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15;拡大解釈

 栽培とは、どのようなものか。

 植物を育てることである。

 そう答えるのが普通だろう。そして多分、それが正解だ。


 では、植物とはなんだ?

 植物と動物の違いは?

 動物は動く物と書くくらいだから、生物の中で動くのは動物で、動かないのが植物。


 本当に?

 ウォーキングパーム、オジギソウ。などなど、動くことのできる植物は数多く存在する。もっと言えば、花を閉じたり開いたり、そんなことも動くとは言うことができないだろうか。

 逆に、フジツボは動くか? そのようにほとんど動かない動物だって存在する。


 では、もっと本質的な部分に目を向けてみよう。

 植物には細胞壁や肺胞があり、動物にはそれらがない。


 そんな、

 そんな些細な事。

 たったそれだけの違い。

 誤差の範囲内。


 で、あれば、そんなことは考えなくて良い。


 拡大解釈。



 栽培とは、生物を育てることである。


 そしてもちろん、僕もその範疇にある。






 僕は自分にスキルを、使った。

 一気に突発的に短期的に短絡的に爆発的に……

 そうすることで、まず、傷を完治させ、自分の身体能力を、驚異的に成長させた。


 お姉ちゃんとの距離を一気に詰める。

 常人には反応できない速度。完璧なタイミング。当たり前のように懐へと入れる、そう思えた。


 が、


 その時、お姉ちゃんがこちらを向いた。ぐるん、と首を回して、目を見開いて、こちらを見た。

 捉えていた。

 僕の動きを捉えて、そして僕は、捕らえられた。


「ぐはぁ!」


 駄目だった。

 結局駄目だった。大仰に前置きして、前振りを伸ばして、これなら勝てると伏線を張り、それでも駄目だった。


 頭をがっしりと片手で掴まれ、ぎりぎりと締められる。


 ぎりぎりギリギリぎりぎりと、頭蓋骨が音を奏でる。


 死ぬ。

 死んだらさすがに治せない。頭を潰されたら即死だ。


 イメージできた。

 僕の頭がプチッと弾けて、脳漿全部ぶち撒けさせ、地面が赤く染まる。


 ……

 …………

 ………………

 ……………………………………………………


 おかしい。なかなか訪れない。その時が。


 瞑っていた目をすっと開ける。

 目の前にはお姉ちゃんの顔。

 その顔は、鋭く、どす黒く、殺気に溢れ、

 そして、

 涙を、流していた。


 ボロボロボロボロと、大量の涙が目から零れ落ち、頬を伝い、ぽたり、ぽたりと、顎を離れて地面に落ちる。


「逃げて、、ヘキシル……」


 いた。

 まだ、いた。

 僕の知るお姉ちゃんは、まだ中にいた。中で闘っていた。

 今表層に現れていたのは、やっぱりお姉ちゃんとは違う何かだったのだ。

 そうか。

 それじゃあ、僕は、僕の知るお姉ちゃんを助ける為に、またお姉ちゃんと一緒にメイドさんのしごきを受けられるように、またお姉ちゃんのあの笑顔を見られるように、僕は!


「ごめんお姉ちゃん。僕は逃げるわけにはいかないから、だから今の内に、謝っておくよ……」

 ちょっと眠ってて!!


 左手で、お姉ちゃんの手首を掴む。

 右手は肩辺りの袖を。

 そして、一気に手首を返し、思いっきり、ぶん投げた。


「冥土流転地天倒!!」


 所謂、背負い投げだ。

 それをもうちょっと工夫して、使いやすくした。


 お姉ちゃんは全く受け身をとれず、いや、多分とらず、だな。そうして、意識を、手放した。


 はあ、はあ、やった。僕は、やった。


 あ〜、あれ? なんか忘れてる気がするな。


 僕の目的はお姉ちゃんの目を覚まさせること、だったっけ?

 なんか違う気がする。

 大事な目的が他にもあった気がする。


 顔を上げて辺りを見回してみた。


 あ、


 木でできた檻、のような、完全に密閉された人一人分くらいの大きさのツボミのような形のものがあった。

 そうだ、ダレ!

 僕は大急ぎでその木を全て外側に伸ばし、花を開かせるように、木を開いた。

 中には猫耳美少女、ダレがいた。

 中で出られるように抵抗していたのか、開いた瞬間、前のめりにつんのめって、転びそうになっていた。

 それを僕は、受け止める。

 ダレが倒れないように、がっしりと受け止めた。


「どうしてそんなにボロボロになってまで、見ず知らずのわたしを、助けてくださったのですか?」


 ダレは言った。


「さあね。僕はただ、お姉ちゃんを助けたかっただけかもしれない。ダレのことは、ついでだよ」


 僕はそれを、突き放つ。どうでも良い。どうでも良かったのだ。事実、最後の方はお姉ちゃんのことに必死になってダレのことなんて忘れてた。


「ついででも、いいのです。わたしは救われた。それだけが事実なのですから。だからもっと誇ってください。もっと自分を、好きになって」


 それでもいいと、ダレは言った。

 いいのかな。でも、本人がいいというのだし、まあ、いいか。いいんだよ、な。


「あ」


 倒れるところを受け止めたまま、つまりはずっと抱きしめているような格好になっていることに気づいたら僕は急いでダレから離れた。


「さあて、と、これからどうするか。とりあえず屋敷に戻るか」


 話をそらした。あからさま過ぎたか?


「そう、ですか。でしたら、わたしは、ここでお暇させていただきます」

「え? なんで?」

「それは……」


「お嬢さんの、為ですよ」


 ここでお別れと言ったダレ。それに対して何故なのかという僕の疑問に答えたのは、メイドさんだった。

 

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