商国での会談5
すぐに約束の時間になり、ランが回答を迫ってきた。
「・・・時間です。
どうするか決めましたか?」
「ええ。」
返事を返したと同時に、ククリの身体から何かが抜け出てきた。
するとそれまで獣人だった姿が変化した。
「・・・それが貴女の本当の姿だったのですね。
しかしその姿は・・・」
変化したククリの姿は、エルフ族ほどではないが耳が少しだけ長く尖っており、エルフ族といわれても違和感のない姿だ。
その答えは本人の口から語られた。
「・・・私は人族とエルフ族の混血であり、両方の特徴を半分ずつ受け継ぐという非常に稀有でありながら、どっちつかずの中途半端な存在です。
そんな私を監禁していたエルフ族たちは、かつてこう呼んで蔑みました・・・ハーフエルフ、と。」
ククリは説明してくれたものの、その表情は苦虫を噛み潰したかのようだ。
そのためランは、ククリの種族的なことにはそれ以上触れず、もう1つの疑問に話を変えた。
「そうだったのですね・・・それで、そちらの方は?」
ランが尋ねたのは、先程ククリの身体から出てきて今は隣にいる、身体が半透明に透けている人物のことだ。
その姿は変化する前のククリの姿によく似ている。
するとその人物が前に進み出てきて、何かを訴えようとした。
「・・・」
しかし声を発するでもなく、身振り手振りをするわけでもなく、ただジッとランを見つめるだけだ。
だがあきらかに何かを伝えたいという想いだけは伝わってくる。
そしてそれはククリも同じようだ。
「この娘とは意思疎通ができません。
ですから私はこの娘を、タマモ、そう名付けて呼んでいます。
だけどいつも私を助けてくれる、私の唯一の理解者よ。
私はこの娘がいたから、エルフ族の監禁から逃げ出すことができ、その後の追跡をかわすことができたの。」
「それは先程までの獣人の姿になることで、ハーフエルフであることを隠すことができたから、そう言いたいのですね?」
「その通りです。」
「なるほど・・・と、かつての何も知らない私でしたら納得していたでしょう。
しかしククリ、その認識は間違っています。」
「どういうことかしら。
意味がわからないのだけど。」
「貴女がそう思うのも無理はありません。
私もいきなりこのようなことを言われれば、貴女と同じ反応をするでしょう。
ですが私がこれからする話は、間違いなく事実なのです。」
「事実?・・・ラン、貴女いったい何を知っているというの?」
「単刀直入に言います。
ククリ、貴女はかつて貴女を監禁していたという者たちの思惑通りに踊らされています。
今の貴女は、その者たちに都合がいい駒となっているのですよ。」
ランの話を聞いたククリは、次のように解釈した。
「・・・それは組織の上層部がエルフ族とつながっていて、私の行動はエルフ族の利益になっていると言いたいのかしら?
確かに組織には怪しい所があるけど、それはありえないわね。
組織にとっても上層部にとっても、エルフ族はかつて起こった戦争の時代から敵よ。
その証拠に組織の前身となった、かつて邪神が先頭に立った戦争で、私たちの陣営は多くのエルフ族たちを殺したわ。
それこそ性別や年齢、身分にかかわらずね。
もしつながっているというのなら、そんなことにはならないはずよ。」
だがこのククリの解釈を、ランは全面的に否定した。
「いいえ、そもそもその認識が間違っています。
先程も言いましたが、貴女がエルフ族だと思っている相手は、全く別の種族です。
ですから貴女のエルフ族への恨みは、根本的に間違っているのですよ。」
当然ククリが納得するわけも無く、強い口調で反論してくる。
「何度も言わせないで!
そんな種族は絶対にいないわ!
・・・もういい、そこまで言うのなら、まずは力を示しなさい!
覚えているはずよね、私たちのルールを。」
「互いの意見が合わず、どちらも譲らないときは、力でねじ伏せた方の意見を採用する、でしたね。」
「もし貴女が私に勝つことができたなら、私もおとなしく話を聞きましょう。
ですがそこまで言うからには、決定的な証拠くらいあるはずですよね?
証拠がないなら、いくら貴女の言葉でも私は信じませんよ!」
今すぐ証拠を用意してみせろと言うククリに対し、ランはあっさりと了承した。
「わかりました。
証拠については問題ありません。
では時間も惜しいので、早速はじめましょう。」
ランがあまりにも自信満々に答えたので、ククリは訝しんでいた。
しかしすぐにそのことは頭の隅に追いやり、今はランの目を覚まさせるために、戦いへと意識を集中した。
「・・・いいでしょう。
タマモ!」
名前を呼ばれると、タマモは再びククリの身体へと吸い込まれていった。
しかし今度はククリの姿は変わらず、尻尾が3本生えた状態に変化しただけだ。
そこから更にククリが叫んだ。
「餓者髑髏!鎌鼬!雷獣!・・・憑依変化!」
すると3本の尻尾が光り、タマモと同様にククリの身体へと吸い込まれていったのだ。
そして尻尾が消えた代わりに、ククリは全身に吹き荒れる風と雷を纏い、手には1本の白い刀を握っていた。
「・・・待たせましたね。
これが今の私に出せる最強の力を発揮できる姿です。
奇しくも風雷族である貴女と同じ、風と雷の力を使いますが、実戦でこの姿を見せたのは貴女が初めてですよ。
ですから最初に忠告しておきます。
手加減できないので、無理だと思ったら早めに降参してください。
私も親友を殺したくはありませんから。」
ククリは自分の力に自信を持っているらしく、早々に降伏勧告をしてきた。
これは友人に対するククリの優しさから出た言葉なのだろうが、それをランは丁重に断った。
「なるほど、確かに先程の本気と比べて、強い力を感じます。
ですが心配には及びません。
それでも今の私に遠く及びませんから。」
「ずいぶんと余裕なのね。
でも、その余裕がいつまで続くかしら。」
「戦えばすぐにわかりますよ。
それと1つ訂正しておきます。」
「訂正?何かしら?」
「私が貴女の相手をするのは偶然ではありません。
何故なら同じ様な力を持つ相手の方が、実力差がハッキリすると考えたからです。
だからキリには無理を言って、私が貴女の相手をすることを譲ってもらったのですから。」
「っ!?まさか、キリもそちらについているというの!」
「ええ、そうです。
今もこの場に・・・おや、噂をすれば・・・どうやらあちらもはじまったようですね。」
ランが無防備に視線を向けた先へククリも警戒しながら視線を向けると、そこにはジェーンと対峙するキリの姿が見えたのだ。
「あれは・・・確かにキリのようですね。
ということはキラも・・・」
「ええ、既に軍国にはいません。
いるのはただの人形です。
今は組織から離反し、私たちと共に行動しています。」
「そう・・・ラミだけでなくキラまで・・・」
「ですからククリたちも・・・」
話の流れでランはククリを説得したが、そう上手くはいかなかった。
「悪いけど、その話は私に勝ってからにしてもらうわ。」
結局説得には失敗し、ククリとの戦闘は回避できないようだ。
しかしランは余裕の表情を崩すことなく、ククリに先手まで譲ってきた。
「そうでしたね。
では、はじめましょうか。
まずはククリから、お先に攻撃をどうぞ。」
ここまで余裕を見せられると、さすがに馬鹿にされていると感じたらしく、ククリはランの希望通り先に動いた。
「その余裕が、貴女の命取りよ!」
ククリは纏った風の力で身体を前に勢いよく押し出して一瞬で最高速へ加速した。
更に纏った雷で身体の反射速度や関節の稼働速度を上げながら一気に自分の間合いにランを捉えると、手に持った刀を正面から振り下ろした。
この段階でランは全く動いておらず、ククリは自身の勝利を確信していた。
そしてランの左肩から袈裟斬りしようとしたのだが、何故か途中でククリの刀が止まってしまった。
その原因が、いつの間にかランが左手だけで刀をつまんで受け止めていたからだ。
動きが全く見えなかったククリは、何が起こったのかすぐには理解できず、思わず動きを止めてしまった。
「もう終わりですか?」
しかしこのランの言葉で我に返り、ククリは次の攻撃を繰り出す。
「っ!まだです!」
その言葉通り、ククリが纏っている風と雷が、刀を通してランへと襲い掛かる。
通常であれば雷で感電して動けなくなった相手を、追撃する風で全身を斬り刻むのだが、ランは涼しい顔で平然としている。
「見くびられたものですね。
この程度の風と雷では、私を傷つけるどころか、何の影響も与えることはできませんよ。
ククリ、本当の風と雷が融合した嵐の力を見せてあげましょう!」
この言葉と同時に、ランは左手でつまんでいた刀を、指の力だけで折った。
「なっ!?くっ!」
これまで折れたことが無い、自信が作り出せる最硬度の刀をいとも簡単に折られて驚いたものの、ククリはすぐに立て直して一度ランと距離を取るために後ろへ飛び退いた。
「逃がしません。
はっ!」
しかしランはピッタリとついてきて、嵐神力を込めた右拳をククリの腹部へと叩き込んできた。
「ぐはっ!」
その勢いで更に後方へと吹き飛ばされるかと思われたが、何故かククリはその場に留まり、代わりに憑依していたタマモが身体から弾き出されてしまった。
同時に纏っていた風と雷、持っていた白い刀も消えてしまった。
ランは攻撃の手を止めてククリの身体を支えながら、先程とは逆に降伏を迫ってきた。
「私の勝ちです。
潔く負けを認めてください。」
だがククリは引き下がらなかった。
「・・・まっ、まだよ・・・わっ、私は・・・負けるわけには・・・いかないのよ・・・おっ、お願い・・・タマモ・・・もう一度・・・」
必死に手を伸ばして呼び掛けるククリだったが、何故かタマモは動かなかった。
「どっ、どうしたの・・・タマモ・・・」
そんなククリとタマモの間に、魔物たちを倒し終えた、ミザリィ、ナタリィ、シェイラの3人が立ち塞がった。
「それは止めておいた方がいいと思うよ。」
「じゃっ、邪魔を・・・するな!」
「そうはいかない。」
「おそらくですが、彼女、タマモは、このままだと消えてしまいますよ。」
「なっ、何を言って・・・」
反発するククリだったが、次のミザリィの言葉を聞いて反応が変わる。
「たぶんだけど、タマモって精霊に近い種族なんじゃないかな?」
「なっ、なん、だと?」
「だからそれを確認する。」
「どっ、どうするつもりだ・・・」
「簡単です。
わかる者に確認させるのですよ。」
するとまず3人は、自分の腕輪に向かって話しかけた。
「リスット、力を貸して。」
『わかった。』
「リーフェ。」
『まっかせて!』
「頼みますよ、ファム。」
『はい、お任せください。』
すぐにパートナーたちが答え、3人は腕輪をつけた腕を前に突き出しながら名前を呼んだ。
「おいで、エリアル!」
「ドリス、来て。」
「来なさい、ディアザ!」
その呼び出しに応えて、精神世界から物質世界へ、3人が召喚されて顕現した。
「エリアル、ここに。」
「ドリスちゃんだよ!」
「うむ、ディアザである!」
3人は自分たちを召喚した契約者と向き合い、用件を尋ねてきた。
「どうしましたか、ミザリィ?」
「ねぇエリアル、前に言ってた行方不明って、あの娘のことじゃない?」
ミザリィがタマモの方を指差すと、3人は同時に振り向き、その姿を見て驚きの声を上げた。
「あーっ、怪精姫ちゃんだーっ!」
「うむ、間違いないのである。」
「やっぱり。」
「ですが相当無理をしたのか、今にも消えそうなほど衰弱しているようです。
一度精界へ連れ帰り、回復させる必要があります。」
「おーい、怪精姫ちゃーん。
私たちのことわかるかーい?」
ドリスが呼びかけるが、怪精姫、タマモは、何も反応を返さなかった。
「・・・反応が無い。」
これにはディアザが困った顔をしている。
「まずいのである。
この状態で連れ帰るのは難しいのである。」
「どうしてですか?」
「物質世界である現世と精神世界である精界を行き来するには、とてつもない力が必要になります。
通常は私たちのように、契約者である貴女たちの力を利用して境界を越えます。
しかし怪精姫本人にほとんど力が残っておらず、そちらの契約者はあまりにも未熟なため、このままでは境界を越えることができません。
無理に越えれば、存在そのものが消滅してしまうでしょう。
ですがそれはこのままこの場にとどまったとしても同様です。」
かなりの深刻な事態に、どうすれば助けることができるのか、早急に話し合われた。
「それって大変じゃん!
何か方法は無いの!」
「もちろんあるよっ!
でもそのためには、そっちの契約者、更にナタリィたち3人とそのパートナーに頑張ってもらう必要があるんだ。」
「どうすればいいの?」
「簡単である。
力が足りないのであれば、補充してやればいいのである。」
「それだけでいいのですか?」
「ディアザ、それでは説明が足りませんよ。
正しくは、そちらの未熟な契約者殿の足りない力を、貴女たち3人とそのパートナーに補ってもらうのです。
それによって、怪精姫へ力を補充することができ、尚且つ物質世界と精神世界の境界を越える手助けができる方を、今この場に召喚して顕現していただくのです。」
「召喚?」
「そうだよ!
怪精姫のことを助けられるのは、同じ怪精で怪精姫よりも巨大な力を持つ、怪精神様だけだからね!」
「そんなことが可能なのですか?」
「あくまで一時的な措置である。
だが問題もあるのである。」
「問題って?」
「見たところそちらの契約者殿は、怪精姫とは仮契約状態です。
本契約をしていない状態で怪精姫が精界へ戻ってしまうと、仮契約は解除されてしまいます。
再び契約をするためには、相応しい力を身につけ、かつての貴女たちと同じように試練をクリアする必要があります。」
「それなら問題無い。
訓練すればどうにでもなる。」
「それだけじゃないよ。
皆がそこの仮契約者に力を補充しても、本人たちがそれを受け入れないと怪精神様を召喚できないんだよ。
あくまで怪精神様を物質世界に呼び出せるのは、怪力の継承者であるそこの仮契約者だけだからね。」
「となると後は彼女次第ということですか。」
全員が一斉にククリを見た。
そしてランが代表して、ククリの説得をはじめる。
「ククリ、皆さんは貴女たちを助けたいと申し出てくれています。
ここはどうかタマモのために、一時的に手を取り合って協力しませんか?」
これにククリは猛反発した。
「ふっ、ふざけないで・・・だっ、誰がエルフ族の言うことなど・・・信じるものですか!」
やはりエルフ族との遺恨は、そう簡単に払拭できるものではないらしく、ランは別の方向から話を進めた。
「ならこのままタマモを見捨てるのですか?」
さすがに危険な状況の友人の名前を出され、ククリは少しだけ迷った。
しかしすぐにランの言葉を拒否して、別の方向へと話を転換した。
「そっ、それは・・・でっ、でも貴女たちの言ってることが本当かなんてわからないじゃない!
私とタマモを引き離すための方便かもしれないのよ!
そう簡単に、はいそうですか、と言って受け入れることなどできないわ!」
「ククリ、貴女はあれを見ても、まだ私たちが嘘をついていると言うのですか?」
ランがタマモを見ながらそう言ったので、ククリもそちらへ視線を向けた。
そこではタマモの身体がより一層透けてきており、徐々に薄くなっていた。
そのため先程の説明が全て真実であると、疑いようが無くなったのだ。
「そっ、そんな・・・嫌ーっ!駄目、消えないでタマモ!
お願い、タマモを助けて!
そのためだったら何でもする!
私の命なんて惜しくない!」
さすがにこの状況では他に手は無いと考えたらしく、ククリはなりふり構わず助けを求めてきた。
そんなククリへ、ランは優しく言葉をかけて落ち着かせた。
「冷静になってください、ククリ。
時間は十分あります。」
この言葉だけでククリは冷静さを取り戻し、自分が何をすべきか聞いてきた。
「ごっ、御免なさい・・・ありがとう、もう大丈夫よ。
それで、私は何をすればいいのですか?」
すぐにエリアルが具体的に何をすべきか説明してくれる。
「ではまず、ミザリィ、ナタリィ、シェイラの3人は全力で力を発動し、契約者殿に力を送り込んでください。
私たち3人が怪力への変換を補助しますので、契約者殿はできるだけ強力な怪神力を発動してください。
その怪神力を呼び水にし、私たちが3人が怪精神様を召喚します。」
今度は疑うことなく素直に聞き入れ、ククリは皆に助力を求めてきた。
「わかりました。
皆さん、今はどうか、タマモを助けるために、私に力をお貸しください。
お願いします。
その後でしたら、私にできることであれば、いかなる償いもします。」
ククリの言葉に、ミザリィはどうしたものかと悩んでいる。
「うーん・・・償いって言われてもなぁ・・・」
そのミザリィの姿に、助力を得られないかもしれなと不安になったククリは、具体的に自分が差し出せるものを提示した。
「貴女方の奴隷になれというのであれば、一生この身を捧げます!
死ねというのであれば、喜んでこの命を差し出します!
他にも貴女方が望むことで私ができることならなんでもします!
ですからどうか、どうかタマモを・・・」
必死に頭を下げて懇願するククリだったが、ナタリィから思わぬ答えが返ってきた。
「当然絶対に助ける。
だけど何もする必要は無い。」
「えっ?・・・でっ、ですが私は、貴女方に・・・」
まだククリは半信半疑のようだ。
そこへシェイラがククリの手を握り、皆の意見を代弁した。
「私たちもタマモを助けたい。
その想いは貴女と同じです。
それにそもそもが誤解なのです。
ククリさんも真実を知れば、エルフ族に対する考えを改めてくださるはずです。
ですから私たちからのお願いは、どうかランさんの話を聞いてほしい、ただそれだけです。」
このシェイラの言葉を聞き、ククリは周囲の皆を見回した。
すると他の皆も無言で頷いていた。
それを見てククリもシェイラの言葉を受け入れた。
「皆さん・・・わかりました、お約束します。
全てが終わりましたら、必ずランの話を最後まで聞くと。」
「ええ、お願いします。」
話がまとまったので、すぐにエリアルが皆に指示を出した。
「それではすぐにはじめましょう。
3人は契約者殿の背中に手を置いて、全力の力を送り込んでください。」
「任せて。」
「わかった。」
「はい。」
3人がエリアルの指示通りにしたのを確認すると、続いてククリへと指示が出された。
「・・・問題ありませんね。
次に契約者殿は怪神力を発動してください。」
「わかりました・・・はっ!
どっ、どうでしょうか・・・」
「強さは問題ありません。
後は必要量をこの場に漂わせるだけです。
もうしばらくそのまま放出していてください。」
「わっ、わかり、ました・・・」
ククリがきつそうな表情をしながらも、これでタマモが助かるならばと内心安堵していると、ここで予想外の事態が起こった。
バカ王子の護衛を命じていたはずの黒装束5人の内4人が、その命令を無視して召喚を阻止しようと、ゆっくりと動き出したのだ。
黒装束たちが命令無視をするのはこれが初めてで、ククリは慌てて再度命じた。
「なっ、何を、しているのです・・・おとなしく、その場で、護衛、してなさい・・・」
しかし黒装束たちはククリの命令に従わず、その歩みを止めることは無かった。
「そっ、そんな・・・どっ、どうして・・・」
ククリが不測の事態に心を乱しかけていると、それをランが声をかけて落ち着かせた。
「ククリ、貴女はこちらに集中してください。
あれは私が対処します。
絶対に貴女たちの邪魔はさせません!」
「ラン・・・お願い・・・」
「任せてください!」
ランが黒装束たちの前に立ち塞がると、そこへティリア、ノワール、エリスもやってきた。
「別に私一人でも問題無いのですがね。」
「そんなこと言わないで、私たちにも譲ってよ。」
「そうですわ、抜け駆けはいけませんわ。」
「1人1体。」
「まぁ今回は仕方ありませんね。
皆さんにもお譲りしましょう。」
「じゃぁそういうことで、とっとと片付けるわよ。」
「あれ程度に手こずるわけにはいきませんわ。」
「当然。」
「では皆さん、いきますよ!」
「うんっ!」
「はいですわっ!」
「わかった。」
ランの号令で、4人は一斉に黒装束たちへと攻撃を放った。
それは先程ランがククリに放った攻撃よりも強く速く重い一撃で、黒装束たちは元いたバカ王子の元へと吹き飛ばされてしまった。
横目で見ていたククリは、その圧倒的な力に圧倒されていた。
「すっ、すごい・・・」
そんな中、怪神力の発動を続けるククリだったが、ある違和感に気付いた。
バカ王子の護衛に残っていた黒装束の残り1人が、いつの間にかいなくなっていたのだ。
「・・・いない・・・どこに行ったの!はっ!」
慌てて周囲を探すと、黒装束はすぐに見つかった。
既にククリの頭上まで近づいてきており、回避不可能な状況だ。
「嫌、止めてーっ!」
絶望の表情を浮かべながら叫ぶククリだったが、他の皆は黒装束に見向きもせず、作業に集中していた。
その理由は単純だ。
ここにはもう1人、黒装束と対峙した4人と同等の力を持つ者が護っているからだ。
「私を無視しないでほしいわね!」
その人物、イーリスは、ククリに襲い掛かろうとしていた黒装束を蹴り飛ばし、バカ王子がいる方向へと吹き飛ばした。
「何だなん?うぴょ!?」
最初から狙ったのか、それとも偶然か、黒装束は真っすぐ玉座へと向かって行き、そこへ呑気に座っていたバカ王子へと直撃した。
「さぁ、今の内よ!」
「はっ、はい・・・あっ、ありがとうごいます・・・」
「どういたしまして。」
ククリは集中を切らさずにそのまま力を発動し続け、そしてとうとうそのときがやってきた。
「・・・何とか必要な量に届きましたね。
では全員その状態を維持したままでお願いします。
後のことは我々にお任せください。」
「おっ、お願い、します・・・」
「ドリス、ディアザ、はじめますよ。」
「いっくよーっ!」
「うむ、開くのである!」
3人が手をかざすと、次の瞬間、空間に裂け目ができ、そこから1人の女性が現れたのだった。




