ダレPダレ毒(ダレプロデュースダレドク)
壊れた。
絶対、そう。
見なかった事にしよう、と。
パカパカ電気が点いたり消えたり。
さっきから5階と、4階を行き来してるよ、このエレベーター。
二階なんだから、階段で行こう。
階段を半分登ると、下から声がした。
さわいでる騒いでる。
そっと扉を開けて、部屋に滑り込む。
畑が前のお茶の時間に、言ってたのって、こういう事かも。
静かに戸を閉めて、やっと安心。
同期の畑は、埼玉の出で野菜や米なんかくれる、良い奴で、本名は吉野原力丸って、ふざけた名前だ。
実家が農家だって言ってから、畑があだ名。
実際は中々の地主の息子らしい。
これが時々怖い事を言う。
週に1回の、三時のお茶の時間に、AIの寿命なんてのをとうとうと話すんだ。
電子機器の暴走とか、本気で怖い。
たまに火を吹くテレビとか、ブレーキのきかない電車とかが、マスコミに出ている。
薄暗い部屋が、ザワッとする。
怖くても、電気に頼らなくては、夜も日も明けない。
スイッチを押せば、天井の明かりが点く。
ヤッパリ、ホッとする。
カーテンを引いて、エイヤッと服を脱ぐ。
あちこち灯りを点けて、シャワーに向かう。
夕方になっても暑いから、帰宅する頃には汗だくなのだ。
洗濯しながら、シャワーはいつもの事。
出たら、冷蔵庫に向かうのも定番。
バスタオルのまま、水を飲む。
洗いあがった洗濯物をサッサと干す。
誰もやってくれないからね。
テレビをつけると、ニュースの時間。
また、誰かを吊るし上げているけど、なんか意味あるのかな。
こんなタレント、どうって事ないのに。
チャンネルを変えても、似たり寄ったり。
何でニュースの時間は横並びで、その上同じ内容なんだろう。
ニュースを見ないとバラエティは見られない仕組みみたい。
つい、さっきのエレベーターの事を思い出す。
忘れた頃に、エレベーターやエスカレーターの事故ってある。
だからって、乗らないわけにはいかないだろうし。
いつの間にか深夜番組になっていて、ガハガハと芸人が笑ってる。
もう、寝よう。
エレベーター、どうなったかな。
夢を見た。
なんか、刑に処すってのを。
ギザギザの鉄格子のエレベーターが、降りてくる。
手動で扉を開けるやつ。
これに乗るのが刑罰だ。
嫌だけど、乗るしかなかった。
で、夢だわ。
車で普通に走ってる。
夜の道を、何処までも。
免許無いし、運転した事も無いのに。
で、パトカーに追われるのだ。
起きると、汗ビッショリ。
もう、クーラー切って寝るのは駄目みたいだ。
二階だと、窓を開け寝るなんて、出来ない。
向かいにマンションがあるから、カーテンも開けづらい。
うちの親は見られないように気を使うのが、都会で住むには大事な事だと言うのだ。
見られない、関心を集めないか。
シャワーで汗を流さなきゃ、出勤出来ない。
野菜ジュースを飲みながら、玄関の前に行くと、管理会社からの手紙がはいっている。
あのエレベーター、点検修理になった。
ここは結構古いから、あちこちに不備が出ているみたい。
普通に毎日が過ぎて、週末が来た。
最寄りの駅まで歩く。
バスもあるけど、学生でいっぱいのあの中に、例え座れたとしても、乗りたくはない。
仕事は好き。
あちこちのオフィスに、緑のオアシスを貸し出す仕事。
人工の観葉植物に空気清浄機と爽やかなフレグランスを、さり気なく部屋に漂わせる装置が併用されてる。
臭いのを消して、良い匂いを出すという、矛盾な装置がどうやって、お互いを成り立たせているのかは、よくわからないけど、匂いは原始的な脳の部分を呼び覚ますと、畑が言ってた。
人の歩く中に紛れて、電車に乗り降りる。
追われるように小走りに改札口に向かうのも、いつもの事。
午前中は、問い合わせのメールなどを整理して、終わる。
昼休みもいつもと変わらず。
三時のお茶の支度をしていると、ガヤガヤと会議室に、人が集まりだす。
今日は、日本茶を入れた。
社内に居て、手の空いてる人達だけだが、毎回、他部署からも7〜8人は来るので、だいたい15人程になる。
パタパタと走る音がする。
「くの先輩、今日は29人です。
今月、最高ですよね。
ワゴン、出しなさいって、畑先輩が。」
苦笑いが出る。
誰も畑を本名で呼ばず、今年の新入社員の宮蔵多佳子ちゃんは、先輩を付けて呼ぶ始末。
くの先輩も微妙。
その上、大抵、肝心な事は、落とす。
湯呑み茶碗のスペアを出す。
ポットにお湯を入れながら、多佳子ちゃんに火にかけたやかんと、もう一台のポットを頼む。
会議室の後ろに、お茶コーナーを作って、其々に取りに来てもらうシステム。
行ったら、ビックリ。
社長と専務もいて、お茶の列に並ぶ。
でも、スポンサーは社長なのにね。
畑が、お茶菓子を調達して来た。
湯のみ茶碗を持って、そこにも並んでもらう。
最初、このやり方に、なんか居心地の悪さを覚えたけど、今はすんなり馴染んでる。
お茶当番も、慣れたものだ。
無礼講で、となっている。
ポットを抱えて、多佳子ちゃんもやって来た。
これで、お湯のお代わりも確保。
お茶も座った人から、勝手に飲み始める。
会議室って場所と三時からしか、決まりはない。
うちの父親が居たら、卒倒するかも。
隣が社長でも、気にしないからだ。
皆、喉を潤すと、ガサゴソ、お菓子の紙をむく。
人工の観葉植物をリースする会社なのに、飾り部分の無い、植木鉢型空気清浄機が、デンと、置かれているのは、なんか不粋だ。
多佳子ちゃんが、なんか興奮してる。
社長が同席してるからかな。
畑が選んだのは、近くの和菓子屋。
カップ入りのプリン。
それに、細長い揚げ煎餅が3個入った小袋。
ここのプリンは固めで蒸してて、味が濃い。
一通り食べると、雑談が始まる。
最近の映画や新しい商業施設。
どこそこの居酒屋が良い、とか、あそこのランチが美味い、なんて話が聞こえてきたけど、仕事の話は、1ミリもしてない。
ゆっくりプリンを食べて、お茶を飲んでから、お煎餅の袋を開ける。
支度をしたら、片付けは別の人がする事になってるから、気楽だ。
何人かで、話題にのぼった居酒屋に行く話がまとまったみたいだ。
他人事のようだけど、その中に、今居る全員が参加前提で話が進む。
用のある人は、ここで断る。
社長と、専務は、行けないという。
総務の下村さんも、習い事があると、断った。
彼女は忙しい。
エアロビの大会に出たりしていて、そのうち会社を辞めて、インストラクターになるんじゃないかって、噂されている。
誘われて、2回行ってみたけど、笑いながら、手足を振り回すのは、しっくりこない。
アップテンポな曲も息苦しかった。
盆踊りぐらいで、丁度良いと思った。
畑が、問題定義していた。
観葉植物が人工物で、清浄機や匂いの発生装置があるのに、ジュースやコーヒーをかける人が、いるのというのだ。
もう、かけるというより、飲み残しを捨てていくのだ。
もちろん防水になってはいるが、変な臭いが付いて、無駄に空気清浄機がフル稼動する。
なんだかな。
そんな事をする人は、生きてる観葉植物の時も、顰蹙をかうような事を、色々やってそう。
喫煙室がなかった頃は、タバコのポイ捨てもかなりあったらしい。
ガムのポイ捨ては、最近はあまり見ない。
社長が急に大きな声を出した。
「どうかな、うちの植木に、飲み残しをかけるのを、やめてもらうってのは。
何かアイデアないかな。」
勝手に話をしていた一団も、一斉に静かになった。
この時間は、仕事の話を全然しないのだが、流石に社長じゃ、考えないわけにはいかない。
面白いぐらい、又喋り出す。
鉢カバーは。
立て札をたてるとか。
そこの社員にメールで一斉送信。
水をやらないで下さいの、音声注意。
鉢の周りに、近づけないように柵を建てる。
笑っちゃうのも、出る。
番犬を、置く。
マキビシを撒く。
上から、檻を作ってスッポリかぶせる。
毒と、書いた注意書きを貼る。
毒は、畑の提案。
すると、なんか、開発部が騒めいた。
毒は、流石に直ぐに却下される、と、思ったけど、まだ話していた。
水がかかると、悲鳴があがるは、爆笑。
ゴキブリやムカデのおもちゃを置いておくは、女性陣からの顰蹙を、かった。
畑が又々、変な事を言った。
「鳥居は。
赤い鳥居をぶっ刺しとくのは。」
で、これが採用って、なんでよ、社長。
頻繁に、被害が出てる所で、鳥居を置いてみる事になった。
社長や専務がいなかったら、涙が出るくらい、笑ったちゃっただろうと、思う。
大抵、観葉植物の鉢は、隅や角に置かれる。
それに、水ならぬ、飲み残しをかける行為は、真正面からはしない。
横から、掛けようとすると、下に赤い鳥居が。
と、いう風に、置くらしい。
これは、あの後の居酒屋で、練り直した、戦略だ。
今回は、面白そうなので、多佳子ちゃんと、出たのだ。
鳥居の大きさとか、真面目に話してるのを酒の肴に、お腹の中で、グフグフと笑ってると、畑がチューハイ持って、隣に来た。
聞きたかった事を、あわてて聞く。
珍しく、口を濁す。
気になってしょうがない。
が、質問まで、はぐらかされた。
駄目だ。
気になる。
三次会まで、ついていったら、多佳子ちゃんの終電がやばい。
意を決して、畑と多佳子ちゃんを、持ち帰りした。
酔っ払ってません。
単純に、終電が遅いだけ。
古いだけあって、一応、1LDK。
多佳子ちゃんは、ベットに押し込み、畑に問いただす。
「くのは、しつこいな。」
くのってのは、我があだ名。
隠れて目立たなくって、家訓を喋っちゃたから、くのいちのくの。
まあ、畑ってあだ名を言ってる時点で、五分五分。
「だから、毒の話、して。
なんで、毒なんか出たの。」
冷蔵庫のビールを出しながら、コンビニで買ってきた豆腐なんかを出す。
「俺、ここの豆腐、好きなんだよね。」
畑は、ひょうひょうとしている。
で、カチンと、来た。
「毒よ毒。
ずーっと気になってさ。」
畑がケロケロと笑う。
「流石に、秘密の匂いには、鼻が効くな。
くのいちってのは、伊達じゃ無いか。」
「伊賀や甲賀の出身じゃ無いけど。
目立つなってのは、女の都会暮らしを心配した、親心よ。
無駄にチャチャ入れないでよ。」
「では、柏木奈津美さん。
故郷は、山に木が生えてたかな。」
なんか真面目な畑に、ムカつく。
「山に木が生えてて、何。
普通じゃない。」
畑が、グイッとビールを呑む。
「草も木も、ボンヤリ生えていると思うかい。」
「ボンヤリって、植物って、動かないじゃない。」
畑が立って、勝手にテレビを付けた。
「音の相殺って、知ってる。」
深夜番組が、始まっていた。
「えっ、たしか、お店の中なんかで、流してるBGMとかでの、相殺の事。
聞いたことあるけど。
雑音を音楽を流す事で、気にならなくさせるとかの事でしょう。」
「くのは、話しやすいよ。
そこを説明しなくて良いと、楽だ。」
「白黒付けるって言葉ぐらい、自然の摂理を無視してて、人間を惑わす言葉はないぐらいでさ。
それに比べたら、宗教なんて、可愛いもんだよ。
まあ、口は閉じてて良いよ。」
からかわれてる。
開いた口を、パクンと閉じた。
「くのは、山の木や雑草、どう思う。」
「あ、あれは、植物よ。
それだけ。
山の木なんて、木よ、全部。」
「どうして生えてると思う。
人が植えたのではない、雑木林や雑草の類いなんかさ。」
「生えたいから。」
幼稚園児だよ、これじゃあぁぁぁ。
「まって、まって。
麦茶、麦茶にするから。」
1番大きなコップに沢山の氷と、麦茶をつぐ。
坐り直して、畑の前に、ドンと、コップを置く。
「雑草って、しつこいから、生えるんでしょ。」
残りのビールを飲み干すと、畑も麦茶に手を伸ばした。
「毒だよ。
自分が生き残る為に、毒を出してるんだ。」
「毒って、そこ。
わかんないよ。
毒出したら、死んじゃうじゃない。」
「そう、邪魔な相手が、弱る毒。
その間に、自分を大きくするんだ。
木も草も、自分の世界を守る為に、領地を拡大する為に、戦ってるんだよ。」
「まってよ。
それと、うちの空気清浄機と、何の関係があるの。
まさか毒、出してるって。
やだ、そんな事前に、あったじゃない。
あれの事なの。」
落ち着いて、麦茶なんか飲んでる。
出したのは私だけど。
「相殺さ。
綺麗な川には、魚が住まないって、やつ。」
「例えが、多すぎて、わかんない。」
「我が社の、空気清浄機は、世界一なんだ。
ミクロの物質も、逃さないだろう。」
それは、自慢。
隣でタバコ吸われても、臭くならないのが、売りだもんね。
だから、女性受けがかなり高い。
「で、毒なんだよ。
綺麗すぎて、人間には合わないんだ。
これが、生き物矛盾。
森を散歩して、深呼吸なんかしたら、何千何百の木や草の相手を弱らせよう、って、毒素も吸い込むんだよね。
で、毒を吸い込むと、免疫はどうなる。」
「うん、闘う、とか。」
「正解。
楽しげに、戦闘に向かうんだよ。
表現が悪いかもしれないけど、敵がいての、免疫力だからさ。
わかる、ここまで。」
「何となく、かな。
毒も使いよう、とか。」
「いや、毒が無ければ、生き物は、ヘナチョコで、ちょっとのバイ菌で、やられちゃうって事さ。
ハナ垂らすぐらいので、急性肺炎になっちゃうとかね。
つまり、空気清浄機で、菌を殺しておいてから、免疫力が落ちないぐらいの毒を撒くんだよ。」
ヤバい。
うちの会社、毒撒いてる。
「そんな、、、。
それじゃ、告発されたら、潰れちゃわない、うちの会社って。」
畑が、麦茶を吹き出した。
「あらら、テッシュくれよ。
そんなわけないだろう。
毒出してるからって、山の木、ハゲにするかよ。
むしろ、免疫力アップ効果で、褒めてもらいたいぐらいだよ。」
大した物が乗ってないテーブルが綺麗になった。
「うーん、まだ、呑み込めない。
お腹空いたね。
ラーメン作るわ。」
料理をしてると、考えがまとまる、はず。
料理に夢中で、考えが飛んだ。
鍋2つに、お湯を沸かして、1つにコンソメと白ダシと水菜と蒲鉾を入れた。
コーンの缶詰を開ける。
丼に、汁を、入れた。
もう1つの鍋で、ラーメンの麺を湯がき、お湯を切って、それぞれの丼に。
コーンを入れて、バターも入れる。
胡椒を振りかけて、さっと出す。
「さ、どうぞ。」
「頂きます。」
黙々と、麺を食べた。
汁まで、飲み干して、満足。
「で、うちのその毒素は、誰の発案。」
「社長。」
あれか。
まあ、開発者だし、社長か専務だろうって。
「無菌室で暮らして、外に出たら、直ぐに死んじゃいそうだろう。
ウジャウジャ、バイ菌だらけでさ。
ヤッパリ、闘って勝ち取らないと、生き物としては、生きていけないからね。
軽く、毒がある世界が、理想なんだけど、うちの空気清浄機は、パワーが凄くてさ。
開発当初、何故か風邪ひくんだよね。
無菌と軽い毒素との相殺が出来てからは、向かうところ敵なし。」
「免疫働かせて、毒でパワーアップ。」
「そうそう、飲み込みが良いと、うれしいな。
でも、お茶の時間に、『毒』は、やばかったよ。」
ウンウンと頷く。
「ところでさ、鳥居は、どこから出たの。」
「あれは、前に何かで、鳥居を建てると、ゴミの不法投棄がなくなったって、聞いてたの、思い出したんだよ。
信心は薄まっても、祟りは怖いじゃないか。
鳥居に飲み残しなんてかけたら、かなりヤバそうじゃないかと、思ってね。」
「知ってる。
見たことあるもん。」
「ね、日本人にしか、効かない毒さ。
上手く、プロデュースすれば、現代人にも、有効なんだよ。」
「誰のプロデュースなの、それって。」
「毒の使い方を知ってる人達。」
「うん、そうだね。」
翌日、浮腫んだ多佳子ちゃんを最寄り駅まで送った。
畑は、寝ないで、始発で帰って行った。
エレベーターは、まだ治らない。
上の階の人達は、大変だろうけど、窓が開けられない二階暮らしには、開け放った窓が羨ましい。
相殺かもね〜。
明日から、又会社。
目立たず、静かに、ヒッソリと暮らそう。
チョピリ、毒を秘めて。
今は、ここまで。




