野菜泥棒を捕まえろ
ということで、俺、村に来ました。
いや、ホリデー(町の名前ね?)で、ちょっと気まずくなっちゃって...。
二、三メートルほどの木の柵で囲まれ、小さな家がいくつかと、大きめの家があるこの村は、ランタラ村というらしい。
看板に書いてあった。
人がいたので話しかけてみます。
「すいませ~ん」
「何だよ。今忙しいんだ」
「あ、ごめんなさい」
そこまで怒らなくてもいいでしょ?
次は畑にいる人に話しかけよう。
「あの~」
「何だよ!?」
「(ちょっとキレ気味...)皆さんピリピリして、どうしたんですか?」
「あ、旅のお方でしたか。すいませんね」
「俺、じゃなくて、私に出来る事などはありませんか? 何かあったみたいですけど」
「もしかして、あなたは冒険者さんではないですか?」
「あ、はい。そうですけど」
「そうでしたか。依頼が届いたのですね」
「依頼?」
「無茶な条件なのは分かっておりますが、どうかお願いします」
「?」
「さぁさぁ、村長の家へどうぞ」
「えぇ~」
〇〇〇
「いやぁ、ありがとうございます」
「「「ありがたや~」」」
髭の長いおじさん(多分村長)と、何人かのおじさん達に囲まれた俺。
今俺は、村長の家に来ていた。
「そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたなぁ」
「あ、私、シュラムアって言います」
「シュラムアさんですか。私は、ランタラ村の村長、テトリスと申します」
「あ、はい...」
「早速ですが、依頼した通りですね、この村の畑が魔物によって荒らされているのですよ」
そういえば、畑に野菜とか無かったかも。
「この前、その魔物を退治しようと、村の男達で捕獲を試みたのですがね。その魔物のすばしっこさと言ったらもう、電光石火ですよ」
「は、はぁ...」
「私達では触ることすらできず、仕掛けていた罠も避けられてしまったのですよ」
「「「あいつめぇ、俺達の畑を荒らしやがってぇ」」」
「仕方なく、私がなんとか出せるお金で、冒険者さんに依頼することにしたのです」
「「「村長すまねぇ。俺達がしっかりしていれば...」」」
「いやいや、君達はしっかりやってくれた。謝る事はない」
「あ、あの...」
「「「村長が生活に苦しくなってしまうのに」」」
「私の事は気にするな。ほんの少し耐えればいいだけさ」
「あの!」
「あ、すいません。話に夢中になってしまい。そ、それで、何でございましょうか?」
「私、依頼を受けて来たわけでは無いんです」
「「「「え、えぇぇぇぇえ!?」」」」
「そりゃあ、そうですよね...」
「俺達の村なんかに来てくれる人なんて、いるわけ無いよな...」
「期待した俺が馬鹿だったぜ...」
「短かったけど、良い夢見れたな...」
「すいませんでした。冒険者さん。御迷惑をかけたお詫びとして、野菜でも持っていって下さい」
「「「すいませんでした...」」」
何この可哀相な人達。
う、う、思わず助けてしまいそうになる。
だが、依頼を今受けた冒険者がいるかもしれない。
その人達の仕事を取る事になるかもしれない。
あぁでも...。
「それ、私に任せて貰えませんか?」
ああ、言ってしまった。
「「「「い、い、い、良いんですか!?」」」」
「報酬は皆さんの笑顔という事で...」
「「「「救いの女神様ぁぁぁ」」」」
何故こんなにも口がペラペラ動くんだ。
報酬が無いのはちょっときついなぁ。
「では、現場に案内してください」
「「「「はぃ!」」」」
〇〇〇
「かなり酷いですね」
「はい。踏み荒らしたり、野菜を盗んで行ったり...。女神様がいなかったら、私達は死んでおりました」
「あ、これから秘密の作業を行うので、皆さん家で待ってるように伝えて貰えますか?」
「分かりました。ありがとうございます」
イッツショーターイム!
〇〇〇
「生成、カメレオンスライム、粘着タイプ!」
生成したのは、緑色のスライムだ。
体の表面がベトベトで、絡まれたら動けない。
そして、カメレオンのように周囲にとけこめる。
「結構魔力使ったなぁ。後は、足止めかな?」
「生成、チーター型、筋肉再現、イエロースライム」
ープニョ
次に生成したのは、イエロースライム。
それも普通のイエロースライムではない。
速いといえば、チーター。
そして、その筋肉構造を再現してみた。
イエロースライムは、もともとスピードのあるスライムなので、本物のチーターほどではないだろうが、かなり速くなったと思う。
ここまで強化しすぎると、魔力も、もうすっからかんだ。
「この二体からは逃れられないでしょ」
そして俺は野菜泥棒を待つことにした。
〇〇〇
俺はリューカ。
俺が物心ついた時には、親はいなかった。
俺は捨て子だったそうだ。
俺を育ててくれたのは、人の言葉を話せるゴールドリッスという魔物だった。
五十センチ位の、リスの魔物だった。
しっぽが金色に光っていて、素早く、強かった。
俺はゴールドリッスの、ルリーに全てを学んだ。
狩り、人間の言葉、森の歩き方。
いろいろと教わり、俺は強くなった。
だが、俺より強い魔物だってたくさんいる。
あの日、俺はそのことをよく知った。
俺はその日、一人で狩りをしていた。
俺は強くなり、戦いが好きになっていた。
自分の力を試したくなった。
俺はルリーに、入ってはいけないと言われていた森に入った。
そこには、見たことの無い植物や、魔物、獣達がいた。
ードシンッ
ードシンッ
何かがこっちに来た。
周りにいた生き物は、一目散に逃げて行った。
黒い何かが現れた。
「グオォォォォ!」
巨大な黒い何かがこちらに近づいてくる。
「キング...ブラック......」
俺はルリーに昔聞いた名前を思い出した。
『あのな、リューカ。この森の奥へ進むと、珍しい植物がたくさんあるんだ。だけどな、そこには危険な魔物もたくさんいる。その危険な魔物達を従えている、キングブラックっていう、巨大な黒いゴリラがいるんだ。もしもそいつにあったら、絶対に逃げるんだ。お前は強くなったが、そいつには勝てない。恐らく、ここまでは来ないだろうが、森の奥には絶対行くなよ?』
ああ、何でここへ来てはならないか、漸く分かった。
こいつには勝てない。
ルリーと同じか、それ以上だろう。
逃げろ、逃げろ、逃げろ。
しかし、体が動かない。動けない。
目を逸らしたら殺られる。
「あ、あぁああ、ああ」
「グオォォォォ!」
こちらへ突進して来る巨大な黒。
死ぬ───
ードォォン!
「グルゥゥグゥォッ!」
──事は無かった。
突如、巨体が吹き飛んだ。
先ほどまで、キングブラックがいた場所に小さな金色が現れた。
「ルゥルリィィィ!」
「馬鹿野郎! 本当にお前は世話の焼ける奴だ。お前はさっさと家に帰っとけ。今日の晩飯な巨大な肉になりそうだからな。俺が帰る頃には、焼き肉の準備終えてろよ?」
「う、う、うえ~ん。ごめんなぁさぃぃぃい」
「早く帰れ。ここからは俺の仕事だぜ」
「ウホォッ! ウホォッ! グホォォォオオ!」
「そんな怒んなって」
「グルォオオオ!」
キングブラックが突進してきた。
ルリーはそれを金の尾を器用に使い、余裕で回避する。
しかし、キングブラックはその動きを読み切り、巨大な腕でルリーを殴る。
吹き飛ばされたルリー。だが、その攻撃は金の尾で受け止めていた。
無傷とはいかなかったが、かなりダメージを軽減していた。
「グルォオオオ!」
追撃を加えるキングブラック。それを受け流し、脳天へ金の攻撃を加えるルリー。
「グオォォォォ! ウホォッ!」
キングブラックはある能力を持っていた。
攻撃した相手のスタミナを奪い取る。
その能力は、この拮抗していた戦いにおいて、大きな影響を及ぼすものだった。
ルリーはいつもより、うまく動けず戸惑っていた。
その戸惑いは、黄金の守りを崩した。
ほんの僅かな隙は、キングブラックにとって、充分な時間だった。
ードゴォン!
受け流すことが出来なかった一撃は、ルリーの体中の骨をズタズタにした。
「ぐはぁっ!」
「ぐふっ! はぁはぁ、ふっ。俺はどうやらここで終わりのようだ。強く生きろよ、リューカ」
「はぁっ!」
ルリーの体を紅蓮の炎が纏った。
ルリーの能力、それは───
──命を燃やす紅蓮の超連撃。
「ふぁああっ!」
ーダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!
「ギュルレァグゥゴォォォォ...」
「ルゥリィィィィィィィイイ!」
「...ふっ。まだい...たのかよ。これじゃあ、すぐ...には...焼き肉...できねぇ...じゃねえ...か...」
「う...うう...ごめんなさい。ごめんなさい。...俺のせいで...」
「おい、泣くな...。最後...ぐれぇ...笑顔、見せてくれよ...。俺は...もう、駄目だから...な。ごふぅっ!」
「う...明日、海行く、約束...だろ!」
「それは、もっと...先になり...そうだ。ごめんな。...実は...な、俺、前世...の、記憶...持ちなんだ」
「...前世?」
「俺...の前世は...、...ひよこ...だった...ぐふっ」
「う、あ、あはは。それ、最後に言う台詞じゃないよ...。ありがとう。ルリー。俺を笑顔にしてくれて。あのまずそうなゴリラは、俺が食うからな...」
昨日の事のように思い出される、ルリーとの最後。
俺がルリーの分まで生きなくてはいけない。
生きる為には食べ物が必要だ。
だから、俺は人間の住むところへ忍び込む。
それが、ルリーへの恩返しになるからだ。
その夜、俺は毛皮を被り、村へ足を踏み入れた。
ルリーィィイ! (゜ーÅ)