名探偵は、今
prologue
はじめまして、水島 真琴です。
僕はこの春から北里学園に通っている中学一年生。僕は身長が百六十センチちょいで、背の順だと後ろから七番目と結構大きいほうだと思う。僕の好きな科目は美術と家庭科で部活は文芸部に入っていて自分でも物語を書いていたりする。
趣味は推理小説を読むことと釣りをすることで釣りと本が大好きなごく普通の中学生。
僕の家族には、国際線のパイロットで家にいる時間が少ないお父さんと、おおらかな性格で今では珍しい日本の母みたいな感じのお母さんと僕で3人暮らしのはずなんだけど、家には確か僕の従兄弟に当たる自称名探偵の人が居候している。
えっ………と、一応その人のことも紹介しておくか。
その名(迷?)探偵の名前は前川 俊一。僕と俊は探偵や推理小説に興味があるから結構俊とは気が合うんだ。俊とよく二人で食事に行くんだけど普通にしてれば普通の人なんだけれど…… 未だに性格がよく分からない。僕の直感だけれど俊には裏の顔があるような感じがする―――。でも僕とはよく遊びにいったりしてくれて優しい心の持ち主なんだ。いつも真っ黒のスーツを着ていて背が高くざっと百八十はあるんじゃないの?っいえるほどの背の高さだよ。外見も性格も優しい感じで誰にでも優しく親切で周りからの信頼は厚いけど………。俊の家には推理小説が好きな人ならしょうがないんだけれど、家の中には毎週発行のクロスワードや推理小説などがいっぱいある。すべてが本棚に一応しまってあるからいいんだけど(中には無理やり詰め込んで取り出すときにその段にある本がすべてなだれのように落ちてくるときがある)ただでさえこんなことになっているのに「地震が来たら」と思うと……ぞぉっとする。本人は「地震なん起こるときには起こるんだから、地震が来たら来たでそのとき考えればいい」って言って全然、自然災害というものを恐れてもいないしなんとも思ってない。
まあ、周りから見て「この人は名探偵だよ!」って言える人もそう思っている人もいない俊が名探偵だと見分けることが出来る人こそが本物の名探偵のような気がする。(僕もいろいろ俊と旅行に行ってて事件に巻き込まれたりしているから分かるけど俊は普通の人なら考えられないような発想をしてその発想を事件に持ち込んで自分ならではの推理をしてなんでも解決してしまうんだ。)確かに本物の名探偵だよ。俊は事件を解決した時には必ず
Amatter solution. What,how. (さあ事件は解決しましたよ。どうですか?) っていうんだ。最後まで忘れないでいて、俊が事件を見事解決したら一緒に言おうね。
あっそうそう、俊には北里警察署の何とか警部って言う知り合いがいるんだ。何でも事件があるたびに一緒に二人で一緒に解決してるようだけど、俊はその署長の名前を覚えていないんだ。(まったく相手は警察なのにね)
さて、僕たちの紹介はここまでにしてそろそろメインといきますか!
それでは参りましょう名探偵が本当にいる町へ。.
Appetizer 怪事件の幕開け
「俊、幽霊っていると思う?」
俺が聞くと、ソファーに浅く座ってニュースを見ていた俊は、視線をテレビに向けたまま答える。
「いいや」
「じゃあ妖怪っていると思う?」
ノートを俊の前にあるテーブルに置いて言うと
「今ちょっと興味深いニュースが報道されてるからちょっと後にして」
テレビに視線をずらしてみると、やっていたニュースは『呪われた村に次々と起こる謎の怪現象とは!?』という題で特集を組んで放送していた。
それから30分ぐらい経ち、アナウンサーが『この村にもう何も起きないことを祈ってお別れいたしましょう』と言い、番組は終わった。
番組が終わり、大あくびをして思いっきりソファーに寝ころんだ俊は俺に視線を移してこう言った。
「今ニュースでやってた事件、なかなか興味深いね」
「え?やっぱり事件の原因はやっぱり怪奇現象ってこと?」
俺が聞くと、俊は首を横に振ってからまた大あくびをし、眼を閉じた。そして
「多分もうそろそろ何とか警部が泣きながら家に来るからそのときに言うよ。」
と言い、熟睡をはじめた。
俊が寝てから10分後、本当に署長さんが家へパトカーでやってきた。
警部さんを俊が寝ているリビングにつれていくと、俊はもう起きていてソファーに座っていた。俺たちがそばに行くと、
「ああ、何とか警部さんですか。今日あなたが家に来た理由は分かっています。あの呪われた村の事件を解決してほしいのですよね?」
すると警部は信じられないという顔をして、
「中崎だよ。いい加減人の名前ぐらい覚えてくれ、でも何で知ってるんだ?」
「ニュースを見ていたら興味深い事件が報道されたからですよ。幽霊が町後と崩壊に導くなんてそんなことあり得はしない」
と言い、俊は中崎警部を向かいのソファーに座らせた。
警部は座るなり体をのりだして興味津々の顔で
「そんで、犯人はやはりゴーストなのか?それとも……」
と言うがそれを俊は右手を上げて制し、逆に質問を返した。
「えっと、中崎さん?この世にゴーストなんてものが存在すると思いますか?」
「いや、できれば信じたくはないが、どう考えても人間の手で犯行を行うのは不可能だと思うんでね。」
「警部さん。今その事件が起こっている村の住民と過去の住民数、それと現在生きている人全員の顔写真とプロフィールはありますか?」
と言うと、警部は無言で自分のかばんからA4サイズのファイルを取り出した。そして俊の前にそれを置いた。
「これが事件に関する最新の情報だ」
俊は無言で受け取り、中を見ていった。
10分ぐらい経ち、俊がパタンとファイルをとじた。そして俺にそのファイルを渡してきた。
「これ見ていいんですか?」
中崎警部に聞くと、
「いいよ。君はこの名探偵さんの助手だからね」
と言われた。(俺には俊に対する皮肉にしか聞こえなかったけど。)
「じゃあ……。」
このあと、しばらく警部と俊が話している間にファイルの中身のほとんどを頭にインプットした。それを軽くまとめておいた。
村の名称 八羽村
所在地 小笠原諸島周辺の島
以前の人口 250人
現在の人口 7人
生存者 山野晋吉57歳 八羽村村長
森野三郎42歳 百姓
森野敏子 42歳 三郎の妻
佐藤健二 45歳 旅館の主
佐藤智子 47歳 健二の妻
武藤智久60歳 大工
後藤武蔵 59歳 智久の大工仲間
村人の死因は不明、村が炎に包まれた原因も不明のまさに呪われているとしか考えられない。
こんな事件に興味を持つなんて、やっぱどうにかしてるよ。
「よし、じゃあ帰るとするか。前川さん、明日はよろしく」
と言い、中崎警部は軽く敬礼をして帰っていった。
「あ〜あ、せっかくの休みだっていうのにまた事件の調査かぁ〜。たまにはのんびりクロスワードでもやっていたいんだけどな」
ソファーの上で大の字になり、天井を見ながら俊が言った。
「え?明日行くの?俺ちょうど休みだからついてってもいい?」
「いいよ、一応警部に言っといたから。そのかわり、明日朝7時に家の前に警部さんが迎えに来るからそれまでに準備しとけだって。」
「おっけ〜分かった」
さてと、一緒に行くことになったのはいいんだけど問題は母さんだ。母さんがオーケーをだしてくれればいいんだけど…。
俺はすぐにキッチンで夕食のしたくをしている母さんに聞いてみた。
「明日なんだけどさ、朝7時ごろから俊と出かけたいんだけどいい?」
「いいけど、起きれるの?そんな時間に?」
「だいじょーぶだって」
やったー!めずらしく母さんのオーケーが出たぞ〜。よし、明日は存分に頭をはたらかせないとな。
夕食をすませ、すぐに眠りについた俺は次の日、俊の目覚ましで起こされた。
Maindish 謎の真相はいかに?
「朝だ朝だ朝だ……」
と言う俊のやかましい声でめがさめた。
起き上がり、目覚まし時計を見ると6時をさしていた。
「俊、めずらしいね、決まった時間ぴったりに起きるなんて。」
俊はえっ?っていうような顔で言った。
「僕が時間どうりに起きなかったことが今までに無かったって言いたいのかい?」
「だってそうでしょ。この前のお祭りの時だってそうだったし、そのほかにも…」
前のことを言っていくと、俊は耳をふさいでリビングに向かっていった。
テーブルの上には大きな目玉焼きとサラダをのせたお皿とパンとスープが置いてあった。それを急いで食べてしたくをはじめた。
「ピーンポーン」とインターホンの音がすると、おれと俊は勢いよく外に飛び出した。
外に出ると、中崎が自慢の愛車の前に立っていて、警部が手招きしていた。
「おはよう、2人とも。さあ早く乗った乗った」
と言い、警部は俊を助手席に、俺を後部座席に座らせて車を急発進させた。
急にアクセルをふかして発進させたからタイヤが「キュウウウウ」という悲鳴を上げながら地面をとらえ、車が動き出した。
メーターが振り切れんばかりのスピードが出ている車の中で俺は、身動きがとれずにいた。走り出してから背中がずっと後部座席の背にくっつきっぱなしなのだ。
助手席には、スピードが出て、ワイワイと1人で喜んでいる俊がいた。その隣で運転している中崎はとても警察官とは思えなかった。次から次へと車を追い抜きながら走る車内で俺は、何とか口を開くことができた。
「中崎警部、警部の人がこんなスピード出して大丈夫なんですか?」
響き渡るエンジン音で俺の声は全く中崎に届いていないようだったが、バックミラーで何か話しているのが見えたらしく、
「口あけてると舌かむぞ!」
と言い、さらにスピードが加わった。
俺はその瞬間、気を失った。
「おーい、生きてるかー?」
と言う中崎の声で、俺は現実に引き戻された。
窓の外を見てみると、広い駐車場に着いていて、さらに締め付けられるような感覚もなくなっていた。
「おい、ほんとに大丈夫か?」と言いながら、中崎の手が俺の体を車から降ろした。地に足が着いて、歩きだしたが思ったとうりに進めない。ジェットコースターから今降りてきたというような感じだ。
俊はのんきに警察官と名紙を交換してまわっている。
「ちょっとあそこで休むか」
中崎につれられて、太い丸木の上に腰を下ろした。
「俺の運転ってそんな危ないか?」
「危ないも何もないですよ!第一警察の人間なのにあんなスピード出していいんですか?」
「まあ、いいじゃん事故ってないんだしさ」
と俺に笑顔を見せ、俊の所によっていった。「いいじゃん」って警察の人間が口に出すかフツー?あんなんでよく警部に昇進できたな。
しばらく俺がボーっと俊たちが話しているのを見ていると、その先に黒煙がたちこめているのが見えた。俊たちも気付いたらしく、その方向に走っていった。俺もあとに続いて走り出した。
火は、村に入ってすぐにある民家から出ていた。急いで俺たちはバケツリレーをし、約30分ぐらいで消し止めることに成功した。
「はぁ、またかぁ…」
と、悲しい顔をしながらこちらのほうにふらふらときたのは山野晋吉。この村の村長らしい。
一度警察に頭を下げ、それから向きなおり、俺たちにまた頭を下げた。
「顔を上げてください」
「はい」と言い、顔を上げた山野の表情は、悲しみにあふれていた。その顔を見て俊は今までにないほどの真剣な表情に変わった。
「この事件の解明に来た、探偵の前川です」
「はい、この間警部さんの方からご紹介を受けております。前川さん、本当にこの村は助かるのですよね?もとの村のようになりますよね?」
山野は涙ながらに俊に質問を浴びせていく。俺にはこの人が犯人には思えなかった。俊も警察関係者も多分同じことを考えているだろう。けど山野をはじめ、この村の住人すべてを疑わなければならない。探偵とはつらい職業だ…。
――出火したのは誰も住んでいないはずの家だった―――
「あらためまして皆さんこんにちは……」
と俊が住民全員を集会場に集めて自己紹介と共に、今まで起きた事件の内容について話し始めた。1人1人の顔を見ていったが、俊のことをにらんでいるような目つきをしている。…仕方ないか、これだけ多くの仲間が死んでいき、さらに連続して起こる火災。こんななかでひょっこり自分のことを名探偵だと名乗る人間が来たらどう思うだろうか。俺だったら耐えられない。そいつに殴りかかるかもしれないな、「ふざけんなー」って。
その空気を察したらしく、話を早めに切り上げた俊は中崎となにやら話をした後、一礼をして俺を呼んだ。
「今日は警察が設置したプレハブに泊まることになるけどいい?」
「いいよ。俺もこの事件の真相知りたいし」
「よし、じゃあ決まり」と言って俊は俺をプレハブに連れて行き、自分は調査するとか何とか言ってすぐ行ってしまった。
プレハブの中は意外と広く、おそらく10人ぐらいが布団をしいて寝れるぐらいだった。フローリングの床に寝転がり、今日起きたことを考えていると急に眠気が襲ってきた…。
――寂れた家、枯れ果てた草花。そんな村で、新たに人が死んだ。もがき、苦しみながら死んでいくその姿をずっと見ている者がいた。もちろん2人とも顔は見えないが、じっと見つめているのは分かった。何の感情もなしに――
次の日の朝、俺は
「キャアアアアア」
と言う女性の叫び声で俺は飛び起き、その声の方向へ急いだ。
そこは俺たちのいるプレハブからそう離れていない路地で起こっていた。
がっちりとした体型の男性が口から白い液体をたらしながら倒れているのが見えた。そしてすぐそばには悲鳴の主、森野敏子が涙をこぼしながら倒れこんでいた。
「あなた、あなた」と叫んでいるところから見て、倒れているのは夫の三郎だろう。すぐに確認したが三郎はとうに息を引き取っていた。泣き崩れる敏子に現状の説明を求めるが俺のこえがとどいていないらしく、全く答えようとしない。
悲鳴を聞きつけて走ってきた警部と俊が遺体の前に立ち、脈がないことを確認し、医療班にその遺体を運ばせた。
敏子は運ばれていく夫を追いかけようとしたが足がもつれて上手く前に進めない。それを見て警部の眼は、鋭いほどに怒りをあらわしていた。
三郎が運ばれていっても動こうとしない敏子を警部と俊の2人が肩を持ちながら何とか近くの民家まで連れて行くことができた。ようやく落ち着きを取り戻したところで俊が質問を始めた。
「森野敏子さん、大丈夫ですか?今から僕がいくつかの質問をしますので正確にお答えになってください。いいですね?」
俊が優しい表情で問いかけると敏子は俊と眼を合わせ、「はい」と言いうなずいた。
「ではまず1問目です。ご主人は倒れる前に何をなさっていたのですか?」
「今日主人は佐藤さんと将棋をしていました。そのときに私は智子さんと村の花を見てまわっていました」
声がかれてしまいあまりよく聞き取れないが、敏子は懸命に俊の質問に答えようとする。「では、ご主人が佐藤さんとどういうやり取りをしていたか、わからないのですね?」
敏子はうなずき、そのまま下を向いてしまった。
それを見て俊は敏子を解放し、警部に何か耳打ちしてこの場から離れていった。警部は俺に寄ってきて「この事件、思ったより深いぞ」と話しかけてきた。
警部と話しているといろんな情報が入ってきた。今から約半年前、桃源郷とまで歌われたこの八羽村に、もっと観光客を増やそうとして、村の宣伝を始めた。その成果もあって、観光客も増え、この村をまわるツアーなども作られてようやく活気がわいてきた頃、元は5軒あった旅館のうちの1軒の夫婦が奇妙な死をとげて以来、次々に死人が出て観光客もめったに訪れなくなってしまった。村長が調査を依頼して調査しても、感染症でもなく異常なしと告げられた。それからというもの、村を出て行くものが後を絶たないという。
その調査団が帰った後も火災、奇妙な死が続き、村長がダメもとで俊に依頼をしたらしい。
僕達がこの村に来て、2日目つまり今日の夕方、森野三郎の葬式が行われた。警察関係者と村人で行われた式は、なんとも異様な不陰気に包まれていた。中でも積極的に式の進行を行っている佐藤健二は、何かをたくらんでいる様な表情をしているように見えた。
この日の会議には俺も参加することになった。
プレハブの中で行われた会議は、今日の事件の詳細を1人の刑事が説明をしていた。それが終わったあと、俊は事件に対して自分の推理を言って見せた。
「この事件の今の段階での僕の推理をお話します」俊が前に立つと拍手が起こった。
「今まで起こった不可解な連続死はウイルスによるものではありません。これは明らかに殺人です。まず、被害者の妙な死に方、外見傷ひとつついていないところからしてこれは何らかの形で薬物を投与された疑いが深くなります。」
話を聞いていて、1人の刑事が「薬物と言いますと?」と言ったが俊はかまわず説明を続けた。推理の途中に話を挟まれるのが相当嫌いらしい。
「村長さん。我々調査団に調査を依頼される前に環境省が伝染病の調査に来ていたとおっしゃっていましたけど、彼らはどこを調査していったのですか?」
「村の空気の状態や作物の調査だったと思います」村長ははっきりとした口調で言った。
「被害者の体内は調べなかった。つまり環境省の奴らは薬物による殺人だということを疑わなかった…一度調べて見る必要があるかもしれません。今のところ僕が分かっているのはこのぐらいのことです。これからも調査を続けていくつもりですが、もしこの中にいる人間の1人でも不審な行為を目撃した方はすぐに私や警察関係者、それか私の助手に伝えてください。
と言い、俊は真琴のほうを指差し、一礼してから中崎の隣に腰掛けた。
「では皆さんごくろうさまでした。今日はこれで終了とさせていただきます。まだ何か質問等がありましたら明日の朝にまた受け付けますので」と中崎が言い、村人を帰らせた。
しばらくしてからまた調査団10人のみでミーティングが始まった。
「今日亡くなった森野三浪の体内を調べたところ、青酸カリらしき反応が見られました」
と1人の鑑識が言った。「無くなった時に白い液体を吐き出したという点からもそうだろうと断定できます」
「そうなるとホシはこの村で唯一薬局をしている佐藤夫婦ってことになるな。よし、さっそく取り調べ行くか!」中崎が外へ出ようとしたとき、今まで黙って聞いていた俊が立ち上がった。
「犯人はおそらく佐藤さん夫婦だというのは僕の推理でも同じです。だけど動機が分からない。取調べは今日の夜まで待ってくれませんか?夜になればホシは動き出すはずです僕らにここまで調べ上げられたもんだから焦りながらね」
「そんなに言うなら…」と中崎は引き下がった。
「それと今夜は寝る事はできません。それにこのプレハブにいることもできません。周りで待機します」
何も言わず、全員プレハブの中から出て俊に指示されたとおりの位置についた。俺が何をするのかを聞いても「もう少しすれば分かる」というだけ。
…30分くらいたった頃、暗闇の中からかさかさと音を立てて何かがこちらに向かって来た。
その音が大きくなるにつれて黒い影だった物が人間であることが分かるようになった。さらに近づいてくるとその顔まではっきりと確認することができた。そいつはこの村の旅館の亭主、佐藤健二に間違いなかった。
プレハブの近くまで来ると周りに人がいないのを確認し、持っていた液体をまきライターの火をつけた。
その瞬間、俊の「今だぁ!抑えろぉ」という大きな声で待機していた人間全員が佐藤健二を取り囲んだ。
取り囲まれて身動きが取れなくなり、あっさり逮捕された。
中崎は佐藤を「来い」と言い、プレハブの中へと引きずり込んでいき、それに続いて俊を先頭に俺たちが中に入った。
入って電気をつけると目がくらんでしまった。あれだけ長い時間暗い外で張り込みをしていたんだから無理はない。
そして刑事ドラマでよく見るような取調べ室のようになったプレハブの中には中崎と俊と佐藤容疑者を残して俺らは囲いの外から見物するようになった。
佐藤健二は下を向いて座っている。向かいの席には俊が座り、その横に中崎が立っていた。
「佐藤健二さん。あなたは今まで起ったすべての事件を自らの犯行だと認めますか?」とにらみながら俊は言った。
「はい、すいませんでした」と泣きながら力の抜けたような声でだった。
「何のためにこんなことをしたんだ!自分のしたことの重みが分かっているのか!」中崎が怒鳴り声を上げ、机を両手で叩いた。
するとうつむいていた顔を上げ、訴えるように動機を話し始めた。
「5年前、自然と平和に満ちあふれているこの八羽村を観光名所にしようという企画が村人全員で決められたんです。新聞やテレビなどでも報じられるようになって観光客が以前の数倍になりました。私のような旅館を経営をしている家は他にも5軒近くあってなかなか家に入ってくれる客はいなくて、看板を作っても来る人は増えなかったんです…」
「みんなの陰謀だと思い込んだあなたは、薬局もかねている自分の家にあった青酸カリで次々に人を殺し、死んだ者の家はまとめて焼き払っていった。そして今日、僕達が事件の真相をつかんだと思いあせったあなたは、僕達ごと燃やしてしまおうと思いついた。そうですよね?」
佐藤は「そうです。本当に申し訳ない…でも」と言いかけたが、俊がその先を言わせなかった。
「どんな理由があろうと人が人を殺めてはいけない。これは人間としての基本です。あなたの場合は1人ではなく、200人以上の人を殺め、さらに家屋を灰にした。この罪は重くあなた自身の身体に降りかかってきます。覚悟したほうが良いですよ」俊は真剣な表情で佐藤の眼をしっかりと捕らえていた。
しばらくすると警察車両が佐藤容疑者を乗せて暗闇の中を東京の警視庁へと向かっていった。
今まで僕が書いた小説の中で、一番最初に書いた作品です。
小学校五年生の時に書いたため、
途中、ネタが思いつかなくて書かない時期があったので文章が少しずつ変わっていくと思いますがそこんところはよろしくお願いします。