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スライム職人のマッドパペット  作者: ルイエフラ
3/15

野菜泥棒を捕まえろ

ということで、俺、村に来ました。


いや、ホリデー(町の名前ね?)で、ちょっと気まずくなっちゃって...。


二、三メートルほどの木の柵で囲まれ、小さな家がいくつかと、大きめの家があるこの村は、ランタラ村というらしい。

看板に書いてあった。


人がいたので話しかけてみます。


「すいませ~ん」

「何だよ。今忙しいんだ」

「あ、ごめんなさい」


そこまで怒らなくてもいいでしょ?


次は畑にいる人に話しかけよう。


「あの~」

「何だよ!?」

「(ちょっとキレ気味...)皆さんピリピリして、どうしたんですか?」

「あ、旅のお方でしたか。すいませんね」

「俺、じゃなくて、私に出来る事などはありませんか? 何かあったみたいですけど」

「もしかして、あなたは冒険者さんではないですか?」

「あ、はい。そうですけど」

「そうでしたか。依頼が届いたのですね」

「依頼?」

「無茶な条件なのは分かっておりますが、どうかお願いします」

「?」

「さぁさぁ、村長の家へどうぞ」

「えぇ~」




〇〇〇




「いやぁ、ありがとうございます」

「「「ありがたや~」」」


髭の長いおじさん(多分村長)と、何人かのおじさん達に囲まれた俺。


今俺は、村長の家に来ていた。


「そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたなぁ」

「あ、私、シュラムアって言います」

「シュラムアさんですか。私は、ランタラ村の村長、テトリスと申します」

「あ、はい...」

「早速ですが、依頼した通りですね、この村の畑が魔物によって荒らされているのですよ」


そういえば、畑に野菜とか無かったかも。


「この前、その魔物を退治しようと、村の男達で捕獲を試みたのですがね。その魔物のすばしっこさと言ったらもう、電光石火ですよ」

「は、はぁ...」

「私達では触ることすらできず、仕掛けていた罠も避けられてしまったのですよ」

「「「あいつめぇ、俺達の畑を荒らしやがってぇ」」」

「仕方なく、私がなんとか出せるお金で、冒険者さんに依頼することにしたのです」

「「「村長すまねぇ。俺達がしっかりしていれば...」」」

「いやいや、君達はしっかりやってくれた。謝る事はない」

「あ、あの...」

「「「村長が生活に苦しくなってしまうのに」」」

「私の事は気にするな。ほんの少し耐えればいいだけさ」

「あの!」

「あ、すいません。話に夢中になってしまい。そ、それで、何でございましょうか?」

「私、依頼を受けて来たわけでは無いんです」

「「「「え、えぇぇぇぇえ!?」」」」

「そりゃあ、そうですよね...」

「俺達の村なんかに来てくれる人なんて、いるわけ無いよな...」

「期待した俺が馬鹿だったぜ...」

「短かったけど、良い夢見れたな...」

「すいませんでした。冒険者さん。御迷惑をかけたお詫びとして、野菜でも持っていって下さい」

「「「すいませんでした...」」」


何この可哀相な人達。

う、う、思わず助けてしまいそうになる。

だが、依頼を今受けた冒険者がいるかもしれない。

その人達の仕事を取る事になるかもしれない。

あぁでも...。




「それ、私に任せて貰えませんか?」


ああ、言ってしまった。


「「「「い、い、い、良いんですか!?」」」」

「報酬は皆さんの笑顔という事で...」

「「「「救いの女神様ぁぁぁ」」」」


何故こんなにも口がペラペラ動くんだ。

報酬が無いのはちょっときついなぁ。


「では、現場に案内してください」

「「「「はぃ!」」」」




〇〇〇




「かなり酷いですね」

「はい。踏み荒らしたり、野菜を盗んで行ったり...。女神様がいなかったら、私達は死んでおりました」

「あ、これから秘密の作業を行うので、皆さん家で待ってるように伝えて貰えますか?」

「分かりました。ありがとうございます」


イッツショーターイム!




〇〇〇




「生成、カメレオンスライム、粘着タイプ!」


生成したのは、緑色のスライムだ。

体の表面がベトベトで、絡まれたら動けない。

そして、カメレオンのように周囲にとけこめる。


「結構魔力使ったなぁ。後は、足止めかな?」


「生成、チーター型、筋肉再現、イエロースライム」


ープニョ


次に生成したのは、イエロースライム。

それも普通のイエロースライムではない。

速いといえば、チーター。

そして、その筋肉構造を再現してみた。

イエロースライムは、もともとスピードのあるスライムなので、本物のチーターほどではないだろうが、かなり速くなったと思う。

ここまで強化しすぎると、魔力も、もうすっからかんだ。


「この二体からは逃れられないでしょ」


そして俺は野菜泥棒を待つことにした。




〇〇〇




俺はリューカ。


俺が物心ついた時には、親はいなかった。

俺は捨て子だったそうだ。

俺を育ててくれたのは、人の言葉を話せるゴールドリッスという魔物だった。

五十センチ位の、リスの魔物だった。

しっぽが金色に光っていて、素早く、強かった。

俺はゴールドリッスの、ルリーに全てを学んだ。

狩り、人間の言葉、森の歩き方。

いろいろと教わり、俺は強くなった。

だが、俺より強い魔物だってたくさんいる。

あの日、俺はそのことをよく知った。


俺はその日、一人で狩りをしていた。

俺は強くなり、戦いが好きになっていた。

自分の力を試したくなった。


俺はルリーに、入ってはいけないと言われていた森に入った。


そこには、見たことの無い植物や、魔物、獣達がいた。


ードシンッ


ードシンッ


何かがこっちに来た。

周りにいた生き物は、一目散に逃げて行った。


黒い何かが現れた。


「グオォォォォ!」


巨大な黒い何かがこちらに近づいてくる。


「キング...ブラック......」


俺はルリーに昔聞いた名前を思い出した。


『あのな、リューカ。この森の奥へ進むと、珍しい植物がたくさんあるんだ。だけどな、そこには危険な魔物もたくさんいる。その危険な魔物達を従えている、キングブラックっていう、巨大な黒いゴリラがいるんだ。もしもそいつにあったら、絶対に逃げるんだ。お前は強くなったが、そいつには勝てない。恐らく、ここまでは来ないだろうが、森の奥には絶対行くなよ?』


ああ、何でここへ来てはならないか、漸く分かった。


こいつには勝てない。

ルリーと同じか、それ以上だろう。


逃げろ、逃げろ、逃げろ。

しかし、体が動かない。動けない。

目を逸らしたら殺られる。


「あ、あぁああ、ああ」


「グオォォォォ!」


こちらへ突進して来る巨大な黒。


死ぬ───


ードォォン!


「グルゥゥグゥォッ!」


──事は無かった。


突如、巨体が吹き飛んだ。


先ほどまで、キングブラックがいた場所に小さな金色が現れた。


「ルゥルリィィィ!」

「馬鹿野郎! 本当にお前は世話の焼ける奴だ。お前はさっさと家に帰っとけ。今日の晩飯な巨大な肉になりそうだからな。俺が帰る頃には、焼き肉の準備終えてろよ?」

「う、う、うえ~ん。ごめんなぁさぃぃぃい」

「早く帰れ。ここからは俺の仕事だぜ」


「ウホォッ! ウホォッ! グホォォォオオ!」


「そんな怒んなって」


「グルォオオオ!」


キングブラックが突進してきた。

ルリーはそれを金の尾を器用に使い、余裕で回避する。

しかし、キングブラックはその動きを読み切り、巨大な腕でルリーを殴る。

吹き飛ばされたルリー。だが、その攻撃は金の尾で受け止めていた。

無傷とはいかなかったが、かなりダメージを軽減していた。


「グルォオオオ!」


追撃を加えるキングブラック。それを受け流し、脳天へ金の攻撃を加えるルリー。


「グオォォォォ! ウホォッ!」


キングブラックはある能力を持っていた。


攻撃した相手のスタミナを奪い取る。


その能力は、この拮抗していた戦いにおいて、大きな影響を及ぼすものだった。

ルリーはいつもより、うまく動けず戸惑っていた。

その戸惑いは、黄金の守りを崩した。


ほんの僅かな隙は、キングブラックにとって、充分な時間だった。


ードゴォン!


受け流すことが出来なかった一撃は、ルリーの体中の骨をズタズタにした。


「ぐはぁっ!」


「ぐふっ! はぁはぁ、ふっ。俺はどうやらここで終わりのようだ。強く生きろよ、リューカ」


「はぁっ!」


ルリーの体を紅蓮の炎が纏った。


ルリーの能力、それは───



──命を燃やす紅蓮の超連撃。


「ふぁああっ!」


ーダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!


「ギュルレァグゥゴォォォォ...」




「ルゥリィィィィィィィイイ!」


「...ふっ。まだい...たのかよ。これじゃあ、すぐ...には...焼き肉...できねぇ...じゃねえ...か...」

「う...うう...ごめんなさい。ごめんなさい。...俺のせいで...」

「おい、泣くな...。最後...ぐれぇ...笑顔、見せてくれよ...。俺は...もう、駄目だから...な。ごふぅっ!」

「う...明日、海行く、約束...だろ!」

「それは、もっと...先になり...そうだ。ごめんな。...実は...な、俺、前世...の、記憶...持ちなんだ」

「...前世?」

「俺...の前世は...、...ひよこ...だった...ぐふっ」

「う、あ、あはは。それ、最後に言う台詞じゃないよ...。ありがとう。ルリー。俺を笑顔にしてくれて。あのまずそうなゴリラは、俺が食うからな...」





昨日の事のように思い出される、ルリーとの最後。

俺がルリーの分まで生きなくてはいけない。


生きる為には食べ物が必要だ。

だから、俺は人間の住むところへ忍び込む。

それが、ルリーへの恩返しになるからだ。


その夜、俺は毛皮を被り、村へ足を踏み入れた。







ルリーィィイ! (゜ーÅ)

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