エルフとダークエルフの出産3
エイリはミレーヌのお腹を視ながら、両手に何かの力を集中させた。
そしてそれを、ミーナのお腹の中に向けて放った。
ただ放出したわけではなく、ミーナのお腹の表面をすり抜けて、お腹の中へ伸ばした形だ。
するとミーナのお腹が、ゆっくりと内側から僅かに動き出したのだ。
その様子を、ミィは自身の看破の眼を使って視ていたので、エイリが何を行っているのかに気づき、驚きの表情を浮かべていた。
「まっ、まさかあんなことができるなんて・・・すっ、すごいのよ・・・」
すぐに3人がミィに説明を求めてきた。
「ミィ、貴女には見えているのですか?」
「どういうことなの、ミィちゃん?」
「彼女はいったい何をしているのですか?」
「初めて視る何かの力を使っているみたいなのよ。
そしてその力を使って、お腹の内側に疑似的な手を作り出し、たぶん赤ちゃんの首に巻きついているへその緒を解いているのよ。
それもまるでお腹の中が見えているような動きなのよ。」
そのミィの疑問に、エイリが手を止めずに答えた。
「この力は私の発現者としての力です。
そして私はミィさんと同じ種類の目、看破の眼を持っています。
しかし力を直接視ることができるわけではありません。
私の場合は、あらゆる物体を透視することができる能力です。
今私の目には、ミーナさんのお腹の中にいる赤ちゃんの姿が、はっきりと見えています。
だから正確に施術を施すことができるのです。
通常の医療技術では、この方法を行う場合に、お腹を切開する必要があります。
ただ妊婦への負担がとても大きいため、出来れば行いたくない方法です。
下手をすれば子供が産めない身体になってしまい、最悪母体と赤ちゃんの両方が危険にさらされますから。
ですが、今私が行っている方法であれば切開の必要がありません。
そのため時間も短縮できて、妊婦だけでなく、お腹の中の赤ちゃんへの負担も少なくなります。」
エイリの説明を聞きながらも、4人は自分に与えられた役目を疎かにすることはなかった。
さすがにお腹の中で赤ちゃん以外の異物が動いているからか、ミーナが少し苦しそうにしている。
それでもエイリは手を休めることなく、細心の注意を払いながら最速で施術を続けた。
そして20分ほどが経ち、最初の段階がクリアされた。
「・・・赤ちゃんの首に巻きついていたへその緒は外しました。
このまま赤ちゃんの体勢を変えます。
皆さん、引き続きお願いします。」
「はいっ!(×4)」
そんな中、エイリがミィにある確認をしてきた。
「ところでミィさん、何か視えますか?」
あまりにも漠然とした内容だったが、ミィは自分が何を視ているのかを、そのまま伝えた。
「貴女の力以外は、特に視えないのよ。
それがどうかしたのよ?」
この答えに対し、エイリは同じ内容の質問を、今度は条件を付け加えて確認してきた。
「・・・ミィさん、もう一度聞きます。
本当に私以外の力は視えないのですか?」
「そうだけど、どういうことなのよ?」
「でしたら質問の内容を変えます。
ミーナさんの力はどうですか?」
これに対しエイリは、視たままを答えた。
「意識的に魔力を使っていないから、全身を薄く覆っているのが視えるだけなのよ。
これは通常漏れ出ている分だから、問題無いのよ。」
「ではお腹の赤ちゃんたちはどうですか?」
「そっちも同じなのよ。
全身を薄い魔力が覆っているだけなのよ。」
「本当にそれだけですか?
何か別の力が潜んでいるといったことはありませんか?」
しつこく聞いてくるエイリの意図がわからなかったが、ミィは視たままを正直に伝え、自分の意見も付け加えた。
「それは神力も内在しているから、そっちも見えるのよ。
でも魔力と同じ状態なのよ。
赤ちゃんにしては強い力を持っている方だと思うのよ。
だけど赤ちゃんにしてはというくらいで、許容範囲内なのよ。
それが何だというのよ?」
ミィの答えにエイリは少し考えこんだものの、詳しい内容については答えてくれなかった。
「そうですか・・・いえ、それならいいのです。
ミィさん、引き続きお願いします。」
「・・・わかったのよ。」
ミィはエイリの言葉が気になっていたが、今はそれを聞けるような状況ではないので、とりあえず後回しにしてミーナのお腹を注意深く視続けた。
それから更に20分が過ぎ、エイリがミーナのお腹から手を離した。
「・・・赤ちゃんたちの体勢が正常に戻りました。
お待たせしました、ミーナさん。
もういきんでもいいですよ。
ただ慌てず落ちついてお願いします。
大丈夫、すぐに赤ちゃんが元気な姿を見せてくれますよ。」
「わかったわ・・・んっ!・・・」
ミーナがいきみはじめたのを見て、エイリは一時その場を預けた。
「シーノさん、少しお願いします。
私はアリアさんの様子を見てきますので、何かあればすぐに呼んでください。」
「わかりました。」
エイリはそのままアリアの許へ向かい、シルフィナに状況を確認した。
「シルフィナ、どんな状況・・・どうやら心配する必要は無かったみたいね。」
エイリはアリアのお腹を視て、すぐに逆子だった赤ちゃんの体勢が、正常位置になっていることを確認した。
「ええ、時間はかかったけど、もう問題無いはずよ。
ただアリアさんの体力が激しくて、それが少し心配ね。」
そのままエイリはアリアの様子を見た。
「・・・大丈夫よ、シルフィナ。
イーリスさんやミレーヌさんのおかげで、アリアさんの体力はまだまだ持つわ。
でも心配なら私が代わるけど、どうする?」
「誰に言っているのよ。
当然最後まで私がやるわ。」
「じゃぁお願いね。
でも何かあればすぐに呼びなさいよ。」
「わかっているわ。
そのときはエイリにお願いするわね。
でも今はミーナさんの方を見ていてあげて。」
「そうするわ。」
エイリはそれだけ言い残し、再びミーナの許へと戻って行った。
それから10分ほどが経ち、アリアとミーナ、それぞれの赤ちゃんの頭が見えてきた。
もう少しで赤ちゃんが生まれてくる、そのタイミングで、アイが再び声を発した。
「戻ってきました!」
その声とほぼ同時に、その場にゲートが開いた。
そして中から、ミザリィ、ナタリィ、シェイラの3人が、息を切らせて飛び出してきたのだ。
3人はすぐに周囲を見回して、分娩台にいる母親たちの姿を見つけると、そこへ向かって駆け寄ろうとした。
しかしその前に、イシスが立ち塞がった。
「ちょっと待てお前ら!」
急いでいた3人はその場で足止めされると、すぐにミザリィが文句を言ってきた。
「邪魔しないでよ、イシスさん!」
だがそんなことでイシスがおとなしく引くわけもなく、3人にあることを確認してきた。
「お前らの気持ちはわかるが、その前に確認だ。
こっから先は清潔な奴しか近づけさせねーぞ。
お前ら試練が終わってこっちに戻ってくる前に、ちゃんと風呂入ってきたのか?」
それに対して、ナタリィとシェイラが答えた。
「大丈夫、マコト様に言われて温泉で奇麗にしてきた。」
「それと精霊に頼んで全身を浄化し、清めてもらいました。
マコト様にも問題無いと許可をもらい、ゲートを開いていただいたので大丈夫です。」
3人の言葉と、実際に身体を確認してから、イシスは3人に許可を出した。
「・・・よしっ、だったら通っていいぜ。
早く行ってやりな。」
「ありがとうございます!(×3)」
イシスの許可が下りたので、3人は急ぎながらも慌てず、自分たちの母親の許へと向かったのだった。




