クリスマスで出会った不思議なお話
短編ですが、今後の追加があるかもしれないので連載扱いにしております。
夜空には星が輝いている。
街には人が多い。いつもであればこの道は人通りも少なく、静寂に包まれているが……今日は違う。
街の木々にはイルミネーションが張り巡らされ、青や白の光を放っている。
────今日はクリスマスだ。
僕は独り身だ。世間一般で言うところの非リアであろう。
別にリア充になれば、どうという訳でも無かろうに。僕には重要性が感じられない。
こんな事を言っても屁理屈でしかないな。辞めよう。
イルミネーションで普段よりも明るい街を歩く。
僕が今日、夜の街に歩いている理由は、妹のクリスマスプレゼントを買ってあげるためだ。
妹は現在七歳。小学一年生になったばかりだ。僕とは十三歳離れている。要するに僕は二十歳であるという事。
誕生日は十二月三日でその時は妹が誕生日プレゼントを買ってくれた。そのお返しの意味も込めて、今日は買い物に来た訳だ。
どうして、夜に?という疑問が浮かぶだろうが、単純な事だ。妹に秘密で買い物に来たからだ。妹に買い物をした事がバレてしまっては、元も子もない。
* * *
何を買おうか。と考えつつ、店のショーウインドウを見ていく。どの店もクリスマス仕様になっていて、サンタの赤と白やクリスマスツリーの緑が映えている。
今、思ってみれば、妹と共に買い物をするという選択肢もあったのだが、既にショッピングモールに来ているのだから遅い。
まだ、夜七時ではあるが急いで帰ろう。
今、僕はショーウインドウを見てはいるが、どこのお店で買うかは既に決めている。以前、妹とショッピングモールに来た時に行ったお店だ。
僕は、混んでいる店までの道を幾度となく、人とぶつかりながらもどうにか着いた。
自動ドアは待っていたかのように開いた。そんな訳もないか。
前に店に来た時に妹はある商品を見て、「欲しいな……。」と呟いていたのを僕は聞いていた。今日のお目当てはそれだ。ぬいぐるみである。因みにクマだ。やっぱり女の子はぬいぐるみが好きなのだろうか?いや、それは偏見というものだろう。単に僕の妹が好きなだけかもしれない。
自問自答しつつ僕はレジにぬいぐるみを持って行った。
「これをお願いします。」
「クリスマスプレゼントですか?」
「はい。」
「ではお包み致しますね。」
「いいんですか?」
「ええ。」
「ありがとうございます。」
店員さんの親切心だろう。包んでクリスマスボックスとやらに入れてくれた。感謝してもしきれない。
店員さんには、最後もう一度感謝した。
店を出ると外には雪が降っていた。
「あ、雪だ。」
しとしとと降る柔らかそうな雪に歩く人達も空を見上げる。僕は何か良い事が起きそうな予感がした。
* * *
帰りは小走りで帰った。早く妹に渡したいという気持ちが心を掻き立てたのだ。白い息を吐きながら僕は帰路についた。
帰路の途中の川の上に架かる橋の上で僕は一人の老人とすれ違った。
「少年、ちょっと待っておくれ。」
「?僕ですか?」
「ああ、君じゃ。すまないが私の頼みを聞いてくれないかのう?」
「どうかされましたか?」
「私の代わりにこれを皆に届けて欲しいのじゃ。」
そう言って老人が僕に渡したのは大きな白い袋だった。
「これは?」
「君も知っているはずじゃ。サンタクロースを。」
「はい、知っていますが、これとそれとどういう関係が?」
「私はサンタクロースなのじゃ。」
「え?」
「じゃが、急用が出来てしもうた。代わりに届けて欲しいのじゃ。」
「そう、なんですか。ですが僕は何も分かりませんよ。」
「いいんじゃよ。詳しくは私の相棒であるトナカイが教えてくれるじゃろう。それでは、頼むよ。」
こう言い残すと自称サンタクロースさんは歩き去り、遂には暗闇に紛れてしまった。本当のサンタクロースだったのだろうか。
別れ際、自称サンタクロースさんは僕に紙切れを渡した。
紙切れに書いてあったのは、トナカイの事とプレゼントのお届け先と渡すプレゼントの組み合わせだ。僕は早速参考にさせてもらった。
「えっと、トナカイさんいますか?」
僕のトナカイを呼ぶ声に反応したかのように何処かで鈴がなる音がした。そして、何かが駆けてくる音も。
その正体は呼んだトナカイだった。勿論ソリを引いていた。話通りの姿かたちのようだ。
「じゃあ、お願いします。」
ソリに乗り込んだ僕は夜空へと旅立った。自称サンタクロースさんのくれた紙切れには、トナカイに任せておけばお届け先へ連れて行ってくれるそうだ。ついでにトナカイには日本語が伝わるらしい。何処の国から来たのかな……?
* * *
最初のお届け先は自称サンタクロースさんと会った橋から数分の所にある一軒家だ。サンタクロースごとに配達範囲が決まっているらしい。サンタクロースは沢山いて、配達範囲はあまり広くないそうだ。
自称サンタクロースさんの紙切れによると、この家の二階に男の子の部屋があるようだ。僕はトナカイの引くソリから二階のベランダへと降り立った。
自称サンタクロースさんが僕と別れた際、僕にくれた物はこの紙切れだけでは無かった。とある魔法を教えてくれたのだ。
その魔法はこう使うらしい。僕は窓に触れた。その瞬間、窓は砂のようにサラサラと崩れてしまった。これで入れた。
僕は男の子が眠るベッドの元にプレゼントを置いてあげた。そして「メリークリスマス!」と書かれたカードも。
そして、再び僕は窓に触れて外へ出た。窓は瞬きをした瞬間に元に戻った。この魔法はとても不思議で幻想的だ。
それから僕は数時間かけて沢山の子供達の元へプレゼントを置きに行った。何度か気付かれそうになったが、姿を見られることは一度も無かった。サンタクロースの魔法かもしれないな。
ソリに乗った僕はトナカイによって元の橋へ戻って来た。
どうしてか自称サンタクロースさんはそこにいた。
「どうだったかの?」
「そうですね……喜んで欲しいです。」
「そうじゃな。私達サンタクロースも皆、そういう思いで君達にプレゼントを渡しているのじゃよ。」
「どうして、あなたは私にこの仕事を頼んだんですか?」
「君が少しばかり寂しそうだったからじゃよ。」
「寂しい?」
「君の心の寂しいという思いが人一倍強かったのじゃ。だからこの仕事を託して気分転換でもしてもらいたかったのじゃよ。」
「そうでしょうか?」
「疑問かね?」
「はい。僕は両親と妹との四人暮らしです。妹とは十三歳も離れていますが、仲は良いつもりです。両親とも仲は良いです。僕は今の生活に何ら不満を抱いていません。」
「ふむ……そうなのか。どうやら私の思い過ごしだったようじゃな。迷惑を掛けてすまんかった。……そのプレゼント喜んでもらえるといいのう。」
「はい。」
「ここでお別れじゃ。また何処で会おう。」
「はい、お元気で。」
こうして僕とサンタクロースさんは別れた。
僕は今、サンタクロースさんをニセモノだとは思わない。人の事を思い、人の為に尽くす。そんなあの老人の姿を見て、ニセモノだとは言えない。あの姿は見習いたいな。
* * *
僕は家に帰った。家は暗かった。もうみんな寝たようだ。
妹のベッドのそばにプレゼントを置くと、僕は自分の部屋に戻り寝た。喜んでもらえると嬉しいな。
次の日、妹が朝一番に僕の部屋に走って来た。
「お兄ちゃん!サンタさんからプレゼント!」
「そうなの?良かったね。何を貰ったんだい?」
「見て見てー!私の欲しかったクマさんのぬいぐるみなの!」
「サンタさんに折角貰ったんだから大切にしなきゃね。」
「うん!」
喜んでもらえて何よりだ。僕は妹と一緒にリビングに行き、家族で朝食をとった。夜にはクリスマスパーティだ。楽しみだな。
「喜んでもらって良かったのう。」
何処かでサンタクロースさんがそう言った気がした。