0章―11頁
一年!? うせやろ!?
書きだめはないけど頑張ります。
【0-11】
直剣とはまた古めかしい武器だった。剣士を自称した彼は、ティスフィア皇国の戦争史においては随分と早期に戦場から姿を消した剣という武器を一振り携えていた。神聖国の尖兵などなら、文明との融和を嫌う性格のある神々の信徒なんぞは剣を振るいもするのだが。五雲連邦においても見かけないではないが、銃と併用するスタイルのがまだ浸透している。それでも主力は銃火器か、碩学を補助するための碩製なる道具というところが精々だ。
……なにからなにまで古めかしいやつだ。
とまれ、そういった感嘆は一度置いて、今は目の前の敵に集中せねばならないだろう。
次に動いたのはほぼ同時。互いに向かって突き進む。
刺叉と直剣、そこに生まれるリーチの差故にオレーグが先に相手を攻撃範囲に収め、得物を長く持ち直して突きを見舞う。人の頭蓋骨ひとつをぶち抜いて余りあるだろう威力を持つその一撃はしかし、ナディウスを捉えることもなくその背後の空を貫いていた。
初見ではあまりの速さに驚かされこそしたが、魔法によってエネルギー力学を操りこなす碩学を扱う者、ということを前提にして対応すれば反応できない速さではない。現に刺叉を、その攻撃の当たらないギリギリの位置で姿勢を落とすことでいなし、その擦過とともに距離を詰めて一撃を狙ってくる敵の動きに、彼の反応は十分追随していた。
一瞬にも満たない僅かな時間だが、ナディウスが溜めを作るのを確認できた。取りに来る。
オレーグの赤い輝きを放つ瞳は彼の左のみの碧い視線を追いかける。
……腕か。
突きを外した右腕にその視線は収束していた。直後にその視線はこちらの右足に逸れていったが、そちらは視線のフェイクだろう。申し訳程度のお粗末なものだった。
こちらの右腕を潰して手数を減らし、かつ差し合いでの有利を印象付ける、というところだろうか。択としては悪くない。
しかしその狙いに気づいたとて、攻撃のモーションに入られている時点で相手の動きの方が速い。ただ急いで腕を引っ込めるのでは間に合わないだろう。
腕を早々に落とされるのでは面白くない。医療用の碩学もないではないが、それを使う暇を与えてくれはしないだろう。
であるならば。
「そら」
「ッ!?」
突き出していた刺又をそのまま、右下へと叩き付けるように振り抜く。その先には当然のようにティスフィアのナディウスの姿が、その頭があった。追従の速さに驚いてか、左しかない目を見開いている。
攻撃に確信を持っていただろう。先の一撃をぎりぎりで回避したため避けるには距離が近すぎ、それをする十分な時間は無い。中途半端に避けようとするならオレーグなら当てられるし、外しても追撃が非常に容易になる。悪くない、実に悪くない。
彼の顔に苦い色が浮かぶ。斬り上げのために備えていたのであろう剣を、頭をかばうように持ち上げるのだけは見えた。
「――ゥラァ!」
ゴギンという、衝撃の伴った音が倉庫に満ちた。
刺叉の先端よりは内側に入られていたために持ち手との間の棒の部分での殴打となったが、オレーグの細身からは信じられぬような膂力によってその体は、至近に砲弾でも着弾したかのごとく宙へ浮いた。当てた時の力で吹っ飛ばしたというよりは、当てた後でガードに用いた剣ごと押して力づくで持って行ったという表現の方が近しいだろう。
赤い瞳が限界まで右のまなじりの方へ寄って、視界から外れたその姿を追う。
まるでホームランの打ち方だな……。
かっ飛ばされたナディウスはというと、倉庫の壁際に寄せられた木箱の山に背中から突っ込んで行った。彼を受け止めて、詰まれていた木箱が派手に音を立てて崩れ、中に入っていた何がしかが弾けたのか白い細かな粒子が大量に、派手に舞い上がる。
アレは痛そうだな、などと些末なことをどこか遠くで思いながら、たった一度の跳躍でそれを追った。
靄を纏った細身が宙に浮かぶ。
空中で刺又を構え直し、両手で掴んで頭上に大きく振り上げる。
音や気配、影、予測などによって、木箱の山に突っ込み白く煙る微粒子状の何かに隠れた敵の、大まかな位置は掴んでいた。十中八九、この起動でこの軌道なら、当てられる。
黒の男は落下を始める。異様に長い滞空時間だった。
「そこだ」
コンクリ舗装の倉庫の床を刺叉は委細構わずぶち抜き、なんとも形容しがたく轟いた。