1;ありがちなプロローグ
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーーーン
チャイムがなった。6時限目の授業終了の合図だ。
「じゃあ今日はここまで。きちんと復習しておくように」
先生が教室から出て行く。この人の授業はメタクソ眠たい。目を開けているのがやっとだ。そんな中必死になって板書をし終わった僕は、やっと解放された。
教室にいるという苦行からの解放だ。
ノートと教科書とペンケースをリュックサックにしまった僕は教室の後ろのドアを開ける。静かに、しかし急ぎ足に、誰の気にも止まらないように。
そんな心配しなくても誰も僕のことなんか気にかけてはいないのだが、それでも嫌だ。
人と関わるのが嫌だ。人と接するのが嫌だ。――もうあんな思いはしたくないから。
そんなこととは関係なしに僕には急ぐ理由があった。途中になっている小説があるのだ。休み時間に黙々と読んでいたのだが、これが面白かったのだ。続きが気になってしょうがない。
小説、なんて言っても要はライトノベルのことである。別にそんなお硬い本を読めるような読解力は僕にはない。国語の成績は悪いのだ。どちらかというと僕は理数系。物理現象や数学の問題について考えていたほうが楽しい。
普遍的な所が最高だと思うのだ。
校門を出て右に曲がる。そして信号を渡ってすぐに駅が見えてくる。ああ、早く電車に乗って続きが読みたい。
「あ、赤だ」
赤というのはもちろん生々しい血の色のことでも、聖夜に良い子にプレゼントを配りまくる白い髭の生えたおじさんのことでもない。
信号だ。
信号の赤とはすなわち常識的に、止まれ、を意味する。当たり前だ。そしてそれはつまり、待たされる、のだ。ラノベの続きが、おあずけになってしまうのだ。
くっそ、早くしろよ。
別に僕も1分くらいの信号程度でこんなにイライラしないさ――しないよホントだよ。で、だ、ここで重要なのはこの信号だ。通り名は、「総てを阻むレッドポイント」――――なんていうのはもちろん嘘で今僕が考えただけなのだが、だがしかし、言いたいことは伝わっていただけただろう。
長いのだ。赤信号が果てしなく長い。あ〜、シンドッ。立ってるだけで疲れるわ。
うっわ、でっかいトラックが来てる。
その時、後ろに何か、気配がした気がした。僕には霊感なんてないし、殺気を感じる感性も持ち合わせてはいない。
だがしかし、でもなぜだか、なにか振り向かなければいけない気がした。
とん、……。
あれ? 体が、前に、乗り出した。後ろから、誰かが押した? 誰が? いや、それよりも、トラックが……
プゥウーン、……
後ろに、人影が見えた。フードですっぽりと覆ったその顔の、口元が、ニッコリと安堵したように、笑って、……
グチャリ!