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ロード・オレーグ 【魔界を往く者】  作者: 古村 銀
第0章―此方、錆びついた風見どり
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0章―6頁

【null-sechs】



「なんだ、さっきから表が騒がしいな。おい、お前ら見て来い!」


 前々から贔屓にしている、もはや私兵のような用心棒どもが三人、頷いてシャッターの方へと向かって歩き始めた。表に置いた二人よりは優秀なはずのそいつらは、普段の賃金とは別にたっぷり弾んでやった報酬に見合った分だけ武装をしっかり整えているように見える。


「へっへ、まぁそうカリカリしなさんな、マリオストさんよ」


 そこは、ユーリティア・サウスロッテン社の倉庫の内部。

 以前より予定していた会談を高級ホテルからこの場所へと変更したのにはそれなりの理由があった。


「カリカリするな、だと? 今夜の受け渡しは、我々『シンジケート』の今後を占う重要なものだ。『牝犬アルカリア(マザー・ザ・ビッチ)』や『坂本商会』なんぞにも邪魔されるわけにはいかんのだ! 用心に越したことはない」


『シンジケート』のマリオストといえば、裏社会ではそこそこ知られるようになりつつある名だった。主には、シンジケートの人身売買部門における取締役として。

 今も、グレースケールのビジネススーツに、彼のトレードマークであるターコイズブルーのフレームの眼鏡、サイドに羽がちょこっと乗ったカーキカラーのボーラーハットという独特のスタイルでいる。責任ある立場の者の常なのか、神経質そうな目鼻立ちだが、服装からは、元来はそうではなかったのであろうというセンスが匂った。


「へっへっへ、責任ある立場は、そういうところ大変ですな。下請けの俺らにはわからん話ですわ」


 片や「下請け」と自称した男は黒のモードスーツを何処かくたびれた着こなしで身に着け、ひげ面になにか影を感じさせる軽薄な笑みを浮かべる。マリオストには彼は、「フトウ」と名乗った。

 それを神経質を絵に描いたような表情で眺め、マリオストは再び口を開こうとする。

 そのときだった。


 何か、信じがたいような、大砲の砲弾でも直撃したかのような轟音が倉庫を揺らした。けたたましい、金属の裂けるようなつんざく音と、トラックでも突っ込んできたかのような、バカみたいな音量。そして、倉庫内を吹き荒れる埃と、硝煙臭。

 続いて、何か重い塊が落下する、それにしては嫌に柔かいような硬いような音が三つ続いた。

 舞い上がった埃煙がもうもうとシャッターの近辺を覆う中、一つの影が、歩んでくる。


 それは、妙なもやを纏った珍妙な闖入者だった。



 ●



 思い切りぶち抜いた。

 今夜限りの仕様で、かれの相棒である刺叉の先端には、握り手に設置されたボタンを押しこむことで信管が作動し、仕掛けられた爆破薬が正面にあるものを一度限り吹き飛ばすという特別なチューンが施されていた。

 のだが。


 ……ここまでの威力とは聞いてないぜ、マザー。


 とっさの判断で刺叉に与えた翳りを拡大して周囲へと広がる音を『翳らせ』なければ、かなりの爆発音が港湾地帯へと響き渡っていただろう。そんなことで警官隊が出てきては非常にマズイ。

 狙い通り、中からこっちへ向かってきていたやつらを吹き飛ばすことには成功したが。


 ……さて、ミッションスタートだ。


 倉庫の奥へと向かって吹き飛んだもろもろを踏み砕きながら、煙の向こうに見える人影へと問うた。


「パーティ会場はここで合ってるか? 招待状はないんだ、ひとつ飛び入りで頼むぜ」


 奥へと向けて声を放りつつ、ある神威を起こす。胸に提げたタリスマンが再び、ライトブルーの、死神の威光を放つ。それとてまた、神の意志の一つなのだとでも言わんばかりに。


 ……祈蹟(セフンセス)遍く深き翳り者・ドゥンケルヴォルケーザ




挿絵(By みてみん)


 本頁登場の語彙をば。


【シンジケート】

 神聖国の裏社会を根城に活動する違法商売によって金銭を設ける犯罪シンジケート。以前は裏社会にはいくつもの犯罪シンジケートが存在したが競合や合併を繰り返す中で利益集団として洗練されていき、エンチノンという男がすべての犯罪シンジケートをまとめ上げ始めたのを皮切りに『シンジケート』は誕生した。

 いくつかの戦争に首を突っ込んだりしているうちに組織としての規模には若干の衰えを見せたが、未だに裏社会の中での発言力は絶大である。


【坂本商会】人類語彙

 いわばヤ●クザさんですね、イズミアンマフィアだとか呼ばれる、独自のルールに生きる裏社会の住人。

 坂本とは、この組を立ち上げた元・商人筋にあたる人物。五雲連邦裏社会において強い影響力を有し、警戒される。


【ボーラーハット】世界語彙

 頂点の丸い、均等の広さのつばをもつ丸帽子。名の通りボール状のかたちをしている。現在流行の帽子とは少し趣を異にしているため、おしゃれにこだわりを持つものが好んで被るという印象がつよい。

 マリオストは特にこの型の帽子を好み、こだわりのターコイズブルーのフレームの眼鏡と合わせて着用していた。




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