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16;勇者スキル


僕の問いかけに答えたのは屋敷でお姉ちゃんに退けられたはずのメイドさんだった。

どこから現れた? ていうか今までどうしてたんだ?


「申し訳ございません。一瞬の隙をつかれてお嬢さんに逃げられてしまいました。急いで追いかけたのですが、森で道に、迷ってしまって……」


 うっわ。もはやただの方向音痴か! いや、でもすごい反省してるようだし。あんまりきつく言うのは悪いかな。


「それは、うん、しょうがないね。しょうがないしょうがない。で、お姉ちゃんの為って、どういうこと?」


「坊っちゃんは、勇者スキルが具体的にどのような能力を持っているのか、知っていますか?」

「それは、全スキルの能力を持つっていう最強のスキルだろ?」


 メイドさんはコクリと頷いた。


「確かにそれは正しいです。勇者スキルは最強と言われており、そして、全スキルの能力を扱える。しかしそれは、全スキル制覇は、最強と言われる大きな所以ではなく、そして基本的な能力である、というだけです。勇者スキルの一番の特徴、最強と言われる所以は、魔族に対して通常の百倍の力を発揮できる、です。戦場で勇者スキルを見たことがありますが、それはもう形容しがたい強さでした」


「百!!??」


 ちらりと、意識を失って寝転んでいるお姉ちゃんを見る。


 百……。それは、圧倒的過ぎる。普通でもかなり強いのに、それの百倍。そりゃ、勝てないわ。

 ん? あれ、でも。


「でもそれは、ダレが別れる理由にはならないんじゃないか? と、いうかなんでお姉ちゃんはダレを見た瞬間、あんな人が変わったように……」


「そうです。それが問題なのです。そこまでの強さを、なんの代償も無しに常人が発揮できる訳がない。むしろここからが本題なのですが、勇者スキルは魔族に対して非道い嫌悪感を抱くそうです。問答無用に否応なく嫌悪し、憎悪し、殺意を抱く。見ただけで許せなくて、存在自体を認められない。まるでスキルが意思を持っているかのように、本人の信仰、思考とは関係なく、そう感じる。スキルは生まれたときから持っているものですから、それが本人の意識と摩り替わるのかもしれません。潜在意識、心の根っこの部分に張り付いて離れない。何が在っても何に会っても何が起こっても変わらない。普段の人格とは考えられない程に、魔族に会った時、爆発する。

 それが、勇者なのです。

 魔族を殺す為、滅ぼす為にだけ生まれたような勇者。与えられた使命なのか抗えない運命なのか。どうしたって、どうしようもないのです。

 だからもうお嬢さんに魔族を合わせるわけにはいかないのです。考えが甘かった。ここまでとは思ってませんでした。いきなり殺しにかかるような、そんなことになるまでとは思いませんでした。失態です。話し合えば和解もできるなんて、思ってはいけなかった。魔族に何をされたわけでもない、そんな状態なのに、全く関係ない状態なのに、そんなになるなんて、思い違いでした。

 申し訳ございません。ですが、確かにそこの魔族の方は、もうお嬢さんに会わせるわけにはいかないのです。お引き取り願うしかないのです。

 本人もそう言ってますし、そう願います」


 随分冗長だな。らしくないじゃないか。そんなに長く喋ってたら、何言ってるかわからないよ。

 結局何なんだよ。どうしたらいいんだよ!


「そうです。そういうことなんですよ。ですから、わたしは失礼致します。ここまでありがとうございます。本当に感謝しております。言葉では言い尽くせないくらいに。わたしは、大丈夫です。ほら、あの、頼る所も、ありますから、だから、大丈夫なんですよ。心配しないでください。自分を責めたり、しないでくださいね。それでは、失礼致します」


 そう言って、踵を返してどんどん歩いていった。どこへ向かっているのかわからないけど、しっかりとした足取りで、一歩一歩踏みしめて、僕から遠ざかって行く。


「これでいいんです。これがあの子と、そして何よりお嬢さんの為です」


 本当に、そうか? 本当にそれで、いいのか? 僕は、納得か? 理解したか?


 そうだ。しょうがない、しょうがないじゃないか。それしかないんだ。元々助ける義務なんてなかったし、たまたま見かけたから気分的にたまたま助けただけだ。関係も深くない。

 思えばあいつのことは何も知らない。そんなのただの他人だろ? 他人の為に、自分の命を削るなんて、お姉ちゃんを危険に晒すなんて、間違ってる。

 頼る所もあるって言ってたし、投げ出すわけじゃない。逃げ出すわけじゃない。

 そう、これが正しい選択。僕は正しいんだ。万歳三唱。喝采天晴。



 ふざっけんな!!!


 

 走り出す。走って追いつき、手首をがっしと、掴んだ。


 目を白黒させこちらを見るダレ。

 それを無視して、僕は叫ぶ。


「嘘ついてんじゃねえ! 頼る所があるなんて、そんな嘘誰が信じるか!」


「それは、本当に……」


 戸惑いながら、俯きながら、ダレは言う。

 それも僕は無視をする。無視して僕は、指摘する。


「記憶も無いのにか?」


「!?」


 絶句、が正しいのだろう。その表情になったダレは、震える唇を必死に動かして、言葉を紡ぐ。


「どうして……? いつから……?」


「どうしても何も、気づかないわけがないだろう。いつから気づいてたかっていうと、たぶん、ダレが目覚めてすぐっていうか、でも気付かない振りをしてたんだ」


 そう、最初から気付いてた。私はダレ、ではなく私は誰? だったのだ。こんなものは伏線にもなりはしない単なる事実。あまりにも当たり前。でも、指摘しなかった。優しさからなどではない。そんなもの、僕は持ち合わせちゃいなかった。

 ただ、面倒くさかった。

 だからそんなことなかったことにした。


 でも、もう、そんな段階は過ぎたんだ!


「いつから記憶が無いのかは知らないけど、自分の名前も知らなかった君に、頼る所なんて、ある訳ないだろ」


「わたしは、わたしが思い出せる一番古い記憶は、魔物に襲われて痛い、です。気づいたらこの森にいて、魔物に襲われていました。だからわたしが最初に会った人は、貴方様なのです。ヘキシル様はわたしにとても親切にしてくれました。本当に短い間でしたけど、とても、嬉しかったです。最初に会ったのが貴方様で良かった」


「親切になんて、してないだろう。僕は君を、存外に扱った」


「いいえ、わかります。わたしにはわかるのです。貴方様は、とても優しい心を持っていらっしゃる」


「お世辞が上手だね」


「ふふ。そうですね。本当に優しい方は、自身がそうであると、自覚しないですから」


「む〜。うがー! そんなことより、とにかく! 君は、僕と、メイドさんと、それからお姉ちゃんと、屋敷に行く! それでいいよね」


 決して恥ずかしかったから話をむりやりそらしたのではない。ただ話を戻しただけだ。断じて! 僕はむず痒くなんてなってない。


「それは、無理なのですよ。不可能なのですよ。わたしの状況なんて、関係ないのです。不可能は何をしても不可能なのです」


「確かに、あれがお姉ちゃんの本心からの行動なら、そうかもしれない。お姉ちゃん自身が、本当に魔族の根絶を望んでいるのなら、僕はむしろそれを尊重する。でも、違った。違うんだよ! お姉ちゃんは、必死に抵抗してた。僕を殺すまいと、抗っていた! だから……」


「そうか! お嬢さんは大人びているとはいえ実年齢はまだ幼い。スキルの意思なんてものが本当にあるのなら、それがまだ馴染まず、お嬢さんの意識とは完全に一体化していないという仮説が成り立つ。だから、それを完全に乖離させることができればあるいは……」


 おおう……。そうだね。出来れば僕の決めどころを持ってかないでほしかったけど、メイドさんだからまあ、しょうがないか。と、いうかその通り。僕の考えと違わないその結論は、さすがといったところか。


「そう。そういうこと。だから、大丈夫だよ、ダレ。一緒に屋敷に帰ろう」


「待って下さい、坊っちゃん」


 そこで、メイドさんからストップがかかった。

 どうしたんだ一体。なぜいいところで止めるんだ。


「どうやって、お嬢さんの意識に干渉するのですか?」


 ああ、そのこと。そのことだったら話は単純。


「ダレのスキルを使うんだよ」


「わたしの、スキル?」


「一体、どんなスキルですか?」


 メイドさんは切り替えが早くて助かる。


「なあ、ダレ。ダレはさ、僕らの心の中、読めてるだろ?」


 ダレは絶句した。


「いつから、気付いていたのですか?」


「まあ、そんなことはどうでもいいのさ。いつからと言ってもなんとなくだからな。それより、ここで問題なのは、他人の心が読めるのなら、もっと踏み込んで、侵入することもできるんじゃないか?」


 ダレは一瞬の逡巡の後にコクリと頷いた。


「はい。おそらく、できます。記憶は無いですけど、スキルの運用法はなんとなくわかるのです。申し訳ございません、勝手に覗いてしまって……」


「いいんだよ。僕でもたぶん、そうしたから」


 何もわからない状況で、少しでも情報を得たいというのは、当然の心理だろう。だから僕はそのことに対して怒ったりしない。問題はどこまで読めているかだが、転生してきたことまでは読まれてはいないと思う。知ったらそれなりの反応があるだろうし、何かしらの条件や上限があるのだろう。


「さて、と、じゃあダレが必要であるとわかってもらえたようなので、とりあえず屋敷に帰らない?」


 こんな野ざらしでずっと寝てるとお姉ちゃんも風邪ひきそうだし。


「「はい」」


 二人からそれぞれ違う声色だったが、それでもやっぱり同じ賛成の返事を頂いたので、僕達は屋敷に帰った。


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