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12;女神は

―――――――



「さて、と?」


 ワタシはう〜ん、と伸びをして、くいくい、と腰を回した。するとバキボキベキ、と音がなった。


「うっわ〜、もう歳かな?」


 願いは託した。あとはあの子がどうするかだ。それに関してはワタシはもう関与すべきではない。というかできない。


 こちらはこちらでやることがある。違う側面からアプローチする。

 あの子は世界から、ワタシは神から、それぞれ探ってみる。


「そうと決まったらやりますかな?」


 人差し指と中指を合わせて前を指し、φの字を描くように動かす。


「開け」


 すると、何もない場所から透明な、光のドアのようなものが出現する。

 その奥へとてくてく、と進む。


 体がドアの奥に入りきった所で視界が変わり、辺りが一気に乱雑な様子になった。

 大きくて偉そうな一つの机の前に、ズラリと一回り小さい机が並び、その机のどれもが白い書類の山に覆われている。


 その一つ一つの机に向かっているのは、天使だ。頭に光の輪をつけ、背中には白い羽根が生えている。

 誰もが作業に追われているのか、慌ただしく書類の山をひっくり返し、電話を取っては怒号を繰り返す。


 そんな中、ワタシの存在に気づいた二人の男がこちらに近づいてきた。

 なにやら険しい顔をしている。

 ワタシ何かしたっけ?


「いきなり抜け出して、何していたのですか? 神様」

「早く仕事に戻って下さい。やるべきことは溜まる一方ですよ!」


 おっとそうきたか。しかしながら残念なことにワタシは彼らに残酷な事実を突きつけなければならない。

 あーー心が痛い。


「ワタシ暫く仕事しないからね? じゃ、あとよろしく、ワタシの権限と仕事はキッチリ半分ずつ貴方達に分けておくからね?」


 そう言い残し、ワタシはまた別のドアを開き、くぐった。


「「はあ〜〜〜!?」」


 そんな声が聞こえた気がしたけど、空耳ということにしておこう。


「やあ、久しぶり、バレちゃん、元気してた?」

「なんだ、地の字か。久しぶりって程でもないだろう。今日は何の用だ」


 移動先はある神のところ。

 女神のくせに男勝りな勝ち気な顔立ちでこちらをジロリと睨んだ。


「別に用って程でもないんだけどね? 最近どうしてるかな〜、とか、思ったりして?」


 バレちゃんはふん、と鼻を鳴らした。


「アタシは暇な地の字と違って忙しいんだ。用が無いなら帰ってくれないか」

「いやいや、用ならあるよ? え〜と、あ、朝ご飯何食べた?」


 バレちゃんはふん、と鼻を鳴らした。


「わかりきったことを聞くなよ。アタシがパンにマーガリンでも塗って食べるとでも思ったか? 神は朝ご飯食ったりはしねえだろうよ」

「むむ、まあそうかな? まあでもほら、気分的に食べたくなる時もあるじゃない?」

「ねえよ」

「そお? まあ、知的生物を二つにきっちり分けてそれを戦わせるようなバレちゃんだもんね、それもしょうがないのかな?」

「いや、それは、ああ、まあいい。地の字に言ってもしょうがないしな。それより、嫌いだからって種を問答無用で全滅させたやつがよく言うじゃねえか。非情さで言えばそっちのがだいぶ勝るぜ」

「ああ、恐竜のこと? あれはしょうがないじゃない? だってせっかく繁栄してるのに頭じゃなくて図体ばっかりでっかくしちゃって、あのままだと知的生物生まれないじゃない? それにほら、結局滅ぼした後人間生まれたし、結果良ければ、じゃない?」

「そうすっぱり割り切れるところを言ってるんだよ。いくらアタシたちは知的生物が生まれないとその内消滅するっていっても自分で手塩にかけて育てた我が子をためらいなく消せるとか、どうかしてるぜ」

「そんなこと言ってるのバレちゃんだけだよ? なんていうかやっぱりバレちゃんは不思議ちゃんだね?」

「うるせえ、アタシじゃなくてそっちがおかしいんだ」


「サッちゃんの世界を消したくせによく言う」

 ワタシはボソリと呟いた。


「何か言ったか?」

「いやいや? 何も言ってないよ?」


 ブンブン手を振って誤魔化した。

 良かった。気付いてない。


「ああ、それより、さっきアタシの世界にどっかから介入があってさ。どっかの世界の魂がこっちに紛れ込んできたらしいんだよね」


 ギクッ!!


「地の字、アンタでしょ。誤魔化すなよ。アタシは有耶無耶な状態ってのが大っ嫌いなんだ」


 グッハ!! どうしよう。とりあえずごまかそう。


「え、え〜とそれは、あはは、きっとアレだよね?」


 駄目だぁ。何も思いつかない。

 すると、バレちゃんははあ〜、と大きな溜息をついた。


「アンタまだアタシを疑ってんの? 二千年前の事件の犯人」


 二千年。ああ、もうそんなに経ったのか。

 そんなに経ってなお、真相は解明されない。

 そう、だからなりふりなんてかまってられない。やれることをやらないと。


「バレちゃんが、やったんでしょ?」

「さあ、どうだろうね。どうせアタシはやってないって言っても信じないでしょ。だからアタシは、証拠を出せと言っておくよ」


 その言葉はきつく、キツく突き刺さる。


「でも、でもだって、世界が消える前サッちゃんと喧嘩してたし、それに、それに、ね?」

「ケンカ、ね。確かにアイツとアタシは、反りが合わなかったな。それでもアタシは、そんなことしない。気に入らない奴がいたら、徹底的に論争を交わそう。意見をぶつけ合おう。互いに互いを罵倒し合おう。アタシはそうするつもりだし、そしてそれだけだ。嫌いだからって武力行使をしようだなんて只の子供だ。アタシはガキじゃないんだ」

「だって……」

「だって、なんだ? まさかアタシが最上位神の一人だから、他神の世界を滅ぼす力を持っているからだとでも言うつもりか? 違うね。その考え方は間違っている。力を持つからこそその価値と脅威をよく知っている。それを軽々しく使ったりしない」


 ぐうの音も出ない。


 確証が無いわけじゃない。本当はワタシは知っている。バレちゃんがサッちゃんの世界に、消滅の直前に介入していたことは。

 ちゃんと感じた。


 あの時ワタシは少し気になって、サッちゃんの世界を覗き見ていた。

 その時、バレちゃんの気配を感じた。だから確実にバレちゃんがサッちゃんとサッちゃんの世界をどうにかしたんだ。

 それでもワタシは何もできなかった。何をしても無駄だからだ。

 ワタシの感覚なんて証拠には到底届かない。信用なんてされない。

 だからワタシは泣き寝入りをした。

 でもそれももう終わりだ。

 ワタシはもう、諦めない。


「ああ、そうだ。あの子。地の字が送り込んできた子。残念だったね」


 残念? どういうこと?

 ワタシは不思議そうに首を傾げた。


「スキルよスキル。地の字の世界にはないみたいだけど知っての通りアタシの世界では一人に一つスキルが与えられる」


 それは、知っている。それでそれが、いったいどうしたって言うの?


「下級も下級、最下級の栽培だってね」


「え?」




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