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3;産まれた



 気が付くと目の前に巨人がいた。

 ぐるりと辺りを見渡す。体が思うように動かないので眼を動かすことしかできなかったが、どうやら僕はベットに仰向けに寝かされているらしい。僕を見下ろす巨人は2人。白い服を着て口元を白い布で覆っている女と、みすぼらしい格好の男だ。


 あ、ああ、意識がはっきりしてきた。


 違う。巨人じゃない。あっちが大きいんじゃない。こっちが小さいんだ。なんていうか、焦ってしまった。そうだ。


 僕は今、赤ん坊だ。

そう、僕は、異世界転生をした!!


 重要なのでもう一度言おう。


 僕は、異世界転生をした!!!


 ふう、状況を整理しておこう。

 たぶん、白い服の女は助産師だろうそして男のほうは僕の父親だ、と思う。僕は今産まれた。と、いうことは、出産に立ち会うのは助産師と、父親が妥当だろう。

 つまり、こいつが僕の父親か。なんだかなあ。うん、まあ、でも、こんなもんか。


「オギャーー!」


 ん? 僕じゃないよ。僕はこんな産まれたての赤ん坊みたいに泣き喚くほど幼くはないさ――あ、僕、今それそのもの産まれたての赤ん坊か。でも、前世の記憶があるから精神年齢はそうはいかないさ。

 僕じゃない、ってことは、というか横から聞こえた気がする。

 そう思って、動かしづらい首をなんとか少し傾けて、横を見ると、そこにはかわいい赤ん坊がいた。

 なぬ? 兄弟か? 双子か? すごいうるさいな。


 ん? なんだろう。大人二人が焦ってるな。まあ、こんなに騒いでたら、ちょっとまずいんだろう。

 えーっと、なんて言ってるんだ? ふむふむ。


「おい、泣かないぞ。大丈夫なのか」

「いや、これはちょっとマズイですね。早く対処しなければ死んでしまいます」


 ああ、そうそう。一応神様に言語はわかるようにしてもらったんだ。なんでも魂に刷り込ませたとかなんとか言っていた。それともう一つ神様から特典というか、真相解明に役立つことをしてもらった。でも、あんまり干渉し過ぎるとこの世界の神様に気づかれてしまうらしいのだ。

 ともあれ僕はこの世界の言葉はマスターしていて、聞き取ることはもちろんできる。だから、意味が理解出来たってわけだよ。――そのはずなわけなわけだよなんだけど、聞き間違いかな。

 あ〜、でも、よく考えれば、というかよく考えなくともわかることだ。常識だ当たり前だ。


 赤ちゃんは泣くものだろう。


 助産師らしき女に足を捕まれそのまま掲げられた。ひっくり返って頭が下になる。

 嫌な予感がするな。そういえば赤ちゃんが泣かなかったとき、どうするかテレビで見たことがある気がするぞ。

 大きく手を振りかぶって、叩いた。僕の尻を!

 何度も、何度も!必死の形相で、叩いた!


 痛って!

「ギャアア!」


「見てください。泣きましたよ。これで大丈夫ですね。一時はどうなるかと思いましたけど、これで一安心です」


 皆安心したようにホッと息をはいていた。


 DVだ!


 僕は涙が止まらなかった。



 ―――――――


 その日の夜。

 僕は赤ちゃん用のベットに寝かされていた。まあ、赤ちゃんだから当然だ。

 さあ、普通ならもう寝てる時間だろう。赤ちゃんはもちろん、大人ですらも寝てる時間だ。

 でも、僕は違う。

 僕にはやることがある。試さなければいけないことがあるのだ。


 この世界にはあるのだ。やっぱりあるのだよ。魔法的なものが――――若干違うけどね。

 さて、そこらへんを説明しておくか。

 三歳の誕生日、この世界の人間は皆、教会に行くことになる。そこで、その教会の神父さんなりシスターに"鑑定"してもらうことになるのだ。

 何を鑑定してもらうかというと、それはその人の持つ、『スキル』だ! なんとこの世界では一人につき一つ、各個人が『スキル』を持つらしいのだ。


 それは火魔法、水魔法、風魔法などの基本魔法系を始め、身体強化や物質強化などの強化系、はたまた爆炎魔法や暴嵐魔法などの上位魔法系、透明化や千里眼、瞬間移動、などなど色々目白押しだ。

 も〜、ヤバイな。

 だがしかし、ここで注意しておかなければいけないことがある。


 一つ目。クッソいらねえどうでもいいようなスキルも存在するということだ。むしろそっちのほうが多い。人口の6、7割近くはそうなんだそうだ。

 めっちゃ頑張って石ころやっと動かせるスキルだったり、めっちゃ頑張ってマッチ程度の火を出せるスキルだったり、めっちゃ頑張ってそよ風吹かせるスキルだったり、めっちゃ頑張って…………以下略。


 つまりはそれになってはならないわけだ、が、しかしこれについてはクリアしている。神様特典その2だ。スキルというものは産まれた瞬間に生じるらしい。

 だから、僕がこの世界に産まれたその瞬間、一瞬だけこの世界に干渉して、僕に最強のスキルを付与してくれるらしい。ああ、いやもう産まれたから過去形にしなきゃな。付与してくれた、らしい。

 正直あの神様のやることだからちょっと不安だが、しかし仮にも神様だ。大丈夫、だろう。言語の習得もちゃんとできてたし、うん、大丈夫だ。


 そこで、僕が手に入れるスキルは、たぶん"勇者"だ。

 おいおい、勇者ってスキルというよりジョブだろうと思うだろうがとんでもない。仕事は勇者です。なんて可笑しいとは思わないか? 魔物の討伐は冒険者のやることだし、魔族との戦争は王国騎士がやることだ。この世界では少なくともそうらしい。


 では、スキル"勇者"とはいったい何か。

 それは万能のスキル。

 全てのスキルの効果を扱えるオールラウンダー。

 それが勇者。


 だから、僕は思う。"勇者"こそが最強のスキルだと。

 同じ効果のスキルに"魔王"があるらしいが、人族には勇者、魔族には魔王が適応されるらしい――――魔王はジョブだろうなんてツッコミは受け付けない。それは僕も知らん。


 さて、1つ目のも問題点はそれでいいとして、2つ目、というか最後にして最大の問題点は、魔力量の問題だ。どれだけすごいスキルを持っていようと、魔力量が少なすぎるとなんの意味もない。魔力は、スキルを発動させるための燃料といったものだろうか。フェラーリだろうとポルシェだろうと、ガソリンがなければ走り出せない、ということだろう。


 ここで話を、戻そう。ようやく話を戻せる。

 なんの話かって? 僕が何で夜中に起きてるかだ。


 魔力量を高める為だ。どうやって高めればいいか。

 神様談。


「簡単簡単、スキルを使い続ければいいんだよ? 倒れるまでね?」

「倒れるまで? 倒れるのか?」

「うん、そうだよ?」


 カンタンに言うなあ。しかも、何回も気を失うらしい。ナニソレ、きっつ。


 じゃあ何で夜中にやってるかって? 

 神様談。


「あ、でも不自然に思われないようにしてね? もしかしたらあっちの神に気づかれてしまうかもしれないからね?」


 バレずにやれってか? マジかよ、きっつ。


 と、いうことだ。

 僕はこれから毎日毎夜、スキルを使い続けなければならない。倒れるまで。むしろ倒れても。倒れても。何回も何回も何回も何回も。


 憂鬱だ。でもやらざるを得ない。犯人見つける為には強くならなければいけないし、何より、異世界で俺TUEEEしたい。


 よし、やろう。腹をくくろう。


 さて、スキル、使えるか? 神様曰く、どのスキルも使い方は基本的には同じらしい。その結果が変わるだけで経過は同じってことだな。

 あれ? じゃあ全スキルを使える勇者はどうするんだ? まあ、やればできるか。たぶん、イメージが重要なんだろう。こういうのはだいたいそうだからな。


 じゃあなに使おうかな。僕は勇者スキルなんだし、なんでも出来る。よりどりみどりだ。

 うん、それはそれで困るな。迷う。


 条件を絞ろう。まず、外見にはあまり変わらないものがいいな。外見が変わっちゃうとバレちゃう可能性があるからな。そうしたら一貫の終わりだ。そこでゲームオーバーだ。

 と、いうことで、派手なのは無し。


 次! なんだろう! 特になし!!


 えーっと、どうしよう。そうだな、強いて言うならイメージしやすいやつとか? あとは、どっちにしろ使えるようにしなきゃいけないやつ、とか? う〜ん、う〜ん、と、、そうだな、。


 よし、決めた。


 身体強化!


 これにしよう。それがいい。


 まず、見た目に表れない。これが一番重要だな。で、次に出来てるかどうかがたぶん、わかりやすい。自分の身体が強くなったかどうかなんてすぐわかるだろ。最後に、やっぱこれ使いたいから、だろうな。身体強化なんてチートの前提みたいなものじゃないか。


 さて、とりあえずやってみよう。


 まず、身体の中の魔力を感じる。魔力というのは人の、いや生物のエネルギーの一形態だ。その生物の身体を縦横無尽に絶え間なく流れて、循環している。そう、イメージは血管の中を流れる血液。

 イメージして、感じるんだ。自分の中のエネルギーを、自分の力を。


 ん、ん、、んん、? きた、きたきた、きた! 感じた。わかったぞ。これだ、この感じだな。

 ああ、確かにこれは、何で今まで気付かなかったのか不思議なくらいだ。

 熱い、熱湯のような何かが、自分の中を、流動している。何故だろう。すごく、心地良い。

 新しい自分を見つけた? 違うな、でも、僕が一体何なのかが、少し、理解できたような、僕は、確かにこの世界に存在している! と、しっかりと確認できたような、そんな、安心感、が、ある。


 っと、ダメダメ、これで満足してちゃダメだ。今の目的は魔力を感じることではなく、その魔力をスキルの為の燃料へと変換して、スキルを使うこと。

 まだ、とりあえずの第一段階をクリアしたに過ぎない。

 驕ってはダメだ。これくらいのことはこの世界の人なら誰でも当たり前に日常に出来ている。だから、安心するのはまだ早い。


 次、次、だ、、って、あれ? なんか、疲れてきたな。ああ〜、やべぇ。ダメだ、意識を、もう、保てな、、、




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