0章―7頁
http://listenonrepeat.com/watch/?v=51ZoQmsRrPc#Darker_Than_Black_OST-_Total_Eclipse
PCで読まれる方は、上の曲を聞きながら読んでもらえるとなんとなく臨場感があっていいやもしれません。
筆者の大好きなDARKER THAN BLACKの劇中曲です。雰囲気がぴたりとハマります。
リンクの貼り方がよく分からないのでURLをコピーしてアドレスで検索してもらえれば幸いです。
【null-sieben】
……祈蹟『遍く深き翳り者』
それは古き異端の聖職騎士《翳り纏い》ヴァルナハンによる、
《翳り》の秘術の一つ。
彼は祈蹟に言う《翳り》を「この世の物なれば遍く何物にも避
け得ぬ衰え」とした。その衰えを具象化した《翳り》を纏うこと
で、彼は最強の騎士として名を馳せたのだ。
この『遍く深き翳り者』は、あえて《翳り》を身に纏うことで
襲い来る敵手の攻撃を『翳らせ』その威力を大幅に減衰するとい
う護りの祈蹟で、ヴァルナハンのあだ名である《翳り纏い》とは
彼がこの祈蹟を片時も解かなかったことに由来するものだ。
オレーグの体を今、何処からともなく滲み出した翳りが覆いつつあった。本家本元《翳り纏い》ヴァルナハンほどの翳りを起こすのは難しいものの、その体表をうっすらとムラのある翳りが覆い、その姿はさらに死神染みていく。護りの祈蹟と言うには随分と恐ろしいものがあった。
「お、お前ら、やれ、殺せ! あいつを、生きて返すなァ!」
奥にいる、男が一人、叫ぶ。おそらくはその男がこの場のボスなのだろう。その声に従って倉庫内にいた彼の配下であろう、先ほどの歩哨たちよりはまともに武装した者達が一斉に各々の武器をその闖入者へと向けた。ライフルや拳銃の者もいれば、銃器の類を持たない者もいた。
……一、ニィ、三、四ィ、……八人か。
さっき蹴散らした歩哨二人に、乱入の際に吹っ飛ばした三人(そこらで完全にノビていた)を合わせても十三人。さらにその奥に大声で指示を飛ばす神経質そうな男と、やたら猫背気味のなんともだらしなげな男。
……一大取引と聞く割りには少ないな。防衛を厚くしたい半分、多くの人数には知られたくない半分ってところか。物足りないぜ。
それとも、事前にクライアントから聞かされていたように、高級ホテル地下で行われている取引の方が本命だったのだろうか。あちらには雲仙と灘木が派遣されていたはずだが。どうでもいいか。
自身を狙う彼らが、引き金を引き終える前には、姿勢を可能な限り低くする前傾で、駆け出していた。
「撃てェ! 撃ち殺せ!」
とりあえずの撃破目標は八つ。
内、飛び道具を有するのが七、一つは様子見とでもいうかのように壁に寄りかかり腕組みをしてこちらを眺めている。これは後回しにしてよい。残りは波形とでも言うか、奥に向かい弧を描くようにして、一並びとは言えないが並び立っていた。
……とりあえず飛び道具を片すか。と言うか、碩学者くらい雇えよ、大事な取引なら。
吹っ飛ばした三人の中に、敵さんが大枚叩いて雇っている碩学者が二人いたことをかれは知らない。
可能な限りの緩急と気まぐれな進路で動くオレーグを捉え損ねた銃弾が、鋭い音を立てて入り口付近の壁面に穴を穿つのを聞きながら、手近にいた一人へと襲い掛かる。低くしていた姿勢を一気に高くし、機銃の銃弾の一、二発掠るのを意にも解せず、その喉へと刺叉を力の限り突き込んだ。
「が……ッ……かひゅッ」
ドグムッ、という嫌な音と確かな手ごたえ、苦しげに変な息を上げた『障害物』を持ち上げたり突き倒したりせず、勢いも止めぬまま引っかけてそのまま振り回し――手近にいたもう一人へと放り投げる。自身へ向かい飛んでくる仲間に固まり、あっけにとられている隙をついて急接近、横を通り抜ける。
「え……? ぐッ……はっ!」
左脇を抜けざまに急停止、その場で一回転の威力を載せた刺叉で、振り返ろうとしたその胸部を薙ぎ払う。また一つ障害物が減って、あと六つ。襲い来る銃弾は、掠りこそすれど、かれに未だ傷を与えるには至っていなかった。