4;メイド、だと?
起きた! 昼だ!! マジか!!
え、え〜、何がおきた? あれだよな、昨日の夜、魔力の流れを感じることが出来て? それで、それから、、記憶がないな。
倒れた? はっ、いやいやまさか! そんな、スキルを使う前にその前提の、第一段階で、倒れた?
聞ーてねーーぞーーー!
スキル使う前に、疲労困憊で倒れるって、そんなこと神様言ってたか? スキル使ったら倒れる的なことは聞いた気がするけど、その前段階で気ぃ失うなんて、言ってなかったよな?
て、ことは、神様も知らなかったか、それか、僕が例外?
なんだその特別感。まさか、僕は選ばれし者だったのか!?
って、違えーよ!! マイナス方面に特別でどうするんだよ。どーーしよーもねーーよ!!
うん、よし、グズグズ考えても仕方ねえ。気持ちを切り替えよう。
とりあえず課題は決まったな。思ったよりもでかそうだけど…… やるっきゃない。
毎日毎夜訓練する!
正直僕はそこまで自分を追い込むつもりはなかった。しかしこの体たらく。かなりマズイ。スキルの使えない勇者なんて存在価値すらも怪しい。
三年。そう、三年は魔力を感じられる時間を伸ばすことに費やす。これだけを、する。持続時間が短いなんて話にならないし、このままだと、始めがこれだと、三年かけてようやっと普通の魔道士レベルにはなるだろう。子供の成長は速いって言うしな。そして、三年後、僕のスキルが発覚するのだ。阿鼻叫喚の驚天動地が目に浮かぶ。ふっ、ふふっ、ふふふ、ふぐ、ごはごは、ゴホン。ン゛、ン゛ン゛。
そうだ。そうしよう。
僕は、この三年で、まりょ……
「オギャー、オギャー、ワーーワーン!!」
すわ、何事か? 僕の決意に満ちた叫び(心の中)を妨げるのはなにか? 横を見たら、赤ちゃんがいた。
あ、ああ、そういえばそうだったな。僕には双子の兄弟がいたんだ。僕は今そいつと一緒のベビーベッドに寝ている。
どうやら我が兄弟がごきげん斜めらしい。
ここは一つ、ん? 兄として? それとも弟として? は! まさか、僕、女体化したりしてないよね? ね?
僕はすっと、自分の股間に手を当ててみた。むっ? きついな。手が短くてなかなか届かない!
よし! 届いた。
ん? ん、 んん! ぅあった!!
良かった。あったよ。僕、男だったよ。ああ、良かった。本当に良かった。
兄と弟どっちだ? あれ、でも双子って、どういう扱いなんだろう。同時に生まれたんだよな。そしたら兄も弟もないんじゃないか? いや、でもテレビで双子の芸人か何かを見たことがある気がするぞ。どっちかが兄でどっちかが弟だった気がする。
と、いうことは、やっぱり上か下か存在するよな。あ、そうか、いくら双子が同時に出てくると言っても全く同時にじゃないだろう。そう考えると、先に出たほうが兄、か。さあ、どっちだ。
あれ? なんか、忘れてるような。ていうか、そういえば静かになったな。なんかうるさかったような、ていうか隣で泣いていなかったか?
見上げると、メイド姿の女が赤ちゃんを抱きかかえていた。
黒を基調として、腰に白いエプロンをまいている。くるぶしまで届きそうな長いスカートの大きく広がった口と、袖口には、申し訳程度にフリルが付いている。髪は後ろで短く一纏めにしてあり――ポニーテールだな。そして、顔にはそばかすが残っていてなんとなく地味な印象を受けるが、キリッと吊り上がった目が、厳しそうな印象も醸し出す。
メ、イド、だと? よく見ると、僕らを取り上げた助産師じゃないか。助産師じゃなくて出産の手助けが出来るメイドだったのか? メイドがいるって、マジか。
ん? なんかこっちを不審げに見てるな。なにかおかしいか? 僕。
そう思って、股間から手を離す。
あれ、? どこから手を離したって?
は、あああ、! 股間を掴んだままだったあああ! 股間を掴んだまま百面相してたああああ!
ん? メイドさんがなにか呟いているぞ。
「お嬢さんはよく泣く普通の赤ん坊なのに、お坊っちゃんはなにか変ですね。双子でもこんなに違うものなのでしょうか」
ほ〜う。ちょっと気をつけよう。うん。
泣き止んでまたすやすやと眠り始めた赤ちゃんをベットに戻し、掃除をしていたのだろう、近くに立てかけてあった箒を手にして、掃除に戻るために歩きだした。
と、そこでメイドさんは足をもつれさせ、転んだ。
あれえ? そこには何もないよねえ。なのになんで、そんなびったーん、と正面に床に全身打ち付けているのかな?
メイドさんは何事もなかったかのように立ち上がり、歩き出したが、ちらりと見えたその横顔は、恥ずかしさで真っ赤になって下唇をぎゅっと、噛んでいた。
ドジっこかよおおおおおおおおお!!!!!
気をつけなくても僕のことはバレなそうだな、と静かに思った。
ん? お嬢さん?