なんだよこの手紙ガバガバじゃねえかよ
「悠兎~、帰ろうぜ~。」
「あぁ、少し待ってくれ。」
配布物のプリントをしまっていると、声をかけられた。
周りはHRが終わったにも関わらず、未だに人が多く、新しい友達が出来た、などの話題で賑やかだ。
ちなみにこいつは小池 亮と言って、俺の小学校時代からの友達。
いわば腐れ縁だ。
「お前の方、どうよ?」
「ん?何がだよ。」
「とぼけちゃってぇ、好みの可愛い女子は見つけたかい??」
「ンなもん探してすらねぇよ。」
「えぇー?!俺と一緒にハーレム生活を作ろうって約束したのにー?!(棒)」
「してねぇし、第一にお前に出来るとも思ってない。あと棒読みウザイからやめろ。」
「あれ?酷くね?」
そんなもんがあるのはアニメやマンガの世界だけだろ。
しかも今日は入学式当日で、周りは知らない人だらけだってのに。
こいつは昔からこうなんだよなぁ。
結局周りの女子に嫌われるオチだってのに。
まぁ、式の後のHRの時に、軽く自己紹介の時間があったが、こいつが暴走したりすることは無かったから、まだ大丈夫だと思うけど。
自転車に乗り、校門を出た後も、入学式を終えたばかりの俺達のくだらない雑談は続く。
「そう言えばよ。」
「ん、どした?」
「俺らのクラスの担任……あれ絶対アレだよな。」
「…あぁ~、確かに。それは俺も思った。って言うか殆どのやつは気付いたんじゃないか?」
「だろうな……アレは確実に……」
「「ヅラだ(な)!」」
そんな風に、ガハハと笑いながら帰宅路を辿っていると、
「すまん悠兎。俺ちょっとコンビニ寄ってくわ。先帰っててくれ。」
「エロ本か?」
「……違う。」
「おいやめろ。」
まさかの図星か?
「ウソウソ、普通にジュース買ってくるだけだ。」
違ったようだ。
「そうか、じゃ、また明日な。」
「じゃあな~。」
互いに別れの挨拶を済ませ、それぞれの方向に進む。
明日の時間割は何だったかなとか、友達は作れそうだろうかとか、今日の晩飯はなんだろうとか、そんな事を考えながら帰っていると、すぐに家に着いた。
「ただいま。」
ガララ~と引き戸を引き、中に入ると、
「おかえり、ゆうちゃん。」
割烹着を着たばあちゃんが出迎えて来た。
そして台所から漂ってくる匂い……これは……今夜はカレーだな。
「じいちゃんは?」
「倉庫の方で何か作ってるみたい。」
「またか……ほんと好きだよなぁ。」
じいちゃんは昔からDIYが好きで、よく大きい本棚や椅子を作っていた。
そのせいか、60代にして筋肉がやばい。
GA〇KT並の筋肉だ。
未だに腕相撲でじいちゃんに俺が勝てた試しがない。
まぁDIYにハマり出す前もよくトレーニングとかしてたらしく、その時から筋肉のヤベー奴だったのかもしれない。
一方の一人っ子の俺は、かなり前に、母親を亡くし、父親がその頃から行方不明になったらしく、こうしてのほほんと平和に実家暮らしをしている。
まぁ、俺の昔の事なんて両親の名前すら覚えていないんだが。
「そう言えばね。」
「ん?」
「ゆうちゃん宛に手紙が届いてるのよ。」
喉が乾いていたので、冷蔵庫から麦茶を出していると、不意に言葉をかけられる。
「手紙が?」
「そう、しかもこの手紙少し変でね。」
少し顔をしかめながら、言う。
「宛名は書いてあっても、差出人名は書いてないのよ。」
……差出人不明の手紙……?
なんでそんなもんが俺宛に届いたんだ?
「住所は?」
「それも書いてないみたい。」
名前も住所も無い……ねぇ……。
「ふーん……まぁいいや。後で自分の部屋で読むから、そこ置いといて。」
「そう?ゆうちゃんがそう言うならばあちゃんも構わないけれど。」
そう言って、ばあちゃんは手紙を机の上に置いて、台所に向かって行った。
しばらくして、夕食を取り終え、風呂から上がったところで、
「よし。」
俺は、手紙とカバンを持って自分の部屋に向かう。
着いたところで、
「さて、どんな手紙なのかねぇ~?」
謎の手紙を開封する。宿題もあるが、別に手紙一通如きにそこまで時間はかからないだろう。
「んん~?」
封筒は、見たことのないシールで留められていた。
なんだろうこれ……竜と…虎か?
「つくづく、よく分からん手紙だなっ…と。」
開封し、中から出てきた手紙には─
「な、なんだこりゃ?」
──そこには、ゲームやマンガで見るような、魔法陣と思わしきものが描かれていた。
「……はぁーくだらね、なんかのおふざけか?」
期待を裏切る中身に、思わずため息をつく。
TwitterのRTキャンペーンにでも当たったのかと思ったけど……いや、でもよくよく考えてみれば当選メールがDMに来てないし、それは無いか。
「それはともかく、何なんだよこれは……。」
一体どう反応したら良いものか……。
誰かの悪戯で送られてきたものとしか思えないんだが。
別に内容が無い手紙なら持ってても意味が無いし……
……捨ててしまおうか。
そう思い、ゴミ箱に丸めてぶち込んでやろうと、再び手紙を手にすると、
「うわっ?!なんだ?!」
突然、手紙に描かれていた魔法陣が輝き出した。
何コレ?!なんかのドッキリ?!最近の手紙は光の?!!
そんなことを考えているうちに、光はどんどん強くなっていき──
──やがて俺を包み込み、目の前が真っ暗になった。