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ロード・オレーグ 【魔界を往く者】  作者: 古村 銀
第0章―此方、錆びついた風見どり
10/12

0章―10頁

お久しぶりの更新です。

【null-zehn】



 彼我の距離は十メートルあるかないか、というところ。

 オレーグが何となく刺叉を右手に浅く構える。

 自分の他に刺叉を戦闘でメインウェポンとして運用する馬鹿を見たことがないのでほぼ完全に我流だが、大きな一撃を狙って刺叉を長く持ち、重心の移動を最大限利用するのを「深い構え」、刺叉を半分より先側で短かく持ち浅めに腰を落とす程度にして状況対応力を優先するのを「浅い構え」としていた。

 早い話、相手の出方をある程度知っていて一撃で勝負に出られる場合には「深い構え」を、相手の情報に乏しく対応を必要とする場合には「浅い構え」を、という使い分けだ。


「へぇそうかい、そいつは失礼したな、穂先の飛び出るタイプの機械槍だと思ってたぜ」

「あぁ、ガチの勘違いか。そりゃ気にするな……さて、お宅のクライアントさんもうるさいだろうし、そろそろ始めるとするか?」

 

 刺叉にも翳りを纏わせてゆく。これをしておかないと碩学の絡んだ攻撃を受け止めるだけで刺叉が真っ二つ、という事態もあり得る。ただ一度卑竜種を殴殺した時でさえ折れも曲がりもせず無事だったことを考えれば、よほどのことがない限り大丈夫だとは思うのだが。

 ナディウスとやらは、相も変わらず程よい緊張と脱力の共存した立ち姿でいる。

 戦闘の意志を感じることには感じるのだが、気概らしきものはどうにも薄い。今から闘いを、命の遣り取りを行うというにはどこか、希薄だ。


 ……やっぱし、戦いの前に相手と会話をしちまうといけないな。いつ始めたらいいか掴みづらいことこの上ねェ。

 

「あぁ、お気遣いどうも……それじゃ始めるとしよう」


 一瞬彼の口元に浮かんだ笑み。その意味を探ろうとして――


「行くぜ」


 ――初撃。速かった。

 思考がついて来られずほぼ反射で受けた。 

 飛び込んできた銀色の剣閃に、瞬間に沸騰した脊髄反射のレベルで刺叉を合わせ、ギリギリのところでガードが間に合う。深い構えを取っていたならば、今ので決められていただろう。カァッと熱くなった視界の端のあちこちにフラッシュが飛ぶ。

 金属と金属がかち合う鋭い音が響き、ギリギリと力が拮抗する。

 一直線に突っ込んできたからこそのスピードだろうが、危なかった。


「へぇ、これを止めるのか。あんたやるなぁ」

「……十分やる気じゃねぇか。危ないところだった」


 刺叉を力強く振り抜いて押し返す。押された相手は一度退がったが……手応えは重い。

 再度、十メートル程度の距離を取る。


 ……思ったより速い……たしか、ティスフィア皇国は「エネルギーの碩学」だったな。

 

 ティスフィア皇国の碩学――それは『祆火(ミスラス)』と呼ばれる、魔力をエネルギーに喩え(たとえ)、操りこなすことを教義とした魔法体系である。およそ四百年前、硝煙に染まった戦場に身を投じる者たちの手のひらの内に生じたその火は、絶えず国土が争乱に晒された時の流れの中で研鑽されてきた。それこそが、ティスフィアが『ヒシュターの巨壁』たらんために掴み取った聖なる火、『祆火(ミスラス)」だった。

 そしておそらく彼、ティスフィアのナディウスが用いたのは、そのエネルギーを内側へと灯し、行き渡らせて肉体の性能を強化する類のミスラスだろう。オレーグはミスラスの教えなどには詳しかないが、以前戦ったアリアーも似たようなのを使っていたのを覚えている。

  

「こりゃ、加減なんて無しだ、ナディウス・クライナー、推して参る!」

「……生憎、名乗る名前の持ち合わせは無いな」


 闇夜のごとき仮面の下でかれの口元は大きく裂け渡る。恐ろしいまでに獰猛な笑みで、翳りのもやの向こうにわずかに見えたそれは、確かにナディウスの心を威圧していた。


「お前を殺すぜ」


 それが最後の言葉だった。


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