0章―5頁
【null-fünf】
「それは素晴らしいことです。相変わらずの無双ぶりですね、オレーグ卿は」
「ほんとねぇ、どうしてこうも強くなれるのやら。子飼いの便利屋で一番見てて楽しいのは間違いなくこいつさね」
マザーの座るソファーの傍らに置かれた小さなテーブル(柚理はこれ一つが自分の賃金一年分を裕に上回ること知っている)へと紅茶を運びつつ、彼女の方をチラと見る。何故か目に悪いほど露出の多い、ワインレッドの高級感溢れるドレスに身を包んだ肢体は細くしなやかで、本人は地黒と言う浅黒く褐色めいた肌が、やたらにスリットの入ったドレスの切れ間から覗いている。
豊かな胸や、尻などの起伏に富んだ身体は確かに成熟しきった女性のものだったが……。
……やっぱり、マザーというにはこう、少し若すぎませんかね。
「そうだ。あんたも、この時間はもう暇だろう? 見ていくといい」
「ええ、まぁ……。では、失礼しましょうか」
柚理自身も普段から何かにつけて稽古をつけてもらっているオレーグ卿の動きを、普段とは別の角度から見られるのは参考になる。
そう考えてソファーの傍に立つのだが。
「なんでそんなところで見るんだい。座ればいいじゃないか、そのためのソファーだ」
画面から目を外さずにソファーへと促すアルカリアを再びチラと見る。
部屋着のやたらに露出の多いドレスでだらしなく寝そべるものだから、なんというか……本当に目に悪い。特別、女性に不自由した記憶のない柚理でもそう思うのだから相当だろう。
雇用主にそういう欲求を抱くというのもなにかバツが悪い。
「いえ、ここで」
「……ふーん、そう。あいつは、今日は、『何本』使うと思うね?」
柚理は少しだけ考え、
「『二本』も使えば多い方かと。普段のオレーグ卿なら、『一本』で済ませるでしょうね」
「そうかい? それなら、賭けとしよう。あたしは……『三本』だ」
三本も。
使うだろうか。
あのオレーグ卿が、この程度に。それとも、マザーは何か別の情報も掴んでいるのかもしれない。
「勝ったらあたしを一晩好きにしていいよ。あたしが勝ったら、あんたを一晩好きにさせてもらおうかね」
「ええ……」
彼が何本使おうが今夜は眠れなそうだ。
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かなりちんたらやっててすみません。
次頁からはまたオレーグに戻りますので。
本頁は特に解説する要素もありませんのでこのくらいで、ということで。