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19;入学試験

 重く、雲が立ち込めていた。

 どんよりと今にも雨が降ってきそうで、しかし降らない。そんな絶妙のバランスに保っている黒い雲。雷さえいつ落ちてもおかしくない雲の下、僕は一人の少女と相対していた。


 僕は両手で剣を構え、彼女は両腰の短刀に手をかけていた。その二つの短刀はあまりにもアンバランスで正中線を分けて右と左で人が違うかのようでもある。


 右の短刀は豪奢であった。金に光る鞘には多数の宝石が散りばめられている。光るほどに磨かれ、光り輝き、余りにも高価そうで、そして、国最高峰の名刀匠が打ったかのような強力な気配が滲み出ていた。

 左の短刀は貧相であった。無骨な鞘には一切の飾りがなく、あちこちに傷が見受けられる。いかにも安そうでどこにでも売っていそうな、むしろあそこまでのボロ刀は売ってはいまいとさえ思うような汚さだった。


 そして、彼女は口を開く。


「君なんかにボクが負けるはずないよ」


 僕は口を開く。


「お前なんかに負けるわけがないだろう」


 そして、勝負開始のゴング、もとい号令が低い雲にまで響き渡った。


「勝負! 始め!!」


 国立王都高等学園、入学試験兼クラス分け試験、第二次試験「決闘」が、今、開始された。


 ―――――


 国立王都高等学園。


 この国においてトップの教育環境が整っており、主要貴族、ひいては王族までもが通う最高教育機関である。

 通常15歳で入学し、3年間で教育課程を修了する。その間に各々スキルの使い方を学び、戦闘術を学び、政を学び、卒業時には経験以外の面において完全に一人前となる――経験だけは3年ではまかないきれないのだろう。

 この国で一番大きな都市で首都である王都の南東の一角どころか一区画と言っても足りないほどに広い敷地面積を誇っており、二番目に大きい王城を軽く倍は超える大きさの建物を中心として訓練場や男女それぞれの寮などがところ狭しと並んでいるかと思えば、だだっ広い校庭も備え付けている。



 僕と、それからお姉ちゃんとダレは、今そこにいた。まだ入学が決まったわけではない。今日の試験次第では入れないことも十分あり得る。まあ、母さんもメイドさんも大丈夫だろうといっていたが……。それでも油断大敵。気を抜いたら足元を掬われかねない。


 入学試験まず第一は「筆記」である。

 歴史、文学、政治、法律、数学、魔学、それぞれの知識と思考力を見るための試験がこれだ。

 まあこれは一応最低限を見るものであり、そこまで難しい問題は出ない。軽くやれば解ける問題であった。特に数学は余裕すぎる。四則演算出来れば大丈夫な問題だったのだから拍子抜けもいいところだろう。日本での知識のある僕にとってはまさしく児戯だ。

 勉学についても一応メイドさんに一通り教えてもらったから解けない問題ではなかった。


 しかし、最後の一問で僕は頭を悩ませることとなった。


 「魔族に対してどう思うか、理由も含めて千字程度で述べなさい」


 魔族、か。


 出題側、つまりは王国側がどんな答えを求めているのかはわかる。

 魔族に対する批判だ。


 お姉ちゃんは、そう書くだろうな。ダレのことはあっても、勇者スキルの影響もあるし、魔族に対してはかなりの嫌悪を抱いているはずだ。

 ダレは、どう書くんだろうな。記憶を失っているとは言え、自分が魔族なわけだし、共存の道でも示すのか。


 ちなみにダレは自分が魔族であることは隠してここにいる。当たり前だ。もしそれがバレたら死刑は確実だ。あるいは捕虜として脅しに使われるのかもしれない。

 だからダレは僕らの使用人ということになっている。そうすれば僕らと一緒にいて何ら不思議はないからな。


 話が逸れた。思考が逃げた。


 出題者の意図を汲むか、それとも自分の意見を伝えるか。

 自分の意見を伝えるとして、僕はどう思っている? 魔族に対して何を感じる? わからない。


 まず、転生者である僕にとって現実感がないというのはあるだろう。だから、人間と魔族が戦争をしているとはいっても正直他人事に受け取ってしまう。その戦場を目にしたことがないというのも大きいだろうな。だから、僕には関係がないと思っていまう。それ故に憎いとも思えないし倒すべき敵として認識することも出来づらい。

 こういう当事者意識の欠落は直していかないといけないだろうな。ずっと関わらずにいるというのはどうやら難しそうだ。というのも僕の今の目標は魔王に会う。だからだ。なぜそんなことを目指すのかというと、単に魔王がこの世界で一番の長生きだからだ。長く生きていればそれだけ知識量も増えていくだろうし、この世界に来たそもそもの目的のために、それがベストだと判断した。行き詰まっているのだ。この世界に来たからといってすぐにわかることなんてなかったし、例の世界との関わりなんて見えてこない。世界間の交流を可能としている訳でもなさそうだし、あるとしたら、そういうスキルの実在。でも、それだけの魔力量を備えていなければならないってことになるし、そんなスキルあり得るのかもわからない。わからないことづくしなもんだから一番の古株に教鞭を乞おうというだけのことだ。


 と、また考えがずれた。


 僕が、魔族をどう思うか。


 考える。考えた。そして、考えが至った。


 自分の本音を、本当の気持ちを、今、言葉にしよう。


 僕は、ペンをとった。


 そして、書き終わると同時に終了の合図が鳴る。

 解答用紙が回収され、次の試験会場である校庭に行くこととなった。


 そしてそこで、僕は相性最悪の相手と相対することになる。

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