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ダレPダレ毒(ダレプロデュースダレドク)

作者: 風連
掲載日:2016/06/07

壊れた。

絶対、そう。

見なかった事にしよう、と。

パカパカ電気が点いたり消えたり。

さっきから5階と、4階を行き来してるよ、このエレベーター。

二階なんだから、階段で行こう。

階段を半分登ると、下から声がした。

さわいでる騒いでる。

そっと扉を開けて、部屋に滑り込む。

畑が前のお茶の時間に、言ってたのって、こういう事かも。

静かに戸を閉めて、やっと安心。

同期の畑は、埼玉の出で野菜や米なんかくれる、良い奴で、本名は吉野原力丸よしのはらりきまるって、ふざけた名前だ。

実家が農家だって言ってから、畑があだ名。

実際は中々の地主の息子らしい。

これが時々怖い事を言う。

週に1回の、三時のお茶の時間に、AIの寿命なんてのをとうとうと話すんだ。

電子機器の暴走とか、本気で怖い。

たまに火を吹くテレビとか、ブレーキのきかない電車とかが、マスコミに出ている。

薄暗い部屋が、ザワッとする。

怖くても、電気に頼らなくては、夜も日も明けない。

スイッチを押せば、天井の明かりが点く。

ヤッパリ、ホッとする。

カーテンを引いて、エイヤッと服を脱ぐ。

あちこち灯りを点けて、シャワーに向かう。

夕方になっても暑いから、帰宅する頃には汗だくなのだ。

洗濯しながら、シャワーはいつもの事。

出たら、冷蔵庫に向かうのも定番。

バスタオルのまま、水を飲む。

洗いあがった洗濯物をサッサと干す。

誰もやってくれないからね。

テレビをつけると、ニュースの時間。

また、誰かを吊るし上げているけど、なんか意味あるのかな。

こんなタレント、どうって事ないのに。

チャンネルを変えても、似たり寄ったり。

何でニュースの時間は横並びで、その上同じ内容なんだろう。

ニュースを見ないとバラエティは見られない仕組みみたい。

つい、さっきのエレベーターの事を思い出す。

忘れた頃に、エレベーターやエスカレーターの事故ってある。

だからって、乗らないわけにはいかないだろうし。

いつの間にか深夜番組になっていて、ガハガハと芸人が笑ってる。

もう、寝よう。

エレベーター、どうなったかな。

夢を見た。

なんか、刑に処すってのを。

ギザギザの鉄格子のエレベーターが、降りてくる。

手動で扉を開けるやつ。

これに乗るのが刑罰だ。

嫌だけど、乗るしかなかった。

で、夢だわ。

車で普通に走ってる。

夜の道を、何処までも。

免許無いし、運転した事も無いのに。

で、パトカーに追われるのだ。

起きると、汗ビッショリ。

もう、クーラー切って寝るのは駄目みたいだ。

二階だと、窓を開け寝るなんて、出来ない。

向かいにマンションがあるから、カーテンも開けづらい。

うちの親は見られないように気を使うのが、都会で住むには大事な事だと言うのだ。

見られない、関心を集めないか。

シャワーで汗を流さなきゃ、出勤出来ない。

野菜ジュースを飲みながら、玄関の前に行くと、管理会社からの手紙がはいっている。

あのエレベーター、点検修理になった。

ここは結構古いから、あちこちに不備が出ているみたい。

普通に毎日が過ぎて、週末が来た。

最寄りの駅まで歩く。

バスもあるけど、学生でいっぱいのあの中に、例え座れたとしても、乗りたくはない。

仕事は好き。

あちこちのオフィスに、緑のオアシスを貸し出す仕事。

人工の観葉植物に空気清浄機と爽やかなフレグランスを、さり気なく部屋に漂わせる装置が併用されてる。

臭いのを消して、良い匂いを出すという、矛盾な装置がどうやって、お互いを成り立たせているのかは、よくわからないけど、匂いは原始的な脳の部分を呼び覚ますと、畑が言ってた。

人の歩く中に紛れて、電車に乗り降りる。

追われるように小走りに改札口に向かうのも、いつもの事。

午前中は、問い合わせのメールなどを整理して、終わる。

昼休みもいつもと変わらず。

三時のお茶の支度をしていると、ガヤガヤと会議室に、人が集まりだす。

今日は、日本茶を入れた。

社内に居て、手の空いてる人達だけだが、毎回、他部署からも7〜8人は来るので、だいたい15人程になる。

パタパタと走る音がする。

「くの先輩、今日は29人です。

今月、最高ですよね。

ワゴン、出しなさいって、畑先輩が。」

苦笑いが出る。

誰も畑を本名で呼ばず、今年の新入社員の宮蔵みやぞの多佳子たかこちゃんは、先輩を付けて呼ぶ始末。

くの先輩も微妙。

その上、大抵、肝心な事は、落とす。

湯呑み茶碗のスペアを出す。

ポットにお湯を入れながら、多佳子ちゃんに火にかけたやかんと、もう一台のポットを頼む。

会議室の後ろに、お茶コーナーを作って、其々に取りに来てもらうシステム。

行ったら、ビックリ。

社長と専務もいて、お茶の列に並ぶ。

でも、スポンサーは社長なのにね。

畑が、お茶菓子を調達して来た。

湯のみ茶碗を持って、そこにも並んでもらう。

最初、このやり方に、なんか居心地の悪さを覚えたけど、今はすんなり馴染んでる。

お茶当番も、慣れたものだ。

無礼講で、となっている。

ポットを抱えて、多佳子ちゃんもやって来た。

これで、お湯のお代わりも確保。

お茶も座った人から、勝手に飲み始める。

会議室って場所と三時からしか、決まりはない。

うちの父親が居たら、卒倒するかも。

隣が社長でも、気にしないからだ。

皆、喉を潤すと、ガサゴソ、お菓子の紙をむく。

人工の観葉植物をリースする会社なのに、飾り部分の無い、植木鉢型空気清浄機が、デンと、置かれているのは、なんか不粋だ。

多佳子ちゃんが、なんか興奮してる。

社長が同席してるからかな。

畑が選んだのは、近くの和菓子屋。

カップ入りのプリン。

それに、細長い揚げ煎餅が3個入った小袋。

ここのプリンは固めで蒸してて、味が濃い。

一通り食べると、雑談が始まる。

最近の映画や新しい商業施設。

どこそこの居酒屋が良い、とか、あそこのランチが美味い、なんて話が聞こえてきたけど、仕事の話は、1ミリもしてない。

ゆっくりプリンを食べて、お茶を飲んでから、お煎餅の袋を開ける。

支度をしたら、片付けは別の人がする事になってるから、気楽だ。

何人かで、話題にのぼった居酒屋に行く話がまとまったみたいだ。

他人事のようだけど、その中に、今居る全員が参加前提で話が進む。

用のある人は、ここで断る。

社長と、専務は、行けないという。

総務の下村しもむらさんも、習い事があると、断った。

彼女は忙しい。

エアロビの大会に出たりしていて、そのうち会社を辞めて、インストラクターになるんじゃないかって、噂されている。

誘われて、2回行ってみたけど、笑いながら、手足を振り回すのは、しっくりこない。

アップテンポな曲も息苦しかった。

盆踊りぐらいで、丁度良いと思った。

畑が、問題定義していた。

観葉植物が人工物で、清浄機や匂いの発生装置があるのに、ジュースやコーヒーをかける人が、いるのというのだ。

もう、かけるというより、飲み残しを捨てていくのだ。

もちろん防水になってはいるが、変な臭いが付いて、無駄に空気清浄機がフル稼動する。

なんだかな。

そんな事をする人は、生きてる観葉植物の時も、顰蹙ひんしゅくをかうような事を、色々やってそう。

喫煙室がなかった頃は、タバコのポイ捨てもかなりあったらしい。

ガムのポイ捨ては、最近はあまり見ない。

社長が急に大きな声を出した。

「どうかな、うちの植木に、飲み残しをかけるのを、やめてもらうってのは。

何かアイデアないかな。」

勝手に話をしていた一団も、一斉に静かになった。

この時間は、仕事の話を全然しないのだが、流石に社長じゃ、考えないわけにはいかない。

面白いぐらい、又喋り出す。

鉢カバーは。

立て札をたてるとか。

そこの社員にメールで一斉送信。

水をやらないで下さいの、音声注意。

鉢の周りに、近づけないように柵を建てる。

笑っちゃうのも、出る。

番犬を、置く。

マキビシを撒く。

上から、檻を作ってスッポリかぶせる。

毒と、書いた注意書きを貼る。

毒は、畑の提案。

すると、なんか、開発部が騒めいた。

毒は、流石に直ぐに却下される、と、思ったけど、まだ話していた。

水がかかると、悲鳴があがるは、爆笑。

ゴキブリやムカデのおもちゃを置いておくは、女性陣からの顰蹙ひんしゅくを、かった。

畑が又々、変な事を言った。

「鳥居は。

赤い鳥居をぶっ刺しとくのは。」

で、これが採用って、なんでよ、社長。

頻繁ひんぱんに、被害が出てる所で、鳥居を置いてみる事になった。

社長や専務がいなかったら、涙が出るくらい、笑ったちゃっただろうと、思う。

大抵、観葉植物の鉢は、すみや角に置かれる。

それに、水ならぬ、飲み残しをかける行為は、真正面からはしない。

横から、掛けようとすると、下に赤い鳥居が。

と、いう風に、置くらしい。

これは、あの後の居酒屋で、練り直した、戦略だ。

今回は、面白そうなので、多佳子ちゃんと、出たのだ。

鳥居の大きさとか、真面目に話してるのを酒のさかなに、お腹の中で、グフグフと笑ってると、畑がチューハイ持って、隣に来た。

聞きたかった事を、あわてて聞く。

珍しく、口を濁す。

気になってしょうがない。

が、質問まで、はぐらかされた。

駄目だ。

気になる。

三次会まで、ついていったら、多佳子ちゃんの終電がやばい。

意を決して、畑と多佳子ちゃんを、持ち帰りした。

酔っ払ってません。

単純に、終電が遅いだけ。

古いだけあって、一応、1LDK。

多佳子ちゃんは、ベットに押し込み、畑に問いただす。

「くのは、しつこいな。」

くのってのは、我があだ名。

隠れて目立たなくって、家訓を喋っちゃたから、くのいちのくの。

まあ、畑ってあだ名を言ってる時点で、五分五分。

「だから、毒の話、して。

なんで、毒なんか出たの。」

冷蔵庫のビールを出しながら、コンビニで買ってきた豆腐なんかを出す。

「俺、ここの豆腐、好きなんだよね。」

畑は、ひょうひょうとしている。

で、カチンと、来た。

「毒よ毒。

ずーっと気になってさ。」

畑がケロケロと笑う。

「流石に、秘密の匂いには、鼻が効くな。

くのいちってのは、伊達じゃ無いか。」

「伊賀や甲賀の出身じゃ無いけど。

目立つなってのは、女の都会暮らしを心配した、親心よ。

無駄にチャチャ入れないでよ。」

「では、柏木奈津美かしわぎなつみさん。

故郷は、山に木が生えてたかな。」

なんか真面目な畑に、ムカつく。

「山に木が生えてて、何。

普通じゃない。」

畑が、グイッとビールを呑む。

「草も木も、ボンヤリ生えていると思うかい。」

「ボンヤリって、植物って、動かないじゃない。」

畑が立って、勝手にテレビを付けた。

「音の相殺そうさいって、知ってる。」

深夜番組が、始まっていた。

「えっ、たしか、お店の中なんかで、流してるBGMとかでの、相殺の事。

聞いたことあるけど。

雑音を音楽を流す事で、気にならなくさせるとかの事でしょう。」

「くのは、話しやすいよ。

そこを説明しなくて良いと、楽だ。」

「白黒付けるって言葉ぐらい、自然の摂理を無視してて、人間を惑わす言葉はないぐらいでさ。

それに比べたら、宗教なんて、可愛いもんだよ。

まあ、口は閉じてて良いよ。」

からかわれてる。

開いた口を、パクンと閉じた。

「くのは、山の木や雑草、どう思う。」

「あ、あれは、植物よ。

それだけ。

山の木なんて、木よ、全部。」

「どうして生えてると思う。

人が植えたのではない、雑木林や雑草のたぐいなんかさ。」

「生えたいから。」

幼稚園児だよ、これじゃあぁぁぁ。

「まって、まって。

麦茶、麦茶にするから。」

1番大きなコップに沢山の氷と、麦茶をつぐ。

坐り直して、畑の前に、ドンと、コップを置く。

「雑草って、しつこいから、生えるんでしょ。」

残りのビールを飲み干すと、畑も麦茶に手を伸ばした。

「毒だよ。

自分が生き残る為に、毒を出してるんだ。」

「毒って、そこ。

わかんないよ。

毒出したら、死んじゃうじゃない。」

「そう、邪魔な相手が、弱る毒。

その間に、自分を大きくするんだ。

木も草も、自分の世界を守る為に、領地を拡大する為に、戦ってるんだよ。」

「まってよ。

それと、うちの空気清浄機と、何の関係があるの。

まさか毒、出してるって。

やだ、そんな事前に、あったじゃない。

あれの事なの。」

落ち着いて、麦茶なんか飲んでる。

出したのは私だけど。

「相殺さ。

綺麗な川には、魚が住まないって、やつ。」

「例えが、多すぎて、わかんない。」

「我が社の、空気清浄機は、世界一なんだ。

ミクロの物質も、逃さないだろう。」

それは、自慢。

隣でタバコ吸われても、臭くならないのが、売りだもんね。

だから、女性受けがかなり高い。

「で、毒なんだよ。

綺麗すぎて、人間には合わないんだ。

これが、生き物矛盾。

森を散歩して、深呼吸なんかしたら、何千何百の木や草の相手を弱らせよう、って、毒素も吸い込むんだよね。

で、毒を吸い込むと、免疫はどうなる。」

「うん、闘う、とか。」

「正解。

楽しげに、戦闘に向かうんだよ。

表現が悪いかもしれないけど、敵がいての、免疫力だからさ。

わかる、ここまで。」

「何となく、かな。

毒も使いよう、とか。」

「いや、毒が無ければ、生き物は、ヘナチョコで、ちょっとのバイ菌で、やられちゃうって事さ。

ハナ垂らすぐらいので、急性肺炎になっちゃうとかね。

つまり、空気清浄機で、菌を殺しておいてから、免疫力が落ちないぐらいの毒を撒くんだよ。」

ヤバい。

うちの会社、毒撒いてる。

「そんな、、、。

それじゃ、告発されたら、潰れちゃわない、うちの会社って。」

畑が、麦茶を吹き出した。

「あらら、テッシュくれよ。

そんなわけないだろう。

毒出してるからって、山の木、ハゲにするかよ。

むしろ、免疫力アップ効果で、褒めてもらいたいぐらいだよ。」

大した物が乗ってないテーブルが綺麗になった。

「うーん、まだ、呑み込めない。

お腹空いたね。

ラーメン作るわ。」

料理をしてると、考えがまとまる、はず。

料理に夢中で、考えが飛んだ。

鍋2つに、お湯を沸かして、1つにコンソメと白ダシと水菜と蒲鉾かまぼこを入れた。

コーンの缶詰を開ける。

丼に、汁を、入れた。

もう1つの鍋で、ラーメンの麺を湯がき、お湯を切って、それぞれの丼に。

コーンを入れて、バターも入れる。

胡椒こしょうを振りかけて、さっと出す。

「さ、どうぞ。」

「頂きます。」

黙々と、麺を食べた。

汁まで、飲み干して、満足。

「で、うちのその毒素は、誰の発案。」

「社長。」

あれか。

まあ、開発者だし、社長か専務だろうって。

「無菌室で暮らして、外に出たら、直ぐに死んじゃいそうだろう。

ウジャウジャ、バイ菌だらけでさ。

ヤッパリ、闘って勝ち取らないと、生き物としては、生きていけないからね。

軽く、毒がある世界が、理想なんだけど、うちの空気清浄機は、パワーが凄くてさ。

開発当初、何故か風邪ひくんだよね。

無菌と軽い毒素との相殺が出来てからは、向かうところ敵なし。」

「免疫働かせて、毒でパワーアップ。」

「そうそう、飲み込みが良いと、うれしいな。

でも、お茶の時間に、『毒』は、やばかったよ。」

ウンウンと頷く。

「ところでさ、鳥居は、どこから出たの。」

「あれは、前に何かで、鳥居を建てると、ゴミの不法投棄がなくなったって、聞いてたの、思い出したんだよ。

信心は薄まっても、祟りは怖いじゃないか。

鳥居に飲み残しなんてかけたら、かなりヤバそうじゃないかと、思ってね。」

「知ってる。

見たことあるもん。」

「ね、日本人にしか、効かない毒さ。

上手く、プロデュースすれば、現代人にも、有効なんだよ。」

「誰のプロデュースなの、それって。」

「毒の使い方を知ってる人達。」

「うん、そうだね。」

翌日、浮腫むくんだ多佳子ちゃんを最寄り駅まで送った。

畑は、寝ないで、始発で帰って行った。

エレベーターは、まだ治らない。

上の階の人達は、大変だろうけど、窓が開けられない二階暮らしには、開け放った窓が羨ましい。

相殺かもね〜。

明日から、又会社。

目立たず、静かに、ヒッソリと暮らそう。

チョピリ、毒を秘めて。


今は、ここまで。

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