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勇者(異世界人)なんてお呼びじゃねぇから!~奴隷暗殺者の勇者観察日記~  作者: サツキ
この世界のことは俺らに任せてさっさと帰ってくれ!
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勇者観察日記6日目ー2

〜勇者観察日記6日目ー2〜


思いがけず押し掛けてきた女勇者と聖女のトリオにどうしたものかと頭を悩ませる。正直なところさっさと帰ってほしいところなのだが、用件を聞いてしっかりと断るしか方法が無さそうだ。


兎にも角にも、女3人寄れば姦しいとはよく言ったことで、自分が出したお菓子についての話が終わるのをおれはいつまで待てばいいのだろうか?


〜奴隷暗殺者の手記より抜粋〜



「まさか大福まで食べれるなんて!」


「小豆は羊羹を食べたのであるのはわかっていましたが、こちらにはもち米もあるんですね!」


「なんですかこれは?不思議な食感ですね。それにすごく甘いです」


口々に感想を言いながら大福を食べている女性陣を横目に見つつ、魔装銃マジック・ガンと弾を元の箱へと片付けていく。元々そんなに数を作るつもりはなかったため、大福は女性陣に出した2つずつ出した計6個で打ち止めだ。


だから羊羹を作る過程で寒天の配分を変えて試作してみた水羊羹を自分の分として持ってきている。それをスプーンでひとすくいし、口に運ぶ。プルンっとした餡を包む寒天の食感に上手く出来ているなと自己満足したところでこちらを見る3人の視線に気づいた。



「どうした?そんなにこちらを見つめて……大福なら今おまえらが食べたもので最後だぞ」


そうしてまた一口、水羊羹を食べるとどうやら3人の視線が向かっている先が自分の手元、つまりは水羊羹を作った容器へと注がれていることに嫌でも気づいた。



「あの、貴方が口にしているそれはもしかしなくても水羊羹ですか?」


「そう思って作ってみたものだ。ニホン人のおまえたちから見てそう思うのなら、見た目は完璧に近いものができたのだろうな」


そう言ってさらにもう一口。甘すぎず冷たい甘味。これなら暑い時のおやつには最適だろう。今はまだ春先の温かい気温だから、これから先の夏にまた作ろうと決めた。



「ジョーカー、私たちの大福が無くなったんですけど」


「そりゃ食べれば無くなるだろうよ。そんなこともわからないおまえじゃないだろ、マリア?」


言わんとしていることはわかるが、ここは全力でとぼけさせてもらおう。これ以上、自分が食べたくて作ったものを取られるのは面白くないのだ。



「あの、ジョーカーさん?」


「なんだ?杖の勇者。言いたいことがあるならハッキリと口にするといい。遠慮ばかりしていては、本当に欲しいものは手に入らないものだ」


「あ、はい。それと自己紹介が遅れてすみません。ワタシは優香と申します。以後、お見知りおきください」


ペコリと頭を下げられたので、釣られて頭を下げる。さすがに名乗られておきながら名乗り返さないのは失礼なので、あまり接点を持ちたくはないが渋々ながらも自己紹介をするとしよう。



「ジョーカーだ。教会での役職は異端審問会第2部の長を任されている」


「異端審問会?そう言えばローランさんからその部署については教えてもらえなかったんですけど、ジョーカーさんは具体的には何をされているんですか?あ、あと今更ですがわたしはリンです。これからは弓の勇者とかではなく、名前で呼んでください」


「わかった。ではリンの質問だが、それはまだ知らない方がいい。マリアも余計なことは教えるなよ」


「貴方に指図される謂われはありません!……ですが、知らない方が良いことも確かです。リンとユーカはなるべくこの人と関わるのは控えた方がよろしいでしょう」


諭すように真剣で落ち着いた声音で話されては、2人ともそれ以上は聞いてはいけないことだと理解できたようで何よりだ。



「それじゃあ、このことについてはもう聞きません。あの、本題なんですけどワタシにこちらでできる日本料理を教えてもらえませんか?」


「ユーカ、その件に関しては希望に沿えることができない。これでもおれは忙しい身だ。本来の仕事に関係することであるならば協力できることはあるかもしれないが、こればっかりは上からの許可が下りるとは限らない」


「上からの許可ということは、教皇様からということですか?」


希望に沿えないと聞いて、しょぼんと落ち込んだユーカ嬢の代わりにリンが質問してくる。それに対して頷いて肯定する。



「おれの専門技能は戦闘に関連したものだ。料理などはどちらかと言わずともわかる通り、私事に関連することだ。それでも教えを請いたい、というのであれば、君は何を対価としておれに差し出すことができる?」


「対価、それは……」


「今の所、何も無いだろう?君たち勇者には教会の人間のみならず、召喚成功の報を知れば世界中の人間が君たちに期待し、手を貸してくれることは間違いないだろう。

それでも今の君たちは力を上手く扱う術を知らず、この世界に対する知識も無く、また生活するために必要な金も持たずに稼ぎ方もわからない状態だ」


知らないことを指摘して責めるのは、我ながら酷であることは重々承知している。またそのことを教えるべきこちらの世界の人間が、まずはこちらの常識を教えることを疎かにしているのは許されないことだ。


それをしようとしないからこそ、自分が教えようと考えているのだが……。どちらにせよ、それはまだの先の話だ。いや、リンに限って言うのであれば教皇の許可が下りているので、他の3人よりかは早く社会勉強ができるのか。



「お金なら教会の方から支給される筈です。それを使えばーー」


「マリア、その金の出所は教会への寄付金によるものだ。それでは彼女が稼いだとは言えない」


むぅ、と押し黙るくらいには教会から支給されるお金の価値を理解しているのだろう。もしそれがわからないようであれば、教皇に進言してしばらくの間は修道院送りにしてやるつもりだった。



「なら、わたしたちにお金の稼ぎ方を教えてください!」


「そ、そうです!どうやったらこちらのお金を貰うことができますか!?」


「それは……」


金の稼ぎ方に関しては、リンには訓練を兼ねて教えるつもりだった。しかし、これがユーカも一緒にとなると話は変わってくる。リンならばまだ、適合した神器が弓であるため何かあったときの被害の規模などたかが知れている。


だが、ユーカの神器である魔法杖の神器では魔法の威力を底上げするなどの効果がある。まだ魔法の制御に不安がある現状、外に連れ出して訓練するのは抵抗があるのだ。



おれが黙ってしまったことで考え事をしていると感じ取ったのだろう。少しでも熱意とヤル気が伝われとばかりに無言の圧力をかけてくる。


どうしたものか。悩んだところで答えは決まっているようなものだが、リンだけ連れて行くのにユーカを連れて行くのはダメだと説明するのは難しい。


助けを求めるようにマリアに視線を向けるが、こっちを見るなとばかりにキッと睨みつけてくる。


まあ、マリアには嫌われれているのはわかっているが、少しくらいは援護してくれても良いだろうに……。



助けてほしいときに助けが来ない。これこそが神の不在証明だ、なんて思考が現実逃避しかけたところで弓道場の引き戸を勢いよく開ける音が響いて元気のいい声がかけられる。



「ぶちょ〜〜っ!依頼の品をそれぞれ頼んできたっす!あと、技術部から魔導宝珠を預かったんで届けに来ましたぁ〜〜!上がっても良いっすよね!?返事が無いので上がるっすよ!」


返事をする前にロゼッタがまくし立て、ドタドタと慌ただしい足音が近づいてくる。どうしておれの周りには人の話を聞かない連中が多いんだと嘆きたくなるが、そんなことを考える前に談話室の戸が開かれた。



「あれ?女勇者様たちに聖女様まで、これはもしかしてお邪魔でしたか?」


あのロゼッタが言葉遣いを改める程度には、ここに揃っているメンバーが想定外だったのだろう。それだけを見れば普段見れないロゼッタの一面を垣間見れたのは面白くもあるが、この場では控えて欲しかった。



「見ての通りだ。用件なら後で聞くから今は帰れ」


「そうですよ、先輩。部長はサボっていると見せかけて勇者様方と聖女様の応対をなさっていたのです。弓の勇者様へ渡す予定の装備品関係については、後ほど報告することに致しましょう」


ロゼッタの後ろからティナ嬢が現れ、引き下がるように諭してくれるがその内容が問題だ。特にサボっているだとか、弓の勇者リンへ渡す予定の装備品の話とか……。


もし彼女らが聞いていたらどうするんだ。


なんて考えていたら「わたしへの装備品?」とリン。「先ほどは忙しいとおっしゃていたような……」とユーカ嬢。


それぞれが疑問符を頭に浮かべながらこちらにゆっくりと視線を向けてくる。


……どうやら聞かれていたようだ。


内心、ため息をつきながら誤魔化せないものかとお茶を啜る。が、それも長くは続かない。



「あの、よろしければその話、リンさんへの装備品がどうのとかの話を詳しく教えて貰えませんか?」


「えっと、どうしたら良いですか?」


聖女マリアから笑顔を向けられながら問われ、困り顔で助けを求めてくるティナ嬢には悪いがおれも上手い返しを思いつかない。何より、マリアのあの怖い笑顔に対してはあまり逆らわない方がいいと経験が物語っている。


こうなってしまっては仕方ないと諦め、話していいと頷いてやる。それからロゼッタとティナ嬢へマリアからの質問タイムが始まる。それを聞き流しながらせっかく作った水羊羹を食べる気もなくなり、「食っていいぞ」とリンとユーカ嬢の方へ容器を押しやって自分は茶葉を入れ替えてお茶を淹れ直す。



そうして現実逃避をしている間に明後日の休みにリンへ街の外へ狩りに行くために装備品と服を手配したことが知れ渡り、更には忙しいと言っている割には仕事をサボっていることまで3人にバレてしまった。


そうして気づけば何故かユーカとマリアまで狩りに同行することが(勝手に)決まってしまった。







〜奴隷暗殺者の手記より〜


こうして予期せぬリンとユーカ嬢、そしてマリアの3人の訪問により、さらに不本意ながら面倒な事柄が増えてしまった。


教皇の許可が、と渋ってはみたもののマリアから話を通すと言われてしまえば反論のしようがない。これで教皇が拒否しれくれれば良いのだが、なんだかんだでマリアには甘い教皇のことだから条件付きで許可を出しそうで怖い。


どちらにせよ少しくらいは事前教育が必要だと感じたので明日もこの弓道場に午後から来るようにと連絡し、今回は解散することとなった。

最近、ちょっと忙しいので遅れ気味に……。


まあ、元からと言われればそれまででですが、待って頂いている読者の皆様に感謝です。


日常パート続きで戦闘大好き作者としては不完全燃焼が続いておりますが、それももう少しの辛抱ですので楽しみにしていただけたらと思います。


それでは今後ともよろしくお願い致します。

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