、動きに何の迷いもない。
ただ普段であれば、動きに影響が出るほど焦ってしまうようなことではない。
3人が焦る原因となっている一番の理由は、自分たちが試練中に成長しているにもかかわらず、相手も同等の成長を見せているからだ。
当初シェイラの考えでは、自分たちの姿を写した時点から相手の力は変わらないと思っていた。
つまり試練の目的が、自分たちの現在の力に加え、そこから更なる成長の可能性を示すことだと考えていたからだ。
だが実際には自分たちが成長して見せても、相手も同じく成長してしまい、いつまで経っても互角のままだ。
シェイラは自分の考えが間違っていたと、ミザリィやナタリィが気づくよりもだいぶ前に気づいていた。
どうすればいいのかをずっと考えていたのだが、現時点ではまだ打開策が見つかっていない。
このままではまずいと考え、シェイラは戦いながらミザリィとナタリィに相談してきた。
「ミザリィ、ナタリィ、このままではまずい状況です。
何でも構いません、何か気づいたことや思いついたことはありませんか?」
それに対して、2人の答えはある意味予想通りであった。
「そんなこと言われても、もうどうすればいいのかわかんないよ!」
ミザリィが幻精神の鞭を避けながら答えると、ナタリィが大量の矢を射て、相手に向かって雨のように降り注いでいる間に答えた。
「拮抗する同じ力の持ち主との戦いのおかげで、私たちも成長している。
それはこれまでできなかったことができるようになったことからもわかる。」
ナタリィの言う通り、3人は今回の試練中に、複数属性の同時発動や、属性の融合などができるようになっている。
更には霊神力と妖神力を融合した霊妖神力、妖神力と幻神力を融合した妖幻神力、幻神力と霊神力を融合した幻霊神力の発動にも成功している。
それらの力は、これまでの訓練では一度も成功したことが無かったが、今回初めて発動に成功したのだ。
このことからもわかるように、3人はあきらかに試練中に成長していた。
しかしその全てを精霊神たちは同じ力で迎え撃ったのだ。
そのためシェイラが辿りついた結論は、成長も込みで自分たちの全てを写し取られていた、というものであった。
どうすればいいのか、正直なところ手詰まりとなってしまっている。
それでもシェイラは、自分の根底にあるマコトの教えを忘れずに行っていた。
常に考えることを忘れるな。
これはミザリィとナタリィも同じで、戦いながらもその教えを忘れることはない。
だが今も自分たちが思いつく限りのことを行ってみてはいるものの、成果を全く挙げられていないのが現状だ。
何の進展も見られないまま時間だけが過ぎ、3人はますます焦ってしまうという悪循環にはまっている。
相手も3人の焦りに気づいており、容赦なくその隙をついてきているので、徐々に互いの均衡が崩れはじめているのだ。
そんな中、精霊神が更なる揺さぶりをかけてきた。
「・・・そういえば言い忘れていましたが、私たちとの契約をする場合、最低でも1時間以上の時間が必要となります。」
そこへ妖精神が、禁止事項を先に伝えた。
「言っておくけど、後で契約って言うのは駄目だからね。」
そして幻精神も補足を付け加えた。
「試練をクリアした時点で、強制的に契約を行ってもらうのである。」
話を聞いた3人は更に焦ってしまい、動きにも若干影響を与えていた。
今の3人にとっては、その若干の影響がとても大きかった。
そこから更に8時間ほどが過ぎた頃には、もはや一方的な展開となっていた。
精霊神たちが一方的に攻撃しており、ミザリィ、ナタリィ、シェイラは、防御するだけで手一杯の状況となっているのである。
このままでは試練をクリアするどころか、逆に倒されてしまうだろう。
当然母親たちの出産にも間に合わなくなってしまう。
3人が夢幻の森へと入ってから、現時点で22時間以上が過ぎてしまっている。
契約に1時間以上かかるので、当初予定していた1日以内で試練をクリアするためには、既に残り1時間を切ってしまっているのだ。
この様なことを考えてしまっているため、状況は余計悪化する一方だ。
だがそんな状況の中、ナタリィがある違和感に気づき、攻撃を防御しながらミザリィとシェイラに話しかけてきた。
「・・・おかしい・・・」
「えっ!何、ナタリィ?」
懸命に妖精神の放った矢を防ぎながらも、ミザリィはナタリィの言葉が気になって聞き返した。
「この状況はおかしい、って言った。」
「確かに、ここまで防戦一方になるとは考えてもいませんでした。」
シェイラは間合いに入ろうとする精霊神を鞭で近づけないようにしながら、ここまで試練に苦労している現状のことを言っているのだと思ったらしい。
だがその考えは、幻精神が放った鞭の攻撃を、放った矢で防いでいるナタリィによって否定された。
「そうじゃない。」
「どういうこと?」
「互いの力は互角。
あっちは効率よく、常に最高の力を発揮している。
でも私たちはそうじゃないから、防戦一方になっている今の状況は、結果として仕方がない。
だけどそれならもっと早く倒されているはず。」
そのナタリィの言葉で、シェイラも気づいた。
「・・・つまりナタリィは、私たち3人の力には波があるので、その分を差し引いて考えれば、もっと前に倒されているはず、そう言いたのですね?」
「うん。」
「でもそれって私たちが、常に最高に近い力を発揮できてるからじゃないの?
だから一方的にやられてないんだと思うけど。」
「違う。
その証拠に、今はだいぶ余裕がある。」
「言われてみれば・・・最初と比べて多少楽になっていますね。」
ナタリィに指摘され、シェイラは一時期よりも相手の攻撃を防ぐ苦労が軽減されていることに気づいたようだ。
「私たちと同じ力を持っているなら、これはあきらかにおかしい。」
「確かに。(×2)」
ミザリィもシェイラも、このナタリィの疑問に納得し、深く頷いていたのだった。




