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模擬戦をすることになった


「いったいどうなってるんだ?」


 気合い充分で魔物の群れを迎え撃とうと集まった冒険者達は若干疲れた顔をしている。

 1時間近く何もすること無くこの場で待ちぼうけになっているのだ、所謂“待ち疲れ”というやつである。


「このままこうしてても仕方ない。 デイビス!この状況をブラウ子爵に報告してきてくれ! 他の者は、右半数は陣営に戻り待機! 左半数はこの場に残り魔物が現れたら陣営に報告するとともに応戦! 最初は30分で交代、その後は1時間毎に交代とする!」


 そうラルゴが指示を出す。元貴族で高ランク冒険者のラルゴは今回の殲滅戦において冒険者達の取り纏め役を任されているらしい。

 魔物が現れない以上、全員でこの場に留まっている意味も無く、かと言って全員で陣営に戻ってもし魔物の襲来があれば対処に遅れることになる。その為に人員を半数に分け見張りと休憩を交代ですることにしたのだ。


「すまねえな、達哉。 冒険者としてやっていくなら少しでも多く戦いを経験しておいたほうがいいと思って連れて来たってぇのに、まさか魔物が1匹も現れねぇとはな。 で、だな、ただ待ってるだけじゃあ面白くねぇ。 どうだ?模擬戦でもやらねぇか?」


「は? いやいやいやいや! 真剣で模擬戦て! 下手すりゃ怪我じゃ済まんでしょ!?」


 ここに居る全員が魔物と戦うために本物の武器を持っているのだ。模擬戦で命を落とすようなことになっては笑い話にもならないと拒否しようとするも、ラルゴはニィと笑って後ろにいる冒険者に何やら指示を出す。

 すると数人の冒険者が様々な長さの棒切れを持ってきた。


「心配しなくても本物の武器は使わねぇよ。 ちょっと不格好だがこいつを使う。」


 そう言いながらラルゴは長めの棒切れをブォンと風を切る音を鳴らし一振りした。


 そういえば30分くらい前から何人かの冒険者がラルゴと共にどこからか拾ってきた木を削っていたのを思い出す。


「さっきから何かやってるなぁと思ってたら、こういう事だったのか。」


「まぁそう言うな! みんな魔人を倒した達哉の実力を知りたいそうだ。 付き合ってくれるよな?」


 呆れながら言う達哉に対して悪びれた様子も無く答える。


「とりあえず用意できた数はそんなに無えから5人だな! 達哉と模擬戦したいやつは居るか?」


「あれ? 拒否権無し!?」


 ラルゴは達哉の抗議の声を無視するかのように模擬戦の相手を選んでいる。そうして選ばれた4人とラルゴが武器代わりの棒切れを削った木剣を持って達哉の前に並ぶ。


「って、ラルゴもやるのか!?」


「当然だろ? 目の前であんなすげぇ戦いを見せられたんだ。 1戦交えたくなるのは当然だろう。」


「その前に、先ずは俺から相手してもらおうか!」


 悪ガキのようにニカッと笑うラルゴの前に1人の冒険者が進み出る。


「C級冒険者のライゼスだ! お前みたいなのが魔人を倒したなんざ信じられねぇなぁ! 漂流者かなんだか知らねぇが、化けの皮剥がしてやるぜ!」


 そう言いながら敵意丸出しで睨みつけながら木剣を構える。

対するように達哉も木剣を拾い正眼に構える。

(何?こいつ。やたらと睨んでくるんですけど?)


 2人が対峙したのを見てラルゴが開始の合図を出す。


「はぁぁぁぁ!」


 開始の合図と共にライゼスが駆け出し、上段から打ち下ろしてくる。柳で受け身体を左へ逃がしながら剣先を下げるとライゼスの剣が勢いそのままに流される。そのまま剣先を回し左水平斬りでライゼスの背を打つと2メートルほど吹き飛び地面に倒れ伏す。

 ライゼスの着ているレザーアーマーの背中には木剣の跡がくっきりついていた。


「お、おい! 大丈夫か!?」


 倒れまま動かないライゼスを心配して、見ていた冒険者の1人が近付いていき倒れているライゼスの顔を覗き込む。


「き、気絶してる!?」


 その言葉に他の冒険者達がざわめく。ものの数秒でC級冒険者であるライゼスを倒したのだからムリも無いだろう。


「勝者!達哉!  すまんがライゼスに治癒魔法をかけてやってくれ。」


 ラルゴがそう言うと気絶したライゼスを2人の冒険者が担いで運んでいく。



「相手の攻撃を避けたり受け止めるんじゃなく、流しながら反撃に繋げるとはなぁ! 東方のブレードマスターみてぇな動きだったぜ!」


「ブレードマスター?  それより、あいつめっちゃ睨んできてたんだけど、何で?」


 “東方のブレードマスター”たぶん侍みたいなのが居るんだろうと予想がつくのでスルーし、ライゼスが敵意丸出しだったのが気になりラルゴに尋ねる。


「なんだ、お前気付いてなかったのか? 昨日女に囲まれてた時、お前のことを睨んでた奴が居たろ?」


「………………ああ! あいつがそうだったのか!? 暗かったから顔がよく見えんかったし、覚えてなかったわ。」


 大抵のどうでもいい事は寝て起きたら忘れるタイプの達哉に恋敵を打ち倒す!と勇んで出て来たのにあっさり倒された上に覚えてられてもなかったライゼス君、哀れである。


「さて、次は………ユーゴ!お前が行くか?」


「ええ!? 俺っすか!?」


 ラルゴに指名されたユーゴという冒険者は190センチ近くある大柄な男で長い棒切れを持っていた。持ち方からすると槍かハルバードをメイン武器にしているのだろう。

 だが、先の模擬戦でライゼスがあっという間に倒されたのを見て怖じ気付いているようだ。


「怖じ気付いたのなら下がってなさい。 私が先にやらせてもらうわ。 いいわよね?ラルゴ。」


 そう言いながら女冒険者が歩み寄ってきた。

長い銀髪をポニーテールに纏めた長身の美女がそこに居た。グラビアモデル並のスタイルにライトアーマーを纏ったその姿は冒険者と言うより女騎士と言う方が似合っていそうだ。


「おいおい、リョクレイ。 お前さんが先に出ちまうとこの2人が余計尻込みしちまうだろ。」


「いいじゃない、C級のライゼスがあっさりやられたんじゃ、D級のその2人じゃどのみち相手にはならないでしょ? それに、貴方も強い相手とやりたいでしょう?」


 そう言いながら達哉に顔を近付けてくる。達哉より背が高いので屈むかたちになるとライトアーマーに包まれた豊かな双丘の谷間が嫌でも視界に入ってくる。

 慌てて視線を外し後退ると、その様子が可笑しかったのかクスクスと笑っている。


「案外可愛い反応するのね。初心なのかしら?」


 その言葉に若干ムッとする。40過ぎで独り身だとは言え彼女が居たこともあればそれなりに経験もあるので女性に耐性が無いわけではない。なので余裕のあるというとこを見せるためこう切り返す!


「いやいや、いきなりお姉さんみたいな美人さんに近付かれたら誰だってドギマギしますよ。」


 そう言うや否やラルゴが急に首根っこを引っ摑み達哉をリョクレイから引き離す。


「あいつを口説こうがお前の勝手だけどよ、一つ言っておく。 リョクレイも冒険者装ってるが俺と似たような立場だぜ。 いや、俺以上に面倒かもな。」


 そう耳打ちしてきた。そんな2人をジト目で見ながら

「女性の前で内緒話なんて、余り感心しないわね、ラルゴ?」


「ん? ああ、そ、そうだな! うん、悪かった!」


 そう言いながら視線を泳がせる。


「彼女は俺と同じB級冒険者のリョクレイだ! 達哉の相手に不足は無いだろう。 やるか?」


「……………別に口説いてたワケじゃないからな。」


 そう小声でラルゴに言い、木剣を構える。


「あら、やる気になってくれたのね? 嬉しいわ。」


 そう言いリョクレイは微笑みながら木剣を構えた。


「これはあくまで模擬戦だ、達哉もリョクレイも致命傷になるような攻撃はするなよ?  では、始め!」


 ラルゴの開始の合図と共にリョクレイが1歩踏み込と次の瞬間、爆発的な勢いで達哉に迫る。間合いに入ると首を狙って剣を横薙に振るってきた。先ほどのライゼスとは比べ物にならない鋭さだが狙いが正確なだけに受け易い。

 だが、受けた瞬間剣を引き、突きを放ってきた。身を翻し突きを避け、空を突いた剣を叩き落とそうと剣を振り下ろすが、リョクレイは突いた腕を振り下ろし身体を回して後ろ回し蹴りを放つ。

 ダッキングで蹴りを避け、そのまましゃがみながら後埽腿で軸足を狩りとろうとするも足首の力だけで飛び上がり達哉の脚を躱すと剣を真っ向に振り下ろしてくる。

 達哉も迎え撃つように剣を振り上げ、両者の剣が打ち合うと、急拵えの木剣では2人の力に耐えきれず砕けてしまった。

 木剣が砕けると同時に2人は一旦距離を取る。流石に木剣が砕けたのだから模擬戦も終わりかと思っていたらリョクレイが再び間合いを詰め突きを放ってきた。


「うえぇぇぇ!? 素手になってもまだやるの!?」


 リョクレイの突きや蹴りを受け捌きながら達哉がちょっと情けない声を上げると、手を止めたリョクレイは恍惚とした表情を浮かべ

「まだまだ物足りないわぁ。 格闘技もイケるんでしょう? さぁ!いくわよ!」


 そう言い再び攻めてくる。

 

 美人だけど戦闘マニアとか残念すぎるでしょ~!


 このままじゃいつまでも終わらないと思い放ってきた右突きを中段受けで受けながら1歩踏み込み腕を絡め取ると右半身を引きながら脚を狩りリョクレイを引き倒し地面に組み伏せた。

 

「そこまで! 達哉の勝ちだ!」


 ラルゴが慌てて達哉の左腕を掴み止めに入る。

リョクレイを組み伏せた達哉の左手が貫手になっていたからだ。


「おいおい、達哉よぉ。 それはシャレになんねぇぞ。」


「ん? ああ、つい勢い余った。 止めてくれて助かったよ。」


 ラルゴに掴まれていた左腕をプラプラ振りながら組み合ってたリョクレイの手を引き一緒に立ち上がる。


「リョクレイも済まなかったな。 大丈夫か?」


「ええ、問題無いわ。 それに、楽しい闘いが出来て満足よ。 また相手してくれるかしら?」


 微笑みながら右手を差し出してくるリョクレイに対して、どうせならもう少し色気のあるお誘いの方がいいなぁと思いつつ差し出された手に応え握手を交わした。


 ふと周囲を見渡すと何やら冒険者達がザワついている。


「嘘だろ!? あの戦姫に勝っちまったぞ!」


「リョクレイさんがあんな奴に負けるなんて………ウソだろぉ!?」


「って言うか、あれ誰だ?」


「お前知らないのか? あいつは漂流者だよ。 昨日の魔人を倒したのもあいつらしいぜ。」


「マジかよ! 何の冗談だ!?」


 2人目の魔人の出現により折れかけた冒険者達を立ち直らせるため、ブラウに“英雄”と担ぎ上げられた達哉だが、昨日の今日でまだ知らない者も数名居るみたいだ。


「いったい何をやっているんですか!?」


 達哉とリョクレイの模擬戦が終わり冒険者達が騒いでいると、魔物が現れない事を伝えられたブラウが騎士と共にやって来た。



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