新人魔導師の目的
ミウ・ローセンが、クレイバレスの麓に国を興して、三年の月日が過ぎていたある年。
━━霊峰の魔法学院に入学を許された少年アルノーラ・フィアント・ラシーダは、霊峰の王弟である。しかし自分の才能に不安を覚えていたアルノーラは、地方魔法ギルド長マリスに。ある願いを口にした。少年アルノーラは沢山の友人と知り合うのだが……、未来を夢見る青年と成長したアルト。出会いまます。
プロローグ
地方のクレイパレスこと竜の峰の麓に。新しい国が誕生して、早3年……。
王は、世界でも珍しい人形師と呼ばれる。魔法使いとして、地方に新たな技術をもたらせた革命者であった。
ミウ・ローセンがもたらせたクリーチャーと呼ばれる技術は。まさに革命的で。人形には様々な素材で作られ物に。モンスターを封じ込めることで。家主の魔力がある限り。人形の家にクリーチャーを配置して、自在に呼び出し、操る事が出来た。この技術の最大の利点は、モンスターが倒されても。魔力が回復すれば、何度でも呼び出して操れること。これにより。人件費の大幅な削減が、様々な現場で可能となった。現在地方ギルドでは、新たな人形師の育成に力を入れていた。そこには地方ギルドの強い思惑もあったが……、
━━今年、霊峰の魔法学院に入学した。100名足らずの子供達。その多くが、裕福な家系の子供達である。また多くの子供が。多額の寄付によって、入学を許されていた。その中で、純粋に才能だけで入学を許された者は、ほんの一握りに満たない。彼等こそ未来のマスター候補者である。その一握りの生徒には、試験の結果によって順位が付けられる。しかし例年にないことが起きた。今年首席に選ばれた少年アルノーラ・フィアント・ラシーダは、霊峰王の王弟に当たる青年である。
「アルノーラ様……、誠にミウ・ローセンの弟子をお望みですか?」
ギルド議長マリス・ロートス、初老の中間管理職と言う表現が妙に似合う人物、そのマリスが伺うように口を開いた。
「はい!、地方の人形師。第1人者であらせられる。ミウ様に師事したいと願うのは、魔法を志す者として。当たり前の感情ではありませんか!」
鼻息荒く。強い眼差しをした殿下に。マリスは困惑していた。確かに言われる通りであるが……、ミウ・ローセンはマスターレベルの魔法使いであると同時に、地方ギルド議員でもあるから、魔法学院の生徒を弟子に迎えることは、決して不自然ではない……。
――しかし……相手は新しいとは言え。一国の王である。おいそれと頼むことも話を聞いてくれるとも。思えなかった。つい……渋い顔にもなる。
「マリス議長。安心してください。兄上からお許しを得てます!、このように親書を預かってるゆえ。直ぐに弟子という訳にはなりませんが、お話を聞いてくださるとぼくは確信してます!」
自信満々に断言していた。
(まあ~、話くらいは聞くことは、聞くだろうな)
あえて口を挟まず。苦笑に止めていた。
この三年。地方の財政は安定していた。飢饉があったことなど。多くの貴族は忘れていた、しかし……。まだまだ火種は多く。小競り合いが絶えないのが現状。王弟とはいえ。国を離れることは、本来控えて欲しいところである。
「――仕方ありませんな、私からミウ殿に。使者が赴くことそれとなく伝えましょう」
「おお~そうか!、マリス議長殿。感謝いたす」
殿下は非常に頭が良く、才能もある。いかんせん世間知らずな若様には……、
(些か荷が重い相手である。が……、案外……悪い考えではない)
若君の素晴らしい才覚なら問題もないだろう。一つ感心したのは、金に執着する他の議員。教授に師事するのではなく、彼を選んだ点を評価していた。
何せミウ・ローセンは、地方処か中央の大国グランデのギルドから。一目置かれた人物。為政者としてもまた優秀である。マリスが聞き及ぶところでは、塩山水神線武円斬四ヶ国と同盟関係を築き、海遠でも力ある。豪商ガーラント商会の血縁者を妻に。自身は地方ギルド議員の1人である。今や地方でも、とても強い影響力を持っていた。
地方魔法ギルドがある霊峰の国は、海岸線に面してはいるが、クレイパレスに連なる。巨大な尾根の麓にその国はあった。都は古くも美しい街並み。城は、山を削り造られた無骨な作りである、一応王権制ではあるが、貴族よりも魔法ギルドの力が強く。議員とはある程度霊峰の王族にも。影響力をもたらせる権力のある地位であった。そのせいか王とて何か、国事をするとき、地方ギルド議長にお伺いに来ることすらあったほど。
━━翌日。ミウに。我が国の王子アルノーラのこと。魔法の鏡を使い頼むことに……。
『お話は分かりました……。構いませんよ』
「おお~感謝致しますぞ。ミウ殿」
また一つミウ・ローセンに。地方ギルドは大きな借りを作ることになったか。(しかし……あの者は、些細なこと気にしまいな。)
信頼を込めてマリス議長は、深く一礼する。
数日後……。
ガーランド商会の商隊に紛れ。霊峰の王子アルノーラは、初めて自国から旅の空に赴き。少しずつ色々なことを学んで行きました。例えば好きな時間に食事が食べれないこと。荷物は自分で管理すること。当たり前のことを知らなかったと痛切したのは。着替えは自分ですることである。
そして……何よりも驚きは、旅の中では寒くても火を使えない場所があること、旅の同行者にも仕事が与えられたりと。何もかも軽く考えていたことに気がつき、戸惑い。驚き。新鮮に感じていた。最初の数日で、
(なんと……旅をすることは、大変なことだ)世間知らずな若者は学んだ。
「よいしょ!」水を。並々入れた木桶を両手に抱え。吹き出る汗を無視して、アルはよたよたしながら、商人見習いや男たちに混じり。飲み水の確保のため。荷馬車の樽にそそいでいく。大変な重労働である。今までこんな大変な仕事があるとは、考えもしなかった。素直な驚きと――全身を包む心地よい気だるさ、大きな樽一杯になった頃には、爽快な気持ちが、心に広がっていた。
「若いのご苦労様。疲れただろ。こいつを食ってみな。疲れなんてぶっ飛ばしてくれるからよ」
にこやかに言って、見習いやアルノーラに。乾燥レモンの皮を蜂蜜に漬け。砂糖でコーティングした蜜漬けを。初老の商人から一欠片もらい。見よう見真似でパクリ。サクッと飴状になった表面。レモンの酸味が口内に広がり。驚きと同時にもう一度噛み締めると。今度は嗅ぐわしい香りが、鼻の中を抜けていく。
「美味しい……」「だろ、こいつは竜見の特産品の一つでな~。保存が利くし。そのまま食べてもいいが、調味料にも使え。美容にも良いときて、何より安価だ。全く持ってミウ王は良い特産品を作ってくれたよ!」
「へえ~特産品を……」
アルノーラの兄が治める霊峰は、地方魔法ギルドが実権を握っていた。財政の多くを魔法製品の販売。魔導師の斡旋で、外貨の多くを稼いでいる。主な財源は未来の魔導師を育てるのに使われている。王権政権と言われているが、霊峰では道を直したり。城下町に店を開くのも。ギルドの意見を伺わなければならない。それだけ地方魔法ギルドの力が強いからだ。こうした商人から直接話を聞くことも。実は少なく、非常に興味がそそられた。また他国のこと商人の方が詳しいことに。妙に納得していた。
━━霊峰の為政者としては、こうした話に大変興味も覚えていてついなんでも答えてくれるのではないかと。訪ねていた。
「あの貴方は、ミウ様と面識がございますか?」
商人にアルノーラの身分は、留学生としてある。それだから下働きのやる手伝いもさせられている。無論商人はアルの育ちが良いことから。貴族の出であろうこと、理解していた。
「ああ~、何度か直接お会いしております」
「多分話を聞いてると思います。僕は、ミウ王にお会いするでしょう、ですので……」
いいよどむアルノーラをちらり見てから。白髪混じりの髭をしごきつつ。
「ミウ様は、商人から見ても侮り難い方でしてな~。奥方も怖いですが、あの方は別格でしたよ。商人としても一流ですよ」「なっ……」
少しならず驚いていた。まさか素直に教えてくれるとは思わなかったからだ。でも……口を開く前に考える。商人と言う人種は、滅多に人を褒めないと。兄から聞いていた。ニヤリ何か含むような顔を。目の前の商人が浮かべていた。
「ただし我々に。儲けさせてくれる方は、皆様良いお客様ですがね」
気付いた。それは暗に、アルノーラが、客になるなら他にも有益な情報をもたらせることが出来ると含んでいるかの……?。そんなこと考えながら商人を伺えば、まるでこちらの考えを読んだように一つ頷いていた。それはアルにとって慣れ親しんだ駆け引きだった。それだけに分かりやすい。
「霊峰にある。私の屋敷。貴方が扱う全ての品の中で必要なだけ。貴方から一年分取り引きしよう。内容次第では、さらに増やそうではないか?」
そう前置きしてアルノーラは、自分の屋敷の場所を教え。手紙を書いてくれるとまで、約束していた。
「ただし……」
商人が思っていたよりも。青年は強かな人物だったようだ。
「では、ミウ様の領地でのことなのですが……」
商人の話は、アルノーラの目的に。非常に重なる部分があった。例えば━━。「重鎮が、子供に勉強を……」「公然の秘密なのですが、ミウ様の側近には。元王までおりましてな、何より面白いのが獣人を差別なく、民として扱っている点です」
そこも噂程度に聞いていた。
……三年前━━。塩山軍はミウ王不在を知り。当時豪族であるミウ王の領地を急襲した。
留守を預かるは、元商人だった新婚の妻が、撃退したと言われている。しかし兄から聞いた内容は違う、ミウ王には優秀な軍師、武人が側近にいたことがわかっていた。その1人が、元古里の王ゲント、槍の達人リョクト、その妹で弓の名手リサであった。
「表に出ませんが、ミウ様には弟子が1人おりましてな、ドワーフと交流があるのも。弟子のアルトのお陰と聞いております」
どうしたことか商人の顔に。親しみを込めた。柔らかな笑みが浮かび。眼差しへと変化していた。
「きっと良い方なのですね……」
アルノーラの呟きにハッとして、やや苦笑を滲ませつつ。素直に頷いていた。取り繕うのは簡単だが。本当に先を見据えた取り引きをしたいなら。真実を交えること、それが優秀な商人である。目の前の商人はなかなか有能な人物のようだ。
「領地に赴けば、嫌でもアルトに会われるでしょう、あの子は自分が思うよりも有能です。下手をしたらミウ様よりも。アルノーラ殿下ミウ様もですが、将来を見据えるなら、アルトとその仲間とは、是非とも交流を持つべきですな」パチリいたずらぽくウインクしていた。
「なっ……、肝に命じましょう」
驚いたというよりも。妙な感心を抱いた。
「貴方のお名前を。お聞かせてください」
改めて、商人の名前を聞くべきだったと感じたのだ。
「ガーラント商会、番頭のベッケンと申します殿下」
聞いた名である。確か……ガーラント商会の金庫番と呼ばれる。やり手の商人だったはずだ。
「なぜ貴方が、商隊を?」
今やガーラント商会は、地方有数の大商会である。その番頭と言えば貴族とて、おいそれと会えない人物と聞く。
「お嬢様━━、ミウ様の奥様から。直接頼まれましてな~。そのついでに商隊を率いてきただけですよ」
パチリ悪戯ぽいウインクしていた。
(本当は、アルトをと考えていたようだが)
川道軍が動いてる。水神に赴いてると噂で聞いていた。
軽い気持ちで、話を聞いていたのだが……、
「ベッケン殿。僕が成人するまで、屋敷の取り引きは貴方にお願いしました」
「光栄です。殿下」
商人にとって最大の賛辞である。と同時に。身も引き締まる内容が含まれていた。
「出来ればガーラント商会とは、長い付き合いを願いたいです……」
正直と本音を含めることが、商人にとって相手に対する気持ちである。情勢が不安定な地方のこと。どのように変わるか分かりにくい、だから商人にとって。三年先がどうなるか分からないのが現状である。
━━しかし……。三年以内ならば、あるていど予測は出来る。あくまでも例えばの話だが、
「こちらこそ、そう願います」
ベッケンがうやうやしく。一礼していた。
それから……商隊は7日かけて、竜見に到着していた。
美しい森である。森に入る直前砦があって、商隊はモンスターが住まう森を抜けることなく竜見の商人に。全ての品が買い取られる。それを聞いて商人に訪ねると。
「若君。竜見は交易品を買い付け。危険な魔物が住まう森を抜けるリスクを無くすため。砦で取り引きが行われます」
「それは……」気が付いた。確かに確実な方法であると。しかし……。
「確かに商人の国塩山がありますが、水神と国交が断裂しており。その先の国々に交易をするのは難しいのです」
「なるほど塩山の商人の為に。だから竜見が間に入って、全て買い付けする方が、無難に治まるか……」
しかしベッケンの顔には、何か含むような笑みが浮かんでいた。ハッとした。確かガーラント紹介には、塩山の豪商と血縁関係もある。すると……今の同盟関係も、その辺りがあってと考えた。
ベッケンは引き続き。荷を受け取りに来た商人と話し込み。アルノーラと供に。魔物が住まう森を通り抜け、しばらくするととても賑わいのある。大きな村までついて来ていた。聞けばお嬢様こと。ミウ様の奥方に呼ばれてと聞いた。
「これは……、思ったよに賑わいがあるな」
ミウ様の支配する地域には、ちょっと大きな村があるだけと聞いていたが、そんな風には見えない。真新しい沢山の家々。村の入り口には、大きな宿が隣接していて、旅人を受け入れてるようだ。また商会が宿の前にあるため。非常に商売が楽になっていた。村に続く大通りを見ると。珍しいところでは立派な教会があった、獣人の姿もちらほらと見かけたが。中でも子供が多く教会に入っていた。空を見上げると太陽は高く上がる時間帯。だいたい昼頃である。しばらくするとドワーフが数人現れて、慣れた様子で、ベッケンと談笑する様子に。アルノーラは目を丸くしていた。
「面白い国だ……」
都会である自国では、亜人との交流などほとんどない、だからついまじまじドワーフのズングリした体躯を見てしまう。
「ん?、ベッケン殿、そちらの青年は初めて見るな」
気難しい顔をしていたドワーフだが、目元優しく、口調も柔らかい。
「ああ~此方は、ミウ様に会いにこられた。地方ギルドの使者様だよフロト」
「なるほどな~しかし貴殿が連れて来たのだ。恐らくミウ様の弟子入り志願者ですな?」
見た目と違い。聡明な人物だったようで、あっさり見抜いたフロトは、じろじろ無遠慮にアルノーラを見ていた。
「ふむ。アルトと同じ年齢くらいだね」
親しみを込めて、にこやかに呟いていた。
「ようこそ我等が国竜見へ、この国は亜人が多く驚かれるだろうが、良い学びが得られるように祈ろう、若いの」
「はい、ありがとうございます。僕も皆さんと沢山お話したいと思い。近々お邪魔してもよろしいでしょうか?」
目をキラキラさせながら、実に興味深そうに見つめられたフロトは、豪快に笑い飛ばし。
「うわっはは、いつでも構わん。来なさい」
アルノーラの腰を軽く叩き。自身の身長はある。巨大な金槌を肩に担ぎ上げ、仕事に戻っていた。
村の大通りで、商達と別れたアルノーラは、ベッケンの言う通り、まっすぐ通りを歩いて行くと。何処からともなく流れて来た。えも言われぬ香しい香りに。思わず足を止めていた。見れば屋台と呼ばれる物を店先でやっているようだ、このようなお店は、霊峰でも珍しくないのだが……、屋台の多くは魚、肉を焼いたものがメインである。
「いらっしゃいいらっしゃい~、竜見名物、アップルパイはいかが~」
ん、アップルパイ?。甘い香りにさそわれてか、女の子が沢山並んでいた。価格は銅貨三枚、そんなやすい物では無いが……、気になったから思わずアルノーラも並んで買っていた。
「一つください」
思わず財布を出して、購入していた。
「ありがとうね~お兄さん。はいよ。お待ちどうさま」
まだ熱々のアップルパイを手早く切り分けたのを。受け取り、木の皮を加工して、薄く割いた物にくるまれたアップルパイ。薄皮めくり早速一口。
サクリ……。面白い歯ごたえ。直ぐに濃厚な林檎酒の香りが、口内に広がり。甘く煮た林檎が噛むたびにシャクシャク食感が残っていた。
「こっ、これは……」
食で絶句すると言うのは、初めての経験である。やや酔然と……。考えていた。
「おっ、お兄さんどうやら気に入ってくれたみたいだね。嬉しいね~、こいつはサービスさ。良かったら飲みなよ」
「あっ、ありがとうございます」
小さな木マグに、香しいお茶が注がれていた。たしかにアップルパイはおいしい、喉が乾くのも確か。見ればお茶も売っていて、これはその一つのようだ。
「お兄さんそいつは、新しい特産品の林檎茶さ」
言われたので、さらに一口飲むと。ほんのり林檎に似た香りがして。すっきりした飲み口が、実にアップルパイと合うのだ。
「美味しい!」「そいつは良かった。気に入ったならお土産に。お茶と林檎の蜂蜜漬けが売られてる。これがあればアップルパイは簡単につくれるよ~」
ふくよかな顔を優しい笑みをした若者は、屋台の後ろにある店舗を指差した。
「はい、帰りに寄らせて頂きます」
丁寧に答えていた。すると若者は上品な顔立ちのアルノーラに、多少なり好感を抱き。
「またどうぞ~」掛け声にて見送ってくれた。
それからしばらく通りを歩いてると。屋敷が見えて来た。あれが城を構えないミウ・ローセン王の住まう屋敷のようだ。
――静かなノックが響いた。部屋の主であるミウ・ローセンは、近隣諸国からの密書に目を通しながら、入室許可を与えた。
「――あなた。少しお休みください。お昼をお持ちしましたわ」
ややふっくらした下腹部に。気をつけながら。メイド長リターラがナシアに手を貸し、ワゴンを押してきた。もうそんな時間かと顔を上げた。
「ありがとうナシア、一緒に食べようか」
「ええそのつもりで、多目に用意してきましたわ」すっかりやわかくなった顔立ち。身重な妻を気遣い。座らせるとリターラがお茶の用意をしてくれていた。
「ありがとうリターラ。後はやるから、後で君の旦那を来るよう、呼んでくれるかな」
「なっ……、わっわかりました」
真っ赤になるリターラを送り出したとたんに。クスクス我慢の限界を迎えて、ナシアは笑っていた。
「あの子、真っ赤でしたよ。あまりからかってはだめですわ」ぴしゃり言われてしまい。ミウは小さく肩をすくめながら微笑みを浮かべていた。
「そうだね。それよりもナシア、先ほど商隊が到着したらしい。あのベッケンが自ら来たのは、使者のためだけでは無さそうだね?」さすがは夫である。色々と裏で動いてること。気がついてるようだ。
「――はい、私が身重ですので、ベッケンにしばらく。私の代わりを勤めてもらいたく。兄に無理を飲ませました」
「はは~なるほどね……。お義兄さんのことだ。線武か水神に商会を開く。口利きを条件にしたかな?」
「ええ強かな兄です。少し高く付きましたが……、線武は大変な時期ですし。ガーラント商会の新店を開くのは。悪い時期ではありません」
川道、火炎が、動き出したのはわかっていた。念のためリョクト、リサ、アルトを水神に派遣してるのはそのためだ。懸念は必要あるまい。
「なんだか妬けちゃいます~」突然そう言うと。夫の肩にコツン寄り添い。軽く睨む、
「おいおい。急にどうした?」
面食らった顔した夫に。つんと横を向きながら、こんなにも夫の関心を引きたい気持ちになるのは、優秀すぎる弟子のアルトと。師であるミウの間には、ナシアですら入れない。特別な絆があるからだ。少しならず焼きもちを妬いていた。
「こ~らナシア。身体に障るからダ~メ」
悪戯心に誘われて、夫の膝や内側に触れる直前。やんわりと遮られてしまい、ますます頬を膨らませていた。
「悪戯したいのに~」
甘えた口調で言う妻に。多少なり苦笑しながら。
「間もなく客がくる。それはまた後でな」優しいキスを受け入れ。仕方ないわねって嬉しそうに呟いていた、今はおとなしく昼食に戻った。
屋敷を尋ねたアルノーラを出迎えたのは、地方魔法ギルド所属・魔導師ラセル・レバドンであった。
「殿下、ようこそおいで下さいました。主のミウ様に代わりましてご挨拶させていただきます。ラセルと申します」
気難しい顔に、小さく笑みを浮かべ、親愛を示した。
「忙しいところ申し訳ないが、僕はミウ王と謁見したい。かなうかな?」
――三年前国を起こしたミウ・ローセンは、本館の前に別館を建てていた。多くは国の様相を整えるため。大きな応接室を作らせるためだ。アルノーラはそこに案内されていた。メイドのセノーラが、お茶を置いた。
「君、ありがとう」
貴族然とした。美しい青年から。にこやかに微笑まれれば、年頃のセノーラ頬を赤らめた。
「殿下の来訪は、お伝えしあります。間もなくお越しになられると思います」まだ時間があると知り質問をしていた。相手はラセルが生まれた国、霊峰の王族である。多少なり緊張していた。
「ところでラセル、その……ミウ王とはどの様な人物なのだ?」
外様が噂する人物像と。実際に側近を勤める者から。話を聞くのでは、やはり違うのではないか?、興味本意から訪ねていた。
「僭越ながら、実際に会われてから判断すべきだと存じます殿下」あくまでも一歩引いた位置から。ラセルが無難な返答を返した。これは予想外である。
「う~ん、やっぱりそうですよね」
朗らかに笑っていた。しかし相貌に宿る好奇心旺盛な眼差しは隠せない。それこそが魔導師に必要な才である。
少し話し込んでいたので、ミウが入って来たのに、まるで気付かなかった。慌てて立ち上がるアルノーラ。ラセルが素早く立ち上がり一礼する。
「はじめましてミウ様、僕はアルノーラ・フィアント・ラシーダと申します」
青み掛かった髪を揺らして、恭しく頭を下げていた。
「よく来たねアルノーラ殿下。君のことはマリス議長から聞いているよ。弟子入りを志願してるとか。しかし僕のところはかなり厳しいが、大丈夫かい?」
あくまでも柔らかく、その実笑んでいるのに、その目は鋭い。王とは一瞬思えない砕けた喋り口である。一方でアルノーラの内心を。透かし見られてるような気がして……、知らず唾を飲み込んでいた。「はっはい、ミウ様が、モンスターを自ら捕まえること聞き及んでおります。僕は国から出たことも。実際に戦ったこともありません、でも、だからこそ、僕はこの目で、この腕で、自分の力で学びたいのです」
生まれて初めてアルノーラは、自分の気持ちを口にした。確かに国にいれば、好きなだけ勉強は出来た。魔法学院に入学もかなった。
しかし……。恥ずかしながら、自分の実力だったとは思っていません。何もかも偽りではないかと……。微かな不安を覚えていた。そんな時だミウ・ローセン王の噂を聞いたのは、新しい魔法技術を地方にもたらせ。何かと秘密の多い地方ギルドの議員になったばかりか、自分は豪族となり所領を得て、やがて王となった。いわゆる英傑と呼ばれる人種である。しかし得てして暴君となるか、はたまた破滅型の君主が非常に多いのである。稀に名君もいたが……、歴史上片手で数えられる程度である。アルノーラが気にしたのはその部分だ。
しかも魔導師で、地方議員で、王と呼ばれる存在は、後にも先にもミウ・ローセンが初めて。
「なるほど……、今は弟子のアルトが、水神に行っていてね。狩りをお休みにしていた。どうだろうラセル?、彼の実力を見るのに。炭鉱近くに住み着いた。オーガを狩りに行くのは」
いきなりの申し出に。驚き目を剥いていた。ラセルは眼鏡を直しながら。
「そうですな……、東の集落のこともあります。悪い考えではないかと、ただ……」
その先はあえて口にせず。アルノーラを見ていた。それで直ぐに察した。自分次第であると……、無論不安はある。実戦経験が皆無であるからだ。
でも……、だからこそ……、自分が待ち望んだチャンスを生かしたい。
「是非お願いします!」毅然とした。覚悟した顔を浮かべ、強く申し出ていた。
「うん、明日向かうから。今日はゆっくり休んでね。ラセル準備を任せる」
「承知しました。ではゲント、レンに伝えときます」
「うん、そうだね頼んだよ」
ラセルが応接室から出ていくのと入れ替わるように。1人の青年と獣人に見られる特徴のある。少女が入ってきた。
「アルノーラ、彼はコムス。隣がマイ」
コムスが竜見の戦士長の1人であること。マイが見習いメイドと紹介していた。
「マイ悪いけど。部屋の案内を。コムスは設備の案内を頼むよ」
二人は揃って頷き、アルノーラが立ち上がるの待っていた。
「僕の屋敷では、特別な理由がない限り。食事はみんな食堂で取る決まりだ。王子には申し訳ないが、そのところ不便をかけると思う」
にこやかに前置きしていた、竜見が広大な領土の割に、民が少ないことは知っていた。それにアルノーラにとって。祖国にいたような特別扱いを望んでいなので、素直に頷いていた。
「食堂は朝、夕決まった時間に開いていて、食事を提供している。その間なら好きな時間に取るといいよ。じゃあコムス、マイ頼むね」
「はいミウ様。アルノーラ様どっ、どうぞこちらに」
真っ白い毛並みの耳を、挙動不審にピョコピョコ動かしながら。やや赤い顔で、先をあるこうとしたマイは、長めのスカートの裾を踏んづけて、
「わっわわわ、きゃー、いったい……」「あのな~マイ、パンツ見えてるぞ」
「えっ、うそうそうそ!」
慌てて立ち上がり。思わずまじまじ見てしまった。真っ白い布切れ。やや茫然としていたアルノーラの前に。顔を真っ赤にして、目の端に涙がこんもり。今にも流れ落ちそうとだなとか思っていたら。キッと睨みつけられ。
「わっ、忘れて下さい!、いいですね」
あまりの迫力に。アルノーラはコクコク慌てて頷いていた。
「コホン……、こちらです」
顔を取り繕い。無かった事として、先に立って歩くが、耳と腰の辺りにあるふわりとした。純白な尻尾がそわそわ揺れていた。後ろで、声を殺し笑うコムスが、アルノーラの肩を叩いて、
「まあ~気にするな。マイはどじっこでな、ああしたハプニングはよくある。さあ~気にせず。気楽に行こうぜ」
「あっ、うん」戸惑ったものの裏表なく。屈託な笑みを見て、初対面にも関わらず。アルノーラは目の前の青年が、悪いやつではないなと感していた。
先をずんずん。歩いてくマイはほっといて、コムスに声を掛けられるまま。自分がミウの弟子を志願した者であること。霊峰の生まれで、魔法学院に通ってる学生であったことなど。自然と話していた。「へえ~魔法学院って言えば、あれだろ~」
この時考えたのは、
「金があるんだな」か「金持ちだな」が定番である。しかしコムスは変わった感性の持ち主であった。
「めちゃくちゃ勉強する場所に。よく通ってんな~。お前馬鹿じゃねえの」
斜め上を。飛んで行っていた。
「まっまあ~、馬鹿はどうかと思うけど、めちゃくちゃ勉強はしたかな」
目を白黒させながら答えると。実に嫌そうな顔をして、やはり二段階斜め上を行く答えを出した。
「うへ~、それは冗談でも勘弁だな。アルトやハノンと違って。俺は勉強は死ぬほど嫌いだ。でもな~一応俺も字は読めるし、手紙は書ける。だがそこまでしても勉強はな……。やるやつの気が知れないな」
言い訳がましくとりあえず主張してから。首を傾げていた。
「へえ~。字の読み書き出来るんだ」
妙な感心をしていた。霊峰の一般兵の中でも。実際に読み書き出来ない者は実は多い。コムスが戦士長下級将校扱いとても、かなり珍しいことであった。
「まっまあな。俺達の国の子供はさ、簡単な読み書き、自衛のための鍛練は、みんな学べるのさ。多分見たと思うが、屋敷で働く行儀見習い以外は、村の教会で毎日。仕事終わりに読み書きを。鍛練を望む子供は、朝の仕事終わりに。ゲント様から学べる」
先ほど名前が上がったのが、恐らくミウ様の側近の1人であろう。
「コムス殿。ゲント様とは、ミウ様の側近の」
「どの……、いやいやコムスでいいぜ、なんか背中がこそばゆくなるからよ」どうにも落ち着かない顔で言うから。小さく笑いながら。
「わかったよコムス、僕はアルでいいよ」「おっ助かるわ。そうだぜゲント様は、役職的には将軍だな。俺はゲント様の配下になるんだぜ」
朗らかに笑いながら、簡単に竜見のこと説明していた。
「我が国はミウ様を頭に。側近が脇を固めている。軍属のゲント将軍、リョクト中将、リサ少将。それから参謀扱いのラセルさん、この四人が表だってる。有名な側近だな」
有名な側近……、微妙な呟きにちょっと考えてみた。
「しばらく滞在してみれば分かるが、村長のプライマさんが、財務のトップで、中核に奥方のナシア様、その商会が担っている」
その辺りはアルノーラも知っていた。
「まっ、この辺りまではわりと知られている。でもウ様の側近中の側近には、俺達の友人と森の王者がいるから、先に忠告しておく。部屋に荷物を置いたら。レンさんに会わせるが、驚いて下手なことするなよ」
鋭く忠告していた。訳は分からないが、素直に頷いていた。
部屋を案内したマイは、何を思ったか荷物を置いた後もついて来ていた。
「まずは本館と、別邸な、本館の一階に食堂がある。庭の左に見える小屋は、庭師と弟子達の住まいで」
アルノーラが、最初に案内された応接室のある別館と。客間の左手に庭師の小屋。右手に本館とその裏に別邸……。
「本館とこっちの間にあるのが、風呂だ。建物の中には、温泉は勿論サウナが、昼過ぎから夜まで入れる」「それは嬉しいね~。僕としても温泉は大好きだし」
思わず頬を緩ませていた。
「因みに地下から引いてる温泉だ。切り傷、打ち身にめちゃくちゃ効果があるんだぜ。村にも公共の風呂がある。あっちの方がデカイが入れる曜日が、男女別だから。きちんと調べてから行けよ。じゃないと大変なことになるから」
コムスの案内で、別邸の裏手に向かうと。馬小屋があった……、
しかしそこにいたのは、牛よりも大きな……。
「狼」
真っ白い毛並みの狼が四匹。その後ろに。八匹の小さな狼がいた……。しかし子供の狼達に混じって、痩せた凄まじい眼差しの狼が……。
「あっレンさん!。ミウ様が、この人の匂いを覚えて欲しいそうです」コムスが子供達と戯れる。存在感凄まじい、痩せた狼に声を掛けると。
「そうかミウ様が……」
人間の言葉……、ゆっくり立ち上がった長髪の青年は、狼ではなかった……。上半身に薄手のなめした皮の服を着た青年で。下はしっかりした厚手のズボン。しなやかな動きで、ゆったり歩いて来るだけで、まるで肉食獣が、獲物を狙うような威圧感を感じていた。
「うん、動かないのは正解。妹達、お前の匂い覚える」
ぬっとした影がアルノーラを覆い隠す。
全身に感じる獣の息使い。四匹の白狼が、いつの間にかアルノーラを囲み。匂いを嗅いでいた。
「……臭い覚えた。もう動いて大丈夫」
そう告げるや音もなく。四匹の白狼は、子供達の元に戻り、座る。それを見送るレンと呼ばれた青年だけが残り。改めてアルノーラに目を戻した。
「さっきラセルが来て話を聞いた。明日俺達がミウ様の供をする。お前狩りの経験あるか?」色々驚きに気持ちが付いてかないが、どうにか気持ちを落ち着かせ。問われた内容を頭の中で繰り返して、どうにか理解する。ふっと別の事が気になっていた。
(そう言えばモンスターを操る魔法があると聞いたな)目の前の青年がモンスターティマなのか、考えたが違う気がした、魔法使いには見えなかったからだ。
「いえ……。初めての経験になります」しばし無言で考えこみながら。一つ頷き、
「経験不足は、誰もが一度経験する。色々な事から学ぶこと悪い事ではない。妹言った。お前から強い魔力を感じる。ならある程度魔法は使えるようだな。実戦では役に立つ魔法と。役に立たない魔法がある。まずその辺りから学ぶとにいい」
そう言い残しスタスタ。馬小屋に戻っていた。呆気にとられたアルノーラに。
「ああ見えてレンさんは、魔法にも詳しい。普段ああだから誤解されやすいが、仲良くなると面倒みのよい兄貴て、感じの人なんだぜ」
レンの背を憧れるような顔で、見送るコムスに、一つ頷きながら。
その日━━お風呂に浸かり、今日出会った竜見の重鎮達のこと考えていた。
一般的なオーガに対する知識では、
(オーガとは巨人族に親い種族であり。赤い肌。人間に似た体躯。腕が異常に発達していて、凄まじい力を誇るモンスターである。)生態は雑食であり、何でも食べる悪食トロールと比肩せし鬼人。人語を操る個体や、中には魔法を使う個体もいると言われていた。
━━竜見領内には、3つの集落が点在していた。東の集落の北側は、無数の洞窟が点在していた。集落からほど近い洞窟の一つは。現在鉱山が作られていて、安定した量の鉱石が、集落の男達の手によって掘られていた。多くは鉄、次いで、銀が産出されている。その洞窟から半日と離れない洞窟に。オーガの群れが住み着いたという。コムスの隣では、昨日アプルパイの屋台をやっていた。ぽっちゃりした青年も一緒であった、その他ミウ様の側近。隻眼のゲント将軍。その部下10名ほどが、オーガ討伐に同行していた。
昨日会ったレンと狼達がいないので、それとなくコムスとハノンに聞くと。
「ああ~レンさんね。とっくにオーガの動向を見張ってる筈だ。日が昇る前からいなかったからな」
「俺は、朝会ったぜ。ラナムの奴が具合悪いから。変わりに風呂掃除出た時な」
「えっそうなのか?、んでラナムのやつ大丈夫なのかよ」
心配するコムスに。ハノンはまあ大丈夫だと頷いた。聞けば昨日マイと名乗るメイド見習いの他に。屋敷には獣人の少年達が働いてると聞いて、多少なり驚いていた。
「アル驚いたろ。僕達もようやくフェネックの人達を。受け入れられたからな。慣れないと戸惑うよな」
にこやかに声を掛けられ。自分が考えてたこと読まれたようで赤くなる。
「まあ~誰でもそうさ、最初から差別せずに。なんてのは建前だけで、結構難しいもんだ。俺達はミウ様に受け入れられなければ、きっとせっいぜい無視していたと思う」「だな。僕らは恵まれてた。ミウ様が王様だったからな、きっとマイ達だってそう思ってるさ」
ハノンがしみじみ言うから。なるほどと感心したようにアルノーラは頷いた。「もっとも。最初からみんなを受け入れてくれたミウ様や、ドワーフと付き合いがあったアルトは、ちょっと変わってると思うがな~ハノン」
「まあね~、でもさ、何気に俺達の中でも。マイと仲が良いのって、料理人のアトラかもな~」
わざわざ料理人と付けてくれたのは、アルノーラが分かるようにとの気遣いである。
「ああ~彼が……」
神経質な顔立ちの青年を思い浮かべた。
「あいつってさ、何気にゲント様、リョクトさん除くと。コムスの次に強いんだぜ」
「へえ~料理人が……、国で五指に入るなんて、ある意味凄いね!」
コムスを見直すと。大柄な青年はほんのり赤くなっていた。
「でもさ、俺はもっと腕を上げて、アルトと一緒に。他国に行けるくらい。強くならなきゃな」
うそぶくと鼻息もあらく。楽しげに笑っていた。
――凄まじい悪臭……、腐乱した動物の死骸が、辺り一面に散乱していた。アルノーラ達の隠れていた。灌木まで臭いが漂い。少しならず吐き気をもようし。口を押さえ。みるみるアルノーラの顔が青ざめてる。様子に気付いたハノンは、一人納得して、腰袋から何らかの丸薬を取り出して。寄越した。
『噛み砕け。悪臭を感じなくなる。臭いの麻痺薬だ』
真剣な顔で言われて、戸惑いながら礼を述べ、早速口にして、噛み砕いた。
――効能は、直ぐに現れた。凄まじい悪臭が、瞬く間に気にならなくなったのだ。
『これは凄いね!』
魔法並みの即効性である。
『まあな~腕は凄いんだよ。腕は……』
意味深に呟き。暗い顔をしていた。理由が分からずアルノーラが不思議そうに首を傾げた。
悪臭から身を守れると。改めてオーガの群れを観察する余裕が出来た。子供を含めると約7匹程度の。群れとしては小さいが、このまま放置するには危険なモンスターである。
――今朝ミウ様から、簡易人形の家と三体のクリーチャーを借り受けていた。地方魔導師ギルドでは、簡易とはいえ人形の家を持つには、多額の金銭が必要になる。アルノーラですら、まだ手に出来ていないので。こんなに簡単に貸し与えられて非常に驚いていた。『君に人形師の才があれば、これは直ぐに作れるようになる。でも今はクリーチャーを扱える才能が見たいから。それは君に貸しておく』
優しく見える不可思議な笑みを浮かべながら。あたかも太っ腹らな申し出であった。
『まず。三体この中から選びなさい。オーガ討伐に必要な物をね』
意味ありげにアルノーラを見つめ。それからクリーチャーの入った。大きなドランクケースをテーブルに乗せ。中身を開き見せていた。ざっと1000体以上もクリーチャーが並んでいた。棚分けされた様子から。属性毎に分けられてるようだ。これはアルノーラの知識を試す目的もある気がした。
そもそもオーガは、森と大地に属していた。するとエレメンタルの炎、風が有効である。アルノーラが得意にしてる魔法は風。自分の魔力からクリーチャーを三体にして、攻撃魔法を使える状態がベストである。そこで最初に選んだのがグリフォン、有名な風属性のモンスターである。次に森属性ながら。炎属性の爪攻撃を持ってる。炎の山猫レアモンスターだが、一体をこれに。最後に森属性。幻の樹にしていた。
『うむ、魔導師の基礎はあるようだね。今日はオーガのクリーチャー作りも見せる。存分に実力を発揮するがいい』
『はい、頑張ります!』
最初の段階は、悪くなかったようだ。
━━先ほどのこと思い出しながら。気合いをいれていた。すると突然。ミウ様が立ち上がるから。アルノーラは驚いた。
「レン追い込め」
小声で、信頼する友に命じた。次の瞬間。遠吠えが森に響き渡る。
「アル!。準備しろ。レンさんがオーガを追い込んでくる」
「わっわかった」
死肉を漁っていたオーガ達は、ハッと驚いた顔をして、辺りをキョロキョロしていたが、ミウを見つけたとたん。獰猛な叫びを上げて。仲間に人間がいること知らせた。揃ってミウ様に、気がとられたオーガ達。その注意を人間に反らせた一瞬が、致命的な隙を産み出していた。四匹の白狼を引き連れたレンは、子供のオーガに。真っ先に襲いかかり。あっという間に倒していた。怒り、泣きわめくオーガ達。一切の情けを振り払い。獰猛に、残酷に、オーガを狩ってゆく。その姿こそ森の王者に相応しい非情さである。
「来るぞアル!、用意はいいか」
「うん」
「目眩ましの魔法で、視界を奪う。その間に一匹を完全に押さえろ」
ハノンの激に。もう一度頷いた。
「我が、城を守る鋼鉄の兵よ━━」
ミウは迫り来るオーガを認め。胸元に揺れるペンダントに触れ命じた。
その間━━二体のにもオーガがミウに迫る。突然光が溢れて、消えた後に。
ミウの前に10体もの鋼鉄の兵士。ゴーレムが、オーガの行く手を遮った。
「敵を、押さえよ鋼鉄の兵!」命じられたゴーレムは。大きな個体オーガの足に張り付き動きを止めた。
怒りの咆哮を上げて、突然現れた邪魔なゴーレムに。オーガが殴りかかる。ごんごん鋼鉄を叩く音がするばかりで、まったくダメージはなかった。さらに後ろから、二体のオーガが此方に迫る。狼の群れを相手にするよりマシ。だからか真っ直ぐアルノーラ達が隠れてる雑木林に走っていた。
「今だアルノーラ!」
「猛々しく。大空をかけめくる者。敵をほうふれ!」
素早く。簡易人形の家に意識を向けて、グリフォンを呼び出した。
「光よ。弾けよ」
ふくよかな青年ハノンの手に。すっぽりと収まる小さなスタッフを手に、いきなり目眩ましを放つ。作戦を聞いていたアルノーラは、光をかわすことが出来た、しかしオーガ達はまともに光を見てしまい。大騒ぎで慌てふためき。無防備な背中を晒した。太陽の光すら直接目にしても平気なグリフォンは。狙い違わず飛び掛かり。地面に引き倒した。
「そら、今だ!?」
コムスが素早くロープを手に走り出した。反対側からハノンが同じくロープを掴み。もう一体のオーガの足を引っかけ、
「せ~の、どせい!」
同行していた数人の戦士も手伝い。オーガをついに倒した。
「幻惑なる森の主よ。敵に眠りを」
幻の樹を呼び出した、樹木に窪みのような目を動かし。枝を葉を揺らすと。オーガに眠りの粉を振り掛けた。
「うが……、ふわ~」
瞬く間に眠りこける二体のオーガ。コムス、ハノンはオーガが目を覚ましても。動けなくするため。ロープでぐるぐる巻きにしてから。
「麻痺」パラライズさせていた。
「アルご苦労さん。俺達のノルマは終わりだ。後は……」
何かコムスが言う前に。ミウ様が此方に来ていて、手早く人形をオーガの額にくっ付ける。するとオーガは淡い光に包まれ。オーガに似せた人形に吸い込まれ。クリーチャーの出来上がりである。
結局4体のオーガをクリーチャーにしていた。二体は抵抗激しくレンさんが、倒していた。
「みなご苦労様。大きな怪我を負った者も出ず。此度の討伐は大成功だ!。帰ったら新しい果実酒の樽を届けさせる。たらふく飲み。今夜は無事を喜び合おう」
「「はっ、ありがとうございますミウ様」」労を労うと、1人1人に声を掛けていた。
「コムス、ハノン先ほどの作戦。何時から考えていた?」
二人の元に赴くなり。悪戯ぽい口調で訪ねていた。二人は顔を見合せて、照れた笑みを浮かべながら。
「ちょっと前に。アルトと三人で話してて……、咄嗟の時は。武器よりもロープとかで足を引っ掛けた方が、討伐や集団戦では有効だから。こっそり練習してました」
「はは~なるほどね~。モンスターも。人間が、いきなり罠を仕掛けて来るとは考えないから。意表を突くには最適だね。だけど……」
「あっはい。本来は後手を踏まないため。三人でやるのがベストだとわかっています。今回はアルが代わりを勤めてると考え。行動しました」ミウの懸念に先回りして、ハノンが答えていた。
「━━なるほどね。よく気が付いた。ちゃんと生き残るために考えてるとは、君たち三人には、いつも驚かされる。これなら何時でもリョクト、リサの代わりが勤まるよ」
最大級の誉め言葉である。二人の顔が真っ赤になって、それはそれは嬉しそうに笑っていた。
「それからアルノーラ。君の働き、素晴らしい物だった。きちんと最後のカードを残し終わらせた手腕は、大した物だね」
「ありがとうございます。知識ばかりで不安でしたが、僕は自分が思うよりも本番に強いようでした」
朗らかに笑えば。年相応なあどけない顔になるようだ。ミウは優しい笑みに見える顔を作り。三人の肩を叩き、労を労った。
一行は、東の集落まで戻ってきたのが、すっかり日が陰った時間帯である。すると一行が無事に戻って来るとわかってたのか、馬車が到着していた。身重な奥様の代わりを勤める。初老の商人は、馬車に様々な物資を運んで来たようだ。
「ベッケンご苦労様」
「これはミウ様、そのご様子では、予定通り狩りは上手く行ったようですな」
「うん、早くも義兄さんご所望のオーガをクリーチャー出来たから。輸送のこと任せても?」老練な商人にとって、約束の品の納期が早いほど。利益が上がるの格言がある。恭しくお任せをと芝居掛かって一礼していた。
その日━━懸念だった、オーガ討伐を祝い。集落では、豚を一頭さばいた豪快な料理が用意された。アルノーラ、コムス、ハノンの三人も肉料理をたらふくご馳走になり、特別に薄めた果実酒を。飲ませて貰えた。