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勇者育成プロジェクト  作者: コーモリさとう
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三十六話 迷宮周辺掃討部隊

思いのほか間が空いてしまいました。

次はもう少し早く更新しようと思います




できれば(弱気)

 五日後の朝。

 街の外へと出る大門の手前に設けられた広い空間に、いくつもの馬車と数十人の冒険者が集まっていた。

 やって来たザックは周囲を見渡し、何かを見つけた様子で迷いなく歩を進めた。その先に居たのは、リリィ達《灯明の轍》の三人。

 今回、エリヤとザックは《灯明の轍》と組んで依頼を受注したのだ。

「おはよう、ザック、エリヤ。・・・ギリギリまで氷作らされたんだな・・・」

 気が付いたリリィが、ザックとザックの背中でぐったりしているエリヤに挨拶する。

 ぐったりと背負われたエリヤは、場所によっては人目を引いたかも知れない。が、今は目立つ事なく景色に埋もれて居る。なんせ、同じようにぐったりと運ばれている魔法使いは他に何人も居るのだから。

「リリィ・・・? 久しぶり・・・」

 久しぶりに聞くリリィの声に、エリヤは頑張って顔を上げ、挨拶した。

 そうして顔を上げれば、ジェンとミラの姿を見つける。

「ジェン、ミラも久しぶり・・・」

「エリヤ大丈夫?」

「無理しないでくださいね・・・」

 ちなみに、ミラは回復魔法特化型の為、製氷機化はされなかった。その代わり、治癒院に軟禁状態だったのでエリヤと似たり寄ったりな生活を送っていたが。

 今回の依頼は、連日製氷機になっている魔法使い達の息抜きも兼ねている。なので、他にも低ランク、というよりさほど暑さ対策に関わってない魔法使いが多数と、エリヤのように休まれると街に影響が出る魔法使いが一人二人、参加している。

 なお、今回参加していない冷気を作れる魔法使いはローテーションを組んで休みを取ってもらう予定だ。脱・ブラックギルド。


 ぐったりしているエリヤに、見知らぬ声が掛けられた。

「魔力枯渇ですか? 良ければこれをどうぞ」

 若い男の声に、エリヤは顔を上げた。

 そこにいたのは二十代前半とおぼしき土人族の男性。焦げ茶色の髪に緑の目の爽やか好青年と言った印象の人だ。

 言葉と共に差し出されたのは小瓶に入った水薬。

「これ・・・」

「魔力回復薬です。低級ですが、楽になりますよ」

「低級でも・・・魔力回復薬は、高い、のでは・・・それに、少し待てば、収まります、し」

 誰? と思いつつ、ズキズキと痛む頭に疑問を追いやり、エリヤはそう言った。

「でも辛いでしょう? ―――それに、これは駆け出し薬師の作を応援の意味で安く買った物なんです、遠慮は要りませんよ」

 その言葉に、エリヤ少し考えて小瓶を受け取った。

 くぴ、と飲むと頭痛吐き気が速やかに引いていった。

「ありがとうございます、楽になりました」

 ザックの背中から降りて、エリヤは礼を言う。

「どういたしまして。改めまして、僕はフェリス。ルシファー協会より派遣された監査役です。どうぞよろしく」

「エリヤです、よろしくお願いします・・・?」

 挨拶を返しながらエリヤは首を捻った。

 今、中二御用達の堕天使さんの名前が聞こえたような・・・?

「あの、ルシファー協会、と言うのは?」

「おや、ご存知ない?」

「そういえば、協会の事は説明したこと無かったか。ルシファー協会っていうのは―――」

「ちょっと待った」

 説明しようとしたザックに、リリィが待ったを掛けた。

「その話は長くなるだろう。道すがら話そう」

 既に、冒険者達を乗せた馬車が次々と出発している。自分たちもそろそろ行かなければ。

 リリィの提案で、一行は馬車に乗り込んだ。


 エリヤ達が乗ったのは馬車と言っても荷馬車で、広さはあるが屋根も椅子も無く、物資の詰まれた木箱に適当に座るか荷台に直接座るしかない。

 エリヤ達の乗っている荷馬車には他にも数人の冒険者が乗り合わせており、同じような状態の荷馬車がぞろぞろと街道を進んで行く。たまに居る箱型の立派な馬車は資金に余裕のある冒険者か。

 馬車に揺られながら、エリヤはここに来てようやく依頼の詳細と現状についての話を聞けた。

 今回の依頼は"ルーシファ・ロス・レクライム迷宮対策協会"、通称ルシファー協会から出されたものだ。

 ドルネルの街から馬車で半日ほどの所に【競争の迷宮】が在り、この迷宮の成長を防止するのが目的の定期討伐依頼。

 だが、エリヤ達は迷宮には入らない。

 迷宮に突入するのは王都から来たラズロサムの王子一行。こちらは国が主体で、ルシファー協会は連携は取るが直接は関与しない。

 ルシファー協会が冒険者ギルドに依頼したのは、王子一行が迷宮を攻略する間の、迷宮周辺の警戒とゴブリン討伐である。

 迷宮に異変があると周囲の魔獣が影響を受け凶暴化するし、稀に迷宮から"怪物"が出て来てしまう事もあるからだ。

「迷宮の周辺には大抵ゴブリンが住み着いてて、ほぼゴブリン退治になる。凶暴化と言ってもたいして強くは無いが、とにかく数が多い。根気のいる仕事になるな」

 とはザックの言。ザックとリリィは何度かこの定期依頼に参加した事があり、勝手は分かると言う。ミラ、ジェンは初参加だ。

 フェリスは協会の事務員で、秤の加護持ち。広範囲に多数の冒険者が散らばるこの依頼では成果を偽り易いため、毎回虚偽の報告をする不届き者が出てしまう。その為、嘘を見抜ける加護持ちの監査役が必要になるのだとか。

 ちなみに、監査役は複数居る。一人の監査役が複数のパーティーを担当しチェックをする仕組みで、フェリスがエリヤ達パーティーの担当だ。乗り合わせた冒険者もフェリスの担当なんだとか。

 エリヤは"ルーシファ・ロス・レクライム"という名称に引っ掛かりを覚えつつ、ふむふむと話を聞く。

 状況は大体分かった。

「それで、迷宮ってのは何?」

 エリヤの発した質問に、ザック達のみならず、居合わせた冒険者達までが愕然とした顔をエリヤに向けた。

 ・・・あー、久しぶりだなぁ、これ。

「エリヤ、迷宮知らなかったのか?」

「何度か人が話してるの聞いたけど、覚える事沢山あったし、後でいいかなーって」

 なんとも言えない沈黙が降りる。

 ダンジョンとかお馴染みだし、この世界もあるんだーくらいに思ってスルーしてたのだ。

「・・・分かりました。一から説明しましょう」

 こめかみを押さえ、フェリスは迷宮の歴史を語り始めた。

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