序章目覚め
「アルフ大陸」
父さん!リコ村が見えて来たよー!
馬車の荷台から顔を出して来た息子のアルが言う。
そうだな!ただもう今日は門は閉められているからそこの木下で休むぞ!
うん!わかった!シャル、エドナお疲れ様!
今日は飛び切りの人参をあげるね!
我が息子ながら心優しく出来た息子だといつも思う。
亡き妻の面影も歳を追う事に色濃くなってきた。
このリコ村にはギルドの支社がある。
16になれば皆成人を迎える。
我が息子アルも明日で16歳になる。
明日でアルも成人する事になるが今日は前祝いだ!
母さんも許してくれるだろう!
朝まで飲むぞ!!
父さん!前祝いの域を超えてるよ!
我が息子が嬉しそうに笑いながらイヤイヤと首を振って応える。
バチバチと火の番をしながら片手には妻と良く飲んでいた酒を持っている。
アリア………見ているか?アルもついに成人だ!これからは色々な事を知りその目で見て耳で聞いて帰って来る頃には立派に(月夜一刀流)を引き継いでくれるだろう!
アリア…お前は怒るかもしれないがこれが我が一族の業なのだ……愚かにも神に挑み(加護)を与えられた我が一族のな……
背筋に視線を感じた。
まだ遠いが魔獣の気配もする。
アルッ!!起きろ!魔獣がこっちに来ている迎え撃つぞ!丁度良い最期の技(月夜)を授ける!
我が息子が飛び起き酒でまだ少し動きが鈍いが(月夜)と聞くと目を瞑り一呼吸置きこちらを観た。
はいっ!師匠!
別に道場ではないのだから父さんと呼んでくれても良いのに厳しくしすぎたのだろうか。
間も無く魔獣が来るというのに間の抜けた事を思いながら息子を観た。
数は……10!奥にデカイのが居るが先ずは雑魚からだアル!まだ早いが全ての(型)の使用を許可する!だが無理はするな!
はいっ!師匠!
行くぞっ!はっ!
一太刀で魔獣を断ち返す刃でもう一匹を絶つ。
一の型(龍虎)
鋭く刃を払い血を飛ばし鞘に直す。
地を蹴り最速の抜刀と共に残り二匹の魔獣を絶つ。
ニの型(白虎)
アルッ!此方は終わったぞ!奥のデカイのが動く!加勢には行かんがヤレるな?
本当は直ぐにでも残りも狩れるがここで過保護はアルの成長を妨げると思いそう声を掛ける。
はいっ!師匠問題ありません!
アルは三の型(玄武)を構え的確に攻撃を捌き受け流し反撃をしている。
観る事に徹した型(玄武)
相手の呼吸を読み取り反撃をする型
アルは魔獣の動きや呼吸などを読み一匹一匹を相手にし隙を伺っている。
腹に響くような声を上げ奥の魔獣が他の魔獣を睨む。
魔獣は焦りを見せお互いを援護していたが一斉に飛びかかって来た。
ここだ!!
アルは(玄武)を解き、刀を水平に構える
魔獣の牙がアルに届こうとした瞬間その姿が霞む。
四の型(朱雀)そして繋ぐはニの型(白虎)
魔獣達は自分達が切られた事も理解せずその命を絶たれた。
アルは肩で息をしながら父の方を見るそして息を飲む。
アルの眼に映るは幾重にも重なる攻防
父との差を感じまた魔獣の強さにも恐怖を覚える。
魔獣はヘルファングと呼ばれる狼の魔獣であった。
そう進化前であれば。
ヘルファングは進化しエンペラーファングとなっていた。
師匠!加勢します!!
待てアルッ!そこで観ていろ!
これが五の型(月夜)だっ!
父の剣気が急速に研ぎ澄まされて行く。
己を刀とし一刀の元断ち切る。
そしてエンペラーファングファングの腕を切り落とした。
ちっ見切られた!
エンペラーファングは怒りと共に己の毛の色を変えていった。
そして次の瞬間アルの前に現れた。
アルは魅入っていた。
父の剣技に月夜に強さに。
アルーッ!
突き飛ばされ見上げると父の肩から胸にかけてエンペラーファングの牙が鋭い跡を残していた。
父さんっ!
エンペラーファングは笑っていた。
そしてアルの前に父を投げた。
アル………無事か?……すまん……逃げろ……!
あぁ神よ!女神よ!父を助けて!魔獣を断つ力を僕に下さい!
アルよ……俺が引き付ける馬車まで走り…リコ村まで行くんだ!
嫌だ!父さんと闘う!
いいから行くんだアル………フリージア!
風の塊がアルにぶつかる。
地面を転がり再び父の方を見ると
エンペラーファングの牙が父を裂く瞬間であった。