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17/23

17;部外者



「で、どうすればいい? たぶん、そんなに時間に余裕はないぞ」


 家に帰り着き、お姉ちゃんをベットに寝かせたのでどうすればお姉ちゃんの意識に介入できるのかをダレに聞いた。一応僕が寝かせたが、そんなに長く持つとは思えない。いつ目覚めてもおかしくないし、そうなったら大惨事確定だ。

 ちなみに今家に母はいない。仕事でどこか遠くへ行っているらしい。できれば知られたくないな……雷が落ちそうだ。


「本当に、いいのですか?」

「ああ、もちろんだ、早くやってくれ」


 ダレはこくり、と頷いた。

 すっと右手をお姉ちゃんの右手につなぎ、左手をこちらに差し出してきた。

 僕はそれを握る。優しく、握った。


「いきます! "君の心は(ツイストハート)丸裸(ツイスト)"」


 ダレとお姉ちゃんの繋いだ手を中心に、ブワッと、白い光のようなものが広がった。その勢いは凄まじく、僕を、飲み込んだ。


 眩しい光に、僕はたまらず、目を閉じる。





「お、目ぇ覚めたか、坊主」


 目を覚ますと謎の場所にいた。辺りは混沌。いろいろな色が混ざり合い、重なり合い、打ち消し合っている。

 何だここは。あ、ここお姉ちゃんの心の中?


 で、じゃあ、コイツは何だ?

 パッと見お姉ちゃんにも見えたが、そうじゃない――むしろそれだけじゃない、というのか。黒い、見通せない闇のようなものを感じるし、そしてそれだけでもなく、もっと何かが混じっている。

 男にも見えるし、女にも見える。年寄りに見えたかと思えば幼児に見える。人か、人ならざるか、それすらもあやふやで危うく、ちょっと気を抜けばゆらめき消えてしまいそうな、何者でもあって何物でもない、存在。

 生き物なのかすらも怪しい。

 そんな正体不明の何かが、お姉ちゃんの心の中には、いた。


「おっと、そんなに睨んでくれるなよ。どっちかって言うとここでは手前が部外者だぜ。俺っちはだいぶ馴染んできたからな」


 部外者? 馴染んだ?

 まさか、コイツが……


「お前、勇者スキルか?」


 ソイツは、にやり、と笑った。


「なんだ。わかってんじゃねえか。ま、でも厳密に言えば違うがな。俺っちは、それを構成するただ一要素に過ぎず、そしてそれだけでもない。それ以上でもそれ以下でもある。

 まあ、でもいい線いってるぜ。褒めてやる」


 は? 何を言ってるんだかわからんから、それは無視するとして、やっぱりわかったことはある。


 こいつのせいでお姉ちゃんはあんなことになった。

 だったらやることは一つ。

 こいつを倒せば解決!


 僕はすっと半身に構えた。


「おいおい随分物騒だな。会ってすぐにバトルってか? ハッ、好戦的なのはいいけどよ、相手と場所を考えた方がいいぜ。とりあえず腰据えて話そうや」


 え?

 気付けば僕は座っていた。

 いつ? 僕は座った? 自分からなのか何かされたのか。それすらもわからない。瞬きして次の瞬間に世界が変わっていたとか、そんな感じ。


「にしても、手前何処かで会ったことねえか? な〜ンか知ってる気がするんだよな」


 ここは、とりあえず話を聞いておくのが良いだろう。何をされたかわかるまでは、また同じことの繰り返しになってしまう。


「なんだ、ナンパか? それなら他を当たってくれ」


「ハッ、それはなんとも面白えジョークだな。でもまあ、知らねえならいいや。大したことじゃないだろうしな。大方、今まで取り憑いた勇者の誰かの生まれ変わりってところだろうよ。気にすんなや、悪ぃな」


 ソイツは、ハッと笑い飛ばした。


「で、いったい何の用で、こんな所に来たんだ? まさか観光ってわけでもねえだろうし」


「わかってんだろ?」


 しっかりと、ソイツを見据えた。


「お姉ちゃんを返せ」


 キッパリとキッチリとハッキリと、断言する。

 すると、ソイツはハッと笑い、言った。


「なんだ。手前、宿主の弟か。そうかそうか。でもまあなんつうか、返せなんてひでえいいようだな。俺っちは奪ったりしてねえよ。持ってねえ物をどう返せってんだ」

「お前以外に、誰がいるっていうんだ!」

「そりゃあ、手前とかじゃないか?」

「そんな訳あるか!」

「ハッ、まあそんな怒るなや。実は俺っち勇者以外の人間と話すのはこれが初めてなんだぜ。あん時までは神さんと天使連中しかいなかったし、そっからはずっとこんな感じだしな。だから案外愉しいんだぜ? もっと話そうや」

「誰がお前なんかと」

「ったく短気でいけねえや。最近の若者は、ってやつは案外間違っちゃあいないのかもな。もうさっきのこと忘れてねえか?」


 さっき? そうだった。こいつに対する対抗策はまだないだから策が思い浮かぶまで大人しくしておくって決めたばかりじゃないか。こいつの言葉を真に受けるわけじゃないが短気になっている。気をつけなければ。落ち着け〜落ち着け。


「そうそう、最近の若者は関連でさ、」


 どんな関連だ………


「さっき手前とこれがバトってんの見てたんだけどさ、何あれ、なんでこの歳でこんな強えの? 特にこれなんか歴代勇者の全盛期に匹敵するぜ、俺っちの力貸してないのにあれってすげえよな。この世界、インフレでも進んでんのか?」


 インフレ? 何言ってんだ。いや、今なんて言った? 力を貸してない、だって?


「まさか、百倍じゃなかった?」

「ハッ、んなことぁどうだっていいんだよ。魔族相手じゃないのに力ぁ貸せるわけねぇだろうがよ。手前が魔族だって言うなら話は別だけどよ。それより、手前はスキルなんだよ、あんな何かうねうねしたの見たことねぇぞ俺っち」


 百倍じゃない。あれで普通の通常運転なのか。嘘だろ? いや、でも確かにあれが百倍なのかって言われるとそこまでじゃあない、のか? いや、でも流石に百倍じゃないにしても、何倍かにはなってたんじゃないか? でもこいつは力を貸してないって言ってる。つまりはそれすらもないってことだ。そうなると……


「おい! 聞いてんのか? 人の話はちゃんと聞けよ? あ、俺っち人じゃなかったか。ハッ、で、スキルはなにかって聞いたんだけど?」


「ん? あ、ああ、スキル? スキルね。うん、スキルは栽培だよ」


 って、しまった! つい教えてしまった。考え事してたらつい…… 手の内を明かすなんてとんだ愚策だ。アホか僕は。


「はあ〜? 栽培? あれが? いやいや、冗談だろ? 俺っちも前々代くらいの勇者の連れが栽培スキル持ちだったけどそんな物騒なもんじゃなかったぜ? ちょ〜っと植物の成長に関与する程度のはずだぜ」


 ちょっと?


「いや、何言ってんだよ、植物を自在に近いまでに操れるのが栽培だろ?」


 ソイツは急に納得したようにハッ、と笑い飛ばした。


「あ〜、なるほどな。手前、魔力量が半端じゃねえな。長えこと生きてる魔王の野郎よりもあるんじゃねえか?」


「は?」


 魔王?


「魔王ってそんなに長寿なのか?」

「おうよ。あれは永く生きる為にスキルフルスロットルだからな。ったく忌々しいぜ。だからこっちと違ってあの野郎は代替わりしてねえんだよ。早めにケリつけねえとな。その点今回は期待大だぜ。この歳でこの強さってことはこのまま成長していったら確実に魔王よりも強くなる。それに、そうだな手前を魔力貯蔵庫として使えれば……ハッ、勝ったな」

「ま、待て待て待て待て! お前、僕と会話する気無いだろう。わけわからないよ。代替わりしてない? 魔力貯蔵庫? 何言ってるんだ一体?」

「ハッ、ちょっとは理解する努力をしようぜ、坊主。そうしないと会話にならねえだろう。会話っていうのはキャッチボールと同じなんだぜ? 投げたボールはキャッチしてもらわねえと。エラーばっかしてんじゃねえよ」

「いやいや、さっきから大暴投っていうか大リーグボールばりの変化球投げてきてんのはそっちだろう」


 ピクッと、眉が動いた。


「大リーグボール? 手前…… まあいいや。ハッ、悪かったよこっちも気ぃ付けるわ。頭の弱い坊主でもわかるようなボール投げてやるよ。俺っちももっと話していてぇかんな」


 なんだムカつくなあ。頭が弱いとかじゃなくてただ知らないだけだよ。知らないもんは知らないんだからしょうがないだろう。って話の主導権をあっちに握られてしまってるぞ。まずい。あっちのペースに飲まれちゃあダメだ。あくまでこっちが、情報を引き出させるんだ。


「それじゃあこっちから質問だ」

「おう。なんでも聞け。ちゃんとストレート投げてくんならこっちはホームランぶっ放すぜ」


 いや、それじゃあダメだろう。

 そうじゃなくて。


「……」


 何から聞く!?

 やっべぇ考えてなかったよ。どうするよどうしよう。何を聞くべきだ。何が正解だ? ストレートの投げ方……じゃなくて! 落ち着け。そう! 目的だ。そもそもの僕がここに来た目的を思い出せ。


「お〜い、どした? 腹でも壊したか?」


 何のためにここに、お姉ちゃんの心に入り込んだ? それはそう、お姉ちゃんを助けるためだ。じゃあそのためにはどうすればいい? 

 なんの情報が足りない?

 何を知ればいい?

 僕が一番知りたいこと。それは……


「どうすれば、お前はここから出ていく?」


「クッ、ハハッ」


 笑った。


「ハッ、すげえな。ド直球のド真ん中ストレートじゃねえか。それは予想外だったぜ。こりゃ俺っちも打ち返すしかねえか?」


 打ち返す? まずったか。単刀直入に聞きすぎたか。何やってんだ僕は。馬鹿か? そんなふうに聞いて、自分を害するような情報を堂々と教えるわけないだろう。くっそ。


「ハッ、そう構えるなや。取って食ったりしねぇよ。もう俺っち達ダチだろ?」


 いつお前と友達になったよ。


「ありゃ? 時間切れか?」

「時間切れ?」

「ほれ、見てみろや」


 そう指さされて自分を見てみると、僕は消えかけていた。


「うおっ! 消えてる?」

「大方術者の魔力が切れたんだろうな。残念だが一旦お別れだ」


 いや、それは困る。だって僕はまだ……


「待て! まだ話は終わってない!」

「そだな。またいつでも来いよ。もうダチだかんな」


 くそ! どんどん薄くなっていく。まずい。そうだ、ダレの魔力量のことも考えなければいけなかったんだ。それをもって時間切れになるなんて容易に想像がつく。もっと早くに気付いていればそれなりに急いで行動していただろうし、何やってんだ僕は!

 いや、反省は後だ。まだ大丈夫。


 だから、せめて……


「焦んなや。ダチ公。手前の言いたい事はわかってるよ。別に俺っちも順番は気にしねぇしその方が効率良さそうだしな。あの魔族に対してだけは攻撃意志を控えてやるよ」


 な! それはつまりダレに対してはもうおねえさんは殺そうとはしないってことか。


「だがなぁ、俺っちは意志を与えるだけで意識とか意思にまではもともと干渉しねえんだよ。だからあとは宿主次第ってこった。宿主が何を考えてるのかは俺っちが管理してるわけじゃないからな。あっち戻ったらせいぜい説得頑張れや」


 なんだよ。目的は達成したのか? こんなあっさり? いいのか? 何かしら思惑とか裏があるんじゃないのか? もしくは嘘をついてるとか?

 そうだ。そういえば……


「お姉ちゃんは何処だ? ここはお姉ちゃんの心の中だろう? なのにお姉ちゃんを見てない」


 すると、ソイツはハッ、と笑い飛ばした。


「何言ってんだ。ずっと手前の隣にいるだろう」


 え? 


「おね……」


 振り返ると、そこにはお姉ちゃんが、泣いていた。


「じゃあな、ダチ公。また会おうや」


 そんな声が聞こえて、僕はそこから煙のようにたち消えた。

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