商国での会談7
出てきたのは、先程玉座に吹き飛ばされた黒装束の下敷きになっていたはずのバカ王子だった。
「びっ、ビックリしたんだなん。」
まともにぶつかったはずだが、怪我らしい怪我も見当たらず、ただただ驚いているだけだ。
そんなバカ王子に顔を近づけて、天使たちが同時に質問してきた。
「ねーねー大天使様、これからどうするんだぬん。」
「ねーねー大天使様、これからどうするんだねん。」
しかし突然目の前に現れて声をかけてきた天使たちに、バカ王子はビクビクと怯えながらも強気の姿勢で対応した。
「おっ、お前たちは、何なんだなん!
ぼっ、僕ちんは商王なんだなん!
いっ、一番偉いんだなん!
だっ、誰か、早くこの無礼者たちを・・・」
すると天使たちが、バカ王子の言葉を途中で遮った。
「うるさいんだぬん。」
「うるさいんだねん。」
どうやら喚くのを煩わしく思ったようで、天使たちが軽くバカ王子の両頬を同時に軽く叩いたのだ。
「へぶしっ!?」
それだけでバカ王子の顔が潰れて醜く歪んだのだが、すぐに驚くべきことが起こった。
潰れて歪んだ顔がゆっくりと元の状態に戻りはじめたのだ。
そして10秒ほどですっかり元の状態に戻ってしまった。
「うぴょ!?・・・いっ、痛くなくなったんだなん。」
しかし天使たちはそんなことは一切気にせず、相変わらずバカ王子に向かって声をかけていた。
「大天使様ーっ、早く起きてなんだぬん!」
「大天使様ーっ、早く起きてなんだねん!」
怪我が治ったことでバカ王子のがは大きくなり、更に強気の姿勢で天使たちへ文句を口にした。
「おっ、お前たち、さっきから訳のわかんないこと言うんじゃないんだなん!
こっ、これ以上は、あがっ?あがっ!」
だが途中でバカ王子の口が動かなくなってしまった。
よく見ると、口の中から何かが出ており、それが喋るのを邪魔しているようだ。
それは人の手のようで、口の中からバカ王子の上顎と下顎を掴んでいるように見える。
「ふがっ!ぐがっ!がっ!がっ!がっ!・・・っ!?」
自分に何が起こっているか理解できていないバカ王子は、何とか声を出そうと足掻いていたのだが、それは突然終わりを告げた。
口の中から出てきた手が、そのままバカ王子の顎を強引に、上下に押しのけたのだ。
その結果、口を起点にして無残にも身体が前後に引き裂かれてしまい、そのままバカ王子は絶命してしまった。
全身から血を吹き出すバカ王子の身体からは、代わりに1人の男が出てきた。
男は天使たちと同じく白い腰みのを着けており、耳は長く尖っていた。
「ひぃっ!?・・・なっ、なんや・・・あっ、あれは・・・」
遠くからその一部始終を見ていたエナンは、義理とはいえ弟の無残な死を目の当たりにして、ひどく怯えながら呟いていた。
しかし誰からも答えは返ってくることはなく、代わりに本人たちが勝手に話はじめた。
男は目を開けると、勢いよく白い羽を広げて身体についたバカ王子の血を吹き飛ばしながら、最初に文句を口にした。
「いったい何ですか、騒がしいですのん。」
そんな男の姿を見て、天使たちが男の周りを回りながら喜んでいる。
「大天使様ーっ、やっと起きたんだぬん!」
「大天使様ーっ、やっと起きたんだねん!」
一方で大天使と呼ばれた男は、大きな欠伸をして眠そうにしながら不機嫌な様子だ。
「ふわぁぁぁぁぁ・・・お前たちでしたかのん。
それで、何故大天使であるポクチンを起こしたのですかのん?
もしかしてこの身体でのポクチンの役目が終わったのですかのん?」
そんな大天使に、天使たちは周囲を回るのを止めて理由を説明した。
「違うんだぬん!」
「違うんだねん!」
「生意気な奴がいるんだぬん!」
「生意気な奴がいるんだねん!」
「だからポクは、ぶっ殺して玩具にしたいんだぬん!」
「だからポクは、とっ捕まえてペットにしたいんだぬん!」
途中まで同じだった天使たちの説明が本題で分かれたので、ここでようやく黙って聞いていた大天使が口を開いた。
「お前たち、そんなくだらないことでポクチンを起こしたのですかのん?」
更に不機嫌になった大天使だが、天使たちは真剣に否定した。
「くだらなくないんだぬん!」
「くだらなくないんだねん!」
「あいつらポクを蹴り飛ばしたんだぬん!」
「あいつらポクを殴り飛ばしたんだねん!」
この天使たちの話を聞いて、大天使の表情が驚きに変わった。
「それはお前たちに攻撃を当てたということですかのん?」
「そうなんだぬん!」
「そうなんだねん!」
「でも痛くなかったんだぬん!」
「でも痛くなかったんだねん!」
自分たちの脅威ではないと主張する天使たちだったが、大天使の興味は変わらなかったようだ。
「ほう・・・それでも興味深いですのん。
下級とはいえ、お前たちも天使の端くれですのん。
それで、お前たちに攻撃を当てたのは誰ですのん?」
「あいつなんだぬん!」
「あいつなんだねん!」
そう言った天使たちは、それぞれミレーヌとリンを指差している。
大天使も2人に視線を向けると、全身を舐め回すように見つめた。
その気持ち悪い視線に、2人は強い嫌悪感を抱いたようで、不快な表情を浮かべている。
「・・・なるほど、あいつら魔神力を使えるようですのん。
それならお前たちに攻撃を当てられたのも納得ですのん。
しかしこの時代に2人も使い手が現れるとは、珍しいですのん。」
どうやら大天使は、見ただけで相手の力が何なのか、ある程度わかるようだ。
「それだけじゃないんだぬん!」
「それだけじゃないんだねん!」
「他の奴らもポクのゴーレムを倒したんだぬん!」
「他の奴らもポクのゴーレムを倒したんだねん!」
天使たちの話を聞いた大天使は、更に続けてその場にいる全員へと視線を向けた。
「ほう・・・では他の者はどうですかのん・・・これはすごいですのん。
あっちもそっちもこっちも、魔神力の使い手ばかりですのん。」
そのまま大天使が順番に視線を向けていくと、急に途中で動きを止めた。
そこには護衛のガーネットとセーラ、そして護衛対象のエステル、クロエ、カーラ、エナンがいた。
「しかしそこの6人は駄目ですのん。
2人はそれなりの力を持っているようですが、たいしたことないですのん。
残りの4人は何の力も持たないカスですのん。
残りはどうですかのん・・・」
再び視線を動かしていくと、今度は一変して興味深そうな顔で動きを止めた。
「・・・おや?・・・おやおやおや!
これはこれは、まさかこのような場所で会うとは思わなかったですのん。
いったい何をしているのですかのん、ハイエルフ?」
そう言って大天使が問いかけたのは、イーリスだった。
しかもその視線は、これまでで一番下卑たものだ。
そんな不快な視線を向けられながらも、イーリスは質問に質問で返した。
「・・・お前は私のお母様を連れ去った天使ですか?」
自分の質問に答えなかったイーリスに対し、大天使は不機嫌になるどころか楽しそうに納得して答えた。
「なるほどなるほど・・・母親を探して、どこかでポクチンたちのことを知った、ということですかのん。
まさかこのような場所で邂逅するとは、まさに運命ですのん!」
興奮している大天使の態度に苛立ったイーリスが、強い命令口調で言葉を発した。
「いいから質問に答えなさい!」
しかし逆効果だったようで、大天使はますます興奮している。
だがそれが功を奏したらしく、今度は答えが返ってきた。
「のふふふふっ、気が強く気高いところまでそっくりですのん。
ますますポクチン好みですのん。
この素晴らしい出会いに、ポクチンはとても気分がいいですのん。
だから特別に教えてあげますのん。
・・・そうですのん。
ポクチンがお前の母親を回収したんですのん。」
その答えにイーリスは、射抜くような殺気を込めて大天使を睨みながら一言だけ呟いた。
「・・・そう・・・」
そんなイーリスの視線に興奮のあまり気付いていないのか、大天使は目を閉じて当時のことを思い出しはじめた。
「あの時もポクチンは運命の出会いを感じたですのん。
あの場にいたお前以外の全員を殺されたくなかったら、おとなしくついてくるように言ったポクチンに、お前の母親は何て言ったかわかるかのん?」
「・・・」
大天使に問いかけられたものの、イーリスは無言で睨み返すだけだった。
すると勝手に大天使が自分で答えを口にした。
「なんと自分の首に短刀を突き付け、逆にポクチンに対して、こう要求してきたんですのん!」
『私を殺されたくなかったら、何もせずにただ案内しなさい。
もし案内の途中で、この国にいる貴方以外の私を含む全員に少しでも触れたら、すぐに私を殺します。』
「そんな気が強く、気丈で、気位が高く、気高い姿に、ポクチンはとても高揚したんだのん!
こいつがこれから自分の身に起こることに、どこまで堕ちずに抗え、いつまでその表情を保てるか、とのん。
そう考えたら楽しみで楽しみで仕方なかったのですのん!
だからポクチンは何もせずに、希望通りにしてあげたのですのん。
そんなあいつも、今ではポクチンたちの母体になるため、日々頑張っているのですのん。」
ここまで話を聞いて、イーリスは大天使に根本的な疑問をぶつけた。
「お前たちの目的は何!
何故ハイエルフだけを攫うの!」
これに対して大天使から返ってきた答えは、自分たちの正当性を訴えるものであった。
「それは違いますのん。
別にポクチンたちは攫ってなどいないですのん。
ポクチンたちは自分たちの所有物を回収しているだけですのん。
当然の権利なのだから、お前に怒られる筋合いなど、どこにもないですのん。」
当然この答えは看過できず、イーリスは猛反発してきた。
「所有物を回収、ですって・・・お前たちに何の権利があるというの!」
そんなイーリスの姿を楽しそうに見ながら、大天使の口から衝撃の事実が告げられた。
「のふふふふっ、あるに決まっているですのん。
お前たちハイエルフは、ポクチンたち天使のために作られた存在ですのん。」
これにはさすがに驚いたのか、イーリスは一瞬唖然としてしまっていたが、すぐに復帰した。
「っ!?・・・作った・・・どういうことなの!」
イーリスに説明を求められた大天使は、少し考えたものの、意外にも回答を口にした。
「・・・まぁいいですのん。
少しだけ教えてあげますのん。
お前たちハイエルフは、ポクチンたち天使が進化するために必要な母体ですのん。
ハイエルフは生まれてから、地上に漂う神力を少しずつ無限に吸収して、一部溜め込みますのん。
そのまま成長して子供を産むと、それまで溜め込んだ神力が封印を解きはじめ、母体に相応しい身体へと変質しはじめますのん。」
「母体?神力を吸収?封印?変質?」
話を聞いて混乱するイーリスに構わず、大天使は話を続ける。
「そして子供を産んでちょうど10年が経つと、完全に封印が解け、身体の変質も完了しますのん。
そのタイミングでポクチンたちは母体を回収し、熟成を行うのですのん。」
言葉を濁す大天使に我慢できず、イーリスが問い詰めてきた。
「お前たちはいったい、お母様に何をしているの!答えなさい!」
そんなイーリスの姿を楽しそうに見ながら、大天使は説明を続けた。
「のふふふふっ、概要だけ教えてあげますのん。
この段階では、母体としての身体は完成していても、力が満ちないことには使えないですのん。
そのため回収した母体は、更に10年かけて真の母体へと熟成させるのですのん。
ただこれまでの母体は、熟成させている途中で精神が壊れてしまって、つまらない仕上がりだったのですのん。
しかし今回の母体は、熟成中も母体として使っている間も、長く楽しめそうですのん。
やはり壊れた従順な母体より、反発する壊れていない母体の方が飽きないですのん。」
何をされているか詳細はわからないものの、少なくともその熟成というのが母親を害するものであることをイーリスは理解した。
そして苦悶の表情を浮かべながらも、核心へと迫る質問をぶつけた。
「くっ、お母様・・・何なの・・・お前たち天使が求める母体は、いったい何をさせられているの!」
そのイーリスの表情に満足したのか、恍惚とした表情を浮かべながら、大天使は機嫌よさそうに答えた。
「のふふふふっ、母体、それはポクチンたち天使を、更に上位の存在へと高めるために必要なのですのん。
全ての天使は例外無く、生まれてすぐは最下級に位置しますのん。
しかしポクチンたち天使は、母体へ擬似回帰し、新たに生まれ変わることができますのん。
それを何度も何度も何度も行うことで、やがてそこにいる一般の天使になりますのん。
更に才能ある天使が延々と繰り返せば、ポクチンのような偉大な大天使へと進化することができるのですのん!
はぁ・・・ポクチンも早く、あの至福の時を再び味わいたいですのん。
だからお前も安心するといいですのん。
いずれお前が子供を産んだ後は、ポクチンたちが回収して、その体を母体として有効活用してやるですのん。」
大天使の話を聞いたイーリスは、膝から崩れ落ちてしまった。
「そっ、そんな・・・私たちハイエルフはそんなことのために生まれたというのですか・・・」
イーリスがハイエルフの生い立ちについて苦悩していると、突然大天使が鋭い視線を向けてきた。
「ただ、1つ気になることがあるですのん。
お前が、どこでポクチンたちの存在を知ったのか、ですのん。
ポクチンたち天使については、厳重に秘匿されてきたのですのん。
可能性としては、そこの半端な出来損ないから、とも考えたのですがのん・・・」
そう言って大天使が見下すような視線を向けた先にいたのはククリだった。
「っ!?・・・どっ、どういうこと、かしら?」
ククリは大天使が向けた視線に、圧迫と恐怖、それと嫌悪を感じていた。
ただ圧迫と恐怖を感じたのは、ククリ本人も理由はわかっている。
大天使が自分よりも遥かに上の力を持っていると感じているからだ。
だが何故初めて会った大天使に、ここまでの嫌悪感を抱くのか、それだけがどうしてもわからなかった。
その理由はすぐに判明した。
「・・・やはり違いますのん。
自分がどのような存在かもわかっていない、無知で愚かなハーフエルフ如きが、ポクチンたちのことを知っていたとは思えないですのん。
かつて廃棄されたはずの失敗作が生き残っていたと聞いたときは驚きでしたのん。
これまでは、それなりの力を持っていたから好きに泳がせてましたのん。
ですがポクチンたちの存在を知られてしまっては、今度こそ廃棄するか、再び実験体とするしかないですのん。
しかし何も知らずにポクチンたちに利用されているお前を見ているのは、のふふふふっ、とても笑えましたのん。」
大天使は、あきらかにククリのことを馬鹿にしている。
だが逆にそのおかげで、ククリは恐怖よりも怒りが勝ったようだ。
「っ!お前たち天使とやらが、私の何を知っているというの!
そもそも何故初対面のお前にそこまで言われる必要があるの!」
このククリの言葉に、最初は笑いを我慢していた大天使が、盛大に笑いだした。
そしてククリにある事実を告げた。
「のふっ、のふっ、のふふふふっ・・・まだわからないのですかのん。
ポクチンは、かつてお前に種族名を与えてやったのですのん。」
「何、ですって・・・」
「確かあのときポクチンはこう言ったですのん。
『お前はエルフではなく失敗作のハーフエルフだ』、とのん。」
醜い笑顔でそう言った大天使の顔を見て、ククリはかつて自分が捕らわれていた時に、同じことを言ったエルフの顔を思い出した。
それは小太りのエルフだったのだが、何故かククリには、あのときのエルフと大天使の表情が重なって見えた。
そしてある結論へと至る。
「まっ、まさか・・・お前は・・・」
「やっと思い出したのですかのん。
そうですのん。
かつてお前を使って様々な実験を行っていたのはポクチンたちですのん。」
「でっ、では、かつて私を捕らえていたのは・・・」
「そう、ポクチンたち天使ですのん。
お前はハイエルフを作る過程で誕生した失敗作ですのん。
しかしお前が別の姿で現れたときは、見当違いのエルフ族へ憎悪を向けていたので、すごく笑えたですのん。
いつ気づくかとずっと楽しみにしていましたが、まさかここまで気付かないとは思わなかったですのん。」
自分の本当の生い立ちを知り愕然とするククリだったが、すぐにある疑問が浮かんだ。
「わっ、私が・・・作られた存在・・・でっ、でも、どうして私の正体がわかったの!
私の偽装は完璧だったはずよ!」
大天使はククリのことを見て、馬鹿にしたように笑いながら答えた。
「のふふふふっ、やはりハーフエルフは、馬鹿で愚かな失敗作ですのん。
どれだけ強力な幻術でも、細胞は誤魔化せないのですのん。
お前の髪や爪などから採取した細胞で、ハーフエルフであることは最初からわかっていたのですのん。
あらかじめ駒の素性を探っておくのは常識ですのん。
そんな簡単なことにも気づかないとは、本当にハーフエルフは使えないですのん。」
ククリはこれまでタマモの偽装に絶対の自信を持っていたため、自分の痕跡を消すようなことは一切行ってこなかった。
しかし大天使に現実を突きつけられ、これまでの自分が如何に過信して無防備だったかを思い知らされてしまった。
「そっ、そんな・・・」
落ち込むククリの姿を見て大天使は満足すると、すぐに興味を失った。
「のふふふふっ・・・お前をどうするかは、後で考えますのん。
そんなことよりも、今はポクチンたち天使のことがどこから漏れたかですのん。
ただその情報源がどこの誰なのか、場合によっては非常に面白いことになりそうなのですのん。
さぁ、答えるのですのん!」
大天使は再びイーリスに回答を迫ってきた。
だがその目が見ているのはイーリスではないようで、ここにはいない別の誰かのようだ。
するとイーリスが懇願するように、再び質問に質問で返してきた。
「・・・その前に教えて・・・お母様は無事なの!」
そんなイーリスの必死な表情を見た大天使は、自分が優位な立場であると確信し、優越感から答えてしまった。
「・・・まぁそれくらいならいいでしょうのん。
確かポクチンが最後に会ったのは・・・半年ほど前だったのん。
そのときはまだ自分を保っていたのん。
だから次に会ったときにどのような反応を返してくれるのか、とても楽しみですのん。」
「そう・・・」
イーリスが安堵した表情を見せると、間髪入れずに大天使が話を戻した。
「では次はポクチンの質問に答えてもらうですのん。
ほらっ、早く答えるですのん。」
大天使が回答を迫ると、イーリスの態度が急変した。
立ち上がったイーリスの表情は、逆に大天使を見下したものに変わっていたのだ。
それは言葉にも表れていた。
「・・・ならお前に聞くことは、もう何もないわ。
そして私は、お前の質問に答える気など最初から無いのよ。
ほんと、バカで助かったわ。」
「なっ!?お前はポクチンを騙したのですかのん!」
「騙すも何も、私は一言も、お前の質問に答える、などと言った覚えは無いわよ。
お前が勝手に勘違いして、ベラベラとその軽く緩い口で話してくれただけじゃない。
まぁ事前に聞いていた話と同じだったし、ついでにお母様の状態も確認できたわ。
だからもうお前は用済みよ。」
ようやく今までのイーリスの態度が全て嘘だと理解した大天使は、怒りのあまり顔が真っ赤になった。
「ぐのののののの・・・ポクチンを馬鹿にして・・・怒りましたのん!
お前はポクチンが直接指導して、従順な母体にするですのん!」
それまで隠していたのか、大天使はイーリスを威圧しながら、全身から力を放出しはじめた。
その圧倒的な力に、ククリとジェーンは恐怖のあまり動けなくなったようだ。
だがイーリスは涼しい顔で、大天使の言葉を蒸し返した。
「あら?従順なのは嫌いじゃなかったのかしら?」
この言葉で、更に大天使の怒りは高まることとなった。
「またポクチンを馬鹿にして・・・お前は絶対に許さないですのん!」
そこへ、それまで静観していた天使たちが、大天使に物怖じせずに近づいてきた。
「大天使様、大天使様、やっちゃうんだぬん?」
「大天使様、大天使様、やっちゃうんだねん?」
どうやら大天使の手前、天使たちも我慢をしていたようだ。
やっと大天使がやる気になったので、天使たちも今か今かと指示を待っている。
そんな天使たちの姿を見て少しだけ落ち着きを取り戻した大天使は、冷静に指示を出した。
「・・・お前たち、そこのハイエルフはポクチンが相手をしますのん。
他はお前たちが相手をするのですのん。
それとあそこの6人は使い道が無いから、殺してもいいですのん。
残りは実験体にするので、全員生きたまま捕らえるですのん。
それさえ守れば、後は好きにして構わないですのん。」
「バラバラに斬り刻んでもいいんだぬん?」
「グチャグチャに潰してもいいんだねん?」
「対象者が生きてさえいれば好きにしていいですのん。」
「やったーっぬん!」
「やったーっねん!」
「さあ、ポクチンたちの恐怖を植え付け、一生逆らえないように徹底的に痛めつけるのですのん。」
「了解なんだぬん!」
「了解なんだねん!」
大天使の指示と許可を受け、早速天使たちはどうするか、呑気に相談をはじめた。
「じゃぁポクは、そっちの6人を殺して遊ぶんだぬん!」
「じゃぁポクは、6人以外を適当に弱らせて捕らえるんだねん!」
「ポクたちを邪魔する奴がいたらどうするんだぬん?」
「適当にゴーレムを使って分断すればいいんだねん。」
「でもさっき簡単にやられちゃったんだぬん。」
「だったら残りのゴーレムも使うんだねん。」
「それだけじゃ心許ないから、とっておきのゴーレムも出すんだぬん。」
「そうするんだねん。」
「来るんだぬん!」
「来るんだねん!」
天使たちが呼ぶと、床から複数のゴーレムがせり上がってきた。
先程倒した黒装束と同じ大きさの、白装束のゴーレムが10体。
様々な大きさと形状の神獣型ゴーレムと魔獣型ゴーレムが、それぞれ9体ずつ。
そして最後に、天井に頭が付きそうなほどの巨体で、見た目は完全に巨人族と同じゴーレムが2体。
合計30体のゴーレムが現れた。
「準備完了なんだぬん。」
「準備完了なんだねん。」
「ゴーレムたち、突撃なんだぬん!」
「ゴーレムたち、突撃なんだねん!」
天使たちが攻撃命令を与えると、ゴーレムたちは一斉に襲い掛かってきた。
しかしそれよりも先に、ティリアとシェイラが既に動いていた。
2人はいつの間にか玉座の間の角へと移動し、ゴーレムたちが動き出すよりも先に、床に両手をついて準備していたようだ。
「はっ!(×2)」
そして2人の気合いと同時に、玉座の間全体、床、壁、天井の全てを、巨大なゲートが包み込んだ。
次の瞬間、玉座の間にいた全員が、別の場所へと強制的に移動させられたのだった。




