忘れられていた最重要事項
※運営に削除されてしまいましたので、第16章から新たにアップしなおします。
祝福の儀が行われた日から、既に3日が経っていた。
マコトたちは相変わらず、各国を巡っては日課の訓練を行うといった日々を送っていた。
新しく加わったフェウィンとフィーアもすっかり馴染んでおり、皆との関係も良好だ。
そんないつもと変わらない雰囲気が漂う中、あることが切っ掛けで、皆の様子が急変することになる。
それは朝の訓練を終えた後の、温泉で汗を流しているときに出た、マコトが呟いた一言が切っ掛けであった。
「・・・そういえばそろそろだな。」
温泉にのんびり浸かっていたところ、突然そんなことをマコトが言い出した。
だが幸せそうに寄り添っていたミザリィとナタリィには、マコトが何を言ったのかハッキリとは聞き取れなかったようだ。
そのため気にせずに、まったりと温泉に浸かりながら、自分たちの順番を楽しんでいた。
しかし順番待ちしていたシェイラとノワールにはマコトの言葉が聞こえたようで、気になって詳しい説明を求めてきた。
「マコト様、何がそろそろなのですか?」
「私も気になりますわ、マコト兄様。」
その発言を聞いて、マコトは驚いた表情になっていた。
「何言ってるんだシェイラ、本当に忘れたのか?」
マコトがあまりにも驚いた顔でそう言ったので、シェイラは必死に考えを巡らせたのだが、何も思いつかなかったため、申し訳ない気持ちになってしまった。
「・・・申し訳ありません、マコト様。
すぐには思い出せません。」
「別に謝る必要はない。
と言うか、謝るなら俺ではなくダークエルフ族の皆にだぞ。」
新たなキーワードが出てきたことで、シェイラは何かを思い出しそうになった。
「一族の皆に、ですか?
言われてみれば・・・何かとても大切なことを忘れているような・・・」
シェイラは必死に思い出そうとしているが、すぐには思い出せないようだ。
そこでマコトは、自分に寄り添っているミザリィとナタリィにも話を振ってみた。
「ミザリィ、ナタリィ、2人は忘れてないだろ?」
「・・・えっ?」
「どうしたの、マコト様?」
だが2人はマコトに寄り添うことに全力で浸っていたため、またも話を聞いていなかったようだ。
そのためマコトは、もう一度2人に話の内容を伝えた。
「そろそろあれが近い、と言う話だ。」
「あれって・・・何だけ?」
「・・・何かあった?」
どうやらミザリィとナタリィも忘れているようで、マコトは呆れていた。
「お前たちもか・・・そんなことではミーナに怒られるぞ。」
「そんなこと言われても・・・」
「思い出せないものはしょうがない。」
「でもお母様が関係しているって何だろう?
うーん・・・思い出せないよ。
ナタリィ、何か思い出した?」
「・・・私もわからない。」
2人は考えてみたものの、どうしても思い出せなかった。
それを聞いていたサラが、我慢できなくなって話に割り込んできた。
「ミザリィはともかく、ナタリィやシェイラも忘れるなんて、皆さん悲しむわよ。」
「私はともかくって・・・じゃぁサラはマコト様が言ってる、あれ、が何なのか知ってるの?」
「当然よ。」
「だったら教えて。
あれ、って何?」
「しょうがないわねぇ、あれ、っていうのは・・・」
サラはやれやれといった表情で答えようとしたのだが、それを阻むかのようにシェイラが大きな声をあげた。
「あっ・・・あーーーっ!」
いきなりの大声にビックリしたノワールは、すぐその理由を尋ねた。
「シェイラ、突然大きな声を出して、いったいどうしたというの?」
だがサラはそのシェイラの反応だけで理解した。
「どうやらシェイラは思い出したようね。」
「・・・わっ、私としたことが、こんな大事なことを忘れていたなんて・・・」
サラの予想通り、シェイラは、あれ、が何なのかを思い出したようで、すぐにミザリィとナタリィが答えを求めてきた。
「もしかして思い出したの?
私にも教えてよ!」
「それでシェイラ、あれ、って何?」
2人に急かされ、シェイラは隠すことなく、あれ、について答えた。
「マコト様が仰っていた、あれ、というのは・・・」
「・・・あれ、というのは・・・(×3)」
ミザリィ、ナタリィ、ノワールの3人が注目する中、シェイラが答えを口にした。
「私の母様であるアリアを含むダークエルフ族のほぼ全員。
それとミザリィとナタリィの母様のミーナさんと、サラの母様のネーナさん。
この皆さんの、出産予定日ですよ!」
しかしこの答えを聞いた3人の反応は、真っ二つに分かれていた。
「えっ?・・・いやいやそれは無いでしょ。
だって何日か前にお母様に逢ったけど、まだ全然お腹が大きくなってなかったもん。」
「私も覚えてる。
それにまだ5ヶ月くらいだから、後5ヶ月は生まれない。」
「私としたことが、皆さんがエルフ族やダークエルフ族だということをすっかり忘れていましたわ!
それから計算すると、確かにもうすぐ予定日ですわ!」
この反応対してサラは、まずはノワールに対して感心していた。
「さすがはノワール、元魔王だけあるわね。
他種族のこともよく勉強しているわね。」
「当然ですわ。」
そして残る2人に対しては呆れていた。
「それに引き換え・・・ミザリィ、ナタリィ、貴女たち本当にエルフ族なの?」
「えっ?私何かおかしいこと言った、ナタリィ?」
「別におかしくないと思う。」
だがミザリィとナタリィは、自分たちの何が悪いのか、全くわかっていないようだ。
「子供の頃にちゃんと習ったはずよ。
エルフ族と他種族の違いについて。
その中に妊娠と出産についてもあったはずよ。」
「うーん・・・習ったけ、そんなの?」
「たぶん寝てたか遊んでたとと思う。
つまらなかったり興味が無い習い事は、いつもそうしてたから。」
「じゃぁ知らなくて当然だね。」
「そういうこと。」
「いやぁー、原因がわかってスッキリしたよ。」
「同感。」
全く反省の色が無い2人の態度に、サラは呆れ果てていた。
「貴女たちねぇ・・・はぁ、まぁいいわ。
シェイラ、このサボリ魔たちに教えてあげて。」
そのため説明する気力も起こらず、面倒くさくなってシェイラに丸投げした。
「わかりました。
いいですか、ミザリィ、ナタリィ。
エルフ族やダークエルフ族は、受精してから出産するまでの期間が、平均的な種族と比べて半分ほどなのです。
しかもお腹に変化が起こるのは出産の数日前で、これは胎児がそれまで蓄えた栄養を、一気に吸収して成長すると言われています。
ですから今頃皆さんのお腹は出産の準備が進み、大きく膨らんでいるはずです。」
それを聞いて、口では感心しているものの、2人はあまり興味が無いようだ。
「へぇー、そうだったんだぁ・・・」
「知らなかった。」
「・・・それだけ、ですか?」
「何が?」
「他に何かある?」
「だって皆の母様が出産するんですよ!
それはつまり、私たちにとっては妹が生まれる、ということじゃないですか!
更に父親はマコト様なんですから、同じハーレムメンバーである私たちにとっては、娘同然でもあるんですよ!」
このシェイラの話を聞いて、2人は想像してみた。
「妹・・・」
「娘・・・」
すると2人の表情があきらかに変わった。
「・・・どうしようナタリィ、私、妹と娘が同時に生まれてくるって聞いたら、急に緊張してきちゃったよ!」
「・・・大丈夫、ミザリィ・・・私も緊張してきた。」
「やっぱり出産祝いに何か贈らなくちゃいけないよね?」
「でもこういうときに何を贈ればいいの?」
「そんなのわかんないよ!」
「・・・困った。」
2人はどうしていいのかわからず、急にアタフタしだしたのだった。