いきなり別世界!?
怒号と獣のような雄叫びが飛び交い、金属同士がぶつかり合う。
斬られ貫かれ肉が潰れ骨が折れ砕ける生々しい音と共に悲鳴や断末魔が至る所から聞こえてくる。
目の前に映画で見た中世の戦争のような光景が繰り広げられていた。
ただ一つ、違いがあるとすれば、人対人の戦いではなく人対化け物の戦いだという事か。
いや、もう一つ違いがあった。炎の球や氷の刃、雷撃が人側の後方から化け物に向かって炸裂したのだ。
「……………………は?」
そのあまりの現実離れした光景に唖然として間の抜けた一言しか出なかった。
兼島達哉41歳、幼少期に見たカンフー映画の影響を受けアクション俳優を夢見て地方から上京したものの、そんなに甘い世界ではなく、それでもと諦めが付かずいつの間にかアラフォーになってしまっていた。
後ろ髪を引かれつつもいつまでも夢にしがみついてはいられないと諦め、次の生き方を模索しながらとりあえず生きる糧を得るための仕事へと向かっている最中の事だった。
いつもの事と慣れた街中の雑踏が急に静かになった。
不振に思い周囲を見回そうとした次の瞬間、一斉に照明が消えたかのような闇に飲まれ足場が奪われたような浮遊感に襲われた。
落ちてるのか浮いてるのか前後不覚になりながらどのみち無事じゃ済まないか!? と思ったら何事も無くいつの間にか地に足を付け、やたらファンタジー色の強い戦闘が目の前で繰り広げられていた。
状況が飲み込めず呆然としていると戦線から離脱した3人の兵士らしき男女が気付き慌てた様子で駆け寄ってきた。
「なんだってこんなとこに一般人が居るんだ!?」
「周囲の村は避難済みだったはずよ?」
「自殺願望でもあんのかぁ? それにしたってもうちっと死に場所選べってんだ!」
戦闘が繰り広げられている場に丸腰で呆然と立っていた達哉に困惑しながら声をかけてくる。
「え? あ? 自殺願望!? 無い無い、死ぬ気なんかあるわけない!」
「だったら何でこんなとこで武装もしねぇでボサッとつったってんだぁ?」
「よせラルゴ! 彼がなぜここに居たのか追求は後だ。俺達は武器の補給のため陣に下がる、死ぬ気が無いなら着いて…………っく!」
戦線から離脱したとは言え立ち止まって話ていた4人を格好の餌食と見たのか3メートルはあろう体格の豚顔の化け物が2体、棍棒を振り上げ襲いかかってきた。
3人は丸腰な上、鎧の類いも装備していない達哉を守るように前に出る。
見れば3人は穂先の折れた槍や刃の欠けた剣を持っていた。武器の補給のため下がるにしても自陣へ辿り着くまで身を守るため捨てずにいたのだろう。
だが相手が3メートル近い大きさの化け物では分が悪い。
ラルゴと呼ばれた男は2メートルの体格で刃が欠けたとは言え分厚い刀身を盾に棍棒の1撃を何とか食い止めた。
だがもう1人の男は180センチで女は170センチあるかどうかだ。
万全な状態ならなんとかなったかもしれないが、疲弊した上不意を突いて3メートルの巨体から放たれた1撃を武器で防いだものの勢いを止めることが出来ずに2人とも吹き飛ばされてしまう。
「きゃぁ!」
「ぐはぁっ!」
「ミーシャ! デイビス!」
吹き飛ばされた仲間に気を取られた隙を突かれ組み合っていた化け物の押し蹴りを喰らいラルゴが大きく吹き飛ばされた。
女は打ち所が悪かったのか気を失い男2人も先の戦闘での疲労もあってか受けたダメージの所為で直ぐに立ち上がる事が出来ない
そんな3人に、正確には女であるミーシャに豚顔を醜く歪め2体の化け物がゆっくりと近付いていく。
「くっ、奴らに捕まった女は殺されるより悲惨な目に合う! た、頼む! ミーシャだけでも連れて逃げてくれ!」
傷付き倒れながらも仲間であるミーシャを化け物の嬲り者にされるのが耐えられないとデイビスは達哉に懇願する。
だが、達哉は何を思ったのかミーシャの元にではなくデイビスが落とした穂先の折れた槍を拾いながら「見ず知らずの俺を助けようとした君ら見捨てるのもなぁんか寝覚め悪いし、なんとかしてみるわ」
そう言いながらミーシャに迫る化け物の前に立ち塞がる。
「ばっ、オークジェネラル相手にお前が敵うわけない! ミーシャを連れて逃げてくれ!」
だが達哉はアクション俳優を目指す過程で覚えた棒術を思い出しながら穂先の折れた槍を振り「やっぱり、身体が思った以上に動く……いけるんちゃう?」と呟くと訝しげに達哉を見るデイビスに対し「逃げたとこで結局追いつかれるだろ。ならここで始末した方が…………いい!」
そう言いながらオークジェネラルに向かって行く。
対するオークジェネラルは向かってくる相手を叩き潰そうと棍棒を振り下ろす!
だが達哉は走る勢いのまま左にずれながら棍棒を回避し槍で棍棒の背を叩く。
振り下ろす勢いに槍で叩かれた勢いが加わり棍棒が地面を叩きつけ砕け散る。
「な!」まさかの光景にデイビスが驚愕の声を上げる。
いくら3メートルの巨体を誇るオークジェネラルの膂力でも己の武器を地面に叩きつけて砕け散らせるなど考えられない。
つまり達哉の1撃がそのあり得ない光景を作り出したということだ。
その証拠にオークジェネラルは想定外の出来事に体勢を前に大きく崩し地面に手を尽く。そうなれば自分の倍近くある巨体の顔が下がり達哉はそのままオークジェネラルの顔面を槍で打ち据える。
穂先の折れた槍では打撃程度で終わると思った1撃はオークジェネラルの顔面を粉砕して頭部の上半分を吹き飛ばしたのだ。
そのままオークジェネラルはその巨体を地面に倒れ伏す。
「は?」デイビスは砕け散った棍棒の時とは違う間の抜けた声を出す。
穂先を失い殺傷力が著しく落ちた槍、もはやただの棒で3メートルの巨体を誇る豚顔の化け物、オークジェネラルを倒せるなど誰が想像できようか。
それをやった当人である達哉も予想以上の光景に「え?うそぉ、マジ!?」と軽く動揺するも、次の瞬間ニヤリと獰猛な笑みえを浮かべ次の獲物を視界に捕らえる。
もう1体のオークジェネラルもあり得ない光景に思考が追いつかないのか驚愕の表情をはりつかせたまま暫く固まってしまっていた。
その好機を見逃すワケも無く、達哉は走る勢いのままラルゴの落とした剣を拾い上げる。
ラルゴが持てば長剣に見えるが170センチ程の達哉が持つと大剣ほどの大きさの剣は刀身の分厚さもありかなりの重量がある。
にも関わらず達哉は走る勢いを落とす事無く剣を横薙に振り抜くとオークジェネラルの片脚を切断した。
体勢を崩すまいと棍棒を地に突き倒れるのを耐えるも達哉が踵を返し跳躍しながら上段から剣を振り下ろす。
とっさに棍棒で防御するもそのまま棍棒を叩き斬り勢いを落とす事無くオークジェネラルの頭部から腹までを両断に叩き斬った。
その余りの常識外れな光景を一部始終見ていたデイビスは勿論、途中から見ていたラルゴも声を発することが出来ず驚愕を顔に貼り付け口をパクパクさせていた。
「2人共、立てるか? とりあえず気絶してるその娘、ミーシャだっけか? また化け物が襲って来る前に早く安全なとこ連れていってやらないとな」
そう達哉が声をかけるとようやく正気を取り戻しデイビスが恐る恐る尋ねてくる。
「お、お前は一体何者なんだ?」
「ん? さっき自分で言ってたろ? ただの一般人だよ」
「そ、そ、そんな一般人が居るかぁぁあぁぁぁ!」
と、ラルゴが声を張り上げる
「と、とにかくミーシャを連れて陣へ戻ろう。武器も無い状態で敵に襲われれば対象できないしな。ラルゴ、ミーシャを頼む」
「…………おう、任せろ」
納得のいかない様子だが仲間の安全を優先してラルゴはミーシャを担ぎ上げ陣へと足早に向かい、その後をデイビスと達哉も歩き出す。
「自己紹介がまだだったな、僕はデイビスだ。あのデカいのがラルゴで担がれているのがミーシャ、邪神の放った魔物の群れの殲滅戦に駆り出された冒険者だ。」
「ん? あぁ……俺はか……………達哉だ。それにしても、魔物に冒険者ねぇ…………夢、じゃなく現実だけど…………現実離れしすぎだろ」
と自分の名前を告げた後独り言を呟きながら何事かを思案する。
そんな達哉を見ながら詳しい話は陣に戻ってから、いや、殲滅戦が終わってからでもいいかと思い、目前に見えてきた陣地へと足を早める。
世界観も設定も登場人物も固まってないけど、悩んで止まってちゃはじまらない!
ってなワケで書いてみました。
着地点は俺にも分からん( ̄。 ̄;)