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夢を見ることの罪と罰  作者: 背徳の魔王
5/6

川道(かわみち)動く

━━ミウ達が魔境グランデ王国を訪れて数日後……。




ギルドから正式に。魔法の国ラークがどのようにして滅んだか、明確な報告書が届けられたミウは、地方ギルドの使者として、お礼を言付け、帰宅の準備を初めていた。




一行の世話役を仰せつかっていた。人形師クラスのルーケ、ムーンとも間もなくお別れである。二人は異国で初めて仲良くなった。同じ道を歩む者、それだけに帰郷する喜ばとは別に。別れが寂しい物だとアルトは知らなかった……。

「ルーケ、ムーン……、ぼく手紙書くね」

「……うん、私も書くから……、それよりもアルト、あなた魔法鏡の魔法使えるようになりなさいよね!」

つんと清ました顔で、アルトの胸をつついた。

「うっ……、ぼく頑張って覚えるから。またね……」

「アルト……」涙を流し別れを惜しむムーン、感情豊かで優しい少年である。

「デホルメクリーチャーやってみるから、ムーンもやるんだよ、ぼく連絡するからさ……、だからまたね!」

「………うん、またな」

二人と握手を交わしてから。ギルドが用意してくれた。乗り合い馬車が走り出した。二人はいつまでも手を降るアルトを見送っていた。




━━強い日差し。舞い込む風が、髪を遊ばれながら、馬車はやがて見えなくなっていた。

「帰ろうムーン」

「うん」

二人はしばらく、馬車が去った後を惜しむよう見ていた。



馬車は一路北上して、街道に出ると、そこから東に3日行くと。

貿易港・ザンラに到着する。そこから船で6日程船旅を楽しみ。地方の貿易港・海遠かいえんの港に到着していた。ずっと船に乗っていたからか。揺れない大地に足を踏み入れると。足が引っ掛かるような感じだった。

「ミウ様なんか……、地面が揺れてるように感じますね」

「そうだねアルト、久しぶりに船に乗って見たが……」

血の気の引いた顔をしていた。途中風が強く波が高い日があった。そのせいか船酔いに苦しんでいた。一行はそこから霊峰れいほうに向かうため、ガーラント商会に向かうことになった。



ガーラント商会があるのは、街の大通りに面した一等地に、店構えも非常に大きく。多くの人出があった。

「すみません」

「いらっしゃいませ」

店番をする数人の男達。手近な恰幅の良い男に声を掛けていた。

「急で申し訳ない。お店の主人に義弟のミウ・ロウセンが、義兄ブロスクさんに、結婚の挨拶に来たとお伝えくださいますか」

一瞬驚いた顔をしたが、満面の笑顔になった番頭だが、目は値踏みするようであった。

「これはこれはお嬢の……」

「ベッケンさん、この方は間違いなくミウ様ですよ」

一行の中に。顔見知りのジロがいたのに気付いた。

「少々お待ち下さい。誰か!、大切なお客様が参られた。ブロスク様に至急知らせろ」パンパン柏手を打って発破をかけると。何人かが走り去っていた。

「どうぞこちらに……」

筆頭番頭のベッケンが自ら率先して、案内人を勤めること。それがいかに珍しいことか、それを知るジロは、感心した声をだした。




……三年前に起きた飢饉によって、海遠の商会は軒並み潰れていた。そんななかでガーラント商会は、数少ない御用商人を勤めた老舗でありながら。生き残ったその力は……、

今や一国の重鎮もの権力を有し。商会の財は、一国の国庫をも凌駕していて、商いの規模は大きく地方処か、中央にまで支店をだした商会である。主であるブロスクは時代の長者と言わしめた豪商である。大商会の筆頭番頭であるベッケンは商会のNo.2、普段自ら接待出る真似をしない。強かな人物で、高いプライドを持った商人でもある。 それだけミウ様は特別である。ベッケンがそれを率先して示した。だから周りの対応は敏感に察して、細心の注意を払う、それが商人と呼ばれる人種である。



さほど待たされず。顔立ちのはっきりしたというよりも。ナシアに似ず灰汁が強い顔立ちの大柄の男が、ベッケンを伴い入ってきた。

「おお義弟よ!。ナシアが言った通りの風貌、一目でわかったよ、よく来たな~」

破顔すれば、人好きする優しい顔になる。油断ならない目をしてはいるが、利が有る限り。その笑みは真実である。「初めましてお義兄さん!、まずは急な訪問にも関わらず。早急にお会いしてくださり感謝致します」

「何を言われる!。我が商会が今もこうして繁栄出来たのも。義弟が妹を重用してくれたからさ、これしき何の労も感じぬよ」

この僅かな会話によって。ブロスク、ベッケンは、素早く目配せをしていた。相手が愚かで粗野な豪族ではないと、理解したのだ。

「早速で申し訳ないのですが……」

この時既にブロスクは、ミウが地方ギルドの仕事で、魔境に赴いていたこと。彼方で一目置かれたとの話を聞いていた。恐らくは霊峰に向かう商会のキャラバンに。同行したい胸を打診してくる。そう考えていた。「ガーラント商会は、瞬速しゅんそくの養蜂家と取り引きがありましたね」 ブロクスの目に一瞬戸惑いが浮かんだが、海千山千の商会を束ねる者。おくびにも表情に出さない。

「……確かに、取り引きはあるが」

あくまでも演技として、分かりやすい戸惑いの顔に。訝しい眼差しを浮かべていた。ミウはすかさず斬り込んでいた。

「実は、新しい事業を考えてまして……」

竜の峰にある集落の一つで、林檎を育ててること。思いの外豊作で。果実酒を作ったが、それでも大量に林檎が残ったこと。それから魔境グランデで蜂蜜が名産品で、弟子が果物の蜂蜜漬けを見て、領地でも出来るのではと言われて、瞬速にある養蜂家のこと思いだし。養蜂家を領地に招き、竜の峰でも出来ないか、または輸入品に増やして……、

「なるほど……」

思わずブロクスは腕を組んでいた。頭の中で素早く。算盤が動き出す。確かに似た気候の竜の峰でも。養蜂は可能だろう、しかし……、

「これはあくまでも代案なのですが、線武せんぶから砂糖を輸入して、林檎の砂糖漬けをと考えまして、これならそのまま林檎酒、または保存食として期待出来ます。そうなると……」

ハッと気付いた。ガーラント商会抜きで。輸出出来てしまう……、確かに養蜂家が増えると蜂蜜の価値が下がるかもしれないが……、長いめでみると。利益は返って上がる。しかも養蜂してもすぐに交易品物には出来ない。蜂蜜漬けを作るとなれば、

「来春には果実酒が出来ます。そこに蜂蜜を加えたら。美容によいと唄えますよね?」

ベッケンとブロスクは、同時にハッとしていた。ミウはさらに売り込み方まで考えていた。府価値を与えた品は、ブランド品と呼ばれて、経済が多少なり上向いてきた地方の貴族、王族のやんごとなきお歴々形に、珍重されること間違いない。ガーラント商会はミウの扱うクリーチャーを売ることで、そうした伝も豊富である。

『ブロスク様、確かに出来次第ですが、酒作りはあの名人と有名な方、悪い話ではないですな』

思わず膝を叩きたくなるほど。先見の明がある。思わず唸っていた。これであの件が合わされば、妹が惚れてしまうのも納得である。ベッケンを見れば商人として、襟をただす姿を見て、薄く笑っていた。

「義弟よ、噂で知ったんだが霊峰に急ぐのだろ?」

「はい」

だったらこちらとしては、有益な商売を持ちかけた者に。最大級の力を貸すことに何の躊躇もない。

「明日の朝、商隊が出る。それに同行するとよい」

「ありがとうございますお義兄さん。出来ればこの事は、妻が気付いたという方向に持っていきたいので━━」

あくまでも妻から話が出てからと。念が押されたので、ブロスクが困惑顔をしていた。

「お義兄さん、僕とナシアは本当なら新婚なんですよ?。留守を任せたとはいえ。きっと不安なはずですから……」

言葉の端々からナシアを思う、優しさが溢れていた。商人としては甘いとは思うが……、こんな優しさなら悪い気はしない。ほんの僅かな時間の交流であったが、ブロスクはミウを気に入っていた。

「よしミウよ!、俺に任せてもらおう、ナシアにはそれとなく伝えるとして……」

「実はお土産にグランデの蜂蜜と、一つだけ蜂蜜漬けを買って来ています」


最高のタイミングで、ミウが伝えていた。至れり尽くせりに思わずニヤリ笑っていた。

「ついでだ~。フレイラも巻き込んで、彼奴には手柄を立てさせるか~、ベッケンいいな?」

先代の代から支えてくれた番頭は、ブロクスが初めて見るほど。とても温和で優しい目をして頷いていた。たまにはこんな甘い商売も悪くない。豪商ブロスクに思わせたそれだけでもミウ・ローセンの非凡さが分かる一幕であった。




━━数日後、兄から手紙が届いた。ガーラント商会に夫が顔を出したこと。それと最近蜂蜜の交易を始めたことが綴られていた。

「ミウ様、無事に着いたのね━━」

豊かな胸に手紙を抱え。安堵のため息を吐いていた。

「奥様、レケルとゲント様が戻られたと連絡がありました」 鮮やかなオレンジ色の髪。メイドのパトラが知らせてくれた。

「ありがとうパトラ。ではプライマを交えて、川道軍について話合いましょう」




川道軍が、一軍を空砂からさの国境付近に配備されたとドワーフから急使が来たのが、ミウ様達が燃える川を渡ってから数日後のこと。


どうも地方ギルドに属する。魔法使いを従えていて、クリーチャーを作ってると。内容に驚くと供に。一国に地方ギルドが加担してる事実は重い。それが意味することは……、ミウ様がいない合間に。軍備を強化すること他ならない。しかもよりにもよって。大量のマグドンを捕獲したことがわかっていた。川道軍がどこを狙ってくるか、それが問題である。そこで商人のネットワークを最大限に使って、情報を集めていたナシアは、決定的な情報を得るため、ゲントとレケルをドワーフの元に派遣して。情報を集めさせていた。

間もなくして、二人が旅装のまま執務室に入ってきた、厳しい顔を隠さず早速口を開いたた。

「この竜の峰に進軍するため。ドワーフ達を……」

息を飲んでいた。もしもドワーフの洞窟が奪われてしまえば、ミウ様が支配する領地に危険が迫ることになる。こうなると危険を承知で、ドワーフの洞窟に援軍を送るべきか悩む。 「奥様。ドワーフの洞窟は堅牢な砦になっています。川道軍がマグドンを使ってしまえば、こちらに向かう通路が塞がれるため。クレム殿もドワーフを攻めるのはブラフと読んでいた」

厳めしい顔を崩さないゲントは、既に代案を用意していた。最悪の場合、ドワーフの洞窟を崩して封鎖する。代わりにドワーフを村に受け入れること。その前に何人かをわざとドワーフの洞窟に置いて、彼方がどう動くか見てから対策を立てることを提案していた。

「でしたらリサさんに。私の姉に書状を持たせましょう。彼女なら馬の扱いにも慣れておりますし。念のため姉にも調べてもらってたので、返事はすぐでしょうから」

流石は元腕利きの商人。そうしたそつのない行動ができるからこそ。ミウはナシアに留守を任せていた。二人も賛成して、パトラがリサを呼びに部屋を出ていく。

「奥様……お呼びとか」

執務室に、ゲント、レケルが居たことで、何かしら進展があったと察した。

「実はリサさん……」

話を聞き終えたリサは、ナシアの頼みを受諾して、

「至急向かわせていただきます。馬の用意をしますから書状を」

「分かりました。ゲント様はプライマさんとフロトさんに。決まったことを知らせてください。レケルは明日出る商隊に。危険があること含め。水神のヒミカ様に宛てた手紙を持たせますので、屋敷に来てもらってください」

三人は同時に頷き、素早く立ち去って行った。トスンと座り込んだナシアは、領主の大変さを噛み締めながら、1日も早い夫の帰宅を願っていた。




川道の領地は、クレイバレスに囲まれた。荒れた高地空砂の南西にあって。領土こそ小さいが、鉄と銅の産出地として有名である。王のソウエイは、魔境グランデの出で、

父は炭鉱夫であった。しかし職を失い。魔境の中で生きるのに困った家族は、地方に流れ着いた。苦しいながらも地方は活気に満ちていて、ソウエイは傭兵として活躍、数年とせず有力領主の目に止まり。娘の婿にしたところ。国を興すまでに至った。ソウエイの野望は終わらない。ようやく空砂の荒れ地に、大麦が実りを付けて、兵糧に不安がなくなった。川道の王ソウエイにとって、ようやく訪れたチャンスである。

「我が、汚名を灌ぐ!」子息のため。より良い国が作りたい。それには豊富水源を持つ水神が、喉から手が出るほど欲しい。 それには豪族ミウ・ローセンは邪魔な存在。いつの間にドワーフを手なずけ。空砂の国境向こうに現れたと聞いた時は、何の冗談かと思った。だがちょうど地方ギルドからの命が下ったとのこと。金を積んで情報提供者にした。議員の一人から聞いていた。

「今こそ好機!、留守役は戦も知らぬ商人の小娘。たかがドワーフごとき矮小な存在。蹴散らしてやろうぞ!」

老獪な手を使うソウエイにとって、どう動こうが、罠にはめる手段と心得ていた。

まず川道の精鋭3000を動かし。クリーチャーを魔導師に作らせた。最悪ドワーフの洞窟を埋めてしまう算段であった。それだけでもミウには打撃になると踏んでいた。またドワーフに肩入れすれば、背後より塩山が急襲。領土を奪えばよい。いかに議員の地位にあろうと。豪族になろうと戦は別である。力あるものが勝つ。勝つ者が正義である。傭兵だったソウエイはそう悟っていた。ジロリ後ろで控えてる。密偵の頭モンジを睨み付けていた。一つ気に入らないことがあった。

「して……、密偵からなんと?」

暗殺ギルドから、諜報部隊を雇うことで、近隣諸国の様々な情報を得ていた。しかし……。

「ミウ・ローセンの領地に送り出した密偵は、全員捕らえられました。残念ながら彼処には密偵を送るだけ無駄でしょうな」冷めた口調で、報告していた。ムッと厳めしい顔を隠さず。舌打ちして、

「役たたずめが」

「申し訳ありません……」

雇い主である。敬うよう頭を下げていた。モンジとて一流の諜報部隊の頭。多少の荒事も問題ない。腕利きの密偵を送り出していた。最後の連絡を見る限り。元暗殺者二人だけとは到底思えね緻密さで……、スパイが次々に排除されてしまったのは、モンジにとっても不足の事態であった。

(ミウ・ローセン……豪族であり。地方ギルド議員、ただの魔法使いではないな)

諜報部隊の威信をかけて家臣のこと調べる内に。ソウエイが考えるよりも危険な相手と思えた。何せ配下には、此方の予想以上の者たちが領地を守っていた。モンジも噂だけは聞いていた。

(まさか忍者マスターが、仕えていたとはな……)。

更に側近には、元国王までいるのだ。雇い主の思惑通りになるとは、到底思えなかった。あえて言わなかったが……、ヤサカ様が、逃げたリターラに制裁を与えず。「構うな」と命じられていた。それを考えれば……、見限るかを含めて、雇い主の様子を見るべきであろう、表面上あくまでも殊勝な演技をして、頭をたれた。

「モンジ。ならばドワーフを見張れ、人間を見掛けたら報せよ」

「承知いたしました……」


雇い主として一応の礼を示したモンジは、配下の小頭、誰を向かわせるか考えつつ執務室を後にした。



その頃━━、

早馬を飛ばし塩山えんざんに向かったリサは、ラグマ商会のフレイラ夫人を訪ねていた。

「ご苦労様……、話は聞いてるわ、急な事で、塩山内部も懐疑的なんだけど」

美しい相貌を曇らせ。将軍の1人が、強固にミウ・ローセンの領土を奪えと主張していること伝えた。

「詳しい内容は手紙に認めたけど。早くて2日後には、ムロワ将軍率いる3000が、ミウ様の領地に向かうわ」

煩わしそうで、心配するフレイラに、深く頭を下げていた。

「フレイラ様、ありがとうございます。その程度でしたら。問題ありませんので、ご心配なきよう、例え1万の兵士を持っても、我が領地に足を踏み入れることは出来ませんので」強い光を宿した目を、ニッコリ優しく細めると。不思議と相手に安心感を与えていた。

落ち着きを取り戻したフレイラは、なぜそこまで自信を持つのか不思議だと思った。妹の夫が恐れられているのは、人形師としての腕前で、前回塩山の大船団を壊滅させたのも……。そこまで考えて、ある違和感を覚えたのだ。ミウは国を興せるだけの領地を持っているのに。兵がそれに比べてほんの僅かで……。

フレイラは利にさとい商人である。リサに感謝の笑みを浮かべていた。

「リサさん。ナシアに伝えて、貴女の手柄にするなら蜂蜜を輸入なさい。私と兄さんからのプレゼントよと伝えて下さいますか?」どうして蜂蜜?、訝しげに思ったが、素直にうなずいていた。



━━その頃。

ミウ一行が、霊峰の地方ギルド議長マリス・ロートスと謁見していた。

「ミウ議員……大変申し訳ないことをした」

血の気がないマリス議長に、ミウが不思議そうな顔をしていると。議員の1人が内密に川道の王と繋がり。ミウが不在であること含めた情報を流していたこと。今頃空砂の国境に、川道軍が陣営を敷いて、ドワーフの洞窟を落とすつもりであり。ミウの領地である竜の峰を、塩山の将軍ムロワが進軍するのではと。報告を受けて、低頭していた。

「なるほど。川道の王らしい所業ですね」眉を潜めたが、別段慌てた様子もなく。マリスは困惑の表情を浮かべていた。

「ではこちらが、グランデのギルド議長フレイ様から預かった書状ですお確かめ下さい」

変わらず。使者の仕事を終わらせようとするミウに。強い疑念を抱いた。まさか領地の民を見捨てたのか?と……、

ミウは好意悪意に関わらず。激情を好む性癖があった。

「マリス議長、我が妻ナシアは、元々商人なのはご存知ですね?」

何を言うつもりだ?、訳が解らぬが、マリスとも面識があるので素直に頷いていた。

「これは秘密なので、内密にお願いしたいのですが……」

そう断り。マリスから了承を取り付けてから。領地にある3つの集落で暮らす民について話していた。「なんと……」

絶句していた。

「僕がいない間に。領地を狙うなら少なくとも5万の兵は必要です」

薄く笑っていた。ブルリ身を震わせたマリスは、胸中で、敵には絶対にすまいと誓った。




ミウの領地にある3つの集落の中で、北に位置する集落は、屋敷に住まう庭師ローガンと同郷の者が暮らしていて、人口350名。そのほとんどがローガンを頭に頂く。忍者であった。

ミウとローガン一族が出会ったのが、今から1年と半年前。竜の峰に村を興したミウに。ローガンが自分たちを売り込みに来たことから始まった。当時のローガン一族は、流浪の民として、地方に流れ着いたものたちである。キナ臭い匂いが充満していた地方ならば、売り込みようがあると考え。その内の一つミウ・ローセンに白羽の矢を立てた。

「なるほど。いいですよ~。一族みんな受け入れましょう」あっさり受諾されて、ローガンの方が驚いた。

「━━本当によろしいので?」

だから思わず聞いていた。ミウはにこやかに見える笑みを張り付け。

「君たちは、土地を必要としてる。僕としては集落を興す手間が省ける。悪い話でわないよね?」

きちんと筋たてて説明されると。人手を必要とされるなら確かに。納得する部分はある。でもローガンは忍者である。主に雇われ、仕事を受け金を稼いでいた。

「安心していいよ。君たちに仕事を与え。その代わりに僕の民として生きてもらう指針を与えるから」

そう言われて、身を只したローガンに。

「屋敷にはやはり、庭師とメイドが欲しかったんだよね~。ローガンって庭弄りとか好きだったりすると助かるな」

生真面目に。そんな条件を上げられて、ローガンは年甲斐もなく破顔していた。生まれてこのかた暗殺、諜報、城崩し、様々な仕事を頼まれたが、忍者を民にする代わりに。頭を庭師に雇いたい。そんなこと言われたの初めてだった。

「ああ~もちろん。鍛練に必要な訓練場。集落を興す費用とかは言ってくれれば出すから。安心してね」

にこやかに言われてしまえば、ミウ様が本心で言われてることがわかった。それから小頭のパトラ。子供の中でも手練れのオーテス、ジムが庭師見習いとして、屋敷に住み込みで働いていた。




あれから半年とせずローガン達忍者の一族は、ミウ様を生涯の主として、仕えてること決めていた。白髪の髪を。黒衣の頭巾で隠すローガンは、配下に命じて。準備が整うのを静かに待ち。所在を確かめ、小さく頷いていた。



隣では、真新しい武器を手に、鎧に身を固める一団がいた。東の集落で暮らす男達で、彼らは元古里の剣士達であった。先頭に立つのが、元古里王のゲント、双方合わせて総勢500僅かな手勢である。無論周りから見ればそう思われるだろう。

━━しかし森には、西の集落の住人が潜んでいた。率いるは元暗殺者レンと兄弟達、そしてランスカロープと呼ばれる。半人半獣の一族である。ミウの領地で住まうのはフェネックと呼ばれる。狐の能力を持ったものたちで、彼らは作物を育てるのが非常に得意、温厚な種族であるが、ようやく手にした安住の地。狙う者達に。強い憤りを感じて。参戦してくれた。

「ゲント、総員配置に着いた。仲間は赤い鉢巻きを腕に巻いている、攻撃するなよローガン」

「ふっ。承知した」 普段面白じいさんだが、いざと言うとき寡黙になるので、レンなど鼻に皺を寄せて、鼻を鳴らしていた。

「それで奥様が、屋敷のクリーチャーを出すタイミングだが……」ゲントが、詳しい策を話して聞かせながら。この場にいないリサを思う。今頃パトラ、リターラを連れて、ドワーフの元に着いた頃であろうか……、ミウ様が霊峰に到着したと。ラグマ商会のフレイラ様から。連絡があったのは良いが、どう考えてもミウ様は間に合わない。やはり奥の手である屋敷のクリーチャーを動員して、塩山の将軍ムロワ率いる3000を、迎え撃つことに決まった。

「お頭報告します!」

気配なく。忍者装束で現れた男が膝を着いた。

「塩山軍。森の手前まで進軍を確認。間もなく魔物の森に入る模様」

「フン来たか、レン殿守備は?」

不敵に笑うローガンに問われ。レンも獰猛に笑い頷いた。

「ゲント、ローガン行ってくる」まるで森に溶け込むように消えたレンに。ローガンとて舌を巻く。森の中でなら一族の者でもこれほどの陰行使いはいまい。



━━森を疾走するレンの周りに。一頭また一頭と。巨体で、白い毛並みの美しい狼達が、頭のレンの周りに集まっていた。

「俺達の国守る!、アォオオオオオオオー!」

自身も四つ足で、森を駆け抜ける姿は、まさに野生の狼。魔物の森を縄張りにする。最強の群れである。



レン達の頭上では、フェネック族が、弓を手に。木々を飛びながら付いてきていた。彼らの気持ちも強い。獣人である自分たちを普通の人間と変わらず民として向かい入れてくれただけでなく。領主であるミウ様は何かと気にかけ、具合が悪ければ医師に見せてくれた。更に怪我をしたら自ら癒しの魔法を使ってくれたことすら。数えきれなかった。言葉に出来ぬほど感謝していた。それだけに許せなかった。フェネック族のリーダー、青髪のプレセルは、若いながら集落を任せられるほど。思量深い人物である。妻のフラノ。娘のマイと供に。何度も命を失いかけた時代もあった。しかしミウ様は……、我等を一人の人間として扱い。また気遣って下さった。フェネック族は頭の良い種族である。他の半獣半人とは違い。力では劣るが、弓の腕はエルフに並ぶとまで言われていて。非常に目の良い種族である。森の中でなら、恐るべき狩人とかす。



「将軍、間もなく魔物の森が見えてくる頃。ミウ・ローセンの所領近く、そろそろ斥候を出すべきだと心得ます」

ムロワ将軍の副官は、まだ30に手が届かぬ若さだが、相手を侮らず。緻密な準備を怠らぬ優秀な人物。それゆえムロワ将軍も副官を頼もしく思っていた。

「うむ人選は任せる。明日には東の集落まで向かう、良いな?」

川道の報告では、敵は少なくても500未満と少数。六倍もの兵を連れているムロワ将軍は、数の上で優勢ではあるが、領主ミウは地方にクリーチャー技術をもたらせた第一人者。どれ程のクリーチャーを持っているか不明である。

「はっ、直ちに!」生真面目に返礼して、既に人選を済ませている副官は。斥候部隊の元に向かって行った。

「何としても……、汚名返上しなくては!」

ムロワ将軍が、川道の王と裏で繋がっていた。塩山側の人物である。彼の母は、水神の巫女を束ねる御老衆の一人であったため。事前に様々な情報を得ていた。しかし……数年前の事件は、ムロワの失態として扱われていた。

「たった1人に、大船団を沈められた責を今こそ、貴様の領土で償わせてやる!」

暗い恨みの念が、眼差しに現れていた。



その頃。リサ、パトラ、リターラの三人は、ドワーフの洞窟に着いていた。

「戻りました。リサさん」川道軍の動向を探りに。パトラが出ていたようだ。

「ご苦労様、話はクレムさん同席の場でしましょう」

「承知しました」

生真面目に頷くと。リターラと目配せしていた。二人の職種は違えど。重なる部分もあるので、二人の仲は悪くない。

奥様相手では、一歩引いてしまうのも同じで、パトラ、リターラ共々ナシアに苦手意識を持っていた。だからドワーフ族の避難を誘導する。役目は正直なところ助かっていた。

(あのままいたら。嫉妬に身を焦がしてたわね)

リターラ、パトラの二人は、リサの気持ちを察していたので、何かと気を使わせてしまった。悪いと思うが有難い。

「何とかドワーフの洞窟を守りたかっ……」フッとある考えが浮かぶ、果たして私達だけでそれが可能か?。そう思ったが……、リサは、不可能ではないと思ってしまった。ならば……、二人に相談することにした。




━━その日の夕方……、



空砂の国境砦は。炎の森から発生した。濃霧に包まれてしまい。視界が遮られていた。霧は珍しいことではないが……、ここまで視野を失うような。濃霧は見張りの兵士にとっても初めての経験に近い。

現在空砂国境砦は、川道軍3000が加わり。いつになく喧騒に満ちていた。近日中ドワーフの洞窟を襲撃する命を帯びていた。そのため空砂の職人が雇われ。連日武器の手入れのため準備されていく。3000の陣容になれば、それ相応の補助人員が必要になる。多くは職人、その家族である。それを当てにした商人などもいるため。僅かな期間にも関わらず。砦の周りでは、沢山の簡易テントが張られており、ちょっとしたお祭り騒ぎである。「ラグエル中将」

中年の体躯のよいブラウザ大佐は、自分の上司にあたる骸骨に、ほんのり肉付けした痩身のラグエル中将に敬礼、一応の敬意を示した。

「準備の方は如何かな。ブラウザ大佐?」

冷たい眼差しで。元々の司令官であるブラウザ大佐を見ていた。色々と蟠りはあるが、表面上ブラウザ大佐は、平静を装い。明日には準備が整う胸を告げた。

「ようやくですか……」嫌みたらしい口調である。これには言い訳をしたくなったが、敢えて口をつぐみ無言を貫いた。フン鼻で笑うと。

「ご苦労様、もう結構です下がりなさい」

わざわざ自分を呼び出して、一兵卒にも出来る仕事をさせる。忌々しい上官に敬礼して、退出していった━━。



現在の川道は、次代の王をと権力争いが起きていた。それぞれ二人いる王子を旗に。静かな派閥争いを繰り広げてるのが、ラグエル中将は第一王子ソウタンを支持する急先鋒。対してソウカク第ニ王子を支持するブラウザ大佐は、軍部でも力を持っていた、しかし二人は有名な犬猿の仲である。それが同じくこのようなことに関わるのも。王命を受けたラグエル中将の半分嫌がらせである。もう半分は炎の森に不馴れだと。手痛いしっぺ返しを受けないように。手堅いラグエル中将らしい思惑が見えていた。その為ラグエルは、地方ギルドの議員を抱き込み。魔導師を雇い入れていて、先日炎の森に行かせ。クリーチャーを作らせていた。いくら敵対するラグエル中将とはいえ……、ブラウザ大佐にも分かる。(今回は上手くいくだろう……)

忌々しいがラグエル中将の知略を知るだけに確信に近い思いを……、急激に目眩に襲われた。

「何が……」

訳もわからずブラウザ大佐は意識を失っていた。




……それは、




砦にいた兵士、職人、その家族……、仕事していた場所で倒れ。深い眠りに着いていた……。



次にブラウザが目覚めた時。鈍痛に顔をしかめ起き上がったとき。妙な喉の渇きと。強い空腹を感じていた。

「俺は……、どうしたんだ?」

意味が解らず眉を潜めていた。




━━同時刻。砦で気を失った者たちも眼を覚まして、狐につままれた出来事に遭遇する。




なんと3日もの間。全員が気を失っていたことがわかると、状況は一変していた。相次ぐ異常を報せる報告を受けて、指揮官ラグエル中将は、やや唖然と呟きながら。物見の兵からの一報を聞いていた

「……ドワーフの洞窟が消えた?」

「ハッ、兵を動員して、調べ周りましたが……、洞窟どころか、それがあった痕跡すら消えていました」

「馬鹿な……、そんな筈は、クッ」ここにいてもらちが上がらず、自らの目で確かめに行った。



しかし。真夏の炎の森を甘く見ていた。ラグエル中将を灼熱の洗礼を与えた。ブラウザ大佐はこの地に赴任して二年目。真夏の炎の森がどれだけ危険かわかっていた。王にも苦言を伝えたが、ラグエル中将は聞き入れず。進軍してしまった。




その結果。多くの兵が倒れる事態に陥り。弱った兵をモンスターが襲う構図が出来上がっていた。みるみる崩れてく現実を前に、ラグエル中将は命からがら。砦まで逃げ込んでいた。



時間は戻る。3日前━━。



アルトから聞いた。燃える川の性質について、思い出したリサは、リターラ、パトラに相談していた、

「悪くないと思います」オレンジ色の髪、澄ましてると幼い印象を与えるが、基本生真面目なパトラが、生真面目に同意して頷けば、リターラが不敵に笑い。

「だったら。ドワーフのクレムに相談だね」

背を押してくれた。確かに作戦としては悪くないが……、問題はドワーフ族のこと。だから素直に聞いてくれるか、それは別の話である。




三人から急に相談があると言われた時……、ドワーフの長クレムは、ついに自分たちを見放すつもりかと。一瞬疑ったが、自分の不徳を恥じていた。まず最初にしたことは、自分の娘よりも若い。リサに頭を下げたことである。戸惑う三人に頑迷なドワーフは、優しい眼差しを向けて、笑みすら浮かべ言った。

「皆さんの言う通りにしましょう。我等ドワーフ職人魂にかけて!」強い決意を込めて胸を叩いていた。



そしてリサ達は、僅かな時間を作るため。燃える川から引いた油を気化させて。可燃性のガスを作り出してもらい。霧に紛れ早朝の火を使う前にガスを砦に流し込んでいた。そうすると空気よりも重いガスは、砦に充満して行き。下層から徐々に溜まることになるするとどうなるか、一時的にしろ酸素を失った人間は、意識を失いやがて死んでしまう。外にいた職人達も霧が発生したためそうと気が付かず次々と意識を失っていた。砦は元々密閉された空間である。風が入り込む余地もない状態を作り出してしまえば、しばらく気絶させることは、さほど難しいことではない。その間リターラが眠り草を調合していて、空気を入れ換える時にお香として嗅がせると。3日もの間眠らせることは簡単であった。




その僅かな時間を使って、ドワーフ達は、秘密の抜け穴だけ残し、洞窟を塞いでいた。さずがは腕利きの職人達である。いくら調べようが例え塞いだ場所を見つけたとしても。洞窟に入ることもはや不可能となっていた。



その結果━━。

川道王の思惑は無駄に終わっていた。



塩山軍3000を率いたムロワ将軍は、斥候を出してから、予期せぬ出来事が、次々と起きていた。まず最初の異変は、魔物の森に入ってから、平地を確保した一団は、野営の準備をしていた。明日の朝。日の出と供に東の集落を奇襲する算段である。

魔物の森といえど豪族が支配する地域である。村までは畦道が続いているが、村からは塩の道に抜ける。街道が整備されていて、比較的行軍も楽であった。だからではないが普通の森にしか見えず。兵は気を抜いていた。例え魔物とて軍勢にいる限りと誰しも思っていた。それは半分正しいが……、何故ミウがこの地を所領しているか……、本当の意味で、魔物の森と呼ばれる意味を知ることになった。



……ムロワ将軍とて、油断していた訳ではない。同じく見張りの兵も気を抜いていた訳でもない。ただ変わった生態のモンスターが多かった。

━━例えば火を焚くと、気を付けなくてはならないのが、熱に集まるモンスターが、非常に多いことである。その為最初にしなくてはならないことがあった。簡易の結界を張らなければ、襲われるというもの。

「グギャー!、うっ腕が……」

鍋を回していた兵が、地中から飛び出した、斑模様のモンスターに腕を喰いちぎられ。大量の血を吹き出して喚いた。周りにいた兵が、慌てて武器を手に集まっていたが、次々と肉食アルマジロは、現れた穴から溢れ出して。辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図を産み出していた。意表を突かれたため、対応が後手に回っていた。

『クァ!』

枯れた。ガラスを掻いたような不快な鳴き声がした。見上げた兵達は、濡れた黒色の不気味な鳥。黒鳥こくちょうが集団で現れたのを見て。ギョッとしていた。この鳥一羽なら、落ち着いてれば、比較的楽に倒せるモンスターである。しかし混乱の中集団で現れたのなら、かなり厄介なことになる……、黒鳥は名前の由来となる。ある危険な病原ウイルスを保菌してる個体が希にいて、それに爪や嘴で、怪我をしてしまったら……、高い致死率の病を発症することだろう……。それを知ってる兵は我先にと逃げ惑う、

「うっ、うわ!」

「グフッ」

そんな兵の背に無数の矢が追い討ちをかけて、兵を次々と倒していった。

「なっ、何事だ!」異変に気付いたムロワ将軍は、目の前で起きてる大混乱に。唖然としていた。

「これは一体……」 訳が分からなかった。




商隊が絶対にやらないことがあった。魔物の森で、野営しない。本当の理由━━。

それを知らなかったムロワ将軍の失態であった。さらに領地に住まう民について、全く情報が無かったこと。それこそが敗因となった。

「総員退避!、荷物を捨てて森から出るのだ」

苦渋の決断。しかしそれすらも遅かった。

『うっ、ウワァー、モンスターの群れが』

最大の後悔。ムロワは忘れていた。ミウ・ローセンは地方に人形の技術を持ち込んだ。マスタークラスの魔導師であること。塩山軍を襲っているモンスター全て、屋敷に備えていた人形の家に配置されてる。クリーチャーであった。



━━さらに。いつの間にか……、混乱すれ塩山軍の影に紛れるかのように。黒装束の一団が現れていた、そして……赤子の手を捻るが如く。塩山軍は次々に討ち取られてゆく。

「まっまさか敵兵か!、これは……、この兵はまさか……」

ムロワは逃げ出していた。恥も外聞もなく我先に森を抜ける。そうすれば━━。

「なっ……、こっ、これは……」

目の前に信じられない光景があった。なんと森から出るや眼前に砦があったのだ。

「そんな馬鹿な……」

手前には無数の兵を配置していて。馬返しの竹が取り付けられた柵が、幾重にも設置されていて、砦の中には物見櫓まであって、弓兵が矢を放ってきた。

あまりの毎に。血の気が引いていた。

「塩山軍に告げる!、ミウ様の領地に無断で入った以上、全滅させても構わぬと許されている。だが……、塩山には奥様の姉上であるフレイラ様がおられる。それゆえ武器を捨てて降伏するなら。命だけは助けよう」

隻眼の仕官らしい男が、威厳に満ちた顔で不敵に笑っていた。その間もモンスターに襲われて、部下達は殺されて行く。ムロワ将軍には。他の手段を取りようが無かった……、

「わっ、わかった。降伏する。だから部下を殺すな!」真っ青になって悲痛な叫びを上げていた。腐っても将軍だったようだ。

「だったら武器を捨てさせな。それでクリーチャーは、攻撃を止める」

「そっ、そんなことで……」

また部下が、血だるまに沈み。生きながら喰われていた。どちらにしろ他に手段はない。

「全員武器を捨てろ!」

ムロワの声が裏返る。手にしていた武器を自ら捨てていた。周りにいた兵も顔を見合せていたが、上官に習っていた。

━━すると……不思議なことに、モンスターは兵を襲わなくなっていた。

「よし。武器を集めよ。降伏した兵は怪我人、ムロワ将軍を残して森から出るのだ!」

意気消沈したムロワ。兵達は素直に従っていた。



こうして川道の王ソウエイの企みは、水際で防がれていた。近隣諸国はこの事件によってようやく気付いた━━。豪族ミウがただの魔導師ではなく、優秀な配下に認められる。油断ならない為政者であると━━。

塩山軍を敗退させてから数日後━━。



竜の峰麓にある村に。領主であるミウが、地方ギルドの仕事を終えて、無事帰郷していた。

「あなた!」

妻ナシアは、うっすら涙を浮かべながら、愛する夫の胸に飛び込んでいた。

「ただいまナシア……」

優しく抱き止め。労を労うと。安堵に涙を流し、可愛いらしく頷いていた。積もる話もあるが、早急に決めなくてはならない案件を。先に詰めなくてはならない。執務室に側近であるゲント、リョクト、リサ、妻ナシア、村長プライマ、ラセル、3つある集落から西のラインスカロープ、フェネック族の長プレセルが、待っていた。

「ミウ様お久しぶりです」

青髪の青年は、神経質そうな顔をそれと分かる笑みを浮かべていた。

「やあ~、プレセルこの度は助かったよ」

優しく見える笑みを浮かべ、固く握手を交わしていた。

「いえ……、こちらこそ。ミウ様にお世話になっていますので、少しでもご恩が返せたら。そう皆が申しましたので……」

あくまでも謙遜すし。言葉を重ねるが、プレセル達にとって、ミウはかなりましな領主だから。暗にそう匂わせていた。「うん、そう言ってくれると嬉しいね~、あっそうだアルトから娘さんにプレゼントがあると言ってたから。後程僕の弟子を紹介する。夕食を食べて行って欲しい」

何気無いことではあるが、当たり前のように夕食に誘われることは、プレセルにとって驚きのこと。それゆえに一瞬惑うが、この場にいる者にとって当たり前のことである。普通に受け入れられていた。

「……では、ご厚意に甘えます」

声を詰まらせながら、裏表ない実に柔らかな笑みを浮かべていた。



一通り結末の話を聞き終えてから。ムロワ将軍の身代金、賠償金の交渉をラセルに任せることになった。リサ達三人の気転、ドワーフのこれからは、また明日改めて話し合うことにして、この日は久しぶりにゆっくりしたミウだったが、アルトはまさか獣人の集落が、所領内にあると知り大変興味を抱いた、

「プレセルさん!、集落に遊びに行ってもいいですか」

色々なこと聞きたがったアルト、最初こそ戸惑っていたプレセルも。素直で、頭の回転もよく。優しい少年だと分かる。「……ミウ様さえ。良かったら」

「そうですか!、ミウ様、明日お休みを頂いたので、早速遊びに行っても良いでしょうか」

元気にはしゃぐアルト、思わずクスクス笑いながらリサが、

「私が連れて行きましょうか?」

忙しくなりそうな側近の中。比較的暇なリサが申し出ると。

「どうかなプレセル。明日は7の日で子供達も休みだ。君さえ良かったら、子供達の交流を持たせてみないか?」

領地に彼等を受け入れ。集落を開いて早一年。まだ彼等には、人間は恐怖の対象となろう、でも子供の内から交流を重ねて行けば━━、

少なくとも領内では、同じ領地の民だと思って行けるのではないか、ミウの思惑があった。

「……そうですね。娘にもそろそろ新しい友達が欲しい頃でした。アルトさえ良かったら……」

まだ不安はあるが、ミウ様の気持ちは有り難く。自分たちは人間の民と平等だと言われたも同じ。嬉しくないかと聞かれたら。飛び上がらんばかりに嬉しいこと。まだ不安はあるからと控え目に答えていた。


これからしばらく外交的に忙しくなるミウにとって、内政を主眼に据えるは、将来を鑑みることである。それが弟子の好奇心からとはいえ、プレセル達の心に優しい変化があれば、領主としてと言うよりも。1人の人間としてそう思う。



翌朝。リサ達から、先日ドワーフの洞窟でのこと、詳しく聞き終えていた。見事な策に。ミウは大層感心していた。

「ではミウ様、私は皆を連れ。西の集落に行って参りますね」

「あっうん、それじゃ頼む。プレセルには近々結界の修復に向かうと伝えてくれ」

「はい、承知しました」竜の峰は強力なモンスターの生息地である。魔法の結界なくば、集落の生活は成り立たない。そう言った意味では、結界すら張らずにモンスターに襲われることない麓の村は、唯一の安全地域であった。



最初に、この土地の秘密に気付いたのが、地元の民であり。あくまでも噂だけで、正式に土地の秘密を見つけたのは、ミウだけであった。




ミウがこの地に村を興すことを決めたのが、それが理由であった。地方にはある伝説が残されている。



━━世界の始まりに、大陸は神に等しい。巨人の手によって分断された。7日7晩巨人は暴れ。世界の終演を━━。



━━その時神々が使わされたのが、7体の神獣である。巨人は7つに分けられ封じられた、髪、頭右腕、左腕、胴体、左足、右足に、その体は地方になった。右腕は燃える川に、髪は燃える森に。左腕がクレイバレスになって、身体は地方に、頭は霊峰に、血は二つの湖になった。左右の足は神獣が持ち去り。何体かの神獣は巨人が蘇らないよう見張るため眠りに着いた。



竜の峰の麓には、巨大な地底湖が幾つもあって、この村の地下にも、小さな湖と温泉が見つかっていた。問題は地下で眠っていた神獣。名を一のアースミウは彼とある契約を交わし、この地に住まう許しを得ていた。



領内にある3つの集落は、畦道によって村と繋がっていて、馬車で、早出すれば、日が登る前に到着できる距離にあった。アルト、コムス、ハノン、アトラ、姉のセノーラ、オーテス、ジムの七人はやや緊張した面持ちで、馬車から降りていた。



西の集落は大きな果樹園を営み。中では葡萄、林檎、ライム、レモン、みかんなど地方では珍しい果物を育てていた。今年は林檎の生育が素晴らしく。豊作とのことさすがはフェネック族、人間では何年も掛かる所である。彼等が見た目人間と違う所は、耳が毛に覆われてる点。種に応じた尻尾が特徴である。それ以外は人間と変わらない容姿をしていて、穏やかな性質の種族である。家屋は80ほど。住民はみなフェネック族だけで、総勢140人が暮らしていた。住民の半分以上が女性で、子供は僅か3人と少ない、それには理由もあった。ランスカロープの多くが、生涯同族に出会うことも珍しく。婚姻することは困難を極める地方において、集落を形成することができたのは、奇跡に近いこと。それゆえ集落が出来て一年程度では、婚姻もままならず。ようやく恋人を見つけた段階が多く。何もかもこれからのことになる。

「おはようございます!」

栗色のふわふわした髪が、走りに合わせて揺れていた。元気に駆けてきた少女は、血色のいい顔に赤みを差し、こぼれんばかりの笑顔を浮かべていた。

「おっ、おはよう」代表してコムスが答えた。次にハノン、アトラ、パトラと続き、その間にも到着に気付いた女性が何人か、こちらに来ていた。

「おはようマイ」

「あっ、リサお姉ちゃんおはようございます!」

大好きなお姉ちゃんを見つけたような、華やいだ声を出していた、マイは溢れんばかりの満面の笑みを浮かべた。それからちょっと警戒をするように、白い尻尾が目立つ少女と、気の強そうな少年が近付いてきた。好奇心が不安より勝ったようだ。

「皆さん……、初めましてラナムと申します」

「フン、ハウトだ」

「あっ、私はマイです~」

子供たちを代表して、コムスは強気な顔をして元気に笑う、

「俺はコムス!。こいつはハノン、アルト、アトラ、セノーラ、オーテス、ジム」

「よろしく~」

ハノンがふくよかな顔に。人当たりよい笑みが浮かぶ、するとコムスの強面に、泣きそうになってたラナムが安心したような顔をした。

「なあお前、カブト?、クワガタ?」 ハウトがコムスに聞いてきた。

「クワガタ!」

「やっぱりクワガタだよな!」

「おお~」

二人はそれだけで通じたようだ。

「俺もクワガタだぜ!」

オーテスが追従すると。眼を見開いた二人は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「初めましてラナムさん」

一瞬びっくりした顔をしたが、相手が女の子のセノーラだとわかると。見るからにホットしていた。

「アトラ、この子は弟のアトラ」

「ハッ、初めまして」

姉の背に隠れるようにしながら、緊張した面持ちで声を掛けた。

「初めまして……」 面倒見のよいコムス、セノーラとアトラはなんとなくラナムと波長が合ってる気がした。

「おいらジムよろしくな」

「この子がアルト」 「よろしくね」

「うん、よろしく♪」

人当たりがよいアルトと。空気を読むのが得意なジム。二人の男の子に屈託なく笑うマイは、女の子としても可愛らしい風貌をしていた。リサとしてもこの二人なら安心だと。笑みを深めた。



三組に別れた子供達は、それぞれ果樹園の仕事を手伝い。沢山の収穫を終えていた。

「皆さん。ご飯ですよ~」間延びした声で、栗色のふわふわした髪。マイのお姉さん?。アルト達がそう思い首を傾げると。

「あっお母さん!」

マイは嬉しそうに走り出して、母にまとわりついていた。とても母親には見えない。それほど若々し母だなと。アルトが考えてると。身振り手振りではしゃいで会話する娘に。

「そうなんだ~、お友達になれて良かったわね~」

「うん!」

きらきらした笑い声が、心地よくアルト達まで届いていて、思わずみんなの顔にも笑顔が浮ぶ。



後日……、

月一度。集落の子供と屋敷・村に住む子供達のため。交流会を開くことが検討されてるが、しばらくは屋敷の子供達だけで、各集落の子供と交流会を開くことが決まった。



エピローグ




ミウ・ローセンの所領を狙った策略は、塩山えんざんに多大な傷痕を残し。川道かわみちの王ソウエイの名を貶め。豪族ミウの名声を高めた。



この事件を期に。塩山は、ミウと和睦を求めた。その使者に━━。

「姉さん!」

抱き着いてきた妹を抱きしめながら。誇らしい気持ちを抱いた。

「また来たわナシア」

「……うん、いらっしゃい」

結婚して、感情豊かになったか、目の端にあった涙を拭い。塩山の使者で、ラグマ紹介代表フレイラ・ガーラントを向かいいれた。

リサ、リターラ、パトラ目的。産まれ。育ちも違う彼女達は、ドワーフを見捨てるのか、村に逃がすのか、塩山軍を率いるムロワ将軍が、竜の峰に迫るなか、領主の新妻ナシア、側近で、元古里の王ゲントが迎え撃つ。また同じ物語か、第2章で、背徳の魔王でした。

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