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勇者(異世界人)なんてお呼びじゃねぇから!~奴隷暗殺者の勇者観察日記~  作者: サツキ
この世界のことは俺らに任せてさっさと帰ってくれ!
9/10

勇者観察日記7日目-2

 ~勇者観察日記7日目-2~


 おやつとして出した水羊羹の評判も良く、気分を入れ替えたところで講義の続きといこう。


 これから話すことは一般的な魔術師についてだ。彼女ら勇者は有り余る魔力と、どういう訳かこちらの世界の人間よりも深い魔法への理解力によってイメージをそのままに魔法を使うことに長けている。


 それはそれで素晴らしいことだが、こちらの戦力を理解してもらい、同じ戦場に立ったときに少しでも連携できるようになってもらわねばならない。


 ……まあ、それだけが理由ではないのだが、そのことを知るのはまだ時期ではないので黙っておくとしよう。


 ~とある奴隷暗殺者の手記より抜粋~





 「さて、休憩も終わったところで魔法と魔術の違いについても少しだけ教えておく」


 「魔法と魔術って同じものなんじゃないですか?」


 「リン、その認識は間違いだ。ユーカはわかるか?」


 「あ、はい。ワタシもまだ学んでいる途中ですが、明確な違いについてはマリアさんに教えていただきました」


 ユーカ嬢の隣でマリアが何やら得意げな顔をしているのが気に食わないが、教育はしっかりしているようなので黙って続きを促す。



 「魔法はワタシたちのような魔力を多く持つものが自身の魔力を使って大気中にあるマナに働きかけて現象を発生させることを言います。

 ですが、こちらの人々……というよりも人族はもともと保有する魔力量が少ないため、他種族のように魔法を行使することができません」


 こちらの顔色を窺ってーーいや、仮面で隠れていないので見えないだろうから雰囲気でも読んでいるのだろうか。別に間違っていたからと言って怒るつもりはないのでそんなにビクつかないでもいいと思うのだが、恐らくローランはこういう自信の無さを心配していたのだろう。



 「その少ない魔力を補い、さらに魔法現象を発生させるための手順を簡略化させるために魔導機関マギウス・エンジンと呼ばれるものを発明し、それを使って魔法を発動させる者のことを魔術師と呼ばれている、そうですよね?」


 「ああ、その認識で問題ない。ちなみにこいつが話に出てきた魔導機関マギウス・エンジンだ」


 懐から取り出したのは一見するとただの懐中時計だ。ついでに教皇が被る宝珠を小さくしてペンダントにしたもの、さらには騎士剣も一緒にテーブルの上に並べていく。



 「これが、マギウス・エンジンというものなんですか?いろいろと種類があるんですね」


 「これなんてただの時計にしか見えませんよ」


 不思議そうに出された三品を観察しながらそんな感想を漏らす。リンが手に持っている懐中時計に関しては見た目そのままの感想だ。まあ、別に間違ってもいないのだが。



 「リンが手に持っているのが帝国式と一般的に呼ばれているものだ。そっちのユーカが触っている球の上に十字架がついているのが宝珠を模したもので教会式と呼ばれている。そして最後に剣の柄頭についている球が連合王国式だ」


 「その帝国式とか教会式とか言われてもいまいちピンとこないのですが、何か違いがあるのですか?」


 「勿論だとも。それを今から説明しよう」


 「お願いします」と小さく頭を下げるユーカ嬢に頷き、先ずは手近にあった騎士剣を手に取る。



 「連合王国式は見ての通り剣に取り付けられている。こいつは軍隊を騎士で構成している連合王国が正式に採用しているものだ。必然的に剣や槍で戦うことが多い騎士のために考案されたもので、中に仕込んである術式は防御術式に身体強化、あとは武器への属性付与だな。簡単に言ってしまえば近接戦仕様、戦士用と覚えておけばいい」


 こちらは近接戦をメインに考えられているので、これくらいの術式しか仕組まれていない。遠距離攻撃に関しては弓兵や銃兵に任せるという思想によって成り立っている。



 「次に教会式。こいつも防御術式に身体強化、そして治癒や解毒などの回復をメインとした術式が込められている。現状、神官や修道士以外で回復魔法を扱えるものがいないから、戦場での唯一の回復手段となっている」


 回復魔法が使える者がいない、というのは若干の間違いがあるのだが、これは教会の闇に繋がるから黙しておく。説明の合間にマリアが何かを言いたそうな顔をしていたが、ぐっと飲みこんで微笑で隠してしまった。


 それについて思うことがないと言えば嘘になってしまうが、おれはどちらかと言えば逆の立場だからかける言葉がない。いつの日か、彼女の心を支えてくれるものが現れてくれることを願うばかりだ。



 「最後に帝国式だな。こいつは実用性を最優先する帝国の気質を表していて、ただの装飾品で終わらぬ用に懐中時計にわざわざ組み込んである。帝国式も他の例に漏れずに防御術式と身体強化は標準装備だ。そして攻撃用の術式が豊富なのが特徴だ」


 帝国式を説明する上で切っても切り離せないのが魔装銃マジック・ガンなので、彼女らが来る前に整備していた拳銃を取り出す。



 「こいつはお前たちの世界にもある拳銃と同じもので、種類で言えば自動式に分類されるものだ。帝国は遠距離用の兵器としてライフルを制式採用している。ここで重要なのはこいつに使われる弾の方だ」


 今回はライフル弾は用意していないので拳銃用の弾丸をいくつかテーブルの上に並べていく。それぞれ違いがあるとすれば弾頭の色くらいか。ただし、見る者によっては違った印象を抱くことだろう。



 「手始めに魔導機関を必要としないものから説明しよう。赤色の弾頭が爆裂系、黄色が当たった対象を感電させて行動不能にする麻痺弾。他にもいろいろと種類があるが今回は割愛しよう。本題はこちらの白色の弾丸だ」


 「確かに他とは違うようですね。その弾からは火属性以外は純粋な無色ーーと表現していいのかはわかりませんが、とにかくどの属性にも染まっていない魔力を感じます」


 視ただけでそこまでわかるとは、ユーカ嬢のことを少し過小評価していたらしい。さすがは魔法杖ヘカテーに適合しただけのことはあるということだろう。



 「ユーカの言う通りだ。こいつは術式弾と呼ばれているもので、使用者が任意で術式を付加することができる弾丸だ。爆裂術式に貫通術式、追尾術式を組み込めば標的が避けてもある程度軌道を自力で修正して命中させることもできる。この術式付与に特化しているのが帝国式の特徴だ」


 「それが本当なら、遠くから敵を倒せる帝国式が一般的な装備なんじゃないですか?連合王国式みたいに、敵に近づかないと意味がないものではそこまで普及しないと思うんですが……」


 「リンの指摘はもっともだが、その考え方は倒す相手が人型、それも人間を想定したものでしかない」


 「あっ」と声を上げてしまったという顔をしているが、それについては仕方ないことなので気にしない。そもそもまだこちらの世界の脅威となっているモンスターや魔族と交戦したことが無い者にそこまでの理解力は期待していない。



 「敵は強大だ。それは何も力だけではない。家よりも大きな、立ち向かうことすら恐怖を覚えるようなモンスターは多くいる。そいつらに対しては銃を持って攻撃しても有効なダメージは期待できない。それでも倒そうと思えば、何十何百と銃弾を叩き込まねばならん。しかしこいつならーー」


 スラッと剣を抜き放ち、曇りのない刀身に視線を這わせる。



 「剣を用いれば敵の急所を刺し貫き、切断することができる。モンスターとの戦いにおいて、最後にモノを言うのはどうしても剣だ。何より、魔法が効かない敵も存在するからその差は明白だ」


 あくまでもモンスター限定にするのであれば……の話ではあるのだが。まあ、銃がその真の脅威を発揮するのは魔族との戦争に勝った後になるだろう。そっちの話に関してはおれよりも彼女たちの方が詳しいのは言うまでもない。



 「あのジョーカーさん。このマギウス・エンジンは他にも種類があるんですか?」


 「そうだな。銃ではなく、魔法を再現することに特化したものもあるが、こちらは杖の形状をしているものが多い。というよりもその完成系がユーカ、君の持っている魔法杖ヘカテーだ。いや、ヘカテーを再現しようと試行錯誤を繰り返されたというのが正しいだろう」


 「そうなんですね」


 自分の神器を褒められたように感じたのだろうか、ユーカ嬢は愛おしそうに右手に嵌った腕輪を撫でる。あれが彼女の神器、ヘカテーの待機状態なのだろう。



 「とりあえず、魔導機関に関してはこんなところだろう。さて、そろそろ夕方だ。明日は早い。今日はさっさと休むことだ。集合場所はそうだな、教会の正門前に8時だ。遅れるようなら今回の話は無しだ」


 「わかりました!絶対に遅刻しません!」


 「明日はよっ、よろしくお願いしますっ」


 「元気がよくてよろしい。だが、その元気は明日に取っておけ。では、また明日な」

 

 「はい、失礼します」


 頭を下げ、リンは渡したモンスター図鑑を大事そうに抱えて帰っていく。ユーカ嬢はそれに続き、マリアだけが立ち上がったまま去ろうとしなかった。



 「どうした?」


 「私は貴方のことを信用していません」


 「だろうな」


 自分の教会での評判を考えれば、その意見は間違いじゃない。



 「明日の狩りの安全はちゃんと保証してくれるのでしょうね?」


 「ああ、それだけは保証しよう。教皇セシリア様の名に懸けてーーな」


 無言で見つめ合うが、仮面で視線を遮っているおれの真意を目から探ろうとするのは意味のないことだ。それでも視線で訴えたいことでもあるのか、目を逸らそうとしない彼女を呼ぶ声が外から聴こえてくる。



 「ほら、おまえのお友達が呼んでいるぞ。さっさと行ったらどうだ?」


 「言われなくてもそうします!では、失礼します!お茶、ごちそうさまでした」


 足早に去っていくマリアの背を見送り、最後に聴こえた感謝の言葉を思い出す。


 素直じゃない。決して言葉にはしない。だが、嫌っている相手にも感謝の言葉を告げれるのはさすがは聖女さまと言ったところか。



 「はぁっ。さて、とりあえず片付けますか」


 テーブルの上に並べた魔導機関と銃、それに銃弾を片付けながら明日の予定を再確認する。ガキの引率はやっぱり面倒だという結論に達したとき、これ以上は考えることはやめようと思考放棄した。






 ~とある奴隷暗殺者の手記より~


 これでこの世界の脅威について、そして魔法と魔術に関しての基本的なことは少しは教えることができただろう。あとは彼女たちが自身で学び、経験することでその身に知識として刻まれることだろう。


 明日は朝からハンターズ・ギルドへ赴き、登録を済ませたら適当なクエストを受けてモンスター討伐を経験させるとしよう。


 その際に一番気を付けねばならないことはやはりユーカ嬢だろう。魔法の扱いが未熟な彼女が暴走しないよう、気を配っておくとしよう。


 本来の目的であるリンの訓練が疎かにならないか、それだけが気がかりだ……。

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